第五章 人探し
朝食時、オレと政元、そして家臣御一行はのんきに朝飯を食べている時に直経のある一言から今日は始まった。
「竹中半兵衛?」
「・・・はい。かの稲葉山城で謀反を起こし、そのまま稲葉山城を奪いあの道三すらをも苦しめた天才軍師です」
「何と言うか、むちゃくちゃだな。で、我が天才軍師こと綱親先生はどお考えで?」
「ふぇ!?」
いきなりオレに話しかけられ驚いたのか、はたまたオレに天才だの、先生だのと言われたことに驚いたのか、両方なのか。だが、なんと言うか顔真っ赤であたふたしている綱親は可愛い!
「これ、落ちつかんか」
「そうやな。つっちーは多少なりと落ち着きと言う物を持つべきやとウチは思うで」
そういって高虎と清綱落ちつくように促す。というか高虎よ、つっちーって色々とまずいような気がするんだが(芸能界の方で)。
「は、はひぃ。えっとですね、その半兵衛さんについてでしたよね?」
「あぁ」
「そうですね。できれば浅井軍に加わっていただけるのであればぜひそうしてほしいですね」
「理由は?」
すると綱親は箸を盆の上におき、目線を合わせるため上座に座っているオレの方に向きなおした。
「はい。我が浅井軍の軍師と言えば私や三成ちゃんのように後方で指揮を執る軍師はおれど、前線指揮をし、かつ武を振るえる軍師はおりませぬ」
「確かに」
「どういう意味ですか? その前線指揮なれば主が執れば?」
清貞がもっともな意見をしてくる。
「まぁそうなんだが、オレは最前線で武を振るっている。つまり策にまで頭を割る余裕はない。となれば引き際を見極めたり、撤退する敵の追撃をやめさせるための軍師が必要となってくる。ということだ」
「なるほど」
そういって清貞はお味噌汁をズズッーと飲む。いや~朝飯はやっぱり和食だよ。洋食だと腹もちが悪い。
「あ、綱親も食って話していいぞ」
「あ、はい」
そういって綱親は再び箸を取り食事を取り始めた。
すると、お茶を啜っていた三成が、
「あと、ボク達の軍の増強にもなりますからぜひとも欲しいですね」
「? というと」
「ボク達の周りには敵が多いということです」
『あぁ~』
このことに全員が納得してしまった。なぜかというと南には独立を許したとはいえ依然油断ならない六角。東に目をやればうつけから魔王となった織田。甲斐の虎こと武田、越後の龍上杉がいる。まぁ、北には古くからの盟友朝倉がいるが、武田、織田、上杉が上洛を目指すとすれば盟友の朝倉を撃破してこなければならない。だが簡単に撃破され北近江に侵攻されるのは目に見える。
だからオレたちの周りには敵が多い。
「都に近いからでしょうかね?」
そう、最大の理由は近江のすぐ隣には山城こと京の都がある。故に東の勢力は必ず近江を突破しなければならない。
するとそのことに高虎が、
「そう言えば長政さまよ。なぜ都が近いのに上洛しようとなさらなかった? 六角との戦から早日にちがたつというのに」
そう、オレはその後上洛をしようとしなかった。まあ理由は、
「それは我らが御館様は天下に興味がないからじゃ」
「「・・・はぁあああああああああああ!?」」
そりゃ驚くだろうな。
「なぜですか!?」
「理由は簡単だ。オレは北近江で満足している」
「ですが!?」
「なら聞くが今北近江はこの地にすむ人間が全て満足に暮らしていると思うか?」
「それは・・・」
「ここは昔から農地には向かない。その結果湖岸にすむものたちの漁業によって北近江の経済は成り立っている。だが、それではならん。開墾やそう言ったことをして豊かにしていかねばならない。問題は山積みだ」
「・・・・」
「あと、北近江と言う小さい国を満足に治められていない人間が天下の政を取り仕切ろうなんて無理だ。天下なんかはやれるやつに任せればいい。だが、その者が北近江の民を泣かすのであればオレはそいつを斬る」
少しの静寂。そして。
「やはり長政さまは素晴らしい御人だ!」
「そやな、ウチの目に狂いはなかった!」
そういって二人は満足しいた。その時オレはと言うと、
「竹中半兵衛か。では会ってみるか・・・・」
オレは誰にも聞こえないようにそう言った。
数日後、オレは小谷城を抜け竹中半兵衛がいる場所を目指して歩いていた。
「聞いた場所だとここらへんか。と、その前に少し休憩するか」
そういって近くの茶屋にたちより、茶と団子を注文した。
「おや、誰かと思えば長政様じゃありませんか」
笠を脱ぐと、ここの店主がオレのことを言った。
「オレのことを知っているのか?」
「えぇ、そりゃもう。北近江の独立を助けた英雄じゃからの。こりゃ失礼、勘定は」
「普通でいい。今日は一人の旅人として寄っただけだよ。それよりもばあちゃん。無理はするなよ」
「へぇ。ありがとうございます」
そういってお茶と団子を置くと再び店内に戻っていった。
オレは出された茶を啜り、今日の空を見上げていると。
「お隣、よろしいかな?」
「どうぞ」
傘で顔が分からなかったが声から察するに女性だろう。
「おや、十兵衛(じゅうべい)さん。いらっしゃい」
「あぁ。いつものを頼む」
「あいよ」
そういって笠を脱ぐとそこから出てきた顔にオレはびっくりした。長い銀色の髪にルビーのように紅い瞳。今の日本人からは想像できない姿だった。といってもウチの家族の家内もいるけどね。
「はいよ」
そういって店主が持ってきたのは一つの酒瓶。どうやら酒らしい。
女性はその酒をそのままラッパで飲んだ。
「・・・・・」
「ぷっはぁ~。ん? おい、そこの御人」
「あ、あぁ! なんだ?」
「さっきから見ているがどうした?」
「なに、良い飲みっぷりだと思ってな」
事実だ。だがほかにもその飲みっぷり以前にこんなまだ昼ごろにも関わらず酒を飲むとは。
「あんた北近江の鬼神、浅井長政だって?」
「えらい話の道を変えてきたな。まぁそうだ。なんだ。さっきの話でも盗み聞きしていたのか?」
「まぁそんなところだ」
そして十兵衛といった女性は再び酒を飲み、
「その一国一城の主がなぜこのような場所に?」
なぜそんなことを聞いてくるのだろう。と思ったがどうせ話してもいいことなので話すとしよう。
「竹中半兵衛と言う名軍師を探してここまで来た」
「ほぉ。そのような軍師が。ではその者を勧誘しに?」
「んにゃ、そりゃ違うな」
「? どういう意味だ」
「その者の人と成りを見に来たまでだ。そいつがどのような思いをして稲葉山を攻撃したのか。なぜこの北近江に逃げてきたのか。まぁその辺を聞きにな」
「ふむ、ではその竹中と言う人が住んでいると思われる場所を案内しよう」
「知っているのか?」
「なに、ここに住む者は少ない。よそ者が来ればすぐわかる」
「なるほど。では頼もう」
そういって彼女の案内をしてもらい来た場所はと言うと、
「ここか?」
「うむ」
周りを見渡すと一面竹。そしてその竹林の中にぽつりとある古民家。
「では、明日また来よう」
「なぜじゃ?」
「家を見てみろ。明かりがともっていない。これほど薄暗い場所だと火の一つはともすだろう。だが、明かりがついていない。それどころかオレたち以外の気配を感じない。だからだ」
「そうか」
「ではオレはこれで」
そういってオレは城に戻った。
翌日、またオレはその屋敷に向かうと先客がいた。
その姿は見るからに元気っ子で野山をかけ海を泳ぎ、地を這う! ・・・最後のなんか違うな。まぁそんな元気っ子だ。だが、その子がこっちを向いたときにオレはその子をどこかで―――
「お、おまえは浅井長政!?」
見たことあるらしい。だってあっちが知ってんだもん。
「・・・・だれ?」
「藤吉郎じゃ! 木下藤吉郎! 織田家家臣の!」
「あぁ。猿で――」
「キーッ猿言うな!」
「じゃあ藤吉郎」
「気安く名前で呼ぶな!?」
「じゃあとうちゃん」
「あたしは女だ! てかお前のような子を産んだ覚えはない!」
「・・・いやん」
「やめろ! 気持ち悪!」
「じゃあ吉坊」
「どっかの坊主か! てかさっきの話は完全無視!?」
「木下」
「・・・よし」
木下は「はぁー」、と盛大に溜息をついた。オレこいつ好き。なんつうか初めて息が合うやつに出あった。
「なんじゃ、騒がしいな」
「おや。あんは昨日の」
そこにいたのは昨日の茶屋であった女性だ。ただ寝起きなのか寝ボケ眼をこすりながら煙管をくわえて出てきた。
「貴様が竹中半兵衛か!」
「いかにも」
へぇ、あんたがねぇ・・・・えぇえええええええ!?
「ん? 気付いておらかったんか?」
「え、えぇ、まぁ」
「して、小娘。お前の名は?」
「織田家家臣木下藤吉郎。竹中半兵衛どの、織田家の家臣となれ!」
「とにかく邪魔するぞ~」
「おぉ。どうぞ上がれ」
そういってオレは半兵衛の許可をもらって家に上がっていった。
「ま、待たぬか!」
その後を追うように木下も来た。
「と言うわけで織田家はお主を欲している」
と、木下は言う。まぁざっくり言うと浅井家と同じ理由らしい。
「はぁ、我ははっきり言ってそういうのは嫌いなんじゃがな」
どうやら半兵衛は他の家からもスカウトされているらしい。いやぁ人気者はつらいね。とまぁ言っているがオレは家の中を見ていた。
「へぇ、この本持ってんだ。うぉ! この槍なかなか・・・」
そういってオレは半兵衛の家の中を物色していた。
「イライラ」
「しかし本の数はすごいな。それに巻物も多い。種類からして兵法、政(まつりごと)、経済。律令まであるか!? 何ともまぁ」
「えぇい! 長政! 貴様少しは落ち着きを持たぬか!」
「えぇ~、気にならない? こういう家」
「どういう意味じゃ?」
そのことに以外にも半兵衛が食いついてきた。
「だって隠れ家的で、なおかつこう言った落ちつける場所。人と言うのは心のどこかで安らぎを求める。だが世は戦国。それは望まれぬ世界よ」
「ほぉ、ではお前が望む世界とはなんじゃ?」
「オレは天下には興味ない。ただもし望むのであれば皆が笑って暮らせる世を作りたい。それだけだ」
「・・・・なぜそう思う」
以外にもその問いを出したのは藤吉郎だった。
「今の世は誰かが死に、その死に泣くものばかりだ。ならば戦など無くなり、皆が笑って暮らせる世を作るべきだとオレは思う」
「だがそれは難しいぞ? 例え世が泰平となっても人は必ず長くも短くも死ぬ。そして残されたものは泣く」
「あぁ、そうだな。なら医術を改良し人の寿命を延ばす方法を考えればいい。餓死する者がいれば農業のやり方を考え直し餓えをなくせばいい。従来の考え方で人が困るのであればそれを壊せばいい。それで笑顔が増えればそれでいい。オレの夢は皆が笑える夜を作ることだ」
「ならなぜ天下をねらわない!」
その答えに怒声でオレに木下は問う。
「簡単だ。北近江で手こずっている者が日の本を統一してみろ。政(まつりごと)はうまく機能せず再び戦乱が訪れるだけ。なら天下の政を担えるだけの人間が天下を仕切りオレはそれに従う。だが、人々悲しませるようであればオレは兵を率いてそいつを斬る」
すると、また静寂が・・・って城でもあったよ。ていうか昨日とおんなじことしてるよオレ!?
「ふふふっ、ははっははは!!」
その笑い声の本を見てみると半兵衛が腹を抱えて笑っていた。
「お、男と言うのは、よ、欲の塊と聞いていたが、お主は違うようじゃ!」
「そうか? これも欲と言えば欲だぞ?」
「あぁ、そうじゃな。だが、誰もが望む欲、いや夢だ」
すると半兵衛はオレの方を向いて頭を下げ、
「我が名は竹中半兵衛、この才、この武。近江の鬼神浅井備前守長政さまに捧げましょう」
「なぁあにぃいいいいいい!?」
あ、この声はオレじゃないぞ。とうちゃんだ。
「誰がとうちゃんだ!?」
「うぉい、読唇術でもあんのかお前!?」
「黙れぇえええええええ!!」
すると木下は見事なライ○ーキックをかましてきた。それは見事オレのは鳩尾に決まり後ろに吹っ飛んだ。
「あぁー! どう御館様に報告すればいいのだ!?」
「信長のことか・・?」
「貴様が来やすく御館様の名を口にするな!?」
「ま、まて、話し合おう! そのために人には言葉と言う物が――」
「問答無用! 言葉で解決すれば戦は起きんわ!」
ごもっともなご意見。再びオレは○イダーキックを食らった。おまえ、アクションスターとかスタントマンの方があってる。後、生きてくる時代間違えてるってお前。
その後、木下はトボトボと岐阜城に戻るといって戻っていった。
そして半兵衛は荷支度をして、小谷に行くといってオレの後ろについてきた。
「おや、長政様、どこかにお出かけでしたか?」
「ん、ちと野暮用に」
「長政の旦那! 良い武器入ってるぜ?」
「後で見に行く!」
「長政の兄ちゃん。遊ぼうぜ!」
「お、良いぜ!」
と、オレは城下の人々は成している姿を見て半兵衛は目を点にしていた。
「あ。主! ここにおいででしたか」
そういってこっちに向かってくるのは清貞だ。
「そちらのお方は?」
「半兵衛」
「今日より世話になる竹中半兵衛と申す。以後お見知りおきを」
「半兵衛・・・ま、まさか!?」
「そう。あぁ、あとあいつら呼んでくれない?」
「ぎょ、御意!」
そういって清貞は城に戻っていった。それを確認すると。
「よーしガキども! 遊ぶぞ!」
『おぉ!』
そして日が沈みだすと子供を帰しオレは再び半兵衛の元に戻った。
「ここは変わっていますな」
「そうか?」
「そうじゃありませんか。普通君主は城にこもり政を行う。民から見れば恐れ多い方だ」
「そうだな。だが、それじゃあ面白くないだろ?」
「え?」
「民は何を望みどのような政を必要とするか。それを知るためにはオレも城下行き自分の目で見て耳で聞く。書類で出されたものは所詮他人から見聞きしたものだ。百聞は一見にしかず。民の生活が苦しいと書類上で書かれていてもどのように苦しいのか、病? 金銭? 食料? それは自分で見なければ、確かめなければ意味がない。だからオレは交流を大切にする。簡単にいえばここの民はオレの家族のようなものだ。家族を大切にするのはふつうだろ?」
「ふふっ。やはりお前は面白い」
それから数時、どろどろの状態でオレは城に戻ると、門番の兵に。
「また遊ばれたのですか?」
と聞かれるがその顔はまるで子供を見守る親のような優しい笑顔で出迎えてくれた。
そして半兵衛を綱親に任せオレは少し早いが風呂に入って身支度を整え半兵衛の元へ行った。
その場にはいつものメンツが顔をそろえていた。
「しかし驚きましたぞ」
「はい。私もまさか本当に引き連れてくるなんて」
「いやぁ、長政さまには驚かされてばかりやな」
「ボクもいつかあの長政みたいな」
と、口それぞれに語っていた。
「では、紹介しておこう。これより浅井家に新たに加わる家族竹中半――」
「お待ちくだされ長政さまよ」
「ん?」
「今家族と?」
「あぁ、オレは上下関係とか嫌いだ。家臣とか言うのはあくまで表向き。こう言ったメンツだけの場合は家族という」
「し、しかし」
「諦めなされよ半兵衛殿」
「・・・長政様はこういうお方。でも優しい」
「兄上は我々が帰る場所を護ってくれる方。そして私たちが帰える場です」
「その中に我を加えてくれると?」
「あぁ」
「良い方ばかりですね。しかし厳しいことを言えば――」
「ならその闇オレがすべて背負ってあの世に行こう」
「!?」
「お前が言わんとしていることは分かっている。光があれば闇もある。ならこいつらには光を見せてやりたい。なら闇はオレがすべて背負う。当然お前の分もな」
「・・・・感謝します」
そういって再び礼を取り、
「竹中半兵衛、これより浅井長政様に対し一生の忠義を尽くします!」
ここに新たに浅井家の家族が増えた。
名は竹中半兵衛。オレの知っている歴史であれば今孔明と名高き軍師だ。だが、オレは彼女を一人の軍師としてではなく、家族の一員として見よう。そしてその家族が背負う主にはオレも背負い共に歩もう。
そう再び決心する日であった。