歴史的事実など全くの無視です。
第三章 鬼神VS魔王
オレが小谷城に戻って早一か月が過ぎた。
だがこの一カ月の間、北近江と美濃の国境際に織田の軍勢は一度も現れていない。だからこそこの時間を無駄にしないために、来るべき織田との戦いに備え兵の強度を上げる必要性があった。だがオレと政元率いる軍勢以外はかなり負抜けていた。
それにキレたオレは模擬戦を行うことにした。結果四翼とオレと政元の軍勢との戦いだが結果は言わなくてもわかると思うが四翼の軍勢の大敗。
そこでオレが四翼の軍勢を没収しオレの部隊に組み込んだ。
そして今。
「なにちんたら走ってんだ! オレの新兵より遅いってどんだけ下手な訓練行ってんだ!? それで近江を護ろうなんて馬鹿か!?」
そういって訓練場を見るとオレが率いていた兵士より一周遅れで四翼の兵士が走っていた。
ちなみに言うとオレの兵士は人質の時から率いている軍勢とその後極秘で六角の領土から志願してきた兵士を合わせているため経験で言うと入隊して日は浅いが実戦経験でははるかに四翼を上回る。
「やめ! 次、腹筋五百! 背筋五百! その後腕立て五百!」
『はい!! ありがとうございます!!!』
と、まぁどこかの某大国の軍事訓練の光景を想像させる声に対し、
『は、はい!』
「・・・四翼の軍勢だけ全てに五百追加!」
『!?』
「返事はどうした返事は! それでも近江武士か!? これぐらいで弱音を吐くようじゃ戦場では真っ先に死ぬぞ!?」
『は、はぃいいいい!!』
「やりゃあ出来るんなら最初っからやれ!!!」
まぁ、スパルタなんて生易しいような訓練を広げていた。時には浅井が治めている範囲で琵琶湖の端から端まで競泳させたり、時には近江城の城下町の端っこから小谷城の天守閣までの距離を五十往復させたりと。
だが、オレが一番感心したのは。
「へぇ、脱落者無しか。やればできる連中だってことは分かった」
これが一番の収穫だった。
その後違うメニューで訓練していくにつれ兵士たちも強くなり、騎馬隊はおそらくあの武田騎馬隊より強いんじゃね? と自負するぐらいまで強めた。
あと、ついでにもう一つ言うと銃剣を作ってみた。銃剣とは簡単に言うと日本が帝国時代によく使っていたライフル銃に小さい剣をくっつけたようなもの。それを参考に火縄銃の銃口の下に小太刀に近い刀を作らせ合体させてみたらこれが良い具合に行き歴史をまた一つ捻じ曲げてしまったのだ。
だがもうそんなことは言ってられない。あの戦いを避け生き残るためには最終的に歴史を捻じ曲げることだ。ならここで一つや二つ捻じ曲げないとならない。そう思ったのだ。
そして、時は来た
「・・・長政様。横山城より美濃方面から木瓜の紋に三つ葉の葵の紋、あと二頭波の紋を確認したと報告が」
「来たか。しかし大軍だな。織田、松平、斎藤。まぁ良い。当初の予定通りに動け」
「・・・御意」
そういって直経は下がった。
「さて、オレも行きますか」
そういってオレは寺から持ってきた鎧を着た。青と白を基調とした鎧。白義蒼仁を連想させるためそう作らせた。
「さて、行きますか」
そういってオレは馬にまたがって横山城に向かった。
その後ろについてくるのは清綱、綱親、清貞、直経を筆頭に政元、三成、高虎。そして小谷城には四翼を配置した。
あいつらを本城においてきて大丈夫なのかって。大丈夫だと思いたい。まぁ裏切ればどうなるかはあいつらが一番分かってると思うけど。
「さて、では報告してもらおうか」
そういってオレはこの城の城主阿閉貞征(あつじさだゆき)に聞いた。
「はい。ここより東に織田家の家紋を確認しました。兵数はおよそ二万」
「こっちは六千だっつうのに。まあいい。ここの地形の特徴は」
「はい。これを見てください」
そういって阿閉は襖をあけるとそこには濃い霧が広がっていた。
「ここは地理上この時間は濃い霧が発生しております。織田軍はこれに乗じ攻めてくると思われます」
「厄介だな」
「いえ、そうとも言えません」
そういってきたのは綱親だった。
「というと?」
「はい。織田方はおそらくここら辺の地理に詳しい者はいないと思われます。故、この街道を通って小谷あるいはこの横山を攻め落とすものかと」
そういって綱親が指してきたのは一本の街道。確かにその街道を使えば小谷、横山はむろん六角のいる南近江にも攻められる。
「なるほど。ある意味定石だが常識破りの織田に通じるか?」
「おそらく」
「ならばこの街道を囲むように布陣。霧に乗じて織田を攻める。ただしオレたちの目的を忘れるな」
『御意』
「なお、横山には阿閉、政元、三成、高虎を残し兵三千預ける」
「え・・・」
それに一番驚いたのは作戦を知らない阿閉だけだった。
「政元、時が来たら兵を率いて中山道を通り脇坂秀勝と合流し作戦を決行せよ」
「はい。兄上の御期待にこたえてみせます」
「あの、いったいなにが?」
阿閉がおどおどと手を挙げて聞いてきたのでオレはただ一言、
「悲願の時」
といったら阿閉は泣きそうな顔をして、
「勝ちます!」
そういった。いやぁ~。いい家臣を持ったね。オレ。たった一言でここまで分かってオレのほしい一言をいっちゃうんだもん。これだけでもオレ泣けるよ。
「では行こうか。我らの悲願を達成するために!」
『応っ!!!』
そして、城門を出るとそこには青を基調とした鎧で身を包んだ兵士たちがいた。
一人ひとり見渡すとその顔には不安、恐れがある。そりゃそうだ。初陣の時オレもうだったんだ。
「聞け! 勇敢なる浅井の兵士たち!」
オレがそういうと兵たちは気をつけをして背筋をぴんとさせた。
「気楽に聞け。お前たちの気持ちオレもわからんでもないぞ。オレも初陣の時は怖かった。途中でちびりそうになった」
オレがそういうと兵たちは信じられないという顔で周りと話し始めた。そりゃそうだろ。近江の鬼神と畏れられているオレがそんなことで恐れるわけがないと思っているのだから。
「おいおい。オレだってお前らと同じ人間だ。だが、オレはその考えをふりはらった。なぜか? 簡単だ。オレが死ねばオレの守るべきものたちが泣くからだ!」
その一言に兵士たちはピクッと反応した。
「お前たちにも大切なものがいるだろう。家族、そして愛する者たちが。お前たちが死ぬと思うということはその者たちが泣くということだ! オレはそいつらのそんな顔を見たくない! たとえ死んでもだ! だからオレは戦い勝ち残った!」
兵士たちの真剣な表情を見てオレは確信した。
――勝った
「だから生き残れ! 戦い勝ち残ろう! お前たちの明日のため! お前たちの大切な者たちのため! その者たちの笑顔のため! 戦い生き残ろう!!」
『オォオオオオオオウウウウ――!!!!』
「全軍進軍!」
そういうと足並み揃えザッザッと道を進み横山城を後にした。
SIDE???
「御館様。ここを超えれば北近江です」
長い黒髪をしている女性。だが、その華奢な体格に反して明らかにごっつい日本の甲冑に身を纏った武将。柴田勝家。
「ここからだと横山城かと思われます」
そういうのは細い体だがそれなりに体はしっかりとした女性。明智光秀。
「しっかし、ここまで来ているのに北近江の将は何をしているのでしょうな?」
明らかに元気っ子と見て取れる明るい性格をもった女の子。木下藤吉郎。
「これこれ、秀吉。そのようなことを言ってはなりません」
おっとりとした性格の女性。丹羽長秀。
「ししししして、姐(あね)様(さま)。こ、ここからどのように?」
おどおどしているがその腹では何を考えているか分からないタヌキ娘。松平元康。
「元康さま。もうすこしシャキッとしてください」
と、柴田勝家と酷似する部分が多いが髪はすこし茶髪がかっている女性。本田忠勝。
「これより先、北近江。浅井領。お気を付けください」
忍び姿に狐の仮面。声からして女性なのは間違いない。服部半蔵。
「ほっほっほ。賑やか、賑やか」
そういっている白髪のおばあちゃん。斎藤道三。
「で、あるか」
そして彼女らを纏め、世間に魔王と畏れられている者。髪は焔のように真っ赤な髪をポニーテール状にくくっている。瞳は金色。
そう、彼女こそ、魔王・織田信長。
「して、光秀。近江の総大将はどうなったのだ?」
「はい。結果政元公が家督をつがれたと」
「面白くない」
「はい?」
「面白くないといっているのだ」
「しかし油断召されないように。政元さんも武ではわたしたちには及びませんが策では我らより上回っています」
そう元康が言うと、信長は鼻でそれを笑って、
「まぁ、その浅井も、南近江を収める六角も私の手でつぶすがな」
そういって自信満々に兵を進めた。
「しかし、霧が濃くなってきたな」
すると、
「伝令! これより先に人影らしきものあり!」
「なに!?」
「浅井か?」
そういって信長達は兵を進めると、確かにそこに人影があった。
隣にはおそらく足軽だろう。二人いて明の旗を掲げていた。
「白い旗に義、青い旗に仁? 何なんだ?」
「まぁいい。貴殿の名はなんと申す!?」
END
「貴殿の名はなんと申す!?」
オレはその人物を見てこいつが信長か。と思った。紅い髪に金色の瞳、さらにその覇気たるものはまさに魔王と言うにふさわしい。
「我が名は浅井長政! 浅井家当主にして北近江の守護者なり!」
まぁここは多少大げさに言っておかねば相手の勝機をそぐことはできない。
「光秀。浅井家当主は政元ではなかったのか?」
「え、えぇ、そのように聞いています」
おぉ。信長さんいきなりお怒りモードですぜ。おぉこわっ。
「あぁ、それオレの策略。政元は前線で戦う将と言うより作戦とかの立案する軍師だから」
「たが男であるお前の策とやらはどういったものだ?」
恐らく力で劣る男が唯一女に勝つには策を用いるしかないと考えたのだろう。
「鉄砲五百で狙い撃つ!」
「・・・はは、ハハハハッハハハッハ!!」
すると信長は大笑いをし、オレを指差して、
「我々でも百五十が限界にもかかわらずお前らにそのようなことはできるはずがない!」
「では聞こう信長。お前はなぜ義元を破った?」
「なに?」
すると獅子が獲物を睨みつけるかのようにオレを見る信長。確かにこれは怖いな。まぁこんなところで怯んでいられないんだがな。
「誰もがこう思っただろう。『二万にも上る今川の軍勢に尾張のうつけが勝てるはずもない』とな。だがお前はその予想を裏切り勝利した。そんなご時世だ。なぜ、お前に出来ないことがオレにもできないといいきれる?」
「・・・」
「それにオレがお前らに武で劣るとでもいうか? 戦ってもいないのになぜそう言い切れる?」
すると、信長の前におそらく柴田だろう。前に出てきて。
「御館様。私にあいつを」
「良いだろう。あと忠勝」
「はっ」
「お前もいけ」
「御意」
すると、忠勝と勝家が馬から降り、槍を持って前に出てきた。
「さて、どうします? 勝家殿、忠勝殿」
「何がだ?」
「一対一か二対一。お好きな方をお選びください。オレはできれば後者で」
「なぜだ?」
「簡単だ。『オレが負けるはずがない』」
「「!?」」
簡単な性格だ。挑発に乗って来たか。
「良いだろ。その挑発に乗ってやろう」
「我が槍の錆にしてくれよう」
そういってオレに槍を向けてきた。
「・・・・」
オレは黙って刀を抜いた。オレの刀は少し変わっていて鞘の部分に金属製の取っ手を付けている。なぜか、それはこの勝負で分かる。
「いざ!」
「参る!」
二人がオレに向かって走って来た。
「「ウォオオオオオオオ!!」」
勝家の槍がオレの胸を貫こうとしたときオレは刀でそれを弾き、
「弱い。それでも鬼の柴田か?」
「くっ」
「遅いわ!」
右から横やりを指そうとするのは忠勝。
「はぁ。見え見え」
ここでその鞘に取っ手を付けた理由が活躍する。それは、その鞘で勝家の槍の柄の部分を弾き軌道を変えた。そしてそこに生まれる忠勝の隙。そう、腹の部分に。
「お前ら、武人として何も知らなさすぎるな!」
思いっきり蹴りをかます。
「ぐっ?!」
「勝家も武人なら、女ならオレに力で勝ってみろ!!」
オレの時代なら絶対に禁句だよこれ。
まぁ、それ無視してオレは鞘の部分で勝家の横腹を叩く。
すると、勝家もまたごろごろと地面を転がり間合いが産まれた。
「オレらにとっての武器は何だ?」
「なに?」
「人にとっての武器とは武具のことではない。五体全てが武器だ。頭は頭突き、腕は拳、足は蹴り。全てを使い全てを有効に使う。だがお前たちは武器に頼りすぎそれを怠っている。それがこれだ」
そういってオレは二人を見下す。そして、
「男に負けた武将。末代まで言われるだろうな」
そしてオレは信長を睨み、
「さて、どうする信長さんよ。お前の御自慢の将は敗れた。そしてお前らの命もオレの手中にある」
「なに? ・・・!?」
そして霧が晴れていくと信長はその光景に驚いた。
なぜか?
それはオレの後ろには二列に並んだ鉄砲兵が銃口を信長の軍勢に向けていたからだ。
織田軍の先方には総大将である信長を筆頭に各有力な将が並んでいた。
「さて、信長公に質問だ。ここでオレが『放て』と言えばお前らはどうなる?」
「・・・・」
「答えは『死』だ」
すると信長は軍配を上げかかれと言わんばかりの姿勢をする。だがオレはそれを停める一言を言う。
「あとそれと」
信長は軍配をぴたりと止めた。
「お前らの足軽共、もう戦う気力ないみたいだぞ?」
「・・・ばかな」
そういって信長は恐る恐る後ろを見た。
足軽たちは口々にこういっていた。
「勝家さまと忠勝さまが破れた・・・・」
「あの無傷の忠勝さまが男に・・・・」
「あ、あいつ、近江の鬼神だ!」
「鬼神ってあの、鬼のように戦う武将か!?」
「わしら死んじまう!?」
あの三河武士ですらおそれを感じ震えていた。この状態で戦えといってもむだだろう。
「さて、どうする?」
すると、オレの隣に直経が来た。
「・・・六角来たり」
「当初の予定通りに動け。もう直ぐ再び霧がかかる」
「・・・御意」
すると、信長は馬から降り刀を抜いた。
「・・・フフ、フハハハハッハアアハ!」
「?」
「是非もなし! なら長政! 私と戦え! そしてお前の力私に見せよ!」
「はぁ、あんたもバトルマニアか」
「なんじゃそれ?」
「戦闘をこよなく愛する者のこと。戦いを愉(たの)しむ奴のことだ。まぁオレも言えた義理じゃないがな!」
そいってそのままオレは間合いを詰めた。
「ハァアア!」
そのまま刀を振り下ろし、鞘で信長が左手に持っていた鞘を弾き飛ばした。
「くっ」
そして刀を鍔迫りに持っていくと、そのまま力任せに信長を弾き飛ばした。
これって第三者から見たら弱い者イジメじゃね?
「いいぞ、良いぞ長政! これだ、これを私は求めていた!」
「・・・いじめじゃなかった。よかったぁ~」
オレ一安心。だが、今は一騎打ち。少しでも油断はできない。
すると、天がオレに味方したのか再び霧が濃くなってきた。
「・・・さて、信長殿。どうする? このまま戦うか?」
「いやよい。お前の勝ちだ。長政」
「おや? 潔いいな」
「お前、この腕でまだ戦えと?」
オレは信長の腕を見ると多少震えていた。おそらくオレの剣戟に耐えられなかったのだろう。
「お前は私をどうする。こうも簡単に――」
「なら退け」
「なに?」
「だから美濃に戻れ。オレたちの目的はお前を倒すことじゃない。オレたちにはオレたちの成すべきことをやる」
「情けか?」
オレを睨みつける信長だがオレもそれをにらみ返し、
「なら、死ぬか?」
そういってオレは刀を信長の首元に持っていく。
「くっ」
だが、
「冗談だ」
そういって刀を鞘にしまった。
「お前はここでくたばる器ではない。もしこの北近江を欲するのであればまた来い。相手になってやる」
そういってオレは馬に乗り、
「ではまたな」
そういって去った。オレかっこいい!
SIDE信長
負けた。初めての敗北。だが、
「圧倒的だな」
武勇、知略、全てで負けた。それも男に。あの者が言うように末代の恥だろう。
だが、
「ふふっ、ハハッハハッハハハ! いい。良いぞ! これほどの力を見せつけられたのはいつ以来だろうか!?」
すると、遠くから光秀が来た。
「信長様! 追撃しましょう! 今なら―――」
「黙れ。私は敗者だ。おとなしく岐阜に戻る」
「しかし!?」
「兵を見よ。これでお前はあの鬼神に戦えと?」
「・・・・」
「不可能だな。忠勝、勝家の二人をあいつはたたった一人で倒したのだ。それに鉄砲五百。それにあ奴の鉄砲見たか?」
「い、いえ」
「あ奴の鉄砲は小太刀と合体させ槍の能力も加えられていた。そのような私以上に掟破りの発想をする者に勝てるわけがない。今以上に力を入れ再び北近江に来る。今はそれだけだ」
「で、では」
「戻るぞ。上洛(・・)はまた次だ!」
その時は確実のお前を手に入れる。
正直言おう。当時の鉄砲ひとつで結構な予算がかかっていた。それを五百・・・・破たんだね。でもそこは無視してください。うん。お願いね。