虚無とギアス   作:ドカン

1 / 17
この作品はゼロの使い魔の世界に、コードギアスの主人公・ルルーシュが召喚されるという設定になっております。


召喚

 もうもうと上がる土煙の中から現れたのは、一人の青年だった。

 年の頃は二十歳前といったところだろうか。細身の長身で、このあたりでは珍しい黒い髪をしていた。服装はあまり見かけないものだったが、土にまみれたそれは一目で農民と分かるものだった。

「『サモン・サーヴァント』で平民呼び出すなんて、さすがはゼロのルイズだ」

 誰かがはやし立てたその声を皮切りに、一斉に笑い声が広がっていく。

「う、うるさいわね! ちょっとまちがえただけじゃない」

 ルイズはまっ赤になって言い返すと、背後で控えていた教師に振り返って言った。

「ミスタ・コルベール! お願いします、もう一度召喚のやり直しを」

「それは出来ない。ミス・ヴァリエール。君も知っている通り、春の使い魔召喚は神聖な儀式だ。一度呼び出した以上、気に入らなくてもその使い魔と契約を結ばなければならない」

「そんな……、だって、平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」

 ちらりと、自分の召喚した青年の方を見る。状況がつかめていないのか、あたりを呆然と見回している。

「さあ、契約を。異例のことではあるが、この儀式のルールは何ものにも優先するものだ」

 同じように青年の方を見ていたコルベールが促してくる。

 周りでは級友達がこれでもかというほどはやし立てている。コルベールが何か注意しているようだが、ルイズの耳には聞こえなかった。重い足取りで青年に近づいていく。

「ねえ、あんた」

「えっと、君。ここはどこなんだ?」

「トリステインよ。そんなことどうでもいいから、ちょっとしゃがんで」

 ちいさなルイズと、青年の背は頭一つ以上に離れている。ルイズの鬼気迫るような迫力に負けたのか、青年は渋々と膝をついた。ルイズに跪くような姿勢になり、ちょうどよい高さになった。

「これでいいか?」

「いいわよ。じゃあ、ちょっと動かないでね。あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生無いんだから」

 杖をふって呪文を唱え、青年の顔に手を添える。よく見ると、青年の瞳はアメシストのような深い紫色だった。

「な、なにを――んむっ」

 うろたえだした青年が逃げ出さないよう、一息に唇を重ねた。

 

(な、なに?)

 青年と口づけしたと思った瞬間、ルイズの意識は奇妙な場所に跳ばされていた。。

 茨のような不思議な光に包まれ、闇の中に落ちていく。闇の中で次々と見たこともない光景が映し出される。

 そこは精神と時の狭間。

 闇に浮かぶ巨大な球体。

 宙に舞い散る無数の羽根。

 額に刺青を刻んだ巫女の隊列

 何度も先ほどの青年の姿が瞬く。そして言葉ではなく、何かの『意志』のようなものがルイズに伝わってきた。

(力が欲しいか)

 力?

(王の力はおまえを孤独にする。その覚悟があるのなら)

 使い魔の契約のことなの? 王の力? 姫様の力になれるってこと?

 伝わってくる意志は一方的で、こちらの問いに応えてはくれない。だが、ルイズの答えは決まっていた。

「契約なんか、結ぶに決まってるでしょう! あんたはわたしの使い魔なんだから!」

 その瞬間。幻のようにうつろっていた世界がぴたりと止まる。現れたのは幾重にも連なる巨大な歯車。無数の巨大な歯車の連なりに、新たに出現した歯車が轟音とともにかみ合わされる。同時に、ルイズの頭の中で同じように、カチリと何か新しい部品がくみこまれるような感覚があった。

 

 ルルーシュは、少女と口づけをかわした瞬間、自分の『コード』に何かが干渉してきたのが分かった。右手に刻まれた羽ばたく鳥のような紋章が赤く輝いたかと思うと、ルルーシュの意識はここではない場所に飛ばされていた。

(なんだ……俺は何もしてないぞ……勝手に?)

 ギアスの契約。異なる摂理、異なる命、異なる時間。王の力を与える、呪いにも似た契約。その契約を、目の前で結ぼうとしている少女がいた。

「おい、やめろ! 契約するな!」

 こんな、事故のような形で手に入れていい力ではない。だが、ルルーシュの声は少女には届かない。暴走するコードが、ルルーシュの意志とは無関係に契約を持ちかけてしまう。そして。

「契約なんか、結ぶに決まってるでしょう! あんたはわたしの使い魔なんだから」

 

 少女の左目に、羽ばたく鳥のような紋章が出現した。誇りに満ちたその瞳がこれから何を写すのか。

 今はまだ、誰も知らない。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。