「唐突に何言ってんだ、琢磨は……」
「あら?
琢磨君って、空飛べるわよね?」
「はぁ!?」
「<
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変身せずに、空を飛びたいんだよ、オレは」
「なんでだよ?
てか、変身すれば空を飛べるって時点で、相当じゃねぇか」
「変身せずに飛びたいんだよ!
そうすれば、遠出する際の電車賃が節約できる」
「せこっ!?」
SIDE out
「琢磨君の判断は?」
「巴先輩におまかせ。
ゆまも未知数だし、そんなやつに時間を費やす気は、オレには無い。
先輩たちの軋轢は、オレが介入するべきでもない。
見滝原の
学校が終わり次第、真っ直ぐに帰って来たマミ。
重火器を右手の平に戻していた群雲は、杏子達との再会内容に、嘘と虚偽と事実を織り交ぜて話した後、ベランダに移動した。
リビングには、マミと杏子が向かい合って座り、ゆまは杏子の横にいる。
ちなみに、目を覚ましてから今まで、ゆまは群雲と一切会話をしていない。
まあ、自分を完膚なきまでに叩きのめした相手なので、当然とも言えるが。
「それで、佐倉さんはどうしたいの?
見滝原の
それとも、その子を置いて去るのかしら?」
マミの言葉に、若干の棘が入るのは、仕方の無い事だろう。
「悪いけれど、以前のままの貴女なら、お断りさせてもらうわ。
私は今でも、使い魔を倒す事に後悔は無いし、琢磨君にも協力してもらってるもの」
それでも、今のマミには“一人じゃない”という事実がある。
それが、彼女の心に余裕を与えているのだ。
「……今更、あたしがあんたに謝るのは、筋違いかもしれない」
それに対し、杏子はマミに対する負い目もあるし、ゆまという“見捨てる訳にはいかなくなった存在”がある。
マミに対し、強気に出れるはずもない。
「自業自得だってのも理解してるし、言い訳だってする気もない。
だから、あたしがするのは、ただの“お願い”だ」
「……お願いを聞く気があると思う?」
杏子の言葉を、マミは切って捨てる。
SIDE インキュベーター
[意外だね。
マミなら喜ぶと思うけど]
ベランダに出て、電子タバコを咥えていた琢磨の肩に乗り、水を差さないように念話で話しかける。
無論、琢磨に対してのみ、だ。
[二人の軋轢って知ってるか?]
[もちろん知ってるよ。
家族が全員死んだ事で、杏子は自分の願いを否定してしまった。
そのせいで杏子は、本来の魔法を使えなくなってしまったのさ。
だから、杏子は“自分からマミの元を去った”んだ。
足を引っ張らないようにね]
[考えが変わったのも、理由の一つじゃないのか?]
[それは副次的要素じゃないかと、僕は見ているよ?
琢磨もだろう?]
[まあ、過程を仮定すればな。
いくら家族が自分のせいで死んだとはいえ、それと巴先輩には直接の関係は無い。
むしろ、魔法少女同士である以上、巴先輩以外に頼れる人はいないはずだ。
もしいるのなら、その人の所に行くだろう]
[でも、杏子は独りで戦い続けた。
むしろ、よく戦い続けている方だと思うよ。
僕は、家族が死んだ時点で、エネルギーが回収出来ると思ったんだけどね]
[絶望に負けない“ナニカ”が、佐倉先輩にあった。
それがなにかは解らないが、家族を失うという“上位に位置する絶望”に耐えられるだけの精神力を、佐倉先輩は持ってるって訳だ]
[だからこそ、琢磨にとっては共闘するだけの“価値”があるのかい?]
[それだけじゃないけどな。
オレにとって問題なのは、むしろ“ゆまの存在”だ。
死ぬにしろ、魔女になるにしろ。
“ゆまの終わり”は、間違いなく佐倉先輩に影響する]
自分の為に生きると決めた琢磨は、他人を客観的に見る事が出来る。
むしろ“客観的にしか見られない”と言っていい。
だからこそ、僕とも対等に会話が出来るんだ。
魔法少女システムを理解した上で。
[なら、ゆまを絶望させれば、僕らはエネルギーの回収が可能かい?]
[佐倉先輩共々か?
不可能じゃないだろうが、あまりお勧めはしないぞ]
[理由を聞いてもいいかい?]
[佐倉先輩の為に奇跡を使ったゆまが、確実に絶望するには?]
[質問に質問で返してきたね。
その状況なら、杏子の身に取り返しのつかない何かが起きればいい]
[だろうねぇ。
さて、どういう状況か理解したか?]
[なるほど。
二人は“相互関係”にあると言えるね。
ゆまを確実に絶望させるには杏子を。
杏子を確実に絶望させるにはゆまを。
中々、難しい状況だ]
[だからこそ、オレもまいってるんだよ。
佐倉先輩だけなら、むしろこちらからお願いしたいんだが。
ぶっちゃけ、ゆまはいらねぇんだよ。
実際に“殺すだけなら、昨日出来た”しな]
昨日の夜、琢磨が感情的になったのは、この事が要因みたいだね。
琢磨にとって、マミとの共闘は自分の為になる事だ。だからこその見滝原の
琢磨にとって、杏子との共闘は自分の為になると判断している。だからこそマミと引き合わせた。
ところが。
琢磨にとって、ゆまは邪魔者でしかない。共闘する価値がない以上、ゆまの存在は自分の為にならない。
杏子とゆまが、相互関係である以上、切り離して考えることは出来ない。
ゆまを捨てるなら杏子を諦め、杏子を選ぶならゆまも受け入れる。
琢磨にとって
[どちらが自分の為になるか、判断しきれてないのかい?]
[そこは明白。
今まで巴先輩と一緒に活動していたんだから、それを続ければいい]
[余計な要素はいらないと]
[そゆこと。
問題なのは、この邂逅を“佐倉先輩が望んだ”って事さ。
オレがゆまを切り捨てても、巴先輩がゆまを受け入れたらどうなる?]
[マミと杏子とゆまが協力体制になるね。
そして、ゆまを切り捨てた琢磨が孤立する]
[その時点で、自分の為にならないのは明白。
なら、オレが受け入れても、巴先輩が拒否したらどうなる?]
[琢磨と杏子とゆまが協力体制になる。
この場合なら、マミが孤立するね。
それならいいんじゃないのかい?]
[忘れたか?
見滝原の
[なるほど。
琢磨にとっては“マミとの共闘”が前提にあるのか]
[そりゃそうだろ。
巴先輩との共闘が、自分の為になるからこそ、わざわざ“見滝原の
これが、群雲琢磨という少年だと、僕は理解している。
自分中心に考え、自分中心に動き、自分中心に生きる。
自分中心過ぎるが故に、絶望を感じる機会も少なく、時には絶望すらも自分の為の糧にしてしまう。
だからこそ、自分以外の人間との接触から、絶望してくれると僕としてはありがたいのだけど。
[さて、どうなることやら]
そう言って、煙を吐き出す琢磨を見ながら、僕は部屋の中へ視線を移した。
次回予告
想いは、千差万別
言葉は、変幻自在
それが、複雑に絡み合い
でも、導かれる結論は
たったひとつだけ
八十八章 反対よ