無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「空を飛びたい」
「唐突に何言ってんだ、琢磨は……」
「あら?
 琢磨君って、空飛べるわよね?」
「はぁ!?」
「<操作収束(Electrical Overclocking)>を応用すればね。
 <電気操作(Electrical Communication)>では無理だから、普段は使えない。
 変身せずに、空を飛びたいんだよ、オレは」
「なんでだよ?
 てか、変身すれば空を飛べるって時点で、相当じゃねぇか」
「変身せずに飛びたいんだよ!
 そうすれば、遠出する際の電車賃が節約できる」
「せこっ!?」


八十七章 相互関係

SIDE out

 

「琢磨君の判断は?」

「巴先輩におまかせ。

 ゆまも未知数だし、そんなやつに時間を費やす気は、オレには無い。

 先輩たちの軋轢は、オレが介入するべきでもない。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)からは抜ける気はないんで、オレの事は度外視で考えてくれていいよ」

 

 学校が終わり次第、真っ直ぐに帰って来たマミ。

 重火器を右手の平に戻していた群雲は、杏子達との再会内容に、嘘と虚偽と事実を織り交ぜて話した後、ベランダに移動した。

 リビングには、マミと杏子が向かい合って座り、ゆまは杏子の横にいる。

 ちなみに、目を覚ましてから今まで、ゆまは群雲と一切会話をしていない。

 まあ、自分を完膚なきまでに叩きのめした相手なので、当然とも言えるが。

 

「それで、佐倉さんはどうしたいの?

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)に入る?

 それとも、その子を置いて去るのかしら?」

 

 マミの言葉に、若干の棘が入るのは、仕方の無い事だろう。

 

「悪いけれど、以前のままの貴女なら、お断りさせてもらうわ。

 私は今でも、使い魔を倒す事に後悔は無いし、琢磨君にも協力してもらってるもの」

 

 それでも、今のマミには“一人じゃない”という事実がある。

 それが、彼女の心に余裕を与えているのだ。

 

「……今更、あたしがあんたに謝るのは、筋違いかもしれない」

 

 それに対し、杏子はマミに対する負い目もあるし、ゆまという“見捨てる訳にはいかなくなった存在”がある。

 マミに対し、強気に出れるはずもない。

 

「自業自得だってのも理解してるし、言い訳だってする気もない。

 だから、あたしがするのは、ただの“お願い”だ」

「……お願いを聞く気があると思う?」

 

 杏子の言葉を、マミは切って捨てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

[意外だね。

 マミなら喜ぶと思うけど]

 

 ベランダに出て、電子タバコを咥えていた琢磨の肩に乗り、水を差さないように念話で話しかける。

 無論、琢磨に対してのみ、だ。

 

[二人の軋轢って知ってるか?]

[もちろん知ってるよ。

 家族が全員死んだ事で、杏子は自分の願いを否定してしまった。

 そのせいで杏子は、本来の魔法を使えなくなってしまったのさ。

 だから、杏子は“自分からマミの元を去った”んだ。

 足を引っ張らないようにね]

[考えが変わったのも、理由の一つじゃないのか?]

[それは副次的要素じゃないかと、僕は見ているよ?

 琢磨もだろう?]

[まあ、過程を仮定すればな。

 いくら家族が自分のせいで死んだとはいえ、それと巴先輩には直接の関係は無い。

 むしろ、魔法少女同士である以上、巴先輩以外に頼れる人はいないはずだ。

 もしいるのなら、その人の所に行くだろう]

[でも、杏子は独りで戦い続けた。

 むしろ、よく戦い続けている方だと思うよ。

 僕は、家族が死んだ時点で、エネルギーが回収出来ると思ったんだけどね]

[絶望に負けない“ナニカ”が、佐倉先輩にあった。

 それがなにかは解らないが、家族を失うという“上位に位置する絶望”に耐えられるだけの精神力を、佐倉先輩は持ってるって訳だ]

[だからこそ、琢磨にとっては共闘するだけの“価値”があるのかい?]

[それだけじゃないけどな。

 オレにとって問題なのは、むしろ“ゆまの存在”だ。

 死ぬにしろ、魔女になるにしろ。

 “ゆまの終わり”は、間違いなく佐倉先輩に影響する]

 

 自分の為に生きると決めた琢磨は、他人を客観的に見る事が出来る。

 むしろ“客観的にしか見られない”と言っていい。

 だからこそ、僕とも対等に会話が出来るんだ。

 魔法少女システムを理解した上で。

 

[なら、ゆまを絶望させれば、僕らはエネルギーの回収が可能かい?]

[佐倉先輩共々か?

 不可能じゃないだろうが、あまりお勧めはしないぞ]

[理由を聞いてもいいかい?]

[佐倉先輩の為に奇跡を使ったゆまが、確実に絶望するには?]

[質問に質問で返してきたね。

 その状況なら、杏子の身に取り返しのつかない何かが起きればいい]

[だろうねぇ。

 さて、どういう状況か理解したか?]

[なるほど。

 二人は“相互関係”にあると言えるね。

 ゆまを確実に絶望させるには杏子を。

 杏子を確実に絶望させるにはゆまを。

 中々、難しい状況だ]

[だからこそ、オレもまいってるんだよ。

 佐倉先輩だけなら、むしろこちらからお願いしたいんだが。

 ぶっちゃけ、ゆまはいらねぇんだよ。

 実際に“殺すだけなら、昨日出来た”しな]

 

 昨日の夜、琢磨が感情的になったのは、この事が要因みたいだね。

 琢磨にとって、マミとの共闘は自分の為になる事だ。だからこその見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)

 琢磨にとって、杏子との共闘は自分の為になると判断している。だからこそマミと引き合わせた。

 

 ところが。

 

 琢磨にとって、ゆまは邪魔者でしかない。共闘する価値がない以上、ゆまの存在は自分の為にならない。

 

 

 

 杏子とゆまが、相互関係である以上、切り離して考えることは出来ない。

 ゆまを捨てるなら杏子を諦め、杏子を選ぶならゆまも受け入れる。

 琢磨にとって杏子(+)ゆま(-)セット(=)になってる訳だ。

 

[どちらが自分の為になるか、判断しきれてないのかい?]

[そこは明白。

 今まで巴先輩と一緒に活動していたんだから、それを続ければいい]

[余計な要素はいらないと]

[そゆこと。

 問題なのは、この邂逅を“佐倉先輩が望んだ”って事さ。

 オレがゆまを切り捨てても、巴先輩がゆまを受け入れたらどうなる?]

[マミと杏子とゆまが協力体制になるね。

 そして、ゆまを切り捨てた琢磨が孤立する]

[その時点で、自分の為にならないのは明白。

 なら、オレが受け入れても、巴先輩が拒否したらどうなる?]

[琢磨と杏子とゆまが協力体制になる。

 この場合なら、マミが孤立するね。

 それならいいんじゃないのかい?]

[忘れたか?

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)は、巴先輩が上でオレが下だぞ]

[なるほど。

 琢磨にとっては“マミとの共闘”が前提にあるのか]

[そりゃそうだろ。

 巴先輩との共闘が、自分の為になるからこそ、わざわざ“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”を、お前に頼んで有名にしてもらったんだし]

 

 これが、群雲琢磨という少年だと、僕は理解している。

 自分中心に考え、自分中心に動き、自分中心に生きる。

 自分中心過ぎるが故に、絶望を感じる機会も少なく、時には絶望すらも自分の為の糧にしてしまう。

 

 だからこそ、自分以外の人間との接触から、絶望してくれると僕としてはありがたいのだけど。

 

[さて、どうなることやら]

 

 そう言って、煙を吐き出す琢磨を見ながら、僕は部屋の中へ視線を移した。




次回予告

想いは、千差万別

言葉は、変幻自在









それが、複雑に絡み合い

でも、導かれる結論は









たったひとつだけ













八十八章 反対よ

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