無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「新しい魔法」
「もちろん、自分の為に時間を費やすオレが、会得していない筈が無い」
「……その魔法が、有用かどうかは別だけど」


八十四章 一部召還

SIDE out

 

「では、闘劇をはじめよう」

 

 そう言った次の瞬間には、群雲は既にゆまを蹴り飛ばしていた。

 

「!?」

 

 まったく予期していなかった衝撃に、ゆまはあっけなく吹き飛ばされる。

 幸運だったのは、群雲の前蹴りはゆまの持つハンマーに直撃した事だろう。

 それでも五メートル以上は吹き飛び、転がっていったゆまを見るに、威力は充分。

 そして、いつ近付いたのかさえ認識できなかったのは、ゆまだけではなかった。

 

「お前ッ!」

 

 変身した杏子に対し、群雲は冷静に言葉を紡ぐ。

 

「参加するならご自由に。

 だがこの戦いはきっと“ゆま一人でなければ意味を成さない”と思うぞ?」

 

 その言葉に、杏子は動きを停止させる。

 

「ゆまにとって、佐倉先輩は――――!?」

 

 さらに言葉を紡ごうとした群雲は、一切のダメージ無く突っ込んでくるゆまに、目を見開く。

 治療魔法。それはゆま本人にも適応できる上、四肢を切断された杏子をほぼ一瞬で治すほどの強力なもの。

 ゆま自身に当たったわけでもない前蹴りでは、大した意味はないのだ。

 

「たぁーーーー!!」

「やれやれ、佐倉先輩と話しをしてる途中だってのに」

 

 ハンマーを振り上げて飛び上がるゆまに対し、群雲は右手に電気(まりょく)を纏わせる。

 

「邪魔」

 

 ハンマーが振り下ろされる前に、群雲の拳がハンマーを捉えた。

 その衝撃に、ハンマーを持ち上げたまま、後ろに下がるゆまに、群雲は一気に距離を詰める。

 

「邪魔」

 

 次の左手による黒く帯電する拳(ブラストナックル)は、ハンマーを盾にしたゆまには届かない。

 だが、群雲は気にせず、再び右手の拳をハンマーに打ち込む。

 

「邪魔邪魔」

 

 右、左、右、左。

 ハンマーに打ち込まれる拳は、一発ずつその速度を上げていき。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔」

 

 ほどなくそれは、ラッシュとなってゆまに襲い掛かる。

 

 

 

 『黒く帯電する拳(ブラストナックル)』派生『黒腕の連撃(モードガトリング)

 

 

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!」

 

 その全てをハンマーで受け、吹き飛ばされないように力を込めるゆま。

 対する群雲は、気にも留めずに黒腕の連撃(モードガトリング)を続けている。

 

 黒く帯電する拳(ブラストナックル)はLv1<電気操作(Electrical Communication)>の応用。

 本来、神経を操作する為の体内電気を体外へ出す事で、使用するもの。

 そして黒腕の連撃(モードガトリング)は、両手に電気を纏わせた状態で、ひたすらに拳を打ち続ける、肉体操作プログラムであり、これもLv1<電気操作(Electrical Communication)>に分類される。

 

 つまり、応用が利かない。防がれていようと関係なく打ち続けるだけだ。

 

(やっぱり、武器破壊とかは無理か)

 

 武器を破壊されれば、戦意が削がれるかと期待していた群雲だが、そもそも武器を破壊出来そうになかった。

 元々、体を鍛えていた訳でもなく、魔女狩りにおいて色々な武器を使用する群雲だ。素手での戦闘自体に慣れている訳でもなければ、黒く帯電する拳(ブラストナックル)を極限まで仕上げているわけでもない。

 

「邪魔ァッ!!」

 

 とりあえず最後に一発、大きく振りかぶって拳を打ち付け、肉体操作プログラムを解除する。

 開幕の前蹴りの時と同じように、ゆまは数メートル飛ばされていく。

 だが、ダメージはほとんど無い。群雲の拳は最後までハンマーに直撃していたからだ。

 

(……やっぱり、動きは完全に素人のそれだな)

 

 吹き飛んでいったゆまの方を注視しながら、群雲は思考に入る。

 

(佐倉先輩だけならば、喜んで共闘したいんだが……足手纏いとセットだとすると、GS(グリーフシード)を“使い回す”だけの価値があるとも思えない)

 

 そんな群雲の視界に、立ち上がり、走ってくるゆまの姿が映る。

 

(打たれ強さは評価してもいいが……それだけじゃあな……)

「たぁーーー!!」

 

 ハンマーを振り上げるゆまに対し、群雲は体を捻らせて回避する。

 

 だが。

 

「ぐぉっ!?」

 

 想定外の衝撃に、今度は群雲が数メートル飛ばされる事になった。

 そのまま、あえて受身を取らずに転がっていく群雲。そんな状態を“遮断”して、思考を継続する。

 

(なぜ、吹き飛ばされた? オレは確実にハンマーの攻撃を避けていた筈。

 佐倉先輩の援護? いや、彼女は動いていない。多分、どうしていいかわからなくなってる。

 ゆまの攻撃? それが一番可能性が高い? だが、オレは攻撃を避けた)

 

 吹き飛び、転がり、停止する。それでも群雲は思考を止めない。

 

(魔法? ゆまが魔法を使った仕草は無かった筈。

 だが、ゆまの攻撃? それがオレを吹き飛ばした。

 視認できたか? 否、認識出来なかったからこそ、オレは吹き飛んだ。

 ……視認できたか? まさか、不可視攻撃?)

 

 その思考は、確実に正解へと近付いていく。

 その頃、起き上がろうとしない群雲を、倒したと勘違いしたゆまは、杏子に対して笑顔を向けていた。

 

「やったよ、キョーコ!」

 

 だが、それに対して杏子は難しい表情のまま。

 

(……今ので、倒せるような相手か?)

 

 初対面の時。一瞬で複数の使い魔を細切れにした魔人が、一撃で終わるとは、思えなかった。

 そして、それを肯定するように。

 

「ゆまっ!!」

 

 杏子の叫び。それを聞いて、ゆまは群雲の方へ振り返る。

 そんなゆまの額に、右手の平が押し付けられた。

 

「……え?」

 

 その手は、肘から先しか無かった。

 宙に浮いているのだ。浮いているように見えるのだ。

 ありえない光景に、ゆまの動きが静止する。

 

「まいったねぇ」

 

 そんな言葉と共に、いつの間にか起き上がっていた群雲が、ゆっくりとゆまに向かって歩いていく。

 その右腕は、肘から先が無かった。

 

「戦闘中、相手の生存を確認せずに視界を外す。

 そんなんだから、こうやって決定的な隙を作る。

 まあ、オレに<一部召還(Parts Gate)>を使わせただけ、誉めてやるさ。

 正直、戦闘で使うような魔法だとは、思ってなかったけどな」

 

 

 

 

 

<部位倉庫(Parts Pocket)>

 

 

 

 

 それは、様々な道具を異空間に収納する、群雲の魔法。

 <電気操作(Electrical Communication)>がLv1なら。

 <部位倉庫(Parts Pocket)>もLv1。

 

 <操作収束(Electrical Overclocking)>が<電気操作(Electrical Communication)>のLv2なら。

 

 

 

 <部位倉庫(Parts Pocket)>のLv2。

 

 

 

 

 それが<一部召還(Parts Gate)>。

 

「がっ!?」

 

 右手から起きた放電。それは接触していたゆまに襲い掛かり、その意識を刈り取る。

 

「まあ、この魔法の新しい使い方を思いつけたんで、良しとするか。

 正直、編み出しただけで使い道が……」

 

 変身が解けて、その場に倒れたゆまを見て、群雲は勝利宣言とも言える言葉を呟いた。

 

「なんだ……もう、聞こえてはいないか」




次回予告

なにが正しくて なにが間違っているか

それは、生きるだけならば、なんの意味も無い

そんな少年が、自分の為に生きると決めた

なにが、必要で なにが、必要じゃないのか

重要なのはそこ

八十五章 だから戦った

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