無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「マミのように、自身にメリットが無いのに、使い魔まで倒す魔法少女は珍しい」
「そう言う点で言えば、GS(グリーフシード)の入手に拘る琢磨の方が、大多数とも言える」
「もっとも、琢磨は極端過ぎるとも言えるけどね」
「僕らが琢磨を重要視する点は、そこじゃない」
「真実を知る前と、真実を知った後」
「それが、まったく変わらないのだから」


七十九章 反転同一関係

SIDE 群雲琢磨

 

 結局、巴先輩との共同生活になりました。

 どう考えても、お情けで置いて貰ってる感がやばいが。

 まあ、それは置いておこう。

 

 初めて出会い、共闘した日の深夜。

 オレは、ベランダで電子タバコを咥えていた。

 右肩にはナマモノが乗っかっている。

 

「巴先輩は、寝たか」

「そうだろうね。

 明日も学校に行かなければならない。

 マミがこれ以上、起きている理由は無いからね」

 

 白い煙を吐きつつ、オレは視線を室内へ向ける。

 明かりの消えたリビング。そこから見える、巴先輩の部屋の扉。

 その横には、彼女の両親の寝室がある。

 

「ま、雨風が凌げるだけ良しとするかね」

 

 最初、巴先輩は両親の部屋を使うように勧めてきたのだが、丁重に断った。

 ……いや、流石に使う気にはならんよ? 笑えない。

 

「しばらく琢磨も、見滝原で魔女狩りかい?」

「そうなるな。

 いつまで居るかは、わからんけど」

 

 GS(グリーフシード)さえ、入手出来るなら、それでいいのだ。

 

「そんな訳で、()()()()()()()()()()()()()()()()よ?」

「それは、残念だね」

 

 SG(ソウルジェム)GS(グリーフシード)の反転同一関係と、オレの肩に乗る孵卵器(インキュベーター)の目的。

 ……まあ、オレには知ったこっちゃ無いさ。

 

「……独りの方が、気楽だったかもな」

「だからこそ、僕はマミと共闘するとは思わなかったんだけど」

「それはそれ、これはこれ。

 独りだと、どうしても“限界”がある。

 高い実力を持つ魔法少女との共闘は、充分にオレの為になるのさ」

 

 “魔法少女を利用する”というただ一点においては、オレとナマモノは“同類”とも言える。

 

「僕としては、マミが魔女になってくれないと困るんだけどね」

「その辺、お前らって馬鹿だよな。

 魔法少女が魔女にならないと、エネルギーの回収が出来ない。

 かといって、魔女だらけになってしまえば、素質者すら犠牲にしかねない」

「僕らを馬鹿だなんて言うのは、琢磨ぐらいだよ」

「そうかい?

 そもそも、自分達が利用出来ないシステムに固執して、他の星(ちきゅう)生命体(にんげん)に頼らざるを得ない時点で、お前らの方が“下”だろう?

 なあ、下等生物?」

「……君の身に起きた“異常現象”といい、琢磨はまさにイレギュラー。

 むしろ“異物”と呼ぶに相応しいね」

 

 異常現象、ねぇ?

 

「自覚無いんだけどな?」

「それもまた、君と言う存在の歪さに拍車をかけてるね。

 魔人の存在自体は、個体数が少ないだけであって、有り得ない存在じゃない。

 だが、君に起きた事は、前例の無い事だ。

 有史以前から人類(きみたち)と関わってきた僕らが、知りえない現象。

 それが、どれほどのモノか、理解しているのかい?」

「知ったこっちゃ無いな」

 

 ナマモノにとって、人間は家畜と同じ。

 人間が家畜を育てるのは、おいしく頂く為だ。

 その観点で見れば、ナマモノが“視えて”くる。

 

「まあ、感謝している点もあるし、オレがお前に“敵対する理由”もないしな」

「魔人、魔法少女に関わらず、真実を知った時は皆、僕らを責めるんだけどね」

「責めて、変わるのか?」

「変わらないね」

「なら、無意味だ」

 

 結局の所、オレの目的は変わらない。

 オレは、オレの為に、オレを生きる。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 

「で、オレを見滝原に呼んだ理由は何だ?」

 

 魔法少女を絶望させる為? それは無いだろう。

 オレがそれをする理由も無いし、それはナマモノだって知ってるはず。

 ならば、理由がある筈だ。

 

「君も、聴いた事はあるんじゃないかな?

 魔法少女の間で、語り継がれている伝説の魔女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワルプルギス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「向こう三年の間に、見滝原に顕現する可能性が72.1%と、僕らは結論付けた」

「魔法少女なんて、ファンタジーな存在にすら伝説と呼ばれる、ねぇ。

 まさに、究極の幻想だな」

「ワルプルギスの夜は、僕らにとっても害悪でしかないんだ。

 その戦いで、魔力を使い果たして“孵る魔法少女だけ”ならまだしも、結界に篭る事無く、破壊の限りを尽くす。

 そうなれば、せっかくの“素質者”を無駄にしてしまうからね」

 

 ある意味、インキュベーターの自業自得とも言える。

 感情が解らないのに、感情をエネルギーに変えた歪み。

 その究極の形、その一つが“ワルプルギスの夜”と呼ばれる魔女なのだろう。

 或いは、インキュベーターへの恨み(かんじょう)が、その魔女の原動力か……。

 

「魔法少女は条理を覆す存在だ。

 その為の原動力こそが、僕らが持ち得ない“感情”なのだから。

 その“感情”より産まれたワルプルギスの夜は“君たちの問題”じゃないかな?」

「丸投げかよ。

 条理を覆す“きっかけ”は、間違いなくお前たちだろうが」

 

 魔人(オレ)孵卵器(ナマモノ)は、よくこうやって話をする。

 もっとも、話をする機会そのものは、ほとんど無い。まだ数える程度だ。

 オレが、一つの場所に留まらなかったのも、ナマモノもまた素質者を求めて彷徨っていたのも理由になるだろうか。

 

 ……本当に、オレ達は“同類”だよ。

 

「さて、僕はそろそろ行くよ。

 僕との契約を必要とする少女は、まだ居るだろうからね」

「出来れば、他の魔法少女の情報が貰えると、安定した魔人生活が送れるんだが」

 

 オレの肩から飛び降り、そのままベランダからも飛び降りるナマモノに、オレは告げてみる。

 

[残念ながら、それは出来ないね。

 僕が出来るのは、あくまでも中立的な立場からの情報だけだ]

 

 どうやら聞こえていたらしく、念話で返事が来た。

 オレは、返事をしながら、白い煙を吐き出す。

 まあ、煙と言うよりは水蒸気みたいなものだが。

 

[魔女になってもらわないと困るのに、魔女だらけになるのもいただけない。

 ホント、なんでそんな面倒なシステムにしたんだか]

[それは、君に必要な情報かい?]

[知ったこっちゃ無いな]

 

 オレはそのまま、電子タバコをポケットに入れると、リビングに戻ってテレビを点ける。

 すぐに、音量を最低にして、巴先輩を起こさない様にしながら、深夜のニュースを眺める。

 

[出来れば、君達と対立した上で、双方魔女になってくれるといいんだけれど]

[させねぇよ?

 敵対者はともかく、共闘者を見殺すなんて笑えない事、この魔人がすると思うか?]

[やれやれ。

 君は一体、誰の味方なんだい?]

[決まってんだろ、そんなの]

 

 オレは、オレの味方だ。

 オレだけが、オレの味方なんだから。




次回予告

時は過ぎ、目覚めるのは此度の主演

白い魔法少女が、自らの役割を、自ら定めた時

歯車は、一気に装置へと組み込まれる

八十章 見滝原の銃闘士

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