無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「独りでも、生きていくだけなら出来る」
「そうね。
 私も一人暮らしだし」
「……微妙に意味が違うが……まあ、いい。
 つまり、何が言いたいかと言うと」
「なに?」
「お酒は20歳になってからって事だ」
「どういうことなの!?」


七十七章 電子タバコ

SIDE 巴マミ

 

「……どうしてこうなった?」

 

 私のマンション、そのリビング。

 料理を前に、眼鏡を押し上げる群雲君が、静かに呟いた。

 

「天涯孤独、しかも家無し。

 そんな子を夜に放り出す訳にもいかないでしょう?」

 

 二人分の料理を準備し、席に座りながら、私はそう言った。

 

 

 

 

 

 魔女を倒し、ビルを抜け出したのは日が落ちてからになってしまった。

 そんな時の会話。

 

「群雲君は、今からどうするの?」

「ふっ、オレには<部位倉庫(Parts Pocket)>と言う、道具持ち放題な魔法を、変身しなくても使える。

 キャンプ用品一式は、すでに確保済みなのだッ!」

「うん、色々ツッコミどころ満載ね」

「まあ、両親の残してくれたお金は、全額引き出した上で<部位倉庫(Parts Pocket)>の中にある。

 食事はそれでどうとでもなるから、後はテントを設置する場所だけだッ!」

「じゃ、私のマンションへ行きましょう」

「スルー……だと……ッ!

 ちょ、行く、行くから、襟掴んで引っ張るのやめて!」

「とりあえず、連れて行くから。

 今後の事も話し合いたいしね」

「わかった! わかったから!! まず手を離しましょうよ巴先輩!!

 逃げない! 逃げないから!!」

 

 ……かなり強引だったわね。

 まあ、今後の事を話し合いたいのも確かだし。

 目の前の男の子を、テント暮らしなんてさせられないし。

 

「まずは、食事から。

 しっかり食べないと、いざと言う時にまともに動けなくなるわ」

「そうでもないぞ?

 毎日10秒チャージでも生きていける。

 根拠はオレ。

 実際、4年ほどそんな生活だったし」

「……群雲君……貴方は「まあ、契約後もめんどくさいんでそのままの食生活だけど」しっかり食べなさい!!」

 

 どこまで本気なのかわからないわよ。

 

「大丈夫。

 オレは嘘吐きだからね」

「安心できる要素がないわ」

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 食事を終えて。食器を台所に置いておき、私はデザートの準備をする。

 

「水に浸けとくと、雑菌が繁殖して逆に不衛生だって知ってる?」

 

 ……先に、洗い物を済ませましょう。

 ふと、視線を向けると、私のまとめていたノートを、白い棒を咥えながら、眺めている群雲君が

 

「な、なにしてるのっ!?」

「……ん?」

 

 白い煙を吐きながら、顔を上げる群雲君。

 俯いた状態だったせいで、眼鏡がずれてその左目と白い眼帯を覗かせる。

 

「ノート見てた。

 巴先輩すごいな。

 これまでの魔女との戦いや、魔法などの自己分析。

 魔法少女巴マミの強さの片鱗を、見せ付けられた感が」

 

 言葉の途中で、私は群雲君のタバコを取り上げた。

 

「まだ11歳なんでしょっ!!

 なんで、タバコなんて吸って「一応、法律違反ではないぞ」馬鹿な事言わないで!!」

 

 声を荒げる私に、群雲君は冷静なまま。それが、私の感情をさらに煽る。

 

「電子タバコだぞ、それ」

 

 ……え?

 見ると、たしかにそれは本物のタバコじゃない。

 

「ニコチン0の、充電式。

 ちなみに充電は切れている」

「で、でも……だからって!」

「まあまあ、巴先輩、落ち着け」

 

 言いながら、群雲君はゆっくりと、私の方へ手を伸ばす。

 でも、さすがに渡す気になれない私は、それをしっかりと握り締める。

 溜め息をひとつ、群雲君は静かな口調で語りかけてくる。

 

「……水道、水が出っぱなしだぞ。

 ちゃんと説明するから、まずは洗い物を終わらせたら?」

 

 ……それもそうね。

 私は電子タバコをポケットに入れると、キッチンへ戻る。

 

「……返して欲しいんだけどなぁ」

 

 群雲君の呟きは、聞かなかった事にするわ。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 ケーキと紅茶を用意して、私はテーブルの前に座る。

 群雲君は、見ていたノートを傍らに置いて、正面から私を見据える。

 もっとも、彼の姿ではその表情のほとんどが隠れてしまっているのだけれど。

 

「電子タバコ、返して」

「理由を聞いてからよ」

 

 ついでに、話すまでケーキも紅茶もお預け。

 そう言う私に、群雲君は眼鏡を外しながら答えた。

 

「修行の一貫なんだよ」

「……修行?」

「オレは、変身しないと魔法が使えない。

 変身せずに使えるのは<部位倉庫(Parts Pocket)>だけ。

 でもだめだ。それじゃあだめだ。

 オレは、オレの為に魔法を使う。

 そのオレが“変身しなければ魔法が使えない”のでは、意味が無い」

「それと、電子タバコがどう繋がるの?」

「巴先輩だって、最初から銃を編み出せた訳じゃないだろう?

 ノートを見させてもらったけど、巴先輩の本来の魔法は“リボン”の方だ。

 魔法を使いこなし、新たな魔法を編み出す。

 その為には“魔法を使う経験”が必要なんだ。

 ここまではいいよな?」

「ええ」

「魔法を使う。

 オレの魔法は大きく分類して3つ。

 “時間停止”“放電能力”“収納”に分けられる。

 この内、時間停止に関しては、常日頃から使える種類の魔法じゃない。

 そして、収納に関しては、変身しなくても使える。

 ならば、残ったのは放電能力だ。

 この力は特に、戦闘においてメインとなる能力なだけに、妥協する訳にはいかない。

 そこでオレはまず、この力を”変身しなくても使えるようにする”事を目標にした。

 その為に目をつけたのが、その“電池切れの電子タバコ”だ」

「……電池切れ?」

「電池切れ。

 充電式のそれを“オレの魔法で機能させる”事で、放電能力のコントロールを上昇させる。

 それが、理由なんだ」

 

 ……また、とんでもない事を思いついたものね。

 

「最初は、変身状態じゃないと使えなかったし、47本ほど力込め過ぎで壊れた。

 だが、最近は変身しなくても使えるようになってるし、おかげで放電能力の使い方が広がった」

「たとえば?」

「オレの魔法のひとつに『電磁砲(Railgun)』がある。

 弾丸を電磁化して撃ち出すものだ。

 さっきの戦いでは使わなかったけどね。

 これは、力を込めすぎると勝手に飛んで行ったり、弾丸そのものが耐え切れなくなったりする。

 逆に、力が足りないとボールを投げるより遅く、飛距離も威力も出ない。

 魔女との戦いで実用化するには“しっかりとした放電操作”が必要になる。

 その為に必要なのは慣れ。

 <電気操作(Electrical Communication)>の“経験”なんだ」

「だから、電子タバコ?」

「金額的にも手が届き、簡単に持ち運べて、一応は法律にも抵触しない。

 実際、おまわりさんに見つかって注意されたが、犯罪行為じゃない以上、オレを罰する事は出来ない」

「……倫理的に問題があるわよ」

「よい子はまねしないでね!

 よしっ!!」

「よしっ!! じゃないわよ!!」

「まあ落ち着け。

 生き残る為の行動。

 魔女に負けない為の行動。

 オレが、オレの魔法を使いこなす為の手段のひとつなんだから」

 

 そう言って、群雲君は口の端を持ち上げる。

 

「他の手段が思いつけば、そっちにするけど。

 なんかある?」

 

 言われて、私は考えてみる。

 電気を使って動く物。手軽に持ち運べる物。

 

「懐中電灯とか」

「昼間に懐中電灯持ち歩いてどうする?

 明るい場所だと、点いてるかどうかわからんし」

「む……」

「とまあ、他に思いつかなかったんよ。

 それなら、正常に作動してれば煙が出るしね」

「むむ……」

「代案がないなら、返してくれるか?」

「むむむ……」

 

 ……仕方ないわね。

 しぶしぶ、私は電子タバコを群雲君に返す。

 受け取った群雲君は、それを右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>に入れると、眼鏡を掛け直す。

 

「じゃ、真面目な話をしようか。

 なんか、変な方向に脱線したし」

「私のせい?」

「まあ、琢磨が誤解を生む行動をしていたのも事実だしね」

「うん、サラッと現れて、ナチュラルに混ざるの止めようか、ナマモノ」

 

 いつの間にか、キュゥべえがテーブルの傍らで顔を覗かせていた。

 

「ナマモノって……」

「いや、名前を知ったのが結構前でね。

 それまでずっと“ナマモノ”って言ってたし、こいつも訂正しなかったし」

「僕は、どんな風に呼ばれようとも気にしないからね。

 こちらも、琢磨の名前を知ったのは4ヶ月後だったし」

「……似た者同士ね」

「いやぁ」

「誉めてないわよ!?」

「わけがわからないよ」

 

 いい加減、この子の扱いになれないといけないわね。

 今日初めて会い、共闘した少年に抱く印象じゃないかもしれないけれど。




次回予告

対話は続く

少しずつ、だが、確実に

装置を動かす為の歯車が



組み込まれていく

七十八章 七転八倒

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