無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「人は、なにをもって“幸せ”と呼ぶのだろう?」
「オレは、胸を張って“幸せ”だと言う事は出来ない」
「この世界は今、幸せかい?」


八章 オレは、この日にこそ

SIDE 少年

 

 電車に揺られながら、オレはゆっくりと目を覚ました。

 随分と、懐かしい夢を見ていたものだ。

 オレが再び生まれた日(契約した日)を想い、眼鏡を中指で押し上げながら、苦笑した。

 

 

 

 

 あの日を境に、オレの生活は一変した。

 魔女を狩るという人生目標が出来たオレは、その日のうちに荷物をまとめて、街を後にした。

 あの街の魔女を狩る、という選択肢もあったが、オレは選ばなかった。

 別に、あの街に愛着があるわけでもなければ、大切な人がいるわけでもない。

 むしろ、自分を虐め続けたクラスメイトと、助けてくれない大人達がいるだけだ。

 魔女によって、滅んでしまえばいいとすら、思える。

 まあ、実際のところはどうでもいい。

 オレは、あの街を離れた、それが事実だ。

 

 で、オレは右目の導くままに、旅を始めた。

 SG(ソウルジェム)には、魔女の気配を感じる機能があるらしい。

 それが右目になっているオレは、その感覚に身を任せながら、各地を放浪している訳だ。

 オレの魔法を、完璧に使いこなす為にも、実戦経験は必要であり。

 SG(ソウルジェム)を浄化する為に、魔女を狩る必要もあり。

 他にも、色々な思惑があったが、それらを満たす為には、街を離れる必要があったのだ。

 家族は既に無く、親戚もオレの持つ、さして多くは無い遺産目当て。

 銀行にあった貯金は随分前に、全額引き出していた。

 その内、オレがあの街にいた事も、忘れ去られていくだろう。

 捜索願すら、出されてはいない事は、確認済みだ。

 

 

 

 自分の魔法を理解、研磨し、発展させて、使いこなす。

 必要な物を揃えて、旅をし、魔女を狩る。

 そんな生活を始めて、早2年が過ぎた。

 普通の生活者なら、小学六年だろうが、あいにくオレは異常な生活者。

 未練も無く、後悔も無い。

 

 

 

“オレの、何時、如何なる時も、オレの想うがままに、笑って過ごせる事を”

 

 

 

 きっと、オレの願いは、叶っている最中なのだ。

 

 

 

 

 

 さて、魔法少女(男)になって、2年が過ぎたが、オレ以外の魔法少女には、未だに出会った事が無い。

 無論、魔法少女(男)にも、だ。

 ……本当にいるのん?(´・ω・`)

 なんて考えもしたが、右目の導くままに魔女を狩り、そのまま次へと向かう。

 基本、留まるという事をしなかったのが、遭遇率の低さの理由だろう。

 まあ、GS(グリーフシード)の取り合いなんて、笑えない状況にもなりそうだし、僥倖だと言えなくも無いが。

 

 オレは、軽く右手を振る。

 次の瞬間、その右手には地図帳が握られ、オレはそれを開いた。

 

 

 

 変身しなくても、使える魔法はある。

 と言っても、オレが使えるのは“収納魔法”だけなのだが。

 

 

 

 <Parts Pocket>と名付けたオレの魔法。

 望んだ物を“ドコカ”に収納し、望んだ時に取り出す。

 収納箇所は、ある程度決まっており。

 

 左右の手の平、両脇、腰の左右と後

 

 分かっているのは、以上の7箇所。

 右の手の平以外は、一つしか収納できない。

 逆に、右の手の平だけは、収納数に限りは無い。

 だが、収納した所とは別の場所から取り出す事が出来ない。

 入り口と出口は、一緒でなければならないのだ。

 収納する物の大きさに、規定はないらしく、ロードローラーが収納出来た時には、思わず最高にハイってやつになった。

 収納された物は、時が止まっているらしく、砂時計や懐中時計などで検証したので、間違いはない。

 

 

 

<部位倉庫>

 

それが、オレの三つ目の魔法だった。

 

 

 

 時間停止、電気操作、収納。

 以上三つがオレの魔法。

 それらを検証、吟味、進化させながら、オレは旅を続ける。

 

 

 

 

 

 終着駅(終わり)が、どこにあるのかは、解らない。

 魔女狩りを存在理由(生きる糧)としている以上、オレの終わり方は二つしかない。

 

 

 

1.魔女に殺される

2.魔女を殺す事を止める

 

 

 

 1.は、そのままの意味。

 2.は、今の自分を否定する事を意味する。

 

 “3.存在理由(生きる理由)を別に見つける”なんて可能性もあるが。

 

 少なくとも、今のオレには想像出来ない事だ。

 

 

 

「次の街は“見滝原”か」

 

 地図帳で、次の街を確認しながら、オレは電車に揺られていた。

 右目(ソウルジェムの導き)のままに、自分の好きなように生きる。

 間違い無く、オレは“異常”だろう。

 だが、普通じゃないなら、異常であるしかなく。

 魔法(異常)を使うオレは、普通ではなく。

 だが、一つだけ言える事は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“オレは今、不幸じゃない”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の目的地が、オレにとって、故郷と呼べる場所になる事など、知る由も無く。

 そこで、魔法少女達と出会い、戦う事になるなど、思いもよらず。

 ある意味でそこが“群雲(むらくも)琢磨(たくま)”にとって、もう一つの終焉と始りの場所になるなどとは、夢にも思わず。

 

 

 

―――――歯車は今、噛み合おうとしていた―――――




次回予告

上がる為に下りた幕

そして始まる物語

全てを決めた舞台劇



第一幕 スベテを憎んだFirst Night

 九章 絶対に、自分が想い、口にしないであろうその言葉




(いびつ)な存在は、(ゆが)んだ感情より、闘劇(スベテ)を開始する

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