無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「巴先輩は今は?」
「中学2年よ」
「契約した日は?」
「……だいたい1年ぐらいかしら」
「同じぐらい……オレの方が遅いっぽいな。
 まあ、オレは契約した正確な日って、憶えてないし、どうでもいいし、知ったこっちゃ無いけど」
「それが?」
「年齢的にも魔女狩り歴的にも、先輩と呼んで支障は無いって事だな」
「なぜ、先輩呼称なの?」
「……その辺割り切らないと、照れて会話する事ができないんだもん……」
(……子供ね……)


七十三章 矛盾

SIDE 巴マミ

 

 始めて出逢った魔人は、よくわからない少年で。

 そんな子と、私は魔女結界を進む。

 少しずつ、本当に少しずつ。

 進行速度が上がっているのを実感する。

 

 結論から言うなら。

 群雲君が前、私が後。

 この形が最善だった。

 

 ナイフや日本刀、時には蹴りで立ち回る群雲君。

 マスケットで、後方から射撃を行う私。

 時に、私が群雲君の隙を、射撃で補い。

 時に、群雲君が、私の射撃の合間を補う。

 

「まさか、巴先輩と一番動きやすいのがナイフとは、この魔人のタクマの目をもってしても略」

「そこで略されても困るわ」

「大丈夫、きっと解ってくれる人はいる」

「……誰の事よ?」

 

 理解に苦しむ事を言う群雲君に、首を傾げながら。

 それでも、最初に比べれば打ち解けられてると思うわ。

 なによりも……こんな子供が私と同等に立ち回れる現実に、僅かに心が痛む。

 戦わなければならない現実は、言葉にする以上に過酷なものだと、私は知っているのだから。

 同じ立場の群雲君が、これまで歩んできた道もまた、過酷なものだと感じられるから。

 

「しかし……使い魔多くね?」

 

 投擲したナイフを拾いながら、群雲君は首を傾げる。

 確かに、この魔女結界にいる使い魔は、多い部類になるでしょう。

 

「初戦の際は、使い魔一人だけだったし……。

 魔女がいると見て、間違いなさそうだ。

 むしろ、いないと困るな、魔力の回復的な意味で」

 

 使い魔との戦い。自らの命を、危険に晒す立ち回り。

 その中でなお、群雲君は冷静に言葉を紡ぐ。

 本当に、この子は年下なんだろうか?

 

「まあ、正直な事を言うなら」

 

 ナイフを握りなおして、群雲君は言う。

 

「巴先輩と一緒じゃなかったら、もっと早くに終わらせられるんだがね」

 

 ……さすがに、その一言は聞き捨てならないわね。

 

「私が弱いと?」

「いや、そうじゃない」

 

 右目を覆い隠す、髪と同じ色の眼帯を向けながら、群雲君が口の端を持ち上げる。

 

「オレ独りなら、使い魔無視して駆け抜けるから」

 

 使い魔を、無視?

 私の疑問は、想定内だったんだろう。

 群雲君は、そのまま言葉を続けた。

 

「最初に言ったように、オレは、オレの為に魔法(ちから)を使う。

 見ず知らずの一般人なんか、知ったこっちゃない以上。

 オレは基本的に“使い魔を殺す理由が無い”のさ」

 

 その言葉に、私は背筋を凍らせる。

 ……本当にこの子は、()()()()()()()()()()()()

 何もかもが“私とは真逆”なんだ。

 

 

 

 

 

 

 でも。同時に。矛盾が生じる。

 現実、私と群雲君は一緒に行動している。

 独りなら、使い魔を無視すると言った群雲君は。

 

 ()()()()()()()使()()()()()()()()()

 

 どういうことなの?

 この子がわからない。

 解らないし、判らないし、分からない。

 

「群雲君は……」

 

 思わず呟いた言葉は、この子には届かなかったらしく、そのまま自分の言葉を続ける。

 

「まあ、あんまり『たら』『れば』を並べてみても、現実は変わらない。

 とか、なんかの本で読んだしねぇ。

 今は進むだけだな。

 後悔なんて、それこそ“後にしか出来ない”事だし。

 死んじゃったら、それすら出来ない」

 

 そう言って、群雲君は私に背を向けて、歩いていく。

 黒い外套を翻すその背を見つめながら。

 私は、複雑な心境のままにその後を追った。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

「「……」」

 

 進んだ先で、私たちは沈黙していた。

 

「ぽっぽ~!」

 

 一見すると、楽しそうに。

 ゆらゆらを漂うのは、船の体を持つ使い魔。

 まあ、船が宙に浮かんでいる時点で、本来ありえない事なのだけど。

 

「ぽっぽ~!」 ポンッ! 「「ぽっぽ~!」」

 

 そして、使い魔が増えた。

 

「……そりゃ“使い魔が使い魔を増やす”なら、この結界内の多さも納得できるけどさぁ……」

 

 うんざりした様子で、群雲君は右手の平を軽く振る。

 次の瞬間、その手には大量のナイフが握られていた。

 まるで扇のように広がるナイフを、まとめて投擲する。

 何本かが使い魔に刺さり……大多数が命中せずに散乱した。

 

「……効率、悪くないかしら?」

 

 私の質問に、群雲君は口の端を持ち上げながら言う。

 

「銃でもいいんだけどねぇ……。

 弾丸調達って、結構大変ですので」

 

 そういえば、群雲君のは実弾銃だったわね。

 本当に、どうやって調達したのかしら?

 

「私みたいに、魔法で弾を造ったり「出来たら、苦労してません」……そう……」

 

 ままならないものね。

 そんな風に考えていた私に、群雲君が真剣な表情を向けてきた。

 

「使い魔が自分で増える事が出来るのなら。

 すべての使い魔を倒しながら進むより、大元である魔女をさっさと倒したほうがよくない?」

 

 ……確かに。

 結界の入り口付近に“魔女のくちづけ”を受けていた人もいるし、使い魔が自分で数を増やせるなら、二人ですべての使い魔を討伐していたら、時間がかかりすぎるわ。

 

 私は、基本的にすべての使い魔を倒しながら進む。

 使い魔といえど、一般人には脅威に違いないから。

 それに対抗出来るのもまた、魔法少女(わたし)しかいないだろうから。

 

 群雲君は使い魔を無視して進む。

 でも、魔女を早期に倒し、使い魔ごと結界を消滅させてしまえば、被害が少なくなるのも事実。

 早期に倒せるかどうかは別としても、選択として間違ってはいないと思う。

 

「……討ち漏らした使い魔が、自分で増える前に。

 魔女を倒した方がいいかもしれないわね」

 

 そう、結論付けた私に、群雲君は頷きながら。

 

「じゃ、急ぎますかね」

 

 口の端を持ち上げた。

 本当に、この子がわからない。

 自分の為に動くと言っておいて、私と一緒に使い魔を倒して進む。

 魔女を早めに倒した方が良いと、私と一緒に先を急ごうとする。

 本当に……矛盾した子ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ナイフ拾うんで、ちょっと待ってね」

「急ぐんじゃないのっ!?」




次回予告

対峙するのは天敵

魔法少女と魔女 魔人と魔女 魔法少女と使い魔 魔人と使い魔

敵の敵は味方? 敵の敵も敵?

それらすべては、立場で変わる

世界を見たい、視点で変わる

故にここからはじまる

とある、魔女狩りの風景



七十四章 殺されて、死ね







TIPS 作中時系列

 ソースはまどマギポータブルより、本作設定へ構築

 巴マミ、中学1年時に契約(中学の下校中に両親と合流し、事故に遭っている為)
  ↓
 群雲琢磨、契約して放浪へ
  ↓
 佐倉杏子、契約(まだ、一家心中が起きる前のパトロール時に『中学生』という呼称あり)
  ↓
 佐倉杏子、巴マミと出会い、弟子入り
  ↓
 佐倉家、一家心中
  ↓
 佐倉杏子、巴マミと袂を分かつ
  ↓
 群雲琢磨、キュゥべえに唆され、見滝原へ移動
  ↓
 群雲琢磨、見滝原へ移動中に佐倉杏子に遭遇←六十八章&六十九章
  ↓
 群雲琢磨、見滝原に到着し巴マミと邂逅←今ここ

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