「ホームレスですが、なにか?」
「……よく、補導されないわね……」
「逃げ足には自信あるんで」
「殴りたい、そのどや顔」
「キャラ変わってません!?」
日は沈み、街は人の造り出しだ光が支配する。
自然の在り方を否定し、人は知恵を持って、世界の
その歪みが、負の感情をもって、カタチを成し。
捻じ曲げた
それが、魔女と呼ばれる存在。
絶望より生まれ、絶望を産み、絶望に堕とす。
そんな存在に対抗し得る、唯一の存在。
それが、魔法少女。
希望により生まれ、希望を紡ぐ為、戦いに身を置く。
これより語られるのは、そんな魔法少女の戦いの軌跡である」
「……なにを言っているの?」
「暴露本のプロローグ候補」
「本にするつもりなのっ!?」
SIDE 巴マミ
横で、とんでもない事を口走った少年は、変わらずからっぽの笑顔を浮かべる。
それを見下ろしながら、私はその横で、
「別に、共闘する必要も無い。
かといって、敵対するほどの理由も無いんじゃないか?」
群雲君にとって、重要なのは“
私の役割は“見滝原で魔女から人々を守る事”である。
「難しく考える事なんてない。
オレは、魔女を狩る。
巴先輩も、魔女を狩る。
“魔女を狩る為に、魔人を利用する”ぐらいでいいのさ」
そう言う少年は、笑顔を造る。
「敵の敵は味方。
それでいいし、それ以外は望まない。
認められないなら、言ってくれればいい。
オレが、別の街に行くだけだからね」
上辺だけの、言葉を造る。
「まあ、移動するのも意外と大変なんで。
ここにいられるのなら、嬉しいなぁと思うんですがどうでしょう?」
信用したわけではないし、信頼できるわけでもない。
でも、佐倉さんがいなくなり、手を借りたいのも事実。
ひとまず、結論を保留にして、私たちは街へ出た。
元々、私はパトロールをするつもりだったし、もし魔女を見つけられたのなら、一度共闘してもいいかと思ったから。
「反応有り、ね」
「……そっちじゃないわよ?」
「おぉう!?」
道を曲がった私と、まっすぐ進む群雲君。
私の声に驚き、慌てた様子で駆け寄ってくる。
「ちゃんと言ってよ」
「むしろ、なんで気付かないのよ?」
抗議する群雲君に、私は疑問をぶつける。
「魔女の気配とか、明確に捕らえる事なんて出来ないんだもの、オレ」
眼鏡を押し上げながら言う群雲君に、私は首を傾げる。
「きっと、魔法少女と魔人の違いなんじゃね?
オレにだって、詳しい事が解るわけじゃないし」
最近は特に、感覚が鈍ってきてるんだよね。
そう言う群雲君に、悲壮の影は無い。
――――生きるのが、楽しくてしょうがない。
普通であったなら、そんな印象を受けるだろう。
――――その笑顔が、からっぽでないのなら。
「ここね」
完成直前ののビル。
人がいないであろう場所に、私たちは
「じゃあ、さっそく行きますかね。
でなきゃ、ここに来た意味が……oh」
言葉の途中、群雲君が何かに気付き、ビルを見上げた。
つられて見上げた私の視界に。
ガラスの無い窓から飛び降りようとしている、中年の男性が映った。
「!?」
反射的に変身し、私はリボンを取り出す。
同時に、男性がその身を宙に投げだし……。
「……え?」
空中で静止した。
「やれやれ……。
巴先輩との、せっかくの初陣なのに、いきなり縁起の悪い事になる所だった」
その呟きに、私はようやく気付く。
「群れし雲が、世界の流転を否定する。
今、世界はオレだけを見て、オレだけが世界を見る。
<
今という時は、今はオレだけのモノだ」
僅かに持ち上がった白髪と、顕になった、髪と同じ色の眼帯。
緑の軍服こそが、群雲君の変身した姿なのだと理解し。
使用した“時間停止”という強力な魔法に驚き。
「助けるなら、早めにお願いします。
オレ、これ以上打つ手が無いんで」
その一言に、脱力した。
止めた、だけ、なのね……。
気を取り直し、私はリボンを展開し、男性を受け止める為のネットを編み出す。
「いいわよ」
私の一言に、群雲君は満足そうに言葉を紡いだ。
「
次の瞬間、時が動き出し、男性が落下してくる。
しかし、すでに私の
男性を受け止め、ゆっくりと地面に横たえたリボンが消えると同時に、私たちは男性に近づく。
「魔女の口づけね」
「どうやら、このビルで当たりっぽいな」
そこまで言って、私は未だに繋いだままの手に気付いた。
「離してもらってもいいかしら?」
「おぉう!?」
私の一言に、群雲君は慌てて手を離す。
「いや、“
なぜか、万歳の体制のまま、顔を真っ赤にした群雲君が慌てた様子で弁解する。
……ひょっとして……照れてる?
「別に、怒ってないわよ?」
「おぉう!?」
その様子が可笑しくて、思わず笑ってしまった私と、慌てた様子で視線を逸らし、頬をかく群雲君。
なんだか、今までの印象を吹き飛ばしてしまいかねない、年齢相応の仕草だった。
「と、とにかく!
このビルに結界があるのは、確定っぽいし」
「ふふっ。
そうね、行きましょうか」
最初より、確実に肩の力が抜けた状態で。
私は、
ほどなく、正面の壁に“入り口”を発見した。
「……あったわね」
「ああ」
気を引き締め、マスケット銃を編み出した私の横で。
群雲君もまた、先ほどとはうってかわった真剣な表情で両手を交差させながら、両脇に手を添える。
次の瞬間、両手には銃が握られており、その手の銃は抜いた流れのまま、結界に向けられた。
口の端を僅かに持ち上げ、群雲君は静かな声で宣言した。
「では、闘劇をはじめよう」
次回予告
始まるのは、最初の共闘
魔法少女巴マミと、魔人群雲琢磨の
最初の舞踏
そう、初めての……
七十二章 オレと巴先輩の相性