無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「場所にこだわりは無い。
 そもそもオレには、帰る場所なんて存在しない。
 ……永遠の家出少年。
 いや、帰る場所が無いのに家出とは言わないか?」


七十章 え? なにこの子?

 見滝原。

 近代的開発が進められているその街には、一人の魔法少女がいる。

 名を、巴マミ。

 キュゥべえと契約して命を繋ぎ、魔女と戦う使命を背負う少女。

 

 その日、少女は出逢ってしまう。

 自分と同じように、契約をした“少年”と。

 

 

 

 

「そこのお姉さん。

 この辺に、魔女結界とかありません?」

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 学校が終わり、私が始めるのはパトロール。

 鞄を置き、そのまま私は街へ繰り出す。

 その日も、いつものようにそうするはずだった。

 ところが。

 マンションを出た私に、一人の少年が話しかけてきた。

 白い髪に眼鏡。 よく見れば白い眼帯もしている。

 黒いコートを身に纏ったその少年の一言に、私は否が応にも足を止めなければならなかった。

 

「……さあ? 解らないわね」

 

 口元に笑みを浮かべる少年に、私はそう答える。

 

「なるほど“解らない”か。

 その言葉が出るって事は“関係者”と見ていいのかな?」

「!?」

 

 少年の言葉に、私は息を呑む。

 そんな私に構わず、少年は言葉を続けた。

 

「そもそも、一般人なら「魔女結界ってなに?」と言うだろう。

 実際、6人共そう聞き返してきたし。

 7人目にして、ようやく当たりかぁ。

 あのナマモノも、この街の魔法少女について、教えておけっつうに……。

 まあ、詳しく聞かなかったオレも悪いんだけど」

 

 え? なにこの子?

 

「……聞いて回ってたの?」

「ん? もちろん。

 ここを縄張りにする魔法少女に会うのも、オレの目的の一つだし」

 

 言いながら、その少年は右手の中指で眼鏡を押し上げながら言った。

 

「初めまして、見滝原の魔法少女。

 オレの名は“群雲 琢磨”という。

 ナマモノいわく、現状唯一の魔人だ」

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 ひとまず、その少年――――群雲君を部屋へ招いて話をする事にした。

 契約した男の子――――魔人に対する興味と。

 魔女結界があるかと聞いて回っていたという危うさと。

 魔法少女に会うのが目的の“一つ”だと言った真意と。

 

 色々と、興味の尽きない少年だった。

 

「紅茶うめぇwww」

「褒めてくれるのは嬉しいのだけど。

 その言い方だと、馬鹿にされてる気分になるわ」

「サーセンwww」

「……」

「マジ、すみません。

 その冷たい眼差しはマジで勘弁してください。

 ゾクゾクしちゃうんで」

 

 なによりも、掴み処の無い少年だった。

 

 

 

 

 閑話休題。

 

「つまり群雲君は……。

 キュゥべえに勧められて、見滝原に来たと」

「そうなるね。

 むしろ、それ以外に理由が無いね」

 

 両親を事故で亡くし、親類は信用出来ず。

 学校でも、いじめられながら生きてきた。

 そんな時、キュゥべえと出会い、契約して魔人になった。

 それを切っ掛けにして、それまでの“スベテ”を捨てて、旅に出た。

 自分の魔法を研磨しながら、魔女狩りの旅をしていたある日、キュゥべえから見滝原を勧められた。

 断る理由も無いので、見滝原に来た。

 

 ……が。

 

 辿り着いたまでは良かったが、ここから先の当てが無い。

 魔法少女がいる、それしか解らない。

 なので“魔法少女じゃないと答えられない質問”をしてまわった。

 7人目にしてようやく、私に辿り着いた。

 

 以上が、群雲君の概要だった。

 

「ナマモノも、巴先輩の事を少しは教えておいてくれれば「え? なにこの子?」みたいな眼差しを向けられずにすんだのに……。

 今度、鍋で煮込んでみよう。

 意外と良い出汁になるかもしれない」

 

 一人で笑いながら頷く群雲君の印象。

 

 

 

 

 

 

 ―――――からっぽ

 

 

 

 

 

 中身が無い、と言えばいいのかしら?

 全てが上辺だけで、形成されている。

 そんな印象だった。

 

「さて、本題へと行こうか、巴先輩」

 

 ティーカップを置き、眼鏡を外した群雲君が、真剣な声色で言葉を紡ぐ。

 それだけで、部屋の空気が一気に張り詰める。

 長めの前髪の隙間から、真剣な左目を覗かせて。

 

「ぶっちゃけ、オレは赤の他人の事なんて、知ったこっちゃ無い。

 魔女を狩るのは、オレの為。

 自分の魔法を研究、発展、昇華させる為には、魔力を回復させる為のモノ(グリーフシード)が必要。

 それ以外に、理由は無い」

 

 呑まれそうになるのを、必死に取り繕い、目の前の“魔人”の話を聞く。

 この子は本当に、自分よりも年下なのだろうか?

 

「良い狩場がある。

 ナマモn……キュゥべえに言われて、オレはここに来た。

 だが、ここを“縄張り”にしているのは、巴先輩だ。

 他人の縄張りを荒らしてでも、GS(グリーフシード)が欲しいほど、オレは切羽詰っている訳じゃない」

 

 矛盾している。

 赤の他人がどうでもいいのなら、()に気を使う必要は無い。

 

「加えて、キュゥべえは言っていた。

 “この街には魔女が多く、一人では限界がある”と。

 もちろん、巴先輩が弱いと言ってる訳じゃない。

 キュゥべえも、見滝原の魔法少女は実力者だと言っていたし、そもそもオレには判断材料が無い」

 

 わからない。

 この子が、わからない。

 分からないし、解らないし、判らない。

 

「だが、オレのような魔人や、巴先輩のような魔法少女でなければ。

 大前提として“魔女を狩る事は出来ない”訳だし“魔女の脅威から一般人を守る事も出来ない”訳で」

 

 なら、私は。

 

「信頼しろとも、信用しろとも、言わないし、そんな価値はオレには無いけれど」

 

 この、からっぽの笑顔の魔人(こども)を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレは、見滝原にいてもいいかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 知らないままでは、いられない。




次回予告

家族を失った者

家族を失った物



家族を、忘れない人



家族に、置き去りにされ










家族を、忘れ去ったモノ

七十一章 世界に招く

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