無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「それでもオレは……お前らの思い通りにはさせねぇよ?
 だって、それじゃあ、笑えないんだから」


六十六章 約束

 その日、見滝原が無くなった。

 

 

 

 

 

 その戦いに、特筆すべき事は無い。

 むしろ、戦いとすら呼べるかどうかも疑問である。

 

 

 

 

 以前の時間軸において、ほむらはワルプルギスの夜討伐を成し遂げている。

 しかし、今回においては、全ての状況が敗北を示す。

 

 友人達の死、先輩の乱心。

 魔法少女が魔女になるという事実。

 それを突きつけられ、誰が全力で魔法が使えるというのか。

 

 使えば使うほど、自らを魔女へと導くのが“魔の法”である。

 それを知り、誰が全力で魔法が使えるというのか。

 

 

 

 それすら割り切ってみせる魔人に至っては、要とも言える右手を失っている。

 電光抜刀も、弾丸の補充も、魔力回復の為の物すら、取り出す事が出来ず。

 その身ひとつで、戦うようなものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦いに、特筆すべき点は無い。

 否、それは、戦いとは言えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、ワルプルギスの夜は、笑いながら通り過ぎただけ。

 それに巻き込まれたのは見滝原。

 抗う所にすら辿り着けなかったのは、二人の魔法少女と独りの魔人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――その日、見滝原は消えた―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、見滝原だった場所。

 そこに横たわるのは二人の少女。

 ボロボロになったその体は、もはや変身する事も出来ず。

 その手に持つ魂の結晶は、どす黒く穢れ。

 

―――――再誕の時を待つ。

 

「GS《グリーフシード》……残ってる……?」

 

 ほむらの言葉に首を振るまどか。

 

「……群雲……くんは……?」

「……あったら……体を……直してる…………」

 

 横たわる二人の少女の片隅。

 瓦礫に背を預けた状態の群雲もまた、搾り出すように声を発する。

 

 相変わらず、右腕は無く。

 両足は、本来有り得ない方向へとひしゃげ。

 左足に至っては、膝から先の骨が、完全に露出している。

 そして、体の中心に空いた大きな穴は、もたれている瓦礫が紅く染まっているのを、正面から視認出来てしまう。

 そして、文字通りに、首の皮一枚で胴体と繋がっている頭部。

 これでも尚、死んでいないのだから、孵卵器(インキュベーター)の技術は素晴らしく高度なのであろう。

 

「そっか……」

 

 唯一変身状態ではあるものの、一番ボロボロになっている群雲から視線を外し、ほむらは雨の降り注ぐ空を見上げる。

 

「皆一緒に化け物になって……この世界を壊しちゃおっか……?

 辛い事、悲しい事、全部ぜーんぶ壊しちゃえるぐらいに……みんなで…………」

「……不合格だ…………暁美……ほむら…………」

 

 ほむらの言葉を、搾り出すような声でありながらも、いつもの口調になるよう努めながら、群雲は宣言する。

 その言葉を聞いたほむらは、まどかと逆方向にいる群雲に、視線だけを向ける。

 

「……どうして……?」

「…………出せ……SG(ソウルジェム)……」

 

 質問に答えず、群雲は唯一動く左手に持ったリボルバーの銃口をほむらに向ける。

 だが、その銃はカタカタと音を立てながら震えており、どう考えても狙い通りの場所に当たるとは思えない。

 

「そんな事……させねぇよ…………?

 そんな……笑えねぇ事……させたら……。

 他の先輩に……叱られるだろうが……。

 皆…………優しかった……から……」

 

 黒の左目と、黒く染まりかけた右目を向けながら、それでも群雲は口の端を持ち上げてみせる。

 

「どうして……あなたは……」

 

 眼鏡の奥。

 絶望に染まる瞳を向けながらのほむらの質問に群雲は。

 

「言い飽きたんだが……。

 オレの為……に……決まって……!!?」

 

 言葉の途中、群雲の両目が驚愕に見開かれると同時に。

 

 

 

 

 まどかが、ほむらのSG(ソウルジェム)の浄化を開始した。

 

 

 

 

「はは……鹿目先輩の……うそつき~……」

 

 まったく攻める気の無い口調で言いながら、群雲は左手を下ろす。

 

「ごめんね……群雲くんもボロボロなのに……使っちゃった…………」

「鹿目先輩の、持ってる……物を、どう使おうが……先輩の自由……だろ……?

 謝る意味が……わから……ない……」

 

 ボロボロなのに、二人は軽い感じで会話をする。

 その間にいるほむらは、慌ててまどかの手を掴む。

 

「どうして私に……!?

 私なんかよりも……鹿目さんが……!!」

 

 それでも、引き離されまいと浄化を続けながら、まどかは僅かに微笑みながら言う。

 

「私じゃ……ダメだから……。

 ほむらちゃんじゃないと……出来ない事、御願いしたいから……」

 

 僅かに微笑み、それでもその瞳から涙を流しながら。

 

「ほむらちゃん、未来から来たって……。

 過去に戻れるって……。

 そう、言ってたよね……。

 だから……キュゥべえに騙される前の……バカな私を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――私を、助けて―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束するわ。

 必ず、貴方を救ってみせる…!

 何度繰り返しても。

 何十回、何百回と繰り返してでも。

 絶対に助けてみせる…!」

 

 その言葉に、満足そうに頷くまどか。

 

「ほむらちゃん……。

 ……もう一つ……いいかな……?」

 

 その言葉から、全てを察し、ほむらが体を起こす。

 

「私……魔女にはなりたくない……。

 辛い事、悲しい事……。

 いっぱい、嫌な事があったけど……。

 それでも、私は……。

 この世界で、ほむらちゃんに……逢ったんだよ………?

 さやかちゃん、マミさん、杏子さん、群雲くん……。

 皆と逢ってよかったって……。

 それだけは、後悔したくなくて……。

 だから……魔女になるのは嫌……。

 皆を……傷つけるような存在なんて……いやだよぉ……」

 

 いいながら、自分のSG(ソウルジェム)をほむらに差し出すまどか。

 同時に、ほむらの傍に、左手に持っていたリボルバー拳銃を放り投げる群雲。

 

「オレじゃ無理……多分、当てられないから……」

 

 託された。

 残酷で優しい、終末の願いを。

 

「まどか……琢磨……!」

 

 銃を手に取り、ほむらは託した者の名を呼ぶ。

 

「やっと……名前で呼んでくれたね……」

「……慣れないなぁ…………照れる……」

 

 二人の言葉を聞きながら。

 ほむらは銃を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、見滝原という名前だった場所。

 そこに響くのは、少女の慟哭と、一つの銃声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――そして、魂のコワレルオト――――――――――




次回予告






演目は終わり

幕は下ろされ






再び上がる為





少女は、歯車を廻す





これは、そんな道化師(ピエロ)の、舞台劇





第二幕 失意と約束のsecond night 閉幕

六十七章 また



















それでも必ず、幕は上がる

これは、そんな舞台劇









BAD ENDじゃ、意味が無い

無法魔人のモノガタリ

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