随分と、勿体無い事になってしまったよ。
これだから、人間は理解できないんだ」
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両手、両足から発生する電気を収束させるLv2。
右手を失い、その“電力”が落ちているとはいえ。
本来、人間が体を動かす為の電気信号は、それほど強い物ではない。
この魔法において、重要なのはそこではない。
“強化された肉体の、限界を超える命令を、強制的に実行させる”
それが、いかに異常な事か。
それが、いかに無法な事か。
実行者本人は、知ったこっちゃ無い。
一蹴りで、7体ほどの踊る使い魔を纏めて葬り、魔人はゆっくりと歩を進める。
常に、収束させる必要は無い。
攻撃する時のみ<
onとoffを繰り返しながら、群雲は人魚の魔女に近づいていく。
のちに、群雲は思う。
「判断ミスの連続だ。
つくづく自分が、情けないよ」
暁美ほむらの時間停止。
それが、全てを静止させ、全てをひっくり返す。
鹿目まどかは、人魚の魔女が“誰であったか”に気付いている。
故に、呼びかけを繰り返しはするが、攻撃をすることが出来ない。
だが、暁美ほむらの願いの中心にいるのは、鹿目まどかである。
彼女に車輪が迫り来る中で、ほむらが力を使わないはずが無い。
体が動かせない“自分のじゃない世界”で。
群雲は、人魚の魔女の周りに爆弾を設置するほむらを、右目で見つめている。
取り囲むように設置された爆弾から、逃げる術は無い。
時が動き出せば、彼女は“終わる”だろう。
「ごめんなさい…………美樹さん」
その声に込められるは、悲しみ。
こうする事しか出来ない悔しさ。
それでも、まどかを守りたいと願った決意。
そして、スイッチは押され。
―――――時は、動き出す。
「おおおおおおああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
時が動き出し、爆弾が爆発するまでの、ほんの一瞬。
群雲は、先程取り出していた弾丸を左手に持ち、一気に“収束”させ、投げ放つ。
黒き光線となりし弾丸が、人魚の魔女の中心を捉え、貫く。
『あんたは、それで寂しくないの?』
「寂しいに、決まってるだろ……」
爆発の中に消える、
「結界の入り口と
自分達が、駅のホームにいる事に、僅かに驚きながら、群雲は空を見上げる。
「………さやか………」
「こんなの……あんまりだよぉ…………」
見ていられない、と言う方が正しいのかもしれない。
いつの間にか日は沈み、月が覗く空を眺めながら、群雲は静かに息を吐き、変身を解除した。
この日、群雲はとことんまでに、判断を誤る日であるらしい。
唐突に感じた魔力に、群雲が慌てて振りかえる。
その視界に映ったのは、リボンで拘束された暁美ほむらと。
二丁のマスケットを構える巴マミ。
そして、すでに放たれていた弾丸。
「がっ!?」
その弾丸は、的確に群雲の心臓を撃ち抜き。
もう一つの銃から発射された弾丸が、杏子の
同時に、その場に崩れ落ちる群雲と杏子。
そして、新たなマスケットを編み出し、銃口をほむらに向けるマミ。
その頬を、とめどなく涙が流れ伝い。
その表情は、悲しみと絶望に染められている。
「
魔法少女として、使命を全うするのなら……。
みんな、死ぬしかないじゃないッ!!」
それでも、絶望に穢れきる前に、自らの手で終わらせようとするのは、ある意味正しいのかもしれない。
だが。
「不合格だ、巴マミィィィ!!」
動くはずが無いと思っていた群雲が、変身しながら飛び上がり、マミのマスケットを蹴り落とす。
「なっ、どうしてっ!?」
「そういや、オレの
マミが、新たなマスケットを編み出すと同時に、群雲は右脇の銃を左手で取り出し。
二人は、同時に構える。
「心臓貫かれても、これだけ動ける。
なるほど、つくづく自分が化け物だと実感するね」
こみ上げてきた血を無理矢理飲み込みながら、群雲は口の端を持ち上げる。
「そうよ!
私達は化け物なのよ!!」
マミの悲痛な叫びと共に、マスケット銃が巨大化する。
「!!?
暁美先輩もろとも殺る気かッ!!!」
「だから、皆が本当に化け物になってしまう前にッ!!
私が……!!!」
だが、その銃が火を吹く事はなかった。
桃色の矢が、マミの髪飾りになっている
「……やだ……」
呟きと共に、弓を落とすまどか。
「もうやだ……こんなの…………あぁぁ…………」
呟きは嗚咽へと変わり、まどかはそのまま泣き崩れる。
リボンから解放されたほむらが、まどかに駆け寄り、その体を必死に包む。
「ぐっ……ごぶっ……!」
再び湧き上がった血を、今度は飲む込む事が出来ず、吐血する群雲。
その嫌な音に、ほむらが涙に濡れた視線を向けるのを、群雲は左手を振り、大丈夫だとアピールする。
[支えてやれ。
支えてもらえ。
マミチームはもう、先輩達しかいないんだから]
それでも、声を出すのが辛いので、念話で二人に告げ、群雲は再び空を見上げる。
(それでも、血を吐けるだけましだと思ってしまうあたり。
つくづく自分が―――――)
自分の思考に、群雲は変わらず、口の端を持ち上げるのだった。
次回予告
この舞台はとことんまでに
この世界はとことんまでに
最悪な状況を整えたいらしい
六十五章 自己満足