無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「やれやれ。
 随分と、勿体無い事になってしまったよ。
 これだから、人間は理解できないんだ」


六十四章 つくづく自分が

<操作収束(Electrical Overclocking)>

 

 両手、両足から発生する電気を収束させるLv2。

 右手を失い、その“電力”が落ちているとはいえ。

 本来、人間が体を動かす為の電気信号は、それほど強い物ではない。

 この魔法において、重要なのはそこではない。

 

 “強化された肉体の、限界を超える命令を、強制的に実行させる”

 

 それが、いかに異常な事か。

 それが、いかに無法な事か。

 

 

 

 

 

 

 

 実行者本人は、知ったこっちゃ無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一蹴りで、7体ほどの踊る使い魔を纏めて葬り、魔人はゆっくりと歩を進める。

 常に、収束させる必要は無い。

 攻撃する時のみ<操作収束(Electrical Overclocking)>を発動させ、攻撃が終われば解除する。

 onとoffを繰り返しながら、群雲は人魚の魔女に近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のちに、群雲は思う。

 

「判断ミスの連続だ。

 つくづく自分が、情けないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暁美ほむらの時間停止。

 それが、全てを静止させ、全てをひっくり返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鹿目まどかは、人魚の魔女が“誰であったか”に気付いている。

 故に、呼びかけを繰り返しはするが、攻撃をすることが出来ない。

 

 だが、暁美ほむらの願いの中心にいるのは、鹿目まどかである。

 彼女に車輪が迫り来る中で、ほむらが力を使わないはずが無い。

 

 

 

 体が動かせない“自分のじゃない世界”で。

 群雲は、人魚の魔女の周りに爆弾を設置するほむらを、右目で見つめている。

 

 取り囲むように設置された爆弾から、逃げる術は無い。

 時が動き出せば、彼女は“終わる”だろう。

 

「ごめんなさい…………美樹さん」

 

 その声に込められるは、悲しみ。

 こうする事しか出来ない悔しさ。

 それでも、まどかを守りたいと願った決意。

 

 そして、スイッチは押され。

 

 

 

―――――時は、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 時が動き出し、爆弾が爆発するまでの、ほんの一瞬。

 群雲は、先程取り出していた弾丸を左手に持ち、一気に“収束”させ、投げ放つ。

 

電磁砲(Railgun)

 

 黒き光線となりし弾丸が、人魚の魔女の中心を捉え、貫く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あんたは、それで寂しくないの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寂しいに、決まってるだろ……」

 

 爆発の中に消える、魔女と抜け殻(美樹さやか)から、目を逸らさず呟いた言葉も、結界と共に消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結界の入り口と最深部(出口)で、場所が違うのはよく経験するが……」

 

 自分達が、駅のホームにいる事に、僅かに驚きながら、群雲は空を見上げる。

 

「………さやか………」

「こんなの……あんまりだよぉ…………」

 

 見ていられない、と言う方が正しいのかもしれない。

 いつの間にか日は沈み、月が覗く空を眺めながら、群雲は静かに息を吐き、変身を解除した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、群雲はとことんまでに、判断を誤る日であるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に感じた魔力に、群雲が慌てて振りかえる。

 その視界に映ったのは、リボンで拘束された暁美ほむらと。

 二丁のマスケットを構える巴マミ。

 

 そして、すでに放たれていた弾丸。

 

「がっ!?」

 

 その弾丸は、的確に群雲の心臓を撃ち抜き。

 もう一つの銃から発射された弾丸が、杏子のSG(ソウルジェム)を撃ち砕いていた。

 同時に、その場に崩れ落ちる群雲と杏子。

 そして、新たなマスケットを編み出し、銃口をほむらに向けるマミ。

 その頬を、とめどなく涙が流れ伝い。

 その表情は、悲しみと絶望に染められている。

 

SG(ソウルジェム)が魔女を生むなら……。

 魔法少女として、使命を全うするのなら……。

 みんな、死ぬしかないじゃないッ!!」

 

 それでも、絶望に穢れきる前に、自らの手で終わらせようとするのは、ある意味正しいのかもしれない。

 だが。

 

「不合格だ、巴マミィィィ!!」

 

 動くはずが無いと思っていた群雲が、変身しながら飛び上がり、マミのマスケットを蹴り落とす。

 

「なっ、どうしてっ!?」

「そういや、オレのSG(ソウルジェム)がどこにあるか、マミチームは知らないんだったなぁ!!」

 

 マミが、新たなマスケットを編み出すと同時に、群雲は右脇の銃を左手で取り出し。

 二人は、同時に構える。

 

「心臓貫かれても、これだけ動ける。

 なるほど、つくづく自分が化け物だと実感するね」

 

 こみ上げてきた血を無理矢理飲み込みながら、群雲は口の端を持ち上げる。

 

「そうよ!

 私達は化け物なのよ!!」

 

 マミの悲痛な叫びと共に、マスケット銃が巨大化する。

 

「!!?

 暁美先輩もろとも殺る気かッ!!!」

「だから、皆が本当に化け物になってしまう前にッ!!

 私が……!!!」

 

 だが、その銃が火を吹く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桃色の矢が、マミの髪飾りになっているSG(ソウルジェム)を撃ち砕いたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やだ……」

 

 呟きと共に、弓を落とすまどか。

 

「もうやだ……こんなの…………あぁぁ…………」

 

 呟きは嗚咽へと変わり、まどかはそのまま泣き崩れる。

 リボンから解放されたほむらが、まどかに駆け寄り、その体を必死に包む。

 

「ぐっ……ごぶっ……!」

 

 再び湧き上がった血を、今度は飲む込む事が出来ず、吐血する群雲。

 その嫌な音に、ほむらが涙に濡れた視線を向けるのを、群雲は左手を振り、大丈夫だとアピールする。

 

[支えてやれ。

 支えてもらえ。

 マミチームはもう、先輩達しかいないんだから]

 

 それでも、声を出すのが辛いので、念話で二人に告げ、群雲は再び空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(それでも、血を吐けるだけましだと思ってしまうあたり。

 つくづく自分が―――――)

 

 自分の思考に、群雲は変わらず、口の端を持ち上げるのだった。




次回予告

この舞台はとことんまでに

この世界はとことんまでに






最悪な状況を整えたいらしい

六十五章 自己満足

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