無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「魂が結晶化された以上、もうどこにも行く事はないのに。
 わけがわからないよ」


六十三章 羨ましい

[ねぇ]

[ん?]

[あんたは……好きな人っている?]

[多分、いないと思うぞ?

 そもそも、契約前は敵しかいなかったし]

[だから、そんなに歪んだのね]

[ストレートに言うなぁ。

 まあ、その通りなんだが]

[頑張って、好きな人を見つけなよ?

 あたしみたいにならないように、さ]

[頑張って作る様なものなのか?

 空想物だと“気がついたら~”みたいなのが多いが]

[先輩として、さやかちゃんがレクチャーしてあげたいところだけど。

 あたし、もうすぐ“終わっちゃう”から]

[自覚はあるのか]

[ほんと、転校生の話をしっかり聞いておくべきだったよ。

 なんかもう、後悔しかないや、今のあたし]

[……右手の平があれば、ストックで浄化出来たかもしれないが]

[無理だと思う。

 それぐらいは、あたしでも解る]

[そっか]

[あんたにも、嘘言っちゃったね。

 後悔しないって言ったのにさ]

[まあ、仕方ないんじゃないか?

 客観的に見て、耐えられる奴なんて、オレみたいな狂人ぐらいなものだろ?]

[そっか。

 しかたないか]

[ああ。

 しかたないさ]

[……そろそろ限界っぽいなぁ。

 もし“向こう”に逝けたら、二人にあやま]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでも、羨ましいと思ってしまうオレを知ったら、美樹先輩はどう思うんだろうな?」

 

 目の前で繰り広げられる戦いを傍観しながら、群雲は呟いた。

 

 

 

 

芸術家の魔女VS人魚の魔女

 

 使い魔を薙ぎ払う人魚の魔女。

 間近に横たわる“前の肉体”など気にも留めず。

 両手に持つ剣で、使い魔と魔女を切り裂いていく。

 

「どういう状況……なんですか……?」

 

 掛けられた言葉に、群雲が振りかえる。

 そこにいたのは、ようやく合流できた鹿目まどかと暁美ほむら。

 

「!?

 群雲くん、腕が!!?」

「気にすんな。

 自業自得なんで」

 

 まどかの心配を軽く受け流し、群雲は再び視線を魔女達に向ける。

 それに合わせるかのように、二人の魔法少女も視線を向ける。

 

「さやかちゃん!?」

「鹿目さん、だめ!!」

 

 魔女同士の戦い。

 その近くに横たわる“美樹さやかの抜け殻”に気付き、まどかが慌てて近づこうとするのを、ほむらが慌てて止める。

 

「放してほむらちゃん!!

 さやかちゃんが!!!」

「美樹さんは……もう…………」

 

 ほむらは気付いていた。

 否、知っていたと言うべきか。

 

 魔法少女になる前の時間軸で、ほむらは“芸術家の魔女”に捕らわれた所を“鹿目まどかと巴マミ”に助けられた経験がある。

 あの“巨大な門が魔女である事”を、ほむらは知っている。

 

 ならば、もう一人の魔女が“誰”なのか。

 それは、傍らに横たわる“抜け殻”が証明しているのだ。

 

「はじまるぞ」

 

 表情を変えず、戦いを見つめていた群雲が、淡々と告げる。

 その言葉で、二人の魔法少女が視線を向けた先。

 

 人魚の魔女の剣が、芸術家の魔女を完全に切り裂いていた。

 

 魔女の死と共に、魔女結界は消滅する。

 

 だが、ここにはもう一人の魔女がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人魚の魔女結界が、芸術家の魔女結界を塗り潰す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔女になりながらも、想い人の仇を討つか。

 ほんと、羨ましいよ、美樹先輩。

 今のオレじゃ、そこまで誰かを想えない」

 

 まるで、コンサートホールのような魔女結界で。

 戦いはまだ続く。

 

 なぜなら、ここにいるのは、魔女と魔女を狩る者。

 

 人魚の魔女が、両手を振り上げると、巨大な車輪が次々に浮かび上がっていく。

 

「何が起こってるんだよ!

 さやかはどうしちまったんだよ!!?」

「見ての通り」

「見てわかんねぇから聞いてんだよ!!!」

 

 近づいてきた杏子の質問に、淡々と答える群雲。

 

「じゃあ……あれは……」

 

 残酷な現実を理解できてしまい、まどかは体を振るわせる。

 

「どうやら、説明している時間はないらしい」

 

 群雲の言葉と同時に、人魚の魔女が両腕を振り下ろし、それを合図に車輪の形をした使い魔が殺到する。

 

 慌てて回避行動をとる、魔法少女達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当なら、魔力は回復にまわすべきなんだろうけどな」

 

 ただ一人、回避行動を取らず、襲い来る車輪に向かって進む、独りの魔人。

 

 右手の平が無い為“発生機関”が一つ少ないが、そんなことは知ったこっちゃ無いと言わんばかりに。

 

 

 

 

 魔法のレベルを、一つ上へ。

 

 

 

 

 

 

「おらぁぁぁぁぁ!!!」

 

 近づいてきた車輪の一つを、魔力による放電を収束させた右足で蹴り飛ばし、粉々に粉砕する。

 

 

 

 

「どうするんですか?」

「殺す」

 

 杏子が文句を言い、まどかが魔女に呼びかける中、ほむらの質問に、群雲は簡潔に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もし“向こう”に逝けたら』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少なくとも“ここ”は“美樹先輩のいるべき場所じゃない”からな」

 

 右腕を失いながらも、群雲はたった独りで宣言する。

 

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

歯車は、決まった方向にしか動かない



歯車は、自分だけでは、動けない








この歯車を廻すのは……?


六十四章 つくづく自分が

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