わけがわからないよ」
[ねぇ]
[ん?]
[あんたは……好きな人っている?]
[多分、いないと思うぞ?
そもそも、契約前は敵しかいなかったし]
[だから、そんなに歪んだのね]
[ストレートに言うなぁ。
まあ、その通りなんだが]
[頑張って、好きな人を見つけなよ?
あたしみたいにならないように、さ]
[頑張って作る様なものなのか?
空想物だと“気がついたら~”みたいなのが多いが]
[先輩として、さやかちゃんがレクチャーしてあげたいところだけど。
あたし、もうすぐ“終わっちゃう”から]
[自覚はあるのか]
[ほんと、転校生の話をしっかり聞いておくべきだったよ。
なんかもう、後悔しかないや、今のあたし]
[……右手の平があれば、ストックで浄化出来たかもしれないが]
[無理だと思う。
それぐらいは、あたしでも解る]
[そっか]
[あんたにも、嘘言っちゃったね。
後悔しないって言ったのにさ]
[まあ、仕方ないんじゃないか?
客観的に見て、耐えられる奴なんて、オレみたいな狂人ぐらいなものだろ?]
[そっか。
しかたないか]
[ああ。
しかたないさ]
[……そろそろ限界っぽいなぁ。
もし“向こう”に逝けたら、二人にあやま]
「それでも、羨ましいと思ってしまうオレを知ったら、美樹先輩はどう思うんだろうな?」
目の前で繰り広げられる戦いを傍観しながら、群雲は呟いた。
芸術家の魔女VS人魚の魔女
使い魔を薙ぎ払う人魚の魔女。
間近に横たわる“前の肉体”など気にも留めず。
両手に持つ剣で、使い魔と魔女を切り裂いていく。
「どういう状況……なんですか……?」
掛けられた言葉に、群雲が振りかえる。
そこにいたのは、ようやく合流できた鹿目まどかと暁美ほむら。
「!?
群雲くん、腕が!!?」
「気にすんな。
自業自得なんで」
まどかの心配を軽く受け流し、群雲は再び視線を魔女達に向ける。
それに合わせるかのように、二人の魔法少女も視線を向ける。
「さやかちゃん!?」
「鹿目さん、だめ!!」
魔女同士の戦い。
その近くに横たわる“美樹さやかの抜け殻”に気付き、まどかが慌てて近づこうとするのを、ほむらが慌てて止める。
「放してほむらちゃん!!
さやかちゃんが!!!」
「美樹さんは……もう…………」
ほむらは気付いていた。
否、知っていたと言うべきか。
魔法少女になる前の時間軸で、ほむらは“芸術家の魔女”に捕らわれた所を“鹿目まどかと巴マミ”に助けられた経験がある。
あの“巨大な門が魔女である事”を、ほむらは知っている。
ならば、もう一人の魔女が“誰”なのか。
それは、傍らに横たわる“抜け殻”が証明しているのだ。
「はじまるぞ」
表情を変えず、戦いを見つめていた群雲が、淡々と告げる。
その言葉で、二人の魔法少女が視線を向けた先。
人魚の魔女の剣が、芸術家の魔女を完全に切り裂いていた。
魔女の死と共に、魔女結界は消滅する。
だが、ここにはもう一人の魔女がいる。
人魚の魔女結界が、芸術家の魔女結界を塗り潰す。
「魔女になりながらも、想い人の仇を討つか。
ほんと、羨ましいよ、美樹先輩。
今のオレじゃ、そこまで誰かを想えない」
まるで、コンサートホールのような魔女結界で。
戦いはまだ続く。
なぜなら、ここにいるのは、魔女と魔女を狩る者。
人魚の魔女が、両手を振り上げると、巨大な車輪が次々に浮かび上がっていく。
「何が起こってるんだよ!
さやかはどうしちまったんだよ!!?」
「見ての通り」
「見てわかんねぇから聞いてんだよ!!!」
近づいてきた杏子の質問に、淡々と答える群雲。
「じゃあ……あれは……」
残酷な現実を理解できてしまい、まどかは体を振るわせる。
「どうやら、説明している時間はないらしい」
群雲の言葉と同時に、人魚の魔女が両腕を振り下ろし、それを合図に車輪の形をした使い魔が殺到する。
慌てて回避行動をとる、魔法少女達。
「本当なら、魔力は回復にまわすべきなんだろうけどな」
ただ一人、回避行動を取らず、襲い来る車輪に向かって進む、独りの魔人。
右手の平が無い為“発生機関”が一つ少ないが、そんなことは知ったこっちゃ無いと言わんばかりに。
魔法のレベルを、一つ上へ。
「おらぁぁぁぁぁ!!!」
近づいてきた車輪の一つを、魔力による放電を収束させた右足で蹴り飛ばし、粉々に粉砕する。
「どうするんですか?」
「殺す」
杏子が文句を言い、まどかが魔女に呼びかける中、ほむらの質問に、群雲は簡潔に答えた。
『もし“向こう”に逝けたら』
「少なくとも“ここ”は“美樹先輩のいるべき場所じゃない”からな」
右腕を失いながらも、群雲はたった独りで宣言する。
「では、闘劇をはじめよう」
次回予告
歯車は、決まった方向にしか動かない
歯車は、自分だけでは、動けない
この歯車を廻すのは……?
六十四章 つくづく自分が