それを自分だと受け入れられないなら。
キミ達は、契約するべきじゃないよね」
耐えていた。
魔女は、3人の魔法少女の攻撃に耐えきった。
かなり、ギリギリであっただろうが、耐え抜いた。
魔法少女の失態。
もし、群雲が万全でなくとも、魔女に攻撃を加えていれば。
倒しきれていたのかもしれない事。
魔女を倒したかどうかの確認を怠った事。
気付ける要素は、確かにあったのだ。
そして、芸術家の魔女の姿とこれまでの戦いから。
“移動しない”と、思い込んでいた事である。
結果、上条恭介が死んだ。
「いやああああああああああああああ!!!!!」
声を上げたのは志筑仁美。
「……………………え」
友人と想い人からの拒絶から、死。
状況を理解できず、否、理解する事を拒み、呆然とするのは美樹さやか。
「いい加減、うざってぇ!!」
愛用の槍を構え、交戦状態に入るのは、佐倉杏子。
「美樹さん、速く魔女から離れて!!」
チームメイトに、必死に声を掛けるのは、巴マミ。
(声を出すより先に<
ここに至っても尚、冷静に状況を見るのは群雲琢磨。
「返して!
上条君を帰してぇ!!」
半狂乱になりながら、近くに居たさやかに掴みかかる仁美。
しかし、茫然自失状態のさやかは、何の反応も示さない。
だが。
ここに至って尚。
魔法少女の失態は続く。
何故なら。
次に動いたのは。
魔女だったからだ。
自身を中心とした衝撃波。
唯一、先程の言葉通りに距離を置いていた群雲を除いた全員が、それをまともに受けてしまう。
美樹さやかが弾き飛ばされ。
佐倉杏子が弾き飛ばされ。
巴マミが弾き飛ばされ。
志筑仁美が、弾けとんだ。
魔法少女は、肉体を強化されている。
変身中はもとより、通常状態でもそれは適応される。
魔法少女にとって肉体とは“道具”であり“魂の器ですらない”のだ。
変身とは“魂が運用する魔力を効率良く使う為、
かと言って、通常状態でその恩恵をまったく得られないのでは意味が無い。
変身しなくても使える魔
そういうシステムなのだ。
そんな、強化された肉体を持つ魔法少女をも弾き飛ばす衝撃波を。
普通の人間が受けたとしたらどうなるか。
それは、ボールが当たるのとミサイルが直撃するぐらいに、意味合いが変わる。
基本的に人間は“魔女と戦う為に創られた訳ではない”のだから。
「………………あ」
皮肉な事に。
一瞬で、無数の肉片に成り果てた志筑仁美を目の当たりにして。
さやかはようやく
何かが、変わった。
上条恭介が事故に遭ってから、美樹さやかの世界の何かが変わってしまった。
見ていられなかった。
夢を失い、希望が見えず、絶望に泣く想い人を見ていられなかった。
だから、願った。
キュゥべえに願い、魔法少女になる事を対価に、上条恭介の腕を治して貰った。
元に戻るはずだった。
事故による怪我を克服した上条恭介の横で、再び好きな人が奏でる音色を、聴ける筈だった。
自分ではなくなった。
今、上条恭介の近くに居るのは志筑仁美であり、美樹さやかではなくなった。
捨てなかった。
それでも、自分が長年培ってきた想いを、そう簡単に捨てられる筈もなかった。
立ち上がった。
鹿目まどかという親友と、巴マミという先輩が、自分を必死に励ましてくれた。
戦う事を選んだ。
それが願いの対価であったし、自分が戦う事で、一人でも多く、大切な人を失う事が減るのだと信じた。
無力だと痛感した。
魔人には軽くあしらわれ、赤い魔法少女にはボロボロにされた。
疑問を感じた。
人々を護れる力があるのに、自分にしか使おうとしない二人が、理解できなかった。
共闘した。
まどかとマミだけでなく、信じられない事を言った転校生とも、自分をボロボロにした赤い魔法少女とも、造りモノとしか感じられない笑顔を向ける魔人とも。
話をした。
正面から真っ直ぐに、自分の考えと、相手の考えを聞いた。
そして、戦った。
魔女結界を見つけ、中に入り、魔女を倒す為に戦った。
そして……美樹さやかは…………。
拒絶された。
護る為に戦っていた筈なのに、護るべき存在に否定された。
護れなかった。
目の前で、上条恭介が死んだ。
護ろうとしなかった。
志筑仁美に対し、さやかは何の行動も示さなかった。
絶望した。
それは、終末と再誕を意味する。
芸術家の魔女。
その結界の最深部。
魔法少女の、最後の失態。
新たな魔女が孵る事を、止められなかった事。
[告白してれば、変わったのかな?
恭介と一緒に居られたかな?
仁美に、取られないですんだのかな?]
[え……さやかちゃん!?]
「あたしって、ほんとバカ」
人魚の魔女―――オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ―――
その性質は
恋慕
次回予告
希望は魔法少女を生み
絶望は魔女を産む
それは、偽りだ
六十三章 羨ましい