オレはいつだって“オレの為”に動く。
そして……それを決めるのは“オレ”でなければならない」
「前回といい、今回といい、お前といると相性の悪い相手ばかりじゃねぇの?」
「あたしのせいじゃないでしょ!」
互いに文句を言い合いながら、杏子とさやかは魔女結界を進む。
たまたま遭遇し、偶然魔女結界を見つけた二人。
魔女から人々を守る為。
それが、さやかの進む理由。
それが、杏子の進む理由。
だが、休戦状態の相手を無視するほど、佐倉杏子という少女は冷たくはない。
仕方無しに、といった感じで、杏子はさやかと行動を共にした。
琢磨ならきっと、いかにさやかを出し抜くかを考えるんだろうなぁ。
そんな事を思いながら。
「……この魔女結界か」
二人が結界内に入ってからしばらく後。
変身状態で、結界に入った群雲の第一声がこれだ。
「知っているの?」
「魔女本体とは、会った事はないがね」
群雲は“魔法少女の基本”が、まったく成っていない。
「なんとなく、こっちにいるような気が、していると思う感覚がなきにしもあらず」とか、そんなんである。
故に、よく“ハズレ”に遭遇する。
そんな群雲が、単独で魔女結界に挑む場合。
使い魔を完全に無視しながら<
魔女がいれば、そのまま戦闘開始。
魔女がいなければ、そのままUターンである。
見滝原の人々など“知ったこっちゃない”群雲にとっては、これが最善であると言える。
魔女の結界も、使い魔の結界も、内部風景にほとんど違いはない。
安定しているか、していないかの違いがある程度。
故に、群雲のような行動をしていれば“魔女は知らなくても、結界は知っている”という状況は起こりうる事なのだ。
「美術系の本に書いてある、有名作品みたいな使い魔がいる。
ぶっちゃけ、叫ばれるとうざい」
「……え、それが攻略法?」
「前回の戦いで、使い魔が使ってた騒音波みたいなものさ。
効果は多少違うだろうが、接近戦は好ましくない感じ」
「……先行しているのは、美樹さんと佐倉さんよね?」
「うむ。
ぶっちゃけ相性は良くないだろうね」
右腰からリボルバーを抜き、群雲は歩き出す。
マミもまた、マスケット銃を手に取り、その横に続く。
「使い魔を無視して、突き進むか?」
「それはダメよ。
ここまで結界が安定していると、魔女の口付けにやられた人がいても、おかしくは…………!?」
言葉の途中で、マミの表情が引き攣る。
群雲も、同じモノをみて、足を止めた。
其処にあったのは、死体。
一般人の遺体。
哀れな犠牲者の、終末の風景。
「初めて見る、とか言わないよな?」
その遺体に近づきながら、群雲は問いかける。
「……初めてじゃないわ。
でも……慣れる様なものでもないわよ」
「そうかい?
まあ、オレにとっちゃ、見ず知らずの人の死体なんて、知ったこっちゃないがね」
そして群雲はそのまま、遺体を通り過ぎた。
「貴方は……人として終わってるわ」
嫌悪感を隠さずに、マミは群雲の背中に呟き。
「そりゃそうだ。
オレは10歳の時に、
振り返る事無く、群雲はそれに答える。
「化け物を殺すのは、いつだって人間だ。
でも“化け物を殺せる人間”を、他の人間は“同じ”だと認めるか?」
「!?」
「さて、魔女という化け物を殺せるオレ達は“どちら側”だと思う?」
そのまま数歩進み、群雲は振り返る。
一般人の遺体を挟んで、群雲とマミは視線を交わす。
「きっと“これ”が。
今のオレ達の“立ち位置”だよ。
一般人の死に、心を痛める巴先輩と。
一般人の死に、何も感じないオレの」
そして群雲は、口の端を持ち上げる。
「それでもオレは、唯一残った“自分”だけは、絶対に手放さないと決めている。
オレがオレでなくなる時が来たら、その時は“こう”だ」
右手に持つリボルバーの銃口を、こめかみに当てて、群雲は真剣な眼差しをマミに向ける。
「そして、それは“今”じゃない」
右手を降ろして、腰の後ろからショットガンを左手で取り出し、その銃身を肩に乗せる。
「行こうぜ、巴先輩。
きっと奥で、仲間が戦ってる。
それを手助けする為に、ここに来たんだろう?」
マミは、自分が誤解していた事に気付いた。
群雲琢磨は、人として終わっているわけではない。
自分という“1”の為に、残りの“99”を、容赦なく切り捨てる人。
そして、自分という“1”しか持ってない人なのだ。
最深部。
さやかと杏子は、結界の主と対峙していた。
とある国の建造物を思わせる姿の魔女。
――――――――――芸術家の魔女 その性質は“虚栄”――――――――――
そして、その片隅。
「………………さやか?」
招かれてしまった、青の魔法少女に近しい者。
舞台は確実に、最悪の脚本を用意している。
次回予告
歯車は廻る
ぐるグル廻る
決められた動きでなければ
歯車は、歯車である意味がない
故に、歯車が廻るという事は………
五十七章 限界突破