無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「立証できなければ、罪は罰を受けない。
 明らかに“犯人”でも、問われなければ、罪じゃない。
 悪と罪は別物。
 なれば“正義の罪”も、存在していてもおかしくはないだろう?」


五十二章 助けられるのは

 休戦協定を結んで、一夜明け。

 

 暁美ほむらの話によれば、最強の魔女襲来は8日後。

 

(どう考えても、時間が足りないよなぁ)

 

 そんな事を考えながら、群雲は独り、街を当ても無く歩いていた。

 魔女探しのパトロール、という訳でもない。

 先日の魔女戦でのダメージ(9割は自分の魔法のせい)が、抜け切っていない訳でもない。

 

 普通の子供は、学校に行く。

 異常な群雲は、学校に行かない。

 

 故に

 

「其処の坊や、なnあっ、ちょっと待ちなさい!」

 

 おまわりさんから逃げた回数など、数えちゃいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生き難い世の中だぜ」(キリッ)

 

 義務教育を完全に放棄した自分の事等、時の彼方へそぉい!して、群雲は呟く。

 色々と、台無しではあったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、日中にろくに動けるはずも無く。

 では、群雲が日中何をやっているのかと言えば。

 

「……流石、魔人となったオレ。

 食料の貯蔵は充分だ……」

 

 ぶっちゃけると、万引きである。

 

 群雲が、変身しなくても使える、唯一の魔法が<部位倉庫(Parts Pocket)>である。

 “盗む”事に関して、これほどぴったりな魔法もないだろう。

 

 もっとも、この魔法の検証中、たまたま収納してしまったロードローラーが、後の役に立つのだから、人生とは不思議なモノである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げ」

「いきなり失礼だな、美樹先輩」

 

 そのまま、自由気ままに見滝原の街並みを謳歌していた群雲は、偶然にも美樹さやかと鉢合わせた。

 

「もう、そんな時間か」

 

 そう言って、空を見上げた群雲は。

 太陽が、真上近くにあるのを確認した。

 

「……あるぇ~?」

「今日、午前授業なのよ」

「あぁ、なるほど。

 学校()()()には、ろくに用なんぞないからな、オレ」

 

 そう言って、眼鏡を押し上げる群雲。

 

 忘れてはいけない。

 この少年、速攻で学校に忍び込み、生徒名簿をコピーしている事を……!

 

「あんたは、パトロール?」

 

 さやかの言葉には、若干の棘がある。

 最初の出会いで、軽くあしらわれた事。

 次の出会いでも、杏子と分断される際、自分の攻撃を凌いで見せた事。

 

 何よりも、魔女と戦う者でありながら、自分の為にしか動こうとしない、そのスタンス。

 

「パトロールな訳ないじゃん?

 何でオレが、この街の為に動かなきゃならんのよ」

 

 群雲の言葉、ひとつひとつが証明するのだ。

 美樹さやかと群雲琢磨。

 魔女を狩る者だけ(立場)が同じで、(求める物)は、真逆であると。

 

 

 

 

 

 

 それでも、現在は休戦中であり。

 二人は仕方なくといった感じで、街を歩いている。

 

「あんたは、さ」

 

 しばらくは無言だったが、さやかの方から声を掛ける事となった。

 

「なんで、その力を自分の為にしか使わないの?」

 

 魔女に対抗できる、唯一の存在。

 それが、魔法少女であり、魔人である。

 戦いの運命を受け入れてでも、想い人の為に願ったさやか。

 大切な物を救う為に願い、大切な人を守る為に力を振るう。

 そんな彼女が、自分の為にしか力を使おうとしない群雲に不快感を受けるのは、当然と言える。

 

「なんでって……。

 そんなの決まってるジャン?」

 

 だが、互いに立ち止まり、正面から向き合った状態での、この会話が。

 

「自分を助けられるのは、()()()()()()()()()からさ」

 

 背が低く、僅かに上を向いた状態の群雲の言葉が、さやかの頭に響く。

 

「たとえば」

 

 それを理解するより前に、群雲は言葉を続ける。

 口元に、笑みを浮かべながら。

 

「あるところに、いじめられっこがいたとする。

 その子には既に親が居らず、親戚も信用できなかった。

 でも、いじめは延々と続いている。

 では、その子は誰が助ける?」

「え……?

 …………先生……とか?」

 

 突然の質問に、理解が追い付かないさやか。

 それでも、なんとか答えを見つけ出すが。

 

「そうだろうね。

 その子もそう思い、先生に相談した。

 そして、その返答はこうだ。

 『確かに、いじめをする子達は悪い。

  でも、いじめられる原因を作った方も悪いんだよ』

 とね。

 結局、事態はどうなったと思う?」

「え……あ……。

 変わらなかった、とか」

「いや、むしろ悪化した。

 先生に告げ口した事で、いじめはさらに強烈になった。

 さて、いじめられっこは、なにが悪かったんだろう?」

 

 さやかは、二の句が告げなかった。

 群雲が何故、こんな話をするのかも分からなかったし。

 そのいじめられっこの、なにが悪かったのかが、分からなかったから。

 

 質問の答えが聞けそうもないので、群雲は口の端をさらに持ち上げながら、告げた。

 

「だから、()()はこう考えたのさ。

 “運が悪かった”と」

 

 僅かにずれた眼鏡の奥。

 黒の左目と緑の右目が、さやかを射抜く。

 その瞳に映るのは。

 怒りか、悲しみか。

 

「誰も、助けてくれないのなら。

 自分で助けるしかないじゃないか。

 誰も、助けてくれなかったんだから。

 誰かを助ける理由も必要も、ないじゃないか。

 ましてや、会った事のない、見ず知らずの何処かの誰かなんて。

 不幸になろうが、殺されてようが、知ったこっちゃない」

 

 さやかは、ようやく理解した。

 自分が、誤解していた事を。

 目の前の少年が、自分の為にしか力を使わないのは。

 

「オレは、オレの為に願い、オレの為に力を使う。

 誰かの為に力を使うほど。

 オレは、オレを嫌ってはいないからね」

 

 自分の為に力を使ってくれる人が、自分しかいなかったからなのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さやか?」

 

 しばらく、呆然と立ち尽くしていたさやかに、掛けられた声。

 その声の方向をむいたさやかと群雲が見たのは、ある一組のカップル。

 

「さやかさん?

 なにをなさってますの?」

 

 上条恭介と、志筑仁美だった。




次回予告

それは、一人の少女の光と闇




その、象徴たる二人








五十三章 叶った願いと叶わぬ想い

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