明らかに“犯人”でも、問われなければ、罪じゃない。
悪と罪は別物。
なれば“正義の罪”も、存在していてもおかしくはないだろう?」
休戦協定を結んで、一夜明け。
暁美ほむらの話によれば、最強の魔女襲来は8日後。
(どう考えても、時間が足りないよなぁ)
そんな事を考えながら、群雲は独り、街を当ても無く歩いていた。
魔女探しのパトロール、という訳でもない。
先日の魔女戦でのダメージ(9割は自分の魔法のせい)が、抜け切っていない訳でもない。
普通の子供は、学校に行く。
異常な群雲は、学校に行かない。
故に
「其処の坊や、なnあっ、ちょっと待ちなさい!」
おまわりさんから逃げた回数など、数えちゃいない。
「生き難い世の中だぜ」(キリッ)
義務教育を完全に放棄した自分の事等、時の彼方へそぉい!して、群雲は呟く。
色々と、台無しではあったが。
結局、日中にろくに動けるはずも無く。
では、群雲が日中何をやっているのかと言えば。
「……流石、魔人となったオレ。
食料の貯蔵は充分だ……」
ぶっちゃけると、万引きである。
群雲が、変身しなくても使える、唯一の魔法が<
“盗む”事に関して、これほどぴったりな魔法もないだろう。
もっとも、この魔法の検証中、たまたま収納してしまったロードローラーが、後の役に立つのだから、人生とは不思議なモノである。
「げ」
「いきなり失礼だな、美樹先輩」
そのまま、自由気ままに見滝原の街並みを謳歌していた群雲は、偶然にも美樹さやかと鉢合わせた。
「もう、そんな時間か」
そう言って、空を見上げた群雲は。
太陽が、真上近くにあるのを確認した。
「……あるぇ~?」
「今日、午前授業なのよ」
「あぁ、なるほど。
学校
そう言って、眼鏡を押し上げる群雲。
忘れてはいけない。
この少年、速攻で学校に忍び込み、生徒名簿をコピーしている事を……!
「あんたは、パトロール?」
さやかの言葉には、若干の棘がある。
最初の出会いで、軽くあしらわれた事。
次の出会いでも、杏子と分断される際、自分の攻撃を凌いで見せた事。
何よりも、魔女と戦う者でありながら、自分の為にしか動こうとしない、そのスタンス。
「パトロールな訳ないじゃん?
何でオレが、この街の為に動かなきゃならんのよ」
群雲の言葉、ひとつひとつが証明するのだ。
美樹さやかと群雲琢磨。
それでも、現在は休戦中であり。
二人は仕方なくといった感じで、街を歩いている。
「あんたは、さ」
しばらくは無言だったが、さやかの方から声を掛ける事となった。
「なんで、その力を自分の為にしか使わないの?」
魔女に対抗できる、唯一の存在。
それが、魔法少女であり、魔人である。
戦いの運命を受け入れてでも、想い人の為に願ったさやか。
大切な物を救う為に願い、大切な人を守る為に力を振るう。
そんな彼女が、自分の為にしか力を使おうとしない群雲に不快感を受けるのは、当然と言える。
「なんでって……。
そんなの決まってるジャン?」
だが、互いに立ち止まり、正面から向き合った状態での、この会話が。
「自分を助けられるのは、
背が低く、僅かに上を向いた状態の群雲の言葉が、さやかの頭に響く。
「たとえば」
それを理解するより前に、群雲は言葉を続ける。
口元に、笑みを浮かべながら。
「あるところに、いじめられっこがいたとする。
その子には既に親が居らず、親戚も信用できなかった。
でも、いじめは延々と続いている。
では、その子は誰が助ける?」
「え……?
…………先生……とか?」
突然の質問に、理解が追い付かないさやか。
それでも、なんとか答えを見つけ出すが。
「そうだろうね。
その子もそう思い、先生に相談した。
そして、その返答はこうだ。
『確かに、いじめをする子達は悪い。
でも、いじめられる原因を作った方も悪いんだよ』
とね。
結局、事態はどうなったと思う?」
「え……あ……。
変わらなかった、とか」
「いや、むしろ悪化した。
先生に告げ口した事で、いじめはさらに強烈になった。
さて、いじめられっこは、なにが悪かったんだろう?」
さやかは、二の句が告げなかった。
群雲が何故、こんな話をするのかも分からなかったし。
そのいじめられっこの、なにが悪かったのかが、分からなかったから。
質問の答えが聞けそうもないので、群雲は口の端をさらに持ち上げながら、告げた。
「だから、
“運が悪かった”と」
僅かにずれた眼鏡の奥。
黒の左目と緑の右目が、さやかを射抜く。
その瞳に映るのは。
怒りか、悲しみか。
「誰も、助けてくれないのなら。
自分で助けるしかないじゃないか。
誰も、助けてくれなかったんだから。
誰かを助ける理由も必要も、ないじゃないか。
ましてや、会った事のない、見ず知らずの何処かの誰かなんて。
不幸になろうが、殺されてようが、知ったこっちゃない」
さやかは、ようやく理解した。
自分が、誤解していた事を。
目の前の少年が、自分の為にしか力を使わないのは。
「オレは、オレの為に願い、オレの為に力を使う。
誰かの為に力を使うほど。
オレは、オレを嫌ってはいないからね」
自分の為に力を使ってくれる人が、自分しかいなかったからなのだと。
「さやか?」
しばらく、呆然と立ち尽くしていたさやかに、掛けられた声。
その声の方向をむいたさやかと群雲が見たのは、ある一組のカップル。
「さやかさん?
なにをなさってますの?」
上条恭介と、志筑仁美だった。
次回予告
それは、一人の少女の光と闇
その、象徴たる二人
五十三章 叶った願いと叶わぬ想い