無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「そもそも、なんでロードローラーなんて持ってんだよ?」
「魔人に成りたての頃は、自分の“魔の法”の仕組みがちんぷんかんぷんだったもので。
 その時、偶然収納したんだが、取り出すタイミングを見失ってました。
 てへぺろ♪」
「キモい」
「oh……知ってたけど」


四十九章 今回みたいに、これからも

「やったぁ!」

 

 結界の晴れた、郊外の廃ビルの一角。

 手を取り、喜び合うまどかとほむら。

 

「お疲れ様」

「ホントだよ」

 

 マミに声を掛けられ、どこからか取り出したスティックチョコを咥えて、杏子が返事をする。

 

「でも、あの子と佐倉さんが居なかったら、私達はもっと苦戦していたわ。

 もしかしたら、勝てなかったかもしれない」

「……それは、こっちも同じさ。

 あたしや琢磨だけじゃ、無理っぽかったし」

「だけって……。

 あんたら、仲間じゃないの?」

 

 マミと杏子の会話に、さやかも加わる。

 

「利害の一致。

 あたしと琢磨を繋ぐのは、その一点だけさ」

「寂しく、ないの?」

「どうかな?

 琢磨なら「慣れてるからな」とか、答えそうだが」

「あんたは?」

「あたしは……自業自得さ」

 

 スティックチョコを二本取り出し、マミとさやかに差し出す。

 

「くうかい?」

 

 

 

 

 

 

「群雲くん!?」

 

 まどかの声が、辺りに響き渡る。

 それに合わせて、全員が群雲に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな効果音がぴったりな状態。

 群雲は、真っ直ぐうつ伏せに倒れていた。

 

「あぁ~……」

 

 状況を理解し、杏子が群雲に近づく。

 しかし、それより先に、まどかとほむらが群雲に駆け寄った。

 

「だ、大丈夫!?」

「ヴァー」

「な、何か凄い鳴き声出してる!?」

「鳴き声って……。

 鹿目さん、落ち着いて」

 

 群雲の傍でおろおろしているまどかに、杏子が声を掛ける。

 

「気にするな。

 いつもの事だから」

「いつもの事って……」

「ヴォー」

「戦うたびにって訳じゃない。

 “Lv2”を使った時は、いつもそうなるってだけだ」

 

 

 

 

 

<操作収束(Electrical Overclocking)>

 

 電気信号を収束させる。

 その為、群雲の動きは常人のそれを、遥かに凌駕する。

 

 だが、あくまでも強化されているのは“電気信号”だけ。

 肉体が強化されている訳ではない。

 

 その反動は、想像に難しくないだろう。

 

 

 

 

「さて、そろそろ御暇するかな」

 

 そのまま、群雲の足を掴んで、杏子は立ち去ろうとする。

 

「ヴヴヴヴヴヴヴ」

 

 うつ伏せのままの群雲を引き摺りながら。

 

「ま、待って!」

 

 その背中に、まどかが声を掛ける。

 

「協力出来ないかな?

 今回みたいに、これからも」

 

 杏子は、その言葉に動きを止める。

 

「……あたしらとあんた達「ヴァー」うん、ちょっと黙れ「ウボァー」」

 

 自分の言葉に、鳴き声(?)を重ねてきた群雲を、杏子は足で踏みつける。

 

「や、やりすぎじゃない?」

「いいんだよ、こいつはこんな扱いで」

 

 さやかのツッコミに、サラッと返す杏子。

 しかし、どうにも毒気を抜かれた感じがするのは、群雲のせいだろう。

 新しいスティックチョコを咥えて、杏子は振り返る。

 

「今回は、たまたま強力な魔女で、自分達が生き残る為の共闘だった。

 違うかい?」

「今後、それ以上の魔女が来るとしたら……どうですか?」

 

 杏子の言葉に、ほむらが質問を被せてきた。

 

「この街に“ワルプルギスの夜”が来ます」

 

 その一言で、周りの空気が張り詰める。

 

「……なぜ、わかる?」

「協力してくれるのなら……お話しま「ヴォー」……」

「うん、ホント、黙ってろ」

 

 そして、群雲の鳴き声(?)で、張り詰めた空気が緩む。

 

「……今は琢磨がこんなんだし、話の続きは今度でいいか?」

「出来れば、速い方がいいわね。

 佐倉さん達が協力してくれるのなら、それを前提に訓練したいし」

 

 マミの言葉を、杏子は脳内で反復する。

 

(どうやら、マジで来るらしいな。

 極力、後輩魔法少女に戦わせていたのも、それが理由か)

 

 マミチームの魔女狩り風景を観察していた杏子。

 マミ自身が後ろに控え、さやかやまどかに戦わせていたのは、経験を積ませる為だと考えられる。

 それを見ていたのだ。

 

「明日、教会に来な」

 

 琢磨を背負い、杏子は告げる。

 

「学校があるだろうから、来れるとしたら放課後ぐらいだろ?

 あたしは、もしかしたら居ないかもしれないが、琢磨は確実に其処に居る。

 後は、念話なり送ってくれればいい。

 場所は……マミなら知ってるよな?」

「何故……あの場所に?」

「雨風が凌げるから。

 あたしはほとんど居ないけどな」

 

 父親の、元教会。

 それは、杏子にとっては思い出の場所である。

 

 良くも、悪くも。

 

「じゃあな」

 

 群雲を背負ったまま、杏子は別れを告げ、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[起きているか?]

[もちろん]

 

 教会に戻る道中。

 杏子は背中に背負った群雲に念話を送り、群雲も念話で返事をする。

 

 限界以上の動きにより、今はまともに動かせない肉体。

 だが、念話は別だ。

 

[そんなわけで、教会にいろよ?]

[大丈夫。

 まず間違いなく、明日はほとんど動けないから]

[しかし……最強と称される“ワルプルギスの夜”とはね……]

[逃げるってのも、選択肢じゃね?]

[お前はどうする?]

[明日の話次第、かねぇ?

 さっきの魔女戦でこんな状態になるオレが、ワタガシアメの夜の相手になるか?]

[ワルプルギスだ]

[まあ、相手の魔女がどういう存在なのか、ぶっつけ本番なのは“いつもの事”だが。

 勝ち目無さそうなら、逃げるぞ、オレ]

[まあ、お前はそういう奴だよな]

[佐倉先輩はどうよ?]

[あたしは……話次第、だな]

[おや、てっきり共闘よりかと]

[…………まあ、敵対するよりは共闘した方がいいのは、今回で痛感した。

 二人で、あの魔女に勝てたか?]

[やり方次第じゃね?

 まあ、苦戦したのは、間違いないわな]

[そうだな]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[そう言えば、あの魔女のGS(グリーフシード)って、どうなったんだ?]

[うん?

 もちろん<部位倉庫(Parts Pocket)>に収納済みですが、なにか?]

[そうだよな。

 お前ってそういうやつだよなぁ!]

[ちょ、落ちるっ!?

 オレ、今、動けないんだって!!]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[なあ、琢磨?]

[うん?]

[あたしがマミチーム四人と会って、お前に念話を送った日]

[巴先輩に惨敗した、あの日か]

[随分合流が早かったが……ひょっとして“Lv2”を使ったのか?]

[……はて、なんのことやら]

[……………………ばか]




次回予告

それは、魔法少女の役割

それは、魔女の在り方

それは、魔人の生き様











五十章 Raison d'être

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