「魔人に成りたての頃は、自分の“魔の法”の仕組みがちんぷんかんぷんだったもので。
その時、偶然収納したんだが、取り出すタイミングを見失ってました。
てへぺろ♪」
「キモい」
「oh……知ってたけど」
「やったぁ!」
結界の晴れた、郊外の廃ビルの一角。
手を取り、喜び合うまどかとほむら。
「お疲れ様」
「ホントだよ」
マミに声を掛けられ、どこからか取り出したスティックチョコを咥えて、杏子が返事をする。
「でも、あの子と佐倉さんが居なかったら、私達はもっと苦戦していたわ。
もしかしたら、勝てなかったかもしれない」
「……それは、こっちも同じさ。
あたしや琢磨だけじゃ、無理っぽかったし」
「だけって……。
あんたら、仲間じゃないの?」
マミと杏子の会話に、さやかも加わる。
「利害の一致。
あたしと琢磨を繋ぐのは、その一点だけさ」
「寂しく、ないの?」
「どうかな?
琢磨なら「慣れてるからな」とか、答えそうだが」
「あんたは?」
「あたしは……自業自得さ」
スティックチョコを二本取り出し、マミとさやかに差し出す。
「くうかい?」
「群雲くん!?」
まどかの声が、辺りに響き渡る。
それに合わせて、全員が群雲に視線を向けた。
チーン
そんな効果音がぴったりな状態。
群雲は、真っ直ぐうつ伏せに倒れていた。
「あぁ~……」
状況を理解し、杏子が群雲に近づく。
しかし、それより先に、まどかとほむらが群雲に駆け寄った。
「だ、大丈夫!?」
「ヴァー」
「な、何か凄い鳴き声出してる!?」
「鳴き声って……。
鹿目さん、落ち着いて」
群雲の傍でおろおろしているまどかに、杏子が声を掛ける。
「気にするな。
いつもの事だから」
「いつもの事って……」
「ヴォー」
「戦うたびにって訳じゃない。
“Lv2”を使った時は、いつもそうなるってだけだ」
<
電気信号を収束させる。
その為、群雲の動きは常人のそれを、遥かに凌駕する。
だが、あくまでも強化されているのは“電気信号”だけ。
肉体が強化されている訳ではない。
その反動は、想像に難しくないだろう。
「さて、そろそろ御暇するかな」
そのまま、群雲の足を掴んで、杏子は立ち去ろうとする。
「ヴヴヴヴヴヴヴ」
うつ伏せのままの群雲を引き摺りながら。
「ま、待って!」
その背中に、まどかが声を掛ける。
「協力出来ないかな?
今回みたいに、これからも」
杏子は、その言葉に動きを止める。
「……あたしらとあんた達「ヴァー」うん、ちょっと黙れ「ウボァー」」
自分の言葉に、鳴き声(?)を重ねてきた群雲を、杏子は足で踏みつける。
「や、やりすぎじゃない?」
「いいんだよ、こいつはこんな扱いで」
さやかのツッコミに、サラッと返す杏子。
しかし、どうにも毒気を抜かれた感じがするのは、群雲のせいだろう。
新しいスティックチョコを咥えて、杏子は振り返る。
「今回は、たまたま強力な魔女で、自分達が生き残る為の共闘だった。
違うかい?」
「今後、それ以上の魔女が来るとしたら……どうですか?」
杏子の言葉に、ほむらが質問を被せてきた。
「この街に“ワルプルギスの夜”が来ます」
その一言で、周りの空気が張り詰める。
「……なぜ、わかる?」
「協力してくれるのなら……お話しま「ヴォー」……」
「うん、ホント、黙ってろ」
そして、群雲の鳴き声(?)で、張り詰めた空気が緩む。
「……今は琢磨がこんなんだし、話の続きは今度でいいか?」
「出来れば、速い方がいいわね。
佐倉さん達が協力してくれるのなら、それを前提に訓練したいし」
マミの言葉を、杏子は脳内で反復する。
(どうやら、マジで来るらしいな。
極力、後輩魔法少女に戦わせていたのも、それが理由か)
マミチームの魔女狩り風景を観察していた杏子。
マミ自身が後ろに控え、さやかやまどかに戦わせていたのは、経験を積ませる為だと考えられる。
それを見ていたのだ。
「明日、教会に来な」
琢磨を背負い、杏子は告げる。
「学校があるだろうから、来れるとしたら放課後ぐらいだろ?
あたしは、もしかしたら居ないかもしれないが、琢磨は確実に其処に居る。
後は、念話なり送ってくれればいい。
場所は……マミなら知ってるよな?」
「何故……あの場所に?」
「雨風が凌げるから。
あたしはほとんど居ないけどな」
父親の、元教会。
それは、杏子にとっては思い出の場所である。
良くも、悪くも。
「じゃあな」
群雲を背負ったまま、杏子は別れを告げ、その場を後にした。
[起きているか?]
[もちろん]
教会に戻る道中。
杏子は背中に背負った群雲に念話を送り、群雲も念話で返事をする。
限界以上の動きにより、今はまともに動かせない肉体。
だが、念話は別だ。
[そんなわけで、教会にいろよ?]
[大丈夫。
まず間違いなく、明日はほとんど動けないから]
[しかし……最強と称される“ワルプルギスの夜”とはね……]
[逃げるってのも、選択肢じゃね?]
[お前はどうする?]
[明日の話次第、かねぇ?
さっきの魔女戦でこんな状態になるオレが、ワタガシアメの夜の相手になるか?]
[ワルプルギスだ]
[まあ、相手の魔女がどういう存在なのか、ぶっつけ本番なのは“いつもの事”だが。
勝ち目無さそうなら、逃げるぞ、オレ]
[まあ、お前はそういう奴だよな]
[佐倉先輩はどうよ?]
[あたしは……話次第、だな]
[おや、てっきり共闘よりかと]
[…………まあ、敵対するよりは共闘した方がいいのは、今回で痛感した。
二人で、あの魔女に勝てたか?]
[やり方次第じゃね?
まあ、苦戦したのは、間違いないわな]
[そうだな]
[そう言えば、あの魔女の
[うん?
もちろん<
[そうだよな。
お前ってそういうやつだよなぁ!]
[ちょ、落ちるっ!?
オレ、今、動けないんだって!!]
[なあ、琢磨?]
[うん?]
[あたしがマミチーム四人と会って、お前に念話を送った日]
[巴先輩に惨敗した、あの日か]
[随分合流が早かったが……ひょっとして“Lv2”を使ったのか?]
[……はて、なんのことやら]
[……………………ばか]
次回予告
それは、魔法少女の役割
それは、魔女の在り方
それは、魔人の生き様
五十章 Raison d'être