「まあ、僕らの目的は最初から最後まで変わらないけど」
銀色に輝く魔女。
その周りに佇む使い魔。
群雲琢磨は、その役割を見事に果たして見せた。
ならばこそ、それに続かなければならない。
「いくわよ、鹿目さん!」
「はい!!」
次の一手の為、二人の魔法少女が動く。
飛び上がり、両手を広げる巴マミ。
その周りに、次々に現れる、無数のマスケット銃。
弓を展開し、力の限りに弦を引く鹿目まどか。
魔力により形成された矢が現れ、桃色の炎が揺らめく。
繰り出されるは、魔法。
リボンより生み出されし、マスケット銃の一斉射撃。
繰り出されるは、魔法。
放たれた矢が弾け、眼下へ降り注がれし雨。
「降り注げ! 天上の矢!!」
「パロットラ・マギカ・エドゥ・インフィニータ!!」
魔女を狙い、放たれた“魔の法”は。
使い魔を巻き込み、討伐へと駆け巡る。
(いや……すげぇな)
ほむらのさらに後ろで。
その場に座り込み、状況を見守る群雲が思考する。
(手にする事無く、射撃が出来るマスケット……。
あれ使われてたら、前回で死んでたんじゃね、オレ?)
自分が銃を使い、相手も銃を使う。
どちらも“自らの手で引き金を引いていた”からこそ。
あの立ち回りは成立していたと言える。
だが、今のように。
触れる事無く射撃が出来たのなら。
一発で充分だったはずだ。
(あんな魔法が使えたのなら、戦術の幅が広がるだろうなぁ……。
まあ、オレには使えないんだけど)
湧き上がる鉄の味を噛み締めながら、群雲は思考を続ける。
(放たれた矢が弾ける……。
どんな散弾弓だ、それ)
上空から降り注ぐ形の為に、放たれたであろう矢。
それを、真っ直ぐに撃ち出したのなら。
(それこそ<
<
冷静に、淡々と。
自身の状態を思考の外に出して。
群雲琢磨は思考する。
「相変わらず、派手だな、マミの奴」
手を合わせ、その場に跪き。
教会の祭壇前でそうするかのように。
杏子は、祈りを捧げる形で呟いた。
「使い魔は一掃された。
なら、後は魔女を倒すだけ」
そうは言うが、事は簡単ではない。
使い魔に苦戦しているのに、その主を容易に倒せる道理はないからだ。
だがそれは、攻め手を緩める理由にはなりえない。
「うおおぉぉぉりあぁぁぁぁぁぁ!!!」
二人の攻撃が終わる頃を見計らい。
さやかが上空から気合と共に魔女に迫る。
魔法で上空に足場を作り、それを全力で蹴る。
その勢いと重力が合わさり、一気に急降下。
両手でしっかりと剣を握り、全開の斬り下ろし。
それは、確実に魔女を切り裂く。
が、致命傷までには至らない。
近くに降り立った形のさやかを排除しようと、魔女が腕を振り上げ。
「させるかよっ!!」
振り下ろすより前に、杏子の魔法が発動する。
魔女の足元から、巨大な槍が現れ、一気に突き上げる。
魔人から繋ぐ、魔法少女達の怒涛の攻撃。
それは、確実に魔女を追い詰めていく。
しかし、追い詰められたら大人しくなる。
そんな、絶望の使者など、存在しない。
後方へと飛び上がりながら変形し、着地する魔女。
「ちっ!
またか!!」
慌てて回避行動をとる魔法少女達。
……ただ一人を除いて。
魔女が突進を開始する瞬間。
盾が展開し、その内部が90°回転する。
そして、時が止まる。
暁美ほむらの時間停止。
今、彼女だけが動ける世界で、最後の一人が攻撃を開始する。
魔女が突き進むだろう“ルート”を計算し。
盾の中から自作の爆弾を取り出し、並べていく。
爆発で、魔女の動きを止められるように。
確実に、魔女を爆発に巻き込めるように。
以前の彼女では、出来なかったかもしれない行動。
だが、今は違う。
ただ、守られるだけだった“以前”とは、一緒である訳にはいかないのだ。
その為に彼女は契約したのだから。
魔法が解除され、時は動き出す。
その瞬間、魔女が“爆弾へ”突進を再開する。
或いは、魔女に轢かれて。
或いは、起爆装置が起動して。
“一瞬で現れた爆弾達”が、一斉に爆発を開始した。
「時間停止か!?
さすがのジョーカーだ!!」
爆発の海に呑まれた魔女を見ながら、杏子が槍を手に立ち上がる。
「相っ変わらず、びっくりするわ!」
文句を言いながら、体勢を整えるさやか。
立ち上る黒煙の中から。
それでも倒れる事無く姿を現わす、銀の魔女。
ボロボロになりながら、それでも“自由”に駆け回らんとする、絶望の権化。
杏子が槍を構え。
さやかが剣を手に取り。
マミがマスケット銃を構え。
ほむらが、盾の中から銃を取り出し。
まどかが弦を引き、矢を形成する。
五人の魔法少女に狙われながら。
それでも、一歩を踏み出した魔女に、影が差す。
それに気付き、見上げた魔法少女達の視線の先。
魔女の丁度真上から、魔人が最後の攻撃を開始する。
「ロードローラーだ!!」
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想定外の質量に押し潰される魔女。
そして、それに向けて一斉に攻撃を開始する魔法少女。
まどかが矢を放ち。
ほむらとマミが引き金を引き。
さやかと杏子が、手にした武器を投擲する。
再度、起こる爆発、立ち上がる黒煙。
そして、ゆっくりと、収束する魔女結界。
黒煙すらも、結界と共に消えていく。
それは、魔法少女の勝利を意味していた。
次回予告
戦いが終わり、全てが万事うまくいく
そんな、優しい世界であったのならば
そもそも、魔女は存在しない
それでも、希望を捨てる必要は無い
残ったのは、魔法少女なのだから
四十九章 今回みたいに、これからも