無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

52 / 173
「全員が揃ったのはいいけど……この展開は意外だったね」
「まあ、僕らの目的は最初から最後まで変わらないけど」


四十八章 魔の法

 銀色に輝く魔女。

 その周りに佇む使い魔。

 

 群雲琢磨は、その役割を見事に果たして見せた。

 ならばこそ、それに続かなければならない。

 

「いくわよ、鹿目さん!」

「はい!!」

 

 次の一手の為、二人の魔法少女が動く。

 

 

 

 飛び上がり、両手を広げる巴マミ。

 その周りに、次々に現れる、無数のマスケット銃。

 

 弓を展開し、力の限りに弦を引く鹿目まどか。

 魔力により形成された矢が現れ、桃色の炎が揺らめく。

 

 繰り出されるは、魔法。

 リボンより生み出されし、マスケット銃の一斉射撃。

 繰り出されるは、魔法。

 放たれた矢が弾け、眼下へ降り注がれし雨。

 

「降り注げ! 天上の矢!!」

「パロットラ・マギカ・エドゥ・インフィニータ!!」

 

 魔女を狙い、放たれた“魔の法”は。

 使い魔を巻き込み、討伐へと駆け巡る。

 

(いや……すげぇな)

 

 ほむらのさらに後ろで。

 その場に座り込み、状況を見守る群雲が思考する。

 

(手にする事無く、射撃が出来るマスケット……。

 あれ使われてたら、前回で死んでたんじゃね、オレ?)

 

 自分が銃を使い、相手も銃を使う。

 どちらも“自らの手で引き金を引いていた”からこそ。

 あの立ち回りは成立していたと言える。

 だが、今のように。

 触れる事無く射撃が出来たのなら。

 

 

 

 

 

 一発で充分だったはずだ。

 

 

 

 

 

(あんな魔法が使えたのなら、戦術の幅が広がるだろうなぁ……。

 まあ、オレには使えないんだけど)

 

 湧き上がる鉄の味を噛み締めながら、群雲は思考を続ける。

 

(放たれた矢が弾ける……。

 どんな散弾弓だ、それ)

 

 上空から降り注ぐ形の為に、放たれたであろう矢。

 それを、真っ直ぐに撃ち出したのなら。

 

(それこそ<オレだけの世界(Look at Me)>や<操作収束(Electrical Overclocking)>じゃないと、回避は難しいだろうな。

 <電気操作(Electrical Communication)>じゃ、対応しきれる気がしない)

 

 冷静に、淡々と。

 自身の状態を思考の外に出して。

 群雲琢磨は思考する。

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず、派手だな、マミの奴」

 

 手を合わせ、その場に跪き。

 教会の祭壇前でそうするかのように。

 杏子は、祈りを捧げる形で呟いた。

 

「使い魔は一掃された。

 なら、後は魔女を倒すだけ」

 

 そうは言うが、事は簡単ではない。

 使い魔に苦戦しているのに、その主を容易に倒せる道理はないからだ。

 だがそれは、攻め手を緩める理由にはなりえない。

 

「うおおぉぉぉりあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 二人の攻撃が終わる頃を見計らい。

 さやかが上空から気合と共に魔女に迫る。

 魔法で上空に足場を作り、それを全力で蹴る。

 その勢いと重力が合わさり、一気に急降下。

 両手でしっかりと剣を握り、全開の斬り下ろし。

 

 それは、確実に魔女を切り裂く。

 が、致命傷までには至らない。

 近くに降り立った形のさやかを排除しようと、魔女が腕を振り上げ。

 

「させるかよっ!!」

 

 振り下ろすより前に、杏子の魔法が発動する。

 魔女の足元から、巨大な槍が現れ、一気に突き上げる。

 

 

 

 

 魔人から繋ぐ、魔法少女達の怒涛の攻撃。

 それは、確実に魔女を追い詰めていく。

 

 

 

 

 しかし、追い詰められたら大人しくなる。

 そんな、絶望の使者など、存在しない。

 

 

 

 

 後方へと飛び上がりながら変形し、着地する魔女。

 

「ちっ!

 またか!!」

 

 慌てて回避行動をとる魔法少女達。

 ……ただ一人を除いて。

 

 魔女が突進を開始する瞬間。

 盾が展開し、その内部が90°回転する。

 

 そして、時が止まる。

 

 暁美ほむらの時間停止。

 今、彼女だけが動ける世界で、最後の一人が攻撃を開始する。

 

 魔女が突き進むだろう“ルート”を計算し。

 盾の中から自作の爆弾を取り出し、並べていく。

 爆発で、魔女の動きを止められるように。

 確実に、魔女を爆発に巻き込めるように。

 

 

 

 以前の彼女では、出来なかったかもしれない行動。

 だが、今は違う。

 ただ、守られるだけだった“以前”とは、一緒である訳にはいかないのだ。

 

 その為に彼女は契約したのだから。

 

 

 

 

 

 魔法が解除され、時は動き出す。

 その瞬間、魔女が“爆弾へ”突進を再開する。

 或いは、魔女に轢かれて。

 或いは、起爆装置が起動して。

 “一瞬で現れた爆弾達”が、一斉に爆発を開始した。

 

「時間停止か!?

 さすがのジョーカーだ!!」

 

 爆発の海に呑まれた魔女を見ながら、杏子が槍を手に立ち上がる。

 

「相っ変わらず、びっくりするわ!」

 

 文句を言いながら、体勢を整えるさやか。

 

 立ち上る黒煙の中から。

 それでも倒れる事無く姿を現わす、銀の魔女。

 ボロボロになりながら、それでも“自由”に駆け回らんとする、絶望の権化。

 

 杏子が槍を構え。

 さやかが剣を手に取り。

 マミがマスケット銃を構え。

 ほむらが、盾の中から銃を取り出し。

 まどかが弦を引き、矢を形成する。

 

 五人の魔法少女に狙われながら。

 それでも、一歩を踏み出した魔女に、影が差す。

 それに気付き、見上げた魔法少女達の視線の先。

 魔女の丁度真上から、魔人が最後の攻撃を開始する。

 

 

 

「ロードローラーだ!!」

 

 <部位倉庫(Parts Pocket)>から取り出したそれを、全力で叩き落す。

 想定外の質量に押し潰される魔女。

 そして、それに向けて一斉に攻撃を開始する魔法少女。

 まどかが矢を放ち。

 ほむらとマミが引き金を引き。

 さやかと杏子が、手にした武器を投擲する。

 

 再度、起こる爆発、立ち上がる黒煙。

 そして、ゆっくりと、収束する魔女結界。

 

 黒煙すらも、結界と共に消えていく。

 

 それは、魔法少女の勝利を意味していた。




次回予告

戦いが終わり、全てが万事うまくいく

そんな、優しい世界であったのならば





そもそも、魔女は存在しない





それでも、希望を捨てる必要は無い

残ったのは、魔法少女なのだから

四十九章 今回みたいに、これからも

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。