無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「そういえば、見滝原に来てから、ナマモノに会わないな」
「マミ達と一緒なんじゃないか?」
「……あれ?
 それだと、こちらの情報筒抜けじゃね?」
「……むしろ、マミチームの情報を聞き出しとくべきだったな」
「あのマスコット、マジ使えねぇな」


三十七章 帰るけど

 リボンで拘束された魔人。

 その横を通り過ぎて、杏子の張った赤い結界の前に立つ、三人の魔法少女。

 

(……まいったねぇ)

 

 身動きが取れない魔人は、思考する。

 

(あの状況で拘束魔法が来るのは、想定外だった。

 しかも、拘束した相手(オレ)に、止めを刺さずにスルーか。

 凹むわぁ……)

 

 だが、右手の平は動く。

 まあ、雁字搦めという訳ではないので、当然といえば当然である。

 

(弾丸を取り出して電磁砲(Railgun)で、リボンを撃ち抜くか?)

 

 佐倉杏子との共闘。

 それは、群雲にとって、僥倖だと言えた。

 自分一人では、思い付かなかったであろう、能力の使い方と、その発展。

 今では、指で弾く感覚で電磁砲(Railgun)を使用できるまでに至る。

 電光(plasma)球弾(bullet)より、弾速と貫通力、魔力消費に優れるが、実弾を消費するという欠点があるのだが。

 ちなみに電光(plasma)球弾(bullet)は、着弾と同時に弾ける為、相手を電気で痺れさせ、僅かに動きを束縛する事もあり、単体に使用する事に優れている。

 一長一短である。

 

 

 

(それとも“Lv2”で……)

 

 

 

 だが、その思考は。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったーーーっ!?」

 

 突然の攻撃により、中断された。

 声を上げた魔人に驚き、振り返る三人の魔法少女。

 その先で見たのは、女性体系の使い魔が、魔人に攻撃している姿だった。

 

 その場にいる全員が失念していたのだ。

 ここが“結界内”であった事を。

 

 自分たちの結界内で、魔法少女が戦っている。

 そして、その内の一人が拘束されている。

 魔女の使い魔が、好機と言えるその状況で、何もしないはずも無く。

 カルテらしきもので、バシバシ叩いている。

 

「ちょっ、いたっ、いたいって!」

 

 ダメージ事態は、たいした事はなさそうである。

 しかし、親の仇でも見つけたかのように、一心不乱にバシバシ叩いている為、拘束しているリボンが破れかけている。

 

「いったいっつーの!

 てめっ、ヨシザワぁ!!」

(((ヨシザワ!?)))

 

 魔人の言葉に、思わず内心でツッコミを入れる魔法少女達。

 しかし、そのまま放置する訳にも行かず、まどかの弓とほむらの銃が同時に、ヨシザワ(仮)を撃退する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、結界が晴れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ないわー」

 

 群雲は思わず呟くと、ボロボロになったリボンから、自力で抜け出した。

 そして、視線を巡らすと、結界が晴れた事に驚く、五人の魔法少女が見えた。

 流石に、突然結界が晴れた為、杏子とさやかも戦闘を中断したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、帰るか!」

 

 路地裏に、強制的に戻された群雲は、意気揚々とそう言って帰路に着こうとする。

 

「帰るのかよ!?」

 

 真っ先に再起動し、素早く群雲の傍に駆け寄った杏子がツッコミを入れる。

 

「色々と、聞きたい事とか出来たし……。

 何より“これ以上戦う意味は無い”だろう?」

 

 元々、目的はGS(グリーフシード)であり、魔法少女との戦いではない。

 結界が晴れた以上、群雲がここに留まる理由が無いのだ。

 

「締まらない幕引きではあるが……まあ、そういう日もあるっしょ?」

 

 言いながら、群雲は右手の平の<部位倉庫(Parts Pocket)>からGS(グリーフシード)を取り出し。

 

 

 

 それを、マミに向かって投げ渡した。

 

 

 

「……なんのつもり?」

 

 突然の群雲の行動に、訝しげな表情を浮かべるマミ。

 当然といえば、当然である。

 つい数分前まで、極限の凌ぎ合いをしていた相手が、魔法少女にとっての報酬とも言えるGS(グリーフシード)を投げて寄越したのだ。

 警戒するな、という方が無理。

 

「いらないなら、捨ててもいいぞ?

 まあ、そんな事をすれば“被害を受けるのは一般人”だろうけど」

「~っ!?」

 

 眉間に中指を押し当てながら、群雲が告げる。

 GS(グリーフシード)は、魔法少女の魔力回復アイテムであると同時に“魔女の卵”でもあるのだ。

 それを放棄するなど、マミの“性質”的に、ありえないだろう。

 

「それに……佐倉先輩にボロボロにされた、そちらの……美樹先輩……だっけ?

 彼女の治療を優先した方がよくね?」

 

 言われて、マミは慌てて振り返る。

 その視線の先には、剣を杖代わりに体を支えるさやかと、彼女に寄り添う二人の後輩がいる。

 

「これ以上は“オレの為にならない”から、帰るけど。

 佐倉先輩はどうするよ?」

「……やっぱ、性格悪いわ、お前」

「いやぁ」

「褒めてないからな!?」

 

 群雲の言葉にツッコミつつ、杏子は頭を掻いた。

 群雲の言葉は「まだ戦うなら、一人でよろしく」と、言っているのと同義だからだ。

 それを見抜けないほど、杏子と群雲の関係は薄くない。

 そして、この状況で戦い続けるほど、杏子も愚かではない。

 元々、四対一は辛いからと、群雲に念話を送っていたのだから。

 

「じゃ、帰るか。

 てか、晩飯がまだジャン。

 今日は、ビーフストロガノフな気分なんだが、どうよ?」

「お前、さっきはもんじゃ焼きとか、言ってなかったか?」

「記憶にございません事もありません事よ?」

「キモい」

「oh……。

 まあ、オレも言っててそう思った」

「なら、言うなよ」

 

 軽口を叩きながら、二人はその場を後にs

 

「待ちなさい!」

 

 する前に、マミの声が掛かる。

 

[佐倉先輩は、無視して行きな]

[どうするんだよ?]

[前回、あっさり逃げ切ったオレに、それを聞くか?]

[その後、迷ってたじゃねぇか]

[今回は大丈夫。

 結界晴れてるから]

 

 念話をしながら、杏子はそのまま歩いていき。

 群雲は、ショットガンを取り出し、マミに向き直ると同時に、銃口を向ける。

 

「巴先輩は、人殺しをご所望かな?」

「!?」

 

 群雲の言葉に、僅かに動揺を見せるマミ。

 その隙を突き、一気にその場を離れる杏子。

 

「オレ達に構うより、お仲間を治療してやったら?

 まあ、佐倉先輩と戦りあって、まだ生きてるぐらいだし、オレも評価を改めてやらん事もない雰囲気を醸し出そうと、努力してみたりしてもいいかと、今、思いついた」

 

 群雲は、実は適当に喋っているだけだったりする。

 重要なのは、自らに注意を引き付け、その場を離れる杏子の安全を確保する事。

 <電気操作(Electrical Communication)>を駆使した時の自分の逃げ足は、弾丸を避けるほどなのは、ついさっき証明されたばかりであるし。

 

「闘劇を続けるのも構わない。

 貴女と戦うのは、正直良い経験にもなる。

 だが、今は生き残る為に“確実に倒せそうな奴”から、狙うぜ?」

 

 自分の為に。

 自分が生き残る為に。

 群雲がするべき事は“自身への攻撃回数を減らす事”であり。

 それは“魔法少女の頭数を減らす事”になり。

 すなわち“杏子との戦いで傷ついているさやかに、真っ先に止めを刺す事”になる。

 

 もっとも、群雲にその気は無い。

 いざとなれば、前回のように閃光弾でも使って、その場を脱する事も可能だからだ。

 

 だが、その言葉は。

 “倒す事”ではなく“守る事”を信条とするマミに対して、絶大な効果を持ち。

 敵視するのに、充分すぎる効果があった。

 

「……行きなさい」

 

 決して視線を外す事無く、マミはマスケットを下ろす。

 

「賢明な判断だ」

 

 それを見た群雲も、銃口を外し、腰の後ろにショットガンを戻す。

 

「次は、出来る事なら同じ側で、闘劇をはじめたいものだ。

 貴女に背中を預けられたなら、オレm「二度は言わないわ」……ふむ」

 

 群雲としては不服ではあるが、これ以上この場に留まるのは得策ではないらしい。

 まあ、当然と言えば、当然の結果ではあったが。

 

「こちらの目的は、あくまでも“GS(グリーフシード)の入手”であって“魔法少女(貴方達)との敵対”ではない。

 そこだけは、履き違えないで貰いたいものだ」

 

 そう言って、群雲は外套を翻し、その場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 果たして、この戦いの“勝利者”は、誰であったのか。

 それは、おそらくは、誰にもわからないのであろう。




次回予告

戦いにより、解決する事が、はたしてどれだけあるのか?

話し合いにより、解決する事が、はたしてどれだけあるのか?






それでも、切っ掛けになるのは、確実で

三十八章 見滝原での立ち位置

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