「マミ達と一緒なんじゃないか?」
「……あれ?
それだと、こちらの情報筒抜けじゃね?」
「……むしろ、マミチームの情報を聞き出しとくべきだったな」
「あのマスコット、マジ使えねぇな」
リボンで拘束された魔人。
その横を通り過ぎて、杏子の張った赤い結界の前に立つ、三人の魔法少女。
(……まいったねぇ)
身動きが取れない魔人は、思考する。
(あの状況で拘束魔法が来るのは、想定外だった。
しかも、拘束した
凹むわぁ……)
だが、右手の平は動く。
まあ、雁字搦めという訳ではないので、当然といえば当然である。
(弾丸を取り出して
佐倉杏子との共闘。
それは、群雲にとって、僥倖だと言えた。
自分一人では、思い付かなかったであろう、能力の使い方と、その発展。
今では、指で弾く感覚で
ちなみに
一長一短である。
(それとも“Lv2”で……)
だが、その思考は。
「いったーーーっ!?」
突然の攻撃により、中断された。
声を上げた魔人に驚き、振り返る三人の魔法少女。
その先で見たのは、女性体系の使い魔が、魔人に攻撃している姿だった。
その場にいる全員が失念していたのだ。
ここが“結界内”であった事を。
自分たちの結界内で、魔法少女が戦っている。
そして、その内の一人が拘束されている。
魔女の使い魔が、好機と言えるその状況で、何もしないはずも無く。
カルテらしきもので、バシバシ叩いている。
「ちょっ、いたっ、いたいって!」
ダメージ事態は、たいした事はなさそうである。
しかし、親の仇でも見つけたかのように、一心不乱にバシバシ叩いている為、拘束しているリボンが破れかけている。
「いったいっつーの!
てめっ、ヨシザワぁ!!」
(((ヨシザワ!?)))
魔人の言葉に、思わず内心でツッコミを入れる魔法少女達。
しかし、そのまま放置する訳にも行かず、まどかの弓とほむらの銃が同時に、ヨシザワ(仮)を撃退する。
そして、結界が晴れた。
「……ないわー」
群雲は思わず呟くと、ボロボロになったリボンから、自力で抜け出した。
そして、視線を巡らすと、結界が晴れた事に驚く、五人の魔法少女が見えた。
流石に、突然結界が晴れた為、杏子とさやかも戦闘を中断したらしい。
「よし、帰るか!」
路地裏に、強制的に戻された群雲は、意気揚々とそう言って帰路に着こうとする。
「帰るのかよ!?」
真っ先に再起動し、素早く群雲の傍に駆け寄った杏子がツッコミを入れる。
「色々と、聞きたい事とか出来たし……。
何より“これ以上戦う意味は無い”だろう?」
元々、目的は
結界が晴れた以上、群雲がここに留まる理由が無いのだ。
「締まらない幕引きではあるが……まあ、そういう日もあるっしょ?」
言いながら、群雲は右手の平の<
それを、マミに向かって投げ渡した。
「……なんのつもり?」
突然の群雲の行動に、訝しげな表情を浮かべるマミ。
当然といえば、当然である。
つい数分前まで、極限の凌ぎ合いをしていた相手が、魔法少女にとっての報酬とも言える
警戒するな、という方が無理。
「いらないなら、捨ててもいいぞ?
まあ、そんな事をすれば“被害を受けるのは一般人”だろうけど」
「~っ!?」
眉間に中指を押し当てながら、群雲が告げる。
それを放棄するなど、マミの“性質”的に、ありえないだろう。
「それに……佐倉先輩にボロボロにされた、そちらの……美樹先輩……だっけ?
彼女の治療を優先した方がよくね?」
言われて、マミは慌てて振り返る。
その視線の先には、剣を杖代わりに体を支えるさやかと、彼女に寄り添う二人の後輩がいる。
「これ以上は“オレの為にならない”から、帰るけど。
佐倉先輩はどうするよ?」
「……やっぱ、性格悪いわ、お前」
「いやぁ」
「褒めてないからな!?」
群雲の言葉にツッコミつつ、杏子は頭を掻いた。
群雲の言葉は「まだ戦うなら、一人でよろしく」と、言っているのと同義だからだ。
それを見抜けないほど、杏子と群雲の関係は薄くない。
そして、この状況で戦い続けるほど、杏子も愚かではない。
元々、四対一は辛いからと、群雲に念話を送っていたのだから。
「じゃ、帰るか。
てか、晩飯がまだジャン。
今日は、ビーフストロガノフな気分なんだが、どうよ?」
「お前、さっきはもんじゃ焼きとか、言ってなかったか?」
「記憶にございません事もありません事よ?」
「キモい」
「oh……。
まあ、オレも言っててそう思った」
「なら、言うなよ」
軽口を叩きながら、二人はその場を後にs
「待ちなさい!」
する前に、マミの声が掛かる。
[佐倉先輩は、無視して行きな]
[どうするんだよ?]
[前回、あっさり逃げ切ったオレに、それを聞くか?]
[その後、迷ってたじゃねぇか]
[今回は大丈夫。
結界晴れてるから]
念話をしながら、杏子はそのまま歩いていき。
群雲は、ショットガンを取り出し、マミに向き直ると同時に、銃口を向ける。
「巴先輩は、人殺しをご所望かな?」
「!?」
群雲の言葉に、僅かに動揺を見せるマミ。
その隙を突き、一気にその場を離れる杏子。
「オレ達に構うより、お仲間を治療してやったら?
まあ、佐倉先輩と戦りあって、まだ生きてるぐらいだし、オレも評価を改めてやらん事もない雰囲気を醸し出そうと、努力してみたりしてもいいかと、今、思いついた」
群雲は、実は適当に喋っているだけだったりする。
重要なのは、自らに注意を引き付け、その場を離れる杏子の安全を確保する事。
<
「闘劇を続けるのも構わない。
貴女と戦うのは、正直良い経験にもなる。
だが、今は生き残る為に“確実に倒せそうな奴”から、狙うぜ?」
自分の為に。
自分が生き残る為に。
群雲がするべき事は“自身への攻撃回数を減らす事”であり。
それは“魔法少女の頭数を減らす事”になり。
すなわち“杏子との戦いで傷ついているさやかに、真っ先に止めを刺す事”になる。
もっとも、群雲にその気は無い。
いざとなれば、前回のように閃光弾でも使って、その場を脱する事も可能だからだ。
だが、その言葉は。
“倒す事”ではなく“守る事”を信条とするマミに対して、絶大な効果を持ち。
敵視するのに、充分すぎる効果があった。
「……行きなさい」
決して視線を外す事無く、マミはマスケットを下ろす。
「賢明な判断だ」
それを見た群雲も、銃口を外し、腰の後ろにショットガンを戻す。
「次は、出来る事なら同じ側で、闘劇をはじめたいものだ。
貴女に背中を預けられたなら、オレm「二度は言わないわ」……ふむ」
群雲としては不服ではあるが、これ以上この場に留まるのは得策ではないらしい。
まあ、当然と言えば、当然の結果ではあったが。
「こちらの目的は、あくまでも“
そこだけは、履き違えないで貰いたいものだ」
そう言って、群雲は外套を翻し、その場を立ち去った。
果たして、この戦いの“勝利者”は、誰であったのか。
それは、おそらくは、誰にもわからないのであろう。
次回予告
戦いにより、解決する事が、はたしてどれだけあるのか?
話し合いにより、解決する事が、はたしてどれだけあるのか?
それでも、切っ掛けになるのは、確実で
三十八章 見滝原での立ち位置