無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「お前、いつも此処で寝てるのか?」
「……? もちろん」
「マジか」


三十一章 互いに情けない話をした

 人知れず、放置されたままの教会跡。

 

「……ここに、いい思い出なんて無いんだけどな」

 

かつて、父親が話をする為に立っていた場所で、佐倉杏子は呟く。

 

「喉元過ぎれば、熱さ忘れる……だったか?

 割り切ってしまえば、多少はマシじゃないか?」

 

 最前列の椅子に寝転びながら、眼鏡を外した群雲琢磨が言う。

 

「お前は……辛くないのか?」

「……痛くはないな」

 

 珍しく、何も口にしていない二人は。

 決して視線を合わせる事無く、会話を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、なんでここに教会があるって知ってたんだ?」

 

 三人の魔法少女との邂逅から、数日。

 さて、今日はどういう行動をするか。

 そんな事を考えていた時に放たれた、群雲の何気ない質問から、会話は始まった。

 しばらく躊躇するも、杏子はゆっくりと話し始めた。

 

「ここは、あたしの親父の教会だったんだ」

「真面目で、優し過ぎる人でね。

 新聞を読んでは、どうして世界が良くならないかって、真剣に悩むような人さ」

「新しい時代にあった、新しい信仰をって、教義に無い事まで説教するようになって。

 当然、信者は減り、破門された」

「あたしは、親父が間違ってるとは思わなかった。

 皆が真面目に聞いてくれれば、きっと解ってもらえると思ってた」

「だから、キュゥべえに頼んだんだ。

 “親父の話を、皆が真面目に聞いてくれますように”って」

「願いは叶い、自分でも浮かれてた。

 親父が人々を導き、魔法少女になったあたしが、魔女から人々を救うってね」

「でも、そんな幸せも、長くは続かなかった」

「信者が増えたのは、親父の言葉が届いた訳じゃない。

 あたしの、自分勝手な願いからなんだ」

「真実を知った親父は壊れた。

 酒に溺れ、心が歪んで。

 最後は一家無理心中さ。

 あたし一人を、置き去りにして、ね」

 

 辛いとも、悲しいとも取れる表情で、杏子は話し終える。

 暫しの沈黙の後、今度は群雲が口を開く。

 

「馬鹿にするでもなく。

 茶化す訳でもなく。

 “羨ましい”と思ってしまったオレは、とことん狂ってるな」

「……羨ま……しい……?」

 

 眼鏡を外し、椅子に横になった群雲の言葉に、杏子が呆然とした声を掛ける。

 予想外の反応なので、当然だといえる。

 

「あぁ、羨ましい。

 佐倉先輩にとって辛いし、悲しい事なんだろうけど。

 話すだけの思い出があることが、な」

「……どういう事だよ?」

 

 今度はこちらの番かな。

 そう前置きして、群雲が話し出す。

 

「6歳の入学式に、家族が事故で死んだ。

 たまたま、その小学校がバス通学で。

 オレだけが先にバスに乗り。

 両親は後から、車で向かうはずだった」

「……なんで、別々だったんだ?」

「もうすぐ、産まれるはずだったんだ。

 オレの、弟か、妹が」

 

 両方だった可能性もあるけどな。

 そんな事を、間に挟みながら、群雲は続ける。

 

「無理する必要はないのに。

 記念だからって、無理して入学式に出ようとして。

 途中で交通事故」

「オレにとっては、文字通りの節目の日になった。

 奈落の人生への一方通行だ」

「正直、あの出来事が大きすぎて……。

 それ以前の両親の思い出が、すっぽり記憶から抜け落ちた。

 両親についてオレが言える事は“6歳の時に死んだ”って事だけさ」

「もう、顔も名前も覚えちゃいない。

 苗字が群雲だって事ぐらいで」

「だから、純粋に羨ましく思ってしまった。

 きっと佐倉先輩には、今の話以外にも“家族の思い出”があるんだろうな……なんて」

 

 そして、冒頭へと繋がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、過去は所詮過去。

 どうにもならないし、どうしようもない」

 

 暗い雰囲気を払拭するかのような明るい声で、群雲は立ち上がった。

 

「泣いて、喚いて、嘆いて、無かった事に出来るなら、皆そうする。

 でも、無理、不可能、有り得ない」

 

 外していた眼鏡を掛けて、群雲は言う。

 

「さらに言うなら、オレには“取り戻す可能性”があった。

 ナマモノとの契約が」

 

 家族を、生き返らせて欲しい。

 それを、願い、叶える方法が、確かに群雲にはあった。

 

「でも、もう遅い」

 

 契約は、既に交わされた後。

 後の祭りだ。

 

「オレは、オレの為に願った。

 それが、真実」

 

 二人は、ある意味で真逆だった。

 

 家族の為に願い、独りになった少女。

 自分の為に願い、独りのままの少年。

 

 二人は、ある意味で同類だった。

 

 自分の為に、力を使う事を決めた少女。

 自分の為に、力を得る事を叶えた少年。

 

「で、これからどうするよ、先輩?」

「まずはSG(ソウルジェム)の浄化だ。

 互いに情けない話をしたせいで、穢れが増えてる」

「人のトラウマ独白を、情けないとか、ないわー」

「じゃ、浄化しないのか?」

「するけど、なにか?」

「うわぁ……ぶっとばしてぇ……」

「優しくしてね☆」

「うぜー。

 チョーうぜぇ」

「相方に向かって、それはひどくね?」

 

 軽口を叩き合いながら、二人は教会跡から外に出る。

 

 話そうと、話すまいと。

 結局、なにが変わるわけでもない。

 

「ほんと、琢磨といると気が楽だわ」

「なんだろう……褒められてる気がしねぇ……」

「褒めてないからな」

「たまには、誤報日が欲しいよ、おね~ちゃ~ん」

「明らかに字がおかしい。

 そして、おねぇちゃん言うな、鳥肌が立つ」

「( ゚д゚ )」

「こっちみんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一日が始まる。

 これは、そんなある日の一幕。




次回予告

魔法少女には、縄張りが存在する

故に、縄張り争いも、存在する




魔法少女は、魔女を狩る

されど、必ずしも使い魔を狩るとは限らない






魔法少女は生まれる

理を無視する、異生物の都合の為に

三十二章 一人増えてる

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