「そりゃもちろん、金儲けと保身しか考えてない、税金泥棒達から盗n……死ぬまでお借りしてるだけだが?」
「……少し前に、とある軍事基地が窃盗の責任で解体したとか、ニュースになってたんだが」
「ざまぁwwwww
ゲフンゲフン。
それは、大変だねぇ」
(……こいつ、色々とえげつねぇな……)
時間停止。
群雲が使う魔法で、最も凶悪な力だろう。
使い方によっては、全ての状況をひっくり返しかねない。
時間停止中に、ひっくり返すほどの行動が出来るかどうかは、別問題ではあるが。
「いずれ動くとは思ったが……。
少しだけ“遅かった”な」
自分だけの世界で、群雲は呟いた。
群雲の言う“遅かった”とは、魔法少女達の動きの事ではない。
実は群雲、先程までインターバル中だったのである。
魔法少女達との邂逅も、想定外。
杏子と別行動中に、魔女との殺し合いを終えた後、使い魔の結界を確認。
入ってみたら、彼女たちがいた。
つまり、群雲からすれば、絶賛連戦中なのである。
「さて、そろそろ帰りたいんだが……」
呟いた群雲は、時間の静止した世界で、状況を再確認する。
剣を振り上げている魔法少女と、矢を放った後の魔法少女。
静止している矢は、時が止まらなければ、確実に群雲を捕らえていただろう。
タイミングは、完璧だったといえる。
連携力が高ければ、1+1は数字以上の成果を見せる。
個々で考えれば、群雲にしては“不合格”だが。
チームとしてみれば、充分に“合格”と言えるかもしれない。
そして、群雲は気付いた。
魔法準備に入っている、もう一人の魔法少女の存在を。
「……時間停止しなければ、詰んでたっぽいな」
口の端を持ち上げながら、群雲はその魔法少女の後ろに立つ。
どんな魔法を使うつもりだったのか。
今の群雲に、それを確認する術は無い。
魔法が発動していたとして、五体満足で捌ききれるか。
今の群雲に、それを確認する術は無い。
「ま、今回は優位に立たせてもらうけどな」
そして、群雲は
世界は、
「え……きゃぁ!?」
「さやかちゃん!?」
「えっ!?」
魔法少女達からすれば、突然群雲が消えたように錯覚するだろう。
飛び掛ったさやかは、目標の消失に戸惑い。
まどかの放った矢は、同一直線上であった為、さやかに直撃する。
マミは、拘束魔法の対象を見失い、発動を止める。
[相変わらず、見事な瞬間移動だな]
届いた念話に、群雲は苦笑しながら、刀を鞘に収める。
その音が、辺りに響き、マミが慌てて後ろを振り返る。
その先に、日本刀を左手の<
「いつの間に……!?」
「それを、詳しく教えるほど、オレ達は親しい仲かな?」
マミは回りにマスケット銃を召還。
群雲は右腰からSAAを右手で、腰の後から水平二連ショットガンを左手に持つ。
(刀だけではなく、銃まで使いこなすの!?)
(しくじった、刀継続すればよかった!?)
互いに同種の武器である事に、一瞬状況が静止する。
しかし次の一瞬には、マミはマスケット銃を手にとって構え、群雲も歪な二丁拳銃を構える。
[佐倉先輩、へるぷみ~!]
[自力でなんとかしな]
[この人が動いたら、加勢するんじゃなかったんかい!?]
互いに銃口を向け合う緊迫な状況ながら、群雲はこんな念話をしている。
だが、マミがマスケット銃を召還した瞬間、杏子は変身を完了させている。
もっとも、今の群雲にそれを確認する術は無いが。
「そもそも、3対1の時点で、オレがかなり不利」
「あら、それも織り込み済みで、私達の前に姿を見せたんじゃないの?」
「いやいや、結界を見つけたから入ってみただけですよ?」
「それを素直に信じるほど、私達は親しい仲かしら?」
「oh……」
傍から見れば、それは軽口の叩きあい。
されど、状況を見れば、それは生死を分ける、緊迫の空気。
そして、群雲の視線の先。
マミの後では、立ち上がるさやかと、それに手を貸しているまどかがいる。
さすがに、三人同時に相手にして立ち回れるほど、群雲は自分の実力を信じていない。
よって。
[全力で逃げる]
[逃げるのかよ]
[いいかげん
情報収集も充分じゃね?]
[それはいいが、その状況をどう打開するんだよ?]
[向こうの“性質”を利用する。
仕掛けるぜ?]
念話の後、群雲は右手の銃を右腰に戻す。
「あら、降参かしら?」
「まさか。
左手のショットガンはそのままだろう?」
さやかが剣を構え、まどかが弓を構える。
完全に3対1の構図が出来上がり。
群雲は微笑んだ。
全員が群雲に集中する。
この構図こそ、群雲が逃げ切る為に、必要な構図だからだ。
「では、闘劇を続け……る前に、だ。」
右手の<
後は一瞬。
三人全員が、同時に集中を切らす瞬間を狙うだけ。
その為に、群雲は言葉を紡ぐ。
「オレ達は、魔女を狩る」
「……そうね」
「オレ達は、魔女を狩る為に結界に入る」
「……何が、言いたいのよ?」
「オレ達は今、結界の中にいる。
つまり、使い魔は健在中。
さて、質問。
使い魔は、普通の人間をどうしたい?」
「「「!?」」」
[
[やっぱ、性格悪いだろ、お前]
三人の魔法少女達の性質。
それは“魔女の脅威から人々を守る為に戦っている”という、生き様。
今、この瞬間も、この結界を生成している使い魔がいる。
その事実は、確実に彼女達の心を揺さぶる。
その一瞬こそが、群雲の狙い。
右手から目的の物を取り出し、それを放り投げる。
そして、左腕だけをそのままに反転、両足に<
走り出すと同時に、引き金を引いて、目的の物を撃ち抜いた。
一瞬。
本当に一瞬だが、辺りが昼間を超えるほどの光に包まれる。
その光を背に、群雲は全力を超えた全力疾走。
[見事な逃げっぷりだな]
[敗走ではない。
後ろに向かって、全力前進DA!]
[まあ、勝敗で言えば、お前の勝ちだろうな]
そんな念話をしながら、二人はその場を立ち去った。
「なんだったのよ、あいつ!!」
強烈な光が収まった時。
魔人の姿は既に無く。
さやかが声を荒げるのも、納得であろう。
「結局……何をしたかったんでしょう?」
さやかを宥めながら、まどかは質問する。
「考えても、答えは出なさそうね……」
その質問に答えを出せるほど、マミも魔人を知らない。
「ひとまず、使い魔を探しましょう。
あの少年の言う通り、結界が健在な以上、使い魔も遠くにはいないはずよ」
魔法少女達は、気を取り直して、結界の中を進む。
魔人の存在を、心に留めながら。
[出口がわかりません]
[とことん考え無しか、てめぇ!?]
その魔人が、魔法少女が使い魔を倒すまでの間、結界の隅で体育座りしていたのは、余談である。
次回予告
その少女、魔法少女
家族の為に願った、優しき少女
その少年、魔人
自分の為に願った、狂いし少年
その少女、魔法少女
自らの為に動く、強かな少女
その少年、魔人
考え無く動く、不可思議な少年
魔法少女 佐倉杏子
魔人 群雲琢磨
二人の性質と、二人の願い
その者達 魔女を狩る者につき
三十一章 互いに情けない話をした