「……え? 日本刀ってそういう物じゃないん?」
「……お前、時代劇大好きだろ?」
「たかたー♪」
攻める者と守る者。
本来の在り方とは、逆の構図となっていた。
誰かの為に戦う者が攻め。
自分の為に戦う者が守る。
一人は、剣を持つ魔法少女。
一人は、刀を持つ魔人。
何度も剣で斬りつけ。
何度も刀で弾き返す。
そんな、不毛な戦いを遠くから観察しながら、杏子は呟いた。
「……マジに手を抜いてやがるな、琢磨の奴……」
飴の棒をピコピコと揺らしながら、その戦いを見守る。
群雲の戦闘スタイルは、オールラウンダー。
近距離戦ならば、刀を使い。
遠距離戦ならば、銃を使う。
相手が近距離特化ならば、銃を使い。
相手が遠距離特化ならば、刀を使う。
相手の得意分野で勝負する必要など皆無。
群雲琢磨は、そういうやつである。
群雲は、分類するならばスピード型である。
自身の魔法を生かし、通常以上の速度での戦闘を得意とする。
だが、群雲琢磨は元いじめられっこである。
契約するまで、戦いとは無縁の生活であった。
無論、武道の心得がある訳でもない。
精々が、空想物から得た知識程度である。
そこで、群雲が取った行動は、魔人となった事で得た、魔法という力の開発
弱い人間でも、相手を殺せる手段の調達。
すなわち、武器の入手である。
真っ先に浮かんだのは銃である。
指先一つで、人を殺しうる凶悪兵器。
群雲はそれを<
日本刀は、その時のおまけ程度であった。
実は、群雲には剣術の才能があった、訳でもない。
ここで、群雲がメインで使用する<
神経に直接電気を流す事による“行動の高速化”である。
重要なのは、それを使用すると判断しているのは、あくまでも“脳”だという事。
“脳”が<
矛盾しているのである。
そこで群雲が考えたのが“行動の固定化”である。
抜刀から納刀までの一連の動きを“固定化”した上で<
“逆手居合 電光抜刀”とは、一種のプログラムであると言えるのだ。
声に出す事で、魔法準備に入る。
技名を言う事で、高速行動を開始する。
そういう癖を、みずからに押し込んだのだ。
一種の自己催眠とも言えるだろう。
無論、欠点はある。
“行動に、まったく応用がきかない”のだ。
上方から飛び掛って「逆風!」とか言っちゃうと、斬り上げ動作になるので、見事に空振る。
走りながら「天風!」とか言っちゃうと、打ち下ろし動作になる為、刀が地面に刺さり、すっ転ぶ。
上方に敵を捉えて「閃風!」とか言っちゃうと、横薙ぎ動作になるので、空振る。
そうならない様に、それぞれの技に数字を入れる事で、動作確認を行っている。
さて。
今現在、群雲はさやかとの交戦中である。
それを見て、杏子は“手を抜いている”と言った。
その理由は、群雲が“抜刀状態”であるからだ。
“逆手居合 電光抜刀”はその名の通り“抜刀術”である。
抜刀状態では、使えない。
さらに、さやかの武器は剣である。
本来の群雲ならば、銃を用いての遠距離戦を選ぶのだ。
わざわざ、相手と同じ近距離武器を選び。
しかも、抜刀状態である為に“逆手居合 電光抜刀”は使用不可。
杏子の言う通り、完全に手加減しているのだ。
それでも戦闘経験においては、10歳から魔人をしている群雲の方が上である。
さやかの斬撃を、一度もその身に浴びる事無く、防ぎ、捌き、弾き、避ける。
そして、この念話である。
[なあ、琢磨?
お前、なんで攻撃しないんだよ?]
[せっかくなので、防御の練習]
群雲琢磨は、そういうやつである。
しかし、相手方の魔法少女としては、この状況は芳しくない。
使い魔を見失い、突如現れた魔人と仲間が交戦している上に、実力は向こうの方が上。
今でこそ、群雲が守勢に入っているが、一度もその身に斬撃を受けていないのだ。
一度、攻勢に移ればどうなるかは、想像に難しくない。
だからこそ、今のうちに勝敗を決する必要がある。
群雲に気付かれないよう、細心の注意を払いながら、まどかは弓を展開する。
それに合わせて、マミも魔法準備に入った。
さやかの攻撃に合わせて、まどかが矢を射る。
その隙を逃さずに、マミの拘束魔法で動きを封じる事が出来れば、戦局は決まる。
「と、向こうは考えているだろうけど」
スナック菓子を食べながら、杏子は相手の行動を予測して、観察を続ける。
「まあ、琢磨が捕まりゃ、あたしが出て行くだけだし」
それでも、群雲が後れを取る事は無いだろう。
そんな程度には、杏子は群雲を信頼している。
そして、状況が動いた。
群雲を中心に、さやかとまどかが線で繋がった瞬間。
さやかが一直線に、群雲との間合いを詰め。
まどかが一直線に、群雲に矢を射る。
合わせてマミが、群雲の動向に全神経を集中させる。
これまで通り、さやかの斬撃を受け止めれば、まどかの矢を受ける。
まどかの矢を察知し、無理に避けようとすれば、さやかの斬撃を受ける。
仮に、両方を凌ぎきったとしても、後詰でマミの拘束魔法が発動する。
刀を持つ右手だけでも封じてしまえば、戦局は魔法少女側に、大きく傾く事になるだろう。
そんな、絶妙のタイミングだった。
それを群雲は“魔法”を発動させる事で、すべての予想を上回る。
カチッ
<
世界は、
「そう言えば、佐倉先輩にもこの魔法を教えてなかったな。
どうも、瞬間移動と勘違いしてるっぽいし……。
ま、いっか」
群雲琢磨は、そういうやつである。
次回予告
戦いは、魔法少女の定め
戦いは、魔法少女の宿命
戦いは、魔法少女の運命
その戦い、悲劇にすらならぬ喜劇
されど、軋轢を生む悲劇
三十章 親しい仲