無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「お前の日本刀って、大概丈夫だよな」
「……え? 日本刀ってそういう物じゃないん?」
「……お前、時代劇大好きだろ?」
「たかたー♪」


二十九章 群雲琢磨は、そういうやつである

 攻める者と守る者。

 本来の在り方とは、逆の構図となっていた。

 誰かの為に戦う者が攻め。

 自分の為に戦う者が守る。

 一人は、剣を持つ魔法少女。

 一人は、刀を持つ魔人。

 何度も剣で斬りつけ。

 何度も刀で弾き返す。

 そんな、不毛な戦いを遠くから観察しながら、杏子は呟いた。

 

「……マジに手を抜いてやがるな、琢磨の奴……」

 

 飴の棒をピコピコと揺らしながら、その戦いを見守る。

 

 

 

 群雲の戦闘スタイルは、オールラウンダー。

 近距離戦ならば、刀を使い。

 遠距離戦ならば、銃を使う。

 相手が近距離特化ならば、銃を使い。

 相手が遠距離特化ならば、刀を使う。

 相手の得意分野で勝負する必要など皆無。

 群雲琢磨は、そういうやつである。

 

 

 

 群雲は、分類するならばスピード型である。

 自身の魔法を生かし、通常以上の速度での戦闘を得意とする。

 

 だが、群雲琢磨は元いじめられっこである。

 契約するまで、戦いとは無縁の生活であった。

 無論、武道の心得がある訳でもない。

 精々が、空想物から得た知識程度である。

 

 そこで、群雲が取った行動は、魔人となった事で得た、魔法という力の開発()()()()

 

 弱い人間でも、相手を殺せる手段の調達。

 

 すなわち、武器の入手である。

 

 真っ先に浮かんだのは銃である。

 指先一つで、人を殺しうる凶悪兵器。

 群雲はそれを<オレだけの世界(Look at Me)>を駆使する事で入手。

 日本刀は、その時のおまけ程度であった。

 

 実は、群雲には剣術の才能があった、訳でもない。

 

 

 

 ここで、群雲がメインで使用する<電気操作(Electrical Communication)>の、主な使い方を説明しよう。

 

 神経に直接電気を流す事による“行動の高速化”である。

 重要なのは、それを使用すると判断しているのは、あくまでも“脳”だという事。

 “脳”が<電気操作(Electrical Communication)>を使用する事で、“脳”が制御する以上の速度で動く。

 矛盾しているのである。

 

 

 

 そこで群雲が考えたのが“行動の固定化”である。

 抜刀から納刀までの一連の動きを“固定化”した上で<電気操作(Electrical Communication)>で“高速化”する。

 “逆手居合 電光抜刀”とは、一種のプログラムであると言えるのだ。

 声に出す事で、魔法準備に入る。

 技名を言う事で、高速行動を開始する。

 そういう癖を、みずからに押し込んだのだ。

 一種の自己催眠とも言えるだろう。

 

 

 

 無論、欠点はある。

 “行動に、まったく応用がきかない”のだ。

 上方から飛び掛って「逆風!」とか言っちゃうと、斬り上げ動作になるので、見事に空振る。

 走りながら「天風!」とか言っちゃうと、打ち下ろし動作になる為、刀が地面に刺さり、すっ転ぶ。

 上方に敵を捉えて「閃風!」とか言っちゃうと、横薙ぎ動作になるので、空振る。

 

 そうならない様に、それぞれの技に数字を入れる事で、動作確認を行っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて。

 今現在、群雲はさやかとの交戦中である。

 それを見て、杏子は“手を抜いている”と言った。

 その理由は、群雲が“抜刀状態”であるからだ。

 

 “逆手居合 電光抜刀”はその名の通り“抜刀術”である。

 抜刀状態では、使えない。

 

 さらに、さやかの武器は剣である。

 本来の群雲ならば、銃を用いての遠距離戦を選ぶのだ。

 

 わざわざ、相手と同じ近距離武器を選び。

 しかも、抜刀状態である為に“逆手居合 電光抜刀”は使用不可。

 

 杏子の言う通り、完全に手加減しているのだ。

 

 

 

 それでも戦闘経験においては、10歳から魔人をしている群雲の方が上である。

 さやかの斬撃を、一度もその身に浴びる事無く、防ぎ、捌き、弾き、避ける。

 そして、この念話である。

 

[なあ、琢磨?

 お前、なんで攻撃しないんだよ?]

[せっかくなので、防御の練習]

 

 群雲琢磨は、そういうやつである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、相手方の魔法少女としては、この状況は芳しくない。

 使い魔を見失い、突如現れた魔人と仲間が交戦している上に、実力は向こうの方が上。

 今でこそ、群雲が守勢に入っているが、一度もその身に斬撃を受けていないのだ。

 一度、攻勢に移ればどうなるかは、想像に難しくない。

 だからこそ、今のうちに勝敗を決する必要がある。

 群雲に気付かれないよう、細心の注意を払いながら、まどかは弓を展開する。

 それに合わせて、マミも魔法準備に入った。

 さやかの攻撃に合わせて、まどかが矢を射る。

 その隙を逃さずに、マミの拘束魔法で動きを封じる事が出来れば、戦局は決まる。

 

「と、向こうは考えているだろうけど」

 

 スナック菓子を食べながら、杏子は相手の行動を予測して、観察を続ける。

 

「まあ、琢磨が捕まりゃ、あたしが出て行くだけだし」

 

 それでも、群雲が後れを取る事は無いだろう。

 そんな程度には、杏子は群雲を信頼している。

 そして、状況が動いた。

 

 群雲を中心に、さやかとまどかが線で繋がった瞬間。

 さやかが一直線に、群雲との間合いを詰め。

 まどかが一直線に、群雲に矢を射る。

 合わせてマミが、群雲の動向に全神経を集中させる。

 

 これまで通り、さやかの斬撃を受け止めれば、まどかの矢を受ける。

 まどかの矢を察知し、無理に避けようとすれば、さやかの斬撃を受ける。

 仮に、両方を凌ぎきったとしても、後詰でマミの拘束魔法が発動する。

 刀を持つ右手だけでも封じてしまえば、戦局は魔法少女側に、大きく傾く事になるだろう。

 そんな、絶妙のタイミングだった。

 

 それを群雲は“魔法”を発動させる事で、すべての予想を上回る。

 

 

 

 

 

カチッ

 

 

 

 

 

<オレだけの世界(Look at Me)>

世界は、群雲だけを見る(止まる)

 

 

 

「そう言えば、佐倉先輩にもこの魔法を教えてなかったな。

 どうも、瞬間移動と勘違いしてるっぽいし……。

 ま、いっか」

 

 群雲琢磨は、そういうやつである。




次回予告

戦いは、魔法少女の定め

戦いは、魔法少女の宿命

戦いは、魔法少女の運命




その戦い、悲劇にすらならぬ喜劇
されど、軋轢を生む悲劇

三十章 親しい仲

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