無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「男が契約できるなんで、初耳だぞ?」
「聞いてないだけだろ?」


第二幕 失意と約束のsecond night
二十六章 協力する理由って何だ?


見滝原。

 

 その街には、三人の魔法少女がいる。

 

「マミの奴、いつのまにか“チーム”を組んでやがったんだな」

「知り合い?」

 

 その魔法少女達が戦う姿を、遠くから観察する関係者が二人。

 一人は、双眼鏡を魔法で強化して。

 一人は、変身した状態で。

 二人揃ってりんごをかじりながら、チームが戦う様子を観察していた。

 

「駆け出しの時にちょっとな」

「ほへはふふはあひいはひふへ」

「……飲み込んでから喋れ、馬鹿」

 

 言われて、口内のりんごを咀嚼する。

 無論、その間は話が出来ず、観察だけが続く。

 風が強く吹く中、ようやく口内がすっきりし、先程言えなかった言葉を口にする。

 

「それは、羨ましい限りで」

「なんでだよ?」

「魔法の使い方から戦い方まで、こちとら全部独りで解決してきたもので。

 駆け出しって事は、その人に戦い方とか教えてもらってたんだろ?」

「まあ、な」

「それは羨ましい。

 契約前も契約後も独りだったこちらからすれば、ね」

「自業自得だろう?」

「その通りだよ」

 

 二人同時に、りんごを食べ終わる頃、状況が動いた。

 

「撃破完了、か」

「そりゃよかった。

 確認できないから、状況がまったくわからん」

「…じゃ、なんで変身してんだよ、お前」

「変身したら、見えるかもしれないと、一縷の望みを賭けて」

「…………」

 

 双眼鏡の魔法解除と、変身解除が同時に行われた後、二人は移動を開始する。

 

「で、今日は何処に?」

「適当に」

「子供が野宿か……前みたいに補導されなきゃいいが」

「……この街には、雨風を凌ぐのに、丁度いい場所がある。

 今も放置されてるはずだから、そこを拠点にすりゃいい」

 

 言いながら、新たにりんごをかじる少女に、僅かな影が浮かぶ。

 もう一人は、それに気付かない振りをしながら、横に並んで歩き続ける。

 

「で、お前はどうするんだ?」

 

 りんごをかじりながら、少女はしばらくの間、行動を共にしている相手に問いかける。

 その外見から、表情が読み取りにくい、その相方は僅かに首を傾げながら、少女を見上げた。

 背は、少女の方が高い。

 

「どうするって?」

「あたしらが行動を共にする理由は?」

「利害の一致。

 互いに魔力消費を抑えながら、効率良く魔女を倒す為」

「そう。

 ついでに言えば、あたしらは“自分の為”に魔女を狩る」

「そりゃそうだ」

「だが、マミは違う。

 魔女の脅威から人々を守る為。

 そんな気概で魔女と戦ってる」

「利害が一致しねぇじゃねぇか」

「だろう?

 キュゥべえの言う通り、見滝原には魔女が多い。

 だが、この街は“マミのテリトリー”だ。

 チームを組んでるって事は、他二人も、マミに賛同してるんだろう」

SG(ソウルジェム)の浄化が追い付かず、実力を発揮出来ずに敗北する未来が、ありありと想像できるな」

「どうしてだ?」

「魔女の脅威から人々を守る。

 それは“GS(グリーフシード)を持たない使い魔”も、見つけたら倒すって事だろ?

 卵を産む前の鶏を絞めてたんじゃ、卵が足りなくなるのは道理じゃん」

 

 相方の考えも、理に適っている。

 だが、少女はその展望を否定する。

 

「生憎と、そこまでマミは弱くない。

 もしそうなら、あたしら以外の魔法少女が、この街を狙ってもおかしくはないしな」

「実力があるからこそ、ここを縄張りにしてるってわけか」

 

 いつしか、木々の生い茂る道を歩きながら、二人は今後の相談を続ける。

 

「そちらはどうするんだ?」

「あたしは、様子見だな。

 マミとは、見解の相違で別れたんだし、今更チーム組むってのも……」

「お師匠さんに反発したけど、実は素直に戻りたい不良弟子。

 プゲラwwwww」

「ぶっ飛ばすぞ、てめぇ」

「おぉ、怖い怖い」

「ったく…。

 で、お前はどうするんだよ?」

「現状維持、だな」

「現状維持?

 様子見じゃなく、か?」

 

 足を止め、少女は相手に問いかける。

 数歩先行した後、少女が足を止めていた事に気付いた相手は、少女に向き直りながら言った。

 

「現状維持。

 魔女の脅威から、人々を守る為に戦うってのは、良い事だとは思う。

 思うが、それを自分もするかどうかは、別問題だ」

 

 気持ちと現実。

 それを完全に、割り切って考えているからこその発言。

 

「誰かの為に魔法を使う人達に巻き込まれて、自分の為に魔法が使えなくなるのは、本末転倒だろ。

 自分の実力を、そこまで高く評価はしていないし、正直な話、見ず知らずの人が魔女や使い魔に殺されてようと、知ったこっちゃ無い」

 

 あくまでも、利己的に。

 そんな相手だからこそ、行動を共にしていたのだと、少女は実感する。

 実際、少女も無駄に使い魔と戦うつもりなど皆無だし、そういう意味でも、利害が一致している。

 

「だから、現状維持。

 仮に、二人とも向こうのチームに入ったとして、GS(グリーフシード)が充分に手に入る保障はない。

 先輩が向こうに入るならともかく、様子見の時点で、オレの選択肢は一つしかない。

 逆に聞くが、先輩と別れて向こうに協力する理由ってなんだ?」

 

 そう言って、微笑む相手の笑顔が。

 少女はあまり好きではない。

 

――――――泣くのを堪えて、無理矢理作っている。

 

 そんな、悲痛な印象しかないからだ。

 

「現状、先輩と別れるメリットは無いぞ、オレ」

 

 そう言って、再び歩き出す相手の背を見ながら、少女はりんごをかじる。

 合流できれば、戦いが楽になるのは間違いない。

 だが、思想の違いから別れた相手と、今更組めるかどうか。

 だからこそ、少女は“様子見”とした。

 今の“相棒”と組んでいた方が楽なのは、これまでの経験から解っているし、巴マミはともかく、他二人を少女は知らない。

 りんごをかじりながら、相手の横に並んだ少女は。

 

「まあ、この街は魔法少女にとって、魅力的な“狩場”なのは、間違いない。

 協力するにしろ、敵対するにしろ、向こうの情報を得てからだな」

「どんな情報だよ?」

「マミの実力は知ってる。

 重要なのは、弓を使うツインテールの魔法少女と、剣を使うショートカットの魔法少女だ」

 

 今後の展望を明確にしていく。

 “現状維持”を明言している以上、少女の行動に反対する理由は無い。

 

「重要な点は?」

 

 ならば、同じように今後の行動を明確にする必要がある。

 自身の気持ちを完全に割り切り、問題点を挙げ、考察する。

 

「あたしらの目的は?」

「ぐり~ふし~ど~」

「なんでそんな、気の抜けた声なんだよ……。

 まあいい。

 で、向こうの目的は?」

「……正義の味方ごっこ?」

「……辛辣な上に、何で疑問系なんだ……?

 まあ、協力するにしろ、敵対するにしろ、だ。

 この街が魅力的な狩場なのは間違いないだろう?」

「確かに、ね」

「だったら、敵対するにしろ、協力するにしろ。

 向こうの情報は、大いに越した事はないだろ?」

 

 そして、二人は同時に微笑む。

 口の端を持ち上げる、不敵な笑みを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな訳だ。

 頼むぜ、琢磨」

「あなたと敵対する意味も利益もないからな。

 そっちこそ、しっかりしてくれよ、佐倉先輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔人は、再び降り立つ。




次回予告

幕を開けるは、新たな世界

されど、繋がる、悲劇の世界





繋がるは、世界の定め

途切れるは、世界を生きる……




二十七章 魔法少女の男バージョン

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