無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「知らぬが仏、なんて言葉があるが。
 知らなかったですまない事の方が、圧倒的に多い気がする」


二十四章 めでたし、めでたし

SIDE 群雲琢磨

 

 自分が、どこまで走ったのか。

 気がつけばオレは、瓦礫の散乱する見滝原の何処かで。

 “彼女”を見上げていた。

 

 傍らには、茫然自失の暁美先輩が座り込んでいる。

 オレは今、彼女に掛けるべき言葉を持たない。

 

 何を言えってんだよ?

 

「あぁ……笑えないなぁ……」

 

 鹿目まどかが、魔女になった。

 それが現実。

 

「琢磨は本当に、僕の予想を裏切ってばかりだ」

 

 巴先輩の死を、先に見ていなかったら、きっと我を忘れていたんだろうな。

 ナマモノの存在を確認した瞬間、オレは左脇と右腰から銃を抜いていた。

 でも、撃たない。

 

「どんな予想だったんだ?」

 

 二丁の銃を、ナマモノに向けながら、オレは問いかけた。

 

「僕は“あそこにいる”のが、琢磨だと思っていたからさ」

 

 その言葉に、銃を向けたまま、視線だけを“彼女”に移す。

 巨大な体躯に、無数の足を地面に下ろしたような。

 明るく、優しかった面影が、まったく感じられない姿。

 

「答えてもらうぞ、キュゥべえ」

 

 視線を戻し、オレはキュゥべえに向き直る。

 せめて、知らなければ。

 変わらず、呆然としている暁美先輩をそのままに、オレとキュゥべえは会話を始めた。

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 会話をするのは、質問し、答えを聞き、受け入れ、割り切る為に、自らの感情を極限まで押さえ込んだ一人の魔人と。

 聞かれた事に、淡々と答える、感情の無い端末機。

 

「鹿目先輩が魔女になった。

 間違いないな?」

「それは僕よりも、実際に目の当たりにした君達の方が、理解しているんじゃないのかい?」

「何故だ?

 何故、魔法少女が魔女になる?」

SG(ソウルジェム)が穢れきったからさ。

 希望により生み出された魂が、絶望に染まる時。

 SG(ソウルジェム)GS(グリーフシード)へと姿を変える」

「魂の変異に合わせて、肉体も変化する。

 そう言う事か?」

「その解釈でいいだろうね」

 

群雲琢磨は思考する。

情報を得て、理解し、受け入れていく。

 

「何故だ?

 何故、SG(ソウルジェム)を生み出す必要があった?」

「ただの人間が、魔女と戦うなんで不可能さ。

 実際、普通の人間は、魔女の呪いに抗う術を持たない。

 そんな、壊れやすい人間の体のまま、魔女退治なんて出来ると思うのかい?」

「それとSG(ソウルジェム)が、どう繋がる?」

「理解が遅いね。

 人間は、生命が維持できなくなると、精神まで消滅してしまう。

 そうならないように、精神=魂を結晶化して、護り易くしてあげているんだ」

「だが、肉体が死んだら意味が無いだろう?」

「その認識は間違いだ。

 魂さえ無事ならば、肉体がどれだけ傷つこうと、死ぬ事は無いよ。

 頭を切り落とされようが、心臓を貫かれようが、魔力で修理する事で、また使えるようになる。

 SG(ソウルジェム)さえ無事であるならば、君達は無敵さ」

SG(ソウルジェム)が電気で、肉体は電球か?」

「おおむね、その表現でいいだろう。

 肉体は所詮、外付けのハードウェアでしかない。

 そして、本体である魂を、魔力を効率良く運用する為に、安全でコンパクトな姿に変える。

 それが、契約を取り結ぶ、僕の役目さ」

「どこが、安全だ?

 弱点を外に取り出す事の、どこが安全なんだ?」

「それは、認識の違いだよ。

 普通の人間は、肉体が死ぬ事で、精神も死ぬ。

 精神の本体を外に取り出せば、肉体が死んでも魔力で修理できる。

 それこそSG(ソウルジェム)を別の場所に隠して戦えば、魔力がある限り死ぬ事は無い。

 最も、離れすぎてしまうと、肉体を操作出来なくなってしまうけど」

「……そして、本体が穢れる事で魔法少女が魔女になる、か?」

「その通りさ」

「筋が通らない」

 

情報を吟味し、理解し、疑問点を割り出して、群雲は問う。

 

「オレ達は、ワルプルギスの夜を倒した。

 “絶望”する要素が無い」

「重要なのは“SG(ソウルジェム)が穢れきる”ことさ。

 魔力を使う事で、SG(ソウルジェム)が穢れる事は、知っているはずだろう?」

「何故だ?

 何故、魔力を使う事で、SG(ソウルジェム)が穢れていく?」

「魔力とはすなわち“人としての君たちの命”だ。

 だからこそ穢れきる事で“相応しい形(グリーフシード)”へと変化する。

 そして肉体も、それに“相応しい形(魔女)”に変化する」

「……解らないな」

「なにがだい?」

「お前の目的が、だ。

 魔女を倒す為か?

 魔法少女を産む為か?

 お前が“SG(ソウルジェム)を生み出しさえしなければ”どちらも存在しなかったはずだ。

 お前は、何の為にここにいる?」

「宇宙の延命の為さ」

「…は?」

「解りやすく説明するなら“生まれるエネルギー”より“使うエネルギー”の方が多いのが、この世界だ。

 宇宙は確実に、その寿命を減らしている。

 僕たちの種族は、それを解消する為に、あるテクノロジーを生み出した」

「それが“魔法少女と魔女”のシステムか?」

「いや、違う。

 感情をエネルギーに変換するシステムだ。

 それは、一人の人間が生まれ、成長する以上のエネルギーを得られる。

 つまり“使うエネルギー”より“生まれるエネルギー”の方が多くなる訳さ」

「それと、魔法少女がどう繋がる?」

「調査の結果、現状最も効率がいいのは“第二次成長期の少女の希望と絶望の相転移”さ」

「……それはつまり“希望(ソウルジェム)絶望(グリーフシード)に変わる瞬間、か?」

「その通り。

 そのエネルギー回収こそが、僕たち“孵卵器(インキュベーター)”の役割さ」

「なるほど、解らないはずだ。

 お前の目的は魔女を倒す事でも、魔法少女を産む事でもない。

 “魔女を産む為”だったんだからな」

「それは違うよ。

 僕たちの目的はあくまでも“エネルギーの回収”だ。

 “魔法少女のシステム”は、効率がいいから取っているだけの手段に過ぎない」

「効率がいいから、希望を叶えて魔法少女にし、絶望を与えて魔女にするって訳か」

「誤解があるようだね。

 僕らは進んで絶望を与えている訳じゃない」

「それは、認識の違いだ。

 “魔法少女になる=希望が絶望に変わった時のエネルギー発生器”としてしか見ていない時点で、お前が全ての“黒幕”だ」

「でも、戦いの運命を受け入れてまで叶えたい願いを、叶えてあげているんだ。

 充分、歩み寄っていると思うけどね」

「……そうだな。

 鹿目先輩も、希望を叶えたから魔法少女になった。

 鹿目先輩が魔女になったから、お前もエネルギーの回収が出来た。

 どちらの願いも達成されて、めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて言えるか馬鹿やろぉおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 呆然と、その会話を聞いていた。

 淡々と会話をする、群雲くんとキュゥべえ。

 魔法少女の真実と、インキュベーターの目的。

 

 私が取り乱さなかったのは、群雲くんのおかげだ。

 必死に感情を押し殺し、必要な情報を得ようとしている群雲くん。

 銃を握る両手が、時折震え、力が込められているのを見ていたから。

 

 

 

 

 

 でも、群雲くんも限界だったんだろう。

 叫び声と共に、両手の銃をキュゥべえに向けて、引き金を引いた。

 何度も、何度も。

 弾丸がキュゥべえに命中しても。

 何度も、何度も。

 全ての弾を撃ち終わり、キュゥべえを殺した後も。

 何度も、何度も。

 もう、弾が出るはずの無い銃の引き金を。

 何度も、何度も。

 

 しばらくして、群雲くんが両膝を付いた。

 両手の銃を握ったまま、空を見上げて

 

「……マジ、笑えねぇ……」

 

 一言、呟いた。

 その一言に、群雲くんの全てが集約されている気がした。

 

 

 

 

 

 ……そうだ。

 こんな結末の為に、私は過去に戻った訳じゃない。

 皆、キュゥべえに騙されてる。

 私は、時間を戻し、過去に戻り、もう一度……!

 

「……暁美先輩?」

 

 盾に手を掛けた私に気付き、群雲くんが声を掛けてきた。

 

「ごめんなさい……。

 私、戻るわ」

「……何処に?」

「……過去に……」

「………………は?」

 

 群雲くんの目が、点になった。

 そういえば、私の魔法の事、説明してなかったわね。

 

「私は……未来から来たの」




次回予告

道はそれぞれ





一人は、魔女との戦いで、歩く事を止めた





一人は、魔女との戦いの後、違う道に立たされた





一人は、目的地が違う為、来た道を引き返した





一人は………………















第一幕 スベテを憎んだFirst Night 閉幕

二十五章 最後の嫌がらせ

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