無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「ヤンバルクイナの夜?」
「ワルプルギス!
 ルしか、合ってない!」
「初対面の時に比べて、暁美先輩も打ち解けてきたねぇ」
「むしろ、群雲くんがはっちゃけ過ぎな気も……」


十四章 笑ってるんだ

SIDE 群雲琢磨

 

 見滝原に来て、2週間ほど経った頃。

 深夜の公園で、オレと暁美先輩の二人は、会話をしていた。

 

 

 

 この2週間は、おおむね充実した時間だったと言える。

 無論、気になる点が無かった訳でもない。

 

1.魔法

 ……魔力で弾を生成できれば、楽だったのに……。

 巴先輩のマスケット銃や、鹿目先輩の矢は、魔力により生成されたもの。

 同じように、弾薬を生成出来れば、リロードの必要なくならね?

 ……そう考えた時期が、オレにもありました……。

 結論から言いましょう。

 

 

 

 

 

無☆理

 

 

 

 

 

 どうやらオレには、生成系の才能が無いらしい。

 ならば、巴先輩の様に、弾丸に魔力付加を……とも考えましたが。

 

 

 

 

 

 

無\(^o^)/理

 

 

 

 

 

 

 試しに、手の平に弾丸を乗せて、魔力を込めようとしました。

 が、どうやらオレの魔力は“外”に出る際に、電気に強制変換されるらしく。

 

 唐突に、上空に向かって弾が飛んでいくという結果になりました。イミフ!

 

 ちなみにその日、謎の光が地上から上空に昇っていったと、街頭ニュースで言っていた。

 

 

 

 結論。

 ……オレ、もしかしたら才能がないのかもしれん……。

 

 

 

2.魔女

 魔女が、どこから来て、どこへ行くのか。

 そういう事が解った訳ではない。

 解ったのは、異常性。

 この“見滝原”の、だ。

 

 三人の先輩と一緒に、オレはこの街で、魔女を退治してきた。

 そして解ったのは。

 

 この街の“魔女の多さ”だ。

 

 魔女狩りの為に、放浪していたオレだからこそ、分かる。

 

 見滝原という街は近年、目覚しい発展を遂げてきた。

 ……だからこそ、オレが人知れず過ごしやすい、工事中のビルとかがあるのだが。

 急速な発展は、それに伴い、歪みも生み易い。

 その歪みが、呪いに生きる魔女を引き寄せている。

 ナマモノの意見を統合すると、こんな感じだ。

 事実、オレも魔女の気配に導かれて、この街を訪れたのだから。

 

 三人の魔法少女がこの街にいる事で、他の魔法少女がこの町に現れる事は稀だ。

 当然と言えば、当然。

 魔法少女が多いと言う事は、その分“取り分”が減ることを意味する。

 三人の魔法少女(+オレ)を排除しなければ、GS(グリーフシード)を独り占めできない。

 その上で、一人で魔女を倒さなければならないのだから、リスクとリターンが釣り合わない。

 

 ……オレとしては、これ以上女の子が増えないなら、それでいい程度の認識だが。

 

 

 

 

 なんにしても、魔女の多さ。

 これに違和感を覚えたので、オレは帰り道で、それを暁美先輩に話した。

 ちなみに、巴先輩と鹿目先輩はすでに帰宅済み。

 そして、冒頭へと繋がる。

 

 

 

 

 

 

 

「最強の魔女……ねぇ…………」

 

 中指で眼鏡を押し上げながら、オレは思考する。

 

「他の魔女のように、結界に隠れる必要が無い。

 でも、素質無き者には、魔女を認識出来ないのだから、それは別の大事件として記録に残る、か」

 

 いや、とんでもないな。

 歴史に残っている大災害のいくつかは、その魔女によるものなのかもしれないとか。

 

「笑えないってレベルじゃねぇな、それ」

 

 オレが浮かべるのは、苦笑。

 いや、もう、ぶっちゃけ。

 それしか出来ない。

 そんなオレを、暁美先輩は真剣な眼差しで見詰めている。

 

「巴さんも鹿目さんも、この街を守る為に、ワルプルギスの夜と戦う。

 私は、そんな二人の力になりたくて、魔法少女になったの」

 

 改めて、認識する。

 見滝原の魔法少女は……優しすぎるでしょ。

 

「群雲くんは、この街の人じゃない。

 鹿目さんみたいに、この街に家族がいるわけでも。

 巴さんみたいに、この街を守るわけでも。

 私みたいに、友達の力になるわけでも」

 

 ……見透かされてるな。

 まあ、最初に公言してたからな。

 

 

 

オレは何時だって“オレの為だけ”に、魔法を使う。

 

 

 

「だから、強要は出来ない」

 

 やっぱり……優しいなぁ。

 そんな感想を、隅に寄せ、オレは思考を続ける。

 

 はっきり言おう。

 今、暁美先輩がオレに、この情報を教えるメリットは薄い。

 このまま、何も知らずにオレがこの街にいたならば、必然的にワルプルギスの夜と交戦したはずだ。

 理由は解らないが、暁美先輩はワルプルギスの夜の強さをある程度理解しているのだろう。

 ……そして、おそらく“勝算は低い”と思われる。

 無論、必ず負けると決まった訳でもないし、他の魔女との戦いにも、同じ事が言える。

 魔女との戦いは、命懸けなのだ。ワルプルギスの夜に限った事ではない。

 が、オレはあくまでも“一時的”に、この街にいるのに過ぎず。

 ……見滝原を捨てて、逃げ出す事だって容易なのだ。

 暁美先輩の危惧するところはここだ。

 戦闘中の戦力低下ほど、厄介なトラブルは存在しない。

 

「この辺に、自販機ってある?」

「……え?」

 

 オレはとりあえず、飲み物を調達する事にする。

 

「少し……長めの話をしようか」

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 公園のベンチで二人。

 群雲くんと私は座っていた。

 手には、群雲くんが買ってきたココアがある。

 

「話をしよう」

 

 群雲くんは私にくれたものと同じココアを一口飲むと、ゆっくりと話し始めた。

 

「あれは今から36万……いや、1万4千年前だったか」

「なんの話!?」

 

 群雲くんは、唐突によく解らない事を言う。

 

「冗談は、これくらいにして……」

「私は最初から真面目に話をしてほしいんだけど……」

 

 私の呟きを無視して、群雲くんは眼鏡を外して、それをポケットに入れる。

 そして、自分の前髪をいじりながら、感情の篭らない声で言った。

 

「精神的ストレスなんだそうだ」

 

 一瞬、何の話かわからなかった。

 

「年齢2桁前に、総白髪とか、異常な話だとは思うけどね」

 

 それが、群雲くんの髪の話だと気付き、私は悟った。

 これからの話は……。

 

「栄養が偏っていたのも、要因の一つだったらしいけど」

 

 群雲くんの……過去の話だ。

 

「両親は、良い人達だったんだと思うよ。

 今では、顔も、名前も、ぬくもりも思い出せないけどね」

 

 そう言って、彼は笑う。

 ――――――私が、からっぽだと感じる、いつもの笑みだ。

 

「だが同時に、オレからすれば最も憎むべき存在だ」

 

 でも、今回は違った。

 

「両親の死。

 オレの生き地獄は、そこから始まった」

 

 前髪をいじっているのと、眼鏡を外しているから。

 

「入学式で早退したから、それをネタにからかわれ」

 

 普段は見えない、群雲くんの表情が見えた。

 

「オレが反撃しなかったから、調子に乗って」

 

 変身中は、髪が僅かに持ち上がっているし、眼鏡もしていない。

 

「それが、いじめに発展するのに、さほど時間はかからなかったよ」

 

 でも、戦闘中とは違う。

 

「そして、大人はこう言うんだ」

 

 今の彼は“魔人群雲”ではなく。

 

「いじめられる方にも、問題があるんだよってな」

 

 12歳の少年“群雲琢磨”なんだ。

 

 

 

 

SIDE キュゥべえ

 

 公園での、琢磨の独白。

 それを聞いているのは、ほむらと。

 

「……そんな……」

「ひどい話ね……」

 

 少し離れた所から、僕のテレパシーを経由して聞いている、マミとまどかだった。

 三人の絶望の切っ掛けにしようと、琢磨の動向を伺ってみて正解だった。

 そんな僕達の事等知りもせず、会話は続いている。

 

「両親は、オレを育てる為に貯金をしてた。

 莫大な遺産って訳じゃない。

 実際、今はもう10分の1程度しか、残ってないしね。

 まあ、オレが放浪の為に使い潰してる訳だが」

 

 琢磨は、鷹揚の無い声で話し続ける。

 性格上、切り替えているのだろう。

 辛い話ではない、と。

 

「親戚は、そんな僅かなお金目当てでしか、オレを見ていなかった。

 もう、大変だったね。

 味方がいないってレベルじゃない。

 自分以外が、全て敵だったよ」

「ところが、不思議なものでね。

 お金さえ払っていれば、小学校に通い続ける事は可能だったんだ。

 最終的に、自分の保護者になりやがった奴は、印鑑とか通帳とかを、しつこく聞いてきたけど。」

「カードさえあれば、お金を下ろすだけなら可能だったから。

 両方とも、全額引き出した後に、ゴミ収集車に放り込んでやったよ。

 ざまぁwwwww」

「結局、半年経たずに、髪の毛の色が抜け落ちた。

 保護者といっても、一緒に生活していた訳じゃない。

 天涯孤独になった子供を引き取るなんて、書類仕事で事足りるんだ。

 実際オレは、今の書類上の保護者の名前なんて、知らないしな」

 

 髪をいじるのを止めて、琢磨は立ち上がり、持っていた飲み物を飲み干す。

 そのまま数歩進んで、座ったままのほむらに向き直った。

 

「そんなオレは、常々疑問に思っている事がある。

 髪の“色”が抜け落ちるのと、髪の“毛”が抜け落ちるのと。

 果たして、どちらが不幸だったのだろう?」

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 私は、彼の言葉に顔を上げた。

 彼の話は、荒唐無稽だ。

 でも、それが嘘じゃない事は、悲しくなるほど痛感していた。

 ところが。

 ところが、だ。

 立ち上がって、口にした疑問が。

 あまりにも、どうでもいい気がして。

 反射的に、顔を上げ、文句の一つでも言ってやろうと思った。

 この状況で、ふざけるなんで、やめて、と。

 でも……。

 

「まあ、どちらにしても、結果は変わらなかっただろうね」

 

 彼の言葉に、私は自分の言葉を言う事が出来なかった。

 

「オレにとっては“いじめられる要素が増えた”だけだし」

 

 ………………え?

 

「いじめられっこが、自分からネタを提供したようなものさ。

 白髪になろうと、ハゲになろうと、ね」

 

 

 

悪循環(全てが悪い方に)

 

 

 

 群雲くんの人生を言い表すなら、この言葉が最適な気がした。

 

「結局、一日たりとも、いじめられなかった日はなかったよ。

 家に帰っても、誰かがいるわけでもない。

 たまに来る大人は、お金目当ての親戚か、世間体目当ての先生ぐらい。

 あ、でもたまに宗教勧誘とか来てたな。

 完 全 論 破 して、泣かした事もある。

 ……あれ? それを駆使すれば、いじめっこに復讐できたんじゃね?」

 

 そう言って、彼は再び笑う。

 そして、私は理解した。

 何故、群雲くんを“解らない子”だと思っていたのか。

 

「まあ、それはさておき。

 そんなオレが偶然、ナマモノと契約する事になって、魔人になった訳だけど」

 

 笑ってるんだ。

 照れたりもするし、戦いの時は真剣な顔にもなる。

 でも、笑ってるんだ。

 

 だけど、いつも笑っていないんだ。

 目が完全に、笑っていないんだ。

 

 

 

 

 

 ――――――心が、笑っていないんだ。

 

 

 

 

 

「まあ、契約したおかげでオレh「どうして?」……?」

 

 彼の言葉を遮り、私は言葉を投げかける。

 

「どうして、笑っているの?」

 

 溢れてきた涙を拭い、私は投げかける。

 

「どうして、そんな話をしながら。

 そんな風に笑えるの!?」

 

 答えを聞きたかった。

 私が理解してしまった事が、本当かどうか。

 群雲くんの口から――――――否定の言葉を聞きたかった。

 

「どうして、か……」

 

 苦笑を浮かべながら、群雲くんは言った。

 

「解りやすく、表現するなら」

 

 その言葉は、私の理解した事と。

 

「狂ってるんだろうな、オレ」

 

 ――――――――――完全に一致した。




次回予告
光があれば、闇がある
表があれば、裏がある




だが、それらは見方一つで
善にもなるし、悪にもなる






そして、それら全てが
正しいとも言えるし、正しくないとも言える











十五章 世界は、妄想と狂気と欲望で出来ている

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