無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「警告しておくよ」
「なんだよ、ナマモノ」
「琢磨じゃなくて、読んでくれている人にさ」
「いきなりメタかった!?」
「今回はTIPSはないから、ハジヶえの出番もないよ」
「しかも、割とどうでも良かったっ!?」


百四十五章 約束が違う

SIDE out

 

 マンションの一室。三角テーブルの前。絶望に翻弄される魔法少女が一人。絶望を正面から殴り飛ばす魔人が一人。

 

「【生きていれば】【死ぬ】【当然の摂理】」

 

 言葉を紡ぐのは魔人。心があるのかないのか。自分自身ですら、希薄となりつつある少年。

 

「【死】【それは不可避】【人間も】【魔人も】【魔法少女も】【魔女も】【魔獣も】」

 

 自分の事は、自分がよく解っている。それを言う奴ほど【自分の事が理解出来ていない】のだ。

 

「【不幸な事に】【死には】【色々な形がある】」

 

 だからこそ。群雲琢磨は【括弧】を付ける。

 

「【魔女化】【これもまた】【死の形】」

 

 対し、巴マミは翻弄され続けている。色々なモノに。

 それをきっと、人は【運命】と呼ぶのだろう。

 

「【だからこそ】【生にもまた】【色々な形があるのさ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 私は、なにをしていたのだろう? 私は、なにをしてきたのだろう?

 そんな問い掛けに、きっと意味なんて無い。

 目の前の少年なら、きっと言うんでしょうね。

 

 【知ったこっちゃない】って。

 

「【好きなように生きていいんだ】【実際オレは】【自分の為に生きている】」

「【好きなように生きていいんだ】【巴先輩がどう生きても】【誰も咎めたりはしない】」

「【罪なんて】【所詮は】【知らない誰かの決めた事】」

「【好きに生きられない清らかな生】【そんなモノよりもオレは】【罪を背負ってでも好きなように生きる】」

「【オレは】【群雲琢磨を】【一歩も譲らない】」

 

 それは、とても危険な思想。琢磨君はそれを理解した上で、その道を往く。その道で逝く。

 とても、私には真似出来そうに無い。

 

「魔法少女が魔女に成るなら、皆死ぬしかないの……?」

「【どうせ死ぬなら】【生まれてこなくてもいい】【そう言うのかい?】」

 

 価値観の違い。考え方の違い。

 私と琢磨君の、圧倒的な【世界】の違い。

 

「【魔女に成りたくない】【だから】【魔女に成る前に死ぬ】【それもまた】【形の一つ】」

「【魔法少女だけど】【戦いたくないなら】【戦わなくてもいい】【それもまた】【形の一つ】」

 

 オレ達は自由だ。琢磨君はそう言っている。

 以前にも、言われていたわ。

 “魔法少女である事に縛られている”って。

 でも、私には出来ない。そんな【生き方】なんて、出来ない。

 

「琢磨君は……どうするの?」

「【今まで通り】【変わらないよ】【オレは】【化け物になるのなら】【化け物になるまで】【群雲琢磨を続けるさ】」

 

 わかった。わかってしまった。ようやく、理解できた。

 限りなく、未来に絶望した、前向きな生き方。

 化け物になるという【未来を無視した】生き方。

 化け物になるという【事実を受け入れた】生き方。

 化け物になるという【真実を諦めた】生き方。

 それが、群雲琢磨なんだ。

 

「私には、無理よ……」

 

 魔女になんてなりたくない。化け物になんかなりなくない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理する必要なんてない」

 

 静かで、素直な声に、俯きかけた顔を上げる。

 そこにいるのは、白髪の少年。私と共に過ごしてきた……【共に生きてきた】少年。

 

「正直、先輩に負担かけてるかなぁ~とか、思った事がないどころか有り過ぎるオレだけど」

 

 右目を白い眼帯で覆い隠す、その少年は。

 

「無理して潰れる先輩とか、笑えないモノなんて見たくないさ」

 

 自分の為と言いながらも、どこか優しい少年で。

 

「良いんだよ、先輩。

 オレが自分中心に好き勝手してるんだから。

 マミさんが、我侭言ったって良いんだ」

 

 魔法少女になった私が手に入れた。

 

「だってオレ達は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原の銃闘士           なんだから。

 見滝原で手にした家族        なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 三角テーブルの中心。そこに置かれた巴マミの魂の結晶(ソウルジェム)は、半分以上が黒く穢れていた。

 

「戦いたくないの」

 

 小型のマスケット。その銃口を向けながら、巴マミは静かに呟く。

 

「魔女だって、殺したくない。

 元魔法少女だって知ってしまった以上、もう私には魔女を殺す事なんて出来ない」

 

 震える銃口を両手で押さえながら。その瞳に涙を浮かべながら。

 

「そして、魔女にもなりたくないの。

 これ以上、私は誰かを不幸にしたくないの」

 

 出した結論は――――――――――自殺。

 それもまた【形の一つ】なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前に、何かの本で読んだんだけど」

 

 対して、群雲のとった行動は。

 

「自殺が最も【罪深い】らしいよ」

 

 愛用するリボルバー拳銃(シングル・アクション・アーミー)の銃口を、マミのソウルジェム()に向ける事だった。

 

「琢磨……君?」

 

 予想していなかった群雲の行動に驚愕するマミ。自らが行おうとする行動に、一切の躊躇いを見せないのは、その異常さ故か。

 

「神に与えられた命を自ら捨てる事は、神の意思に叛逆する事だとか。

 まあ、無神論者なオレに言わせれば【知ったこっちゃない】わけだが」

 

 そもそも【そういった本を読む切っ掛け】が【初恋の人】だった辺りが、この少年であるが。

 

「ま、単純にオレが笑えないってだけの【我侭】だよ」

 

 目の前で死なれるのなら、自らの手で――――――――

 確実に、群雲琢磨の“留め金”は外れかけていた。

 

 銃口を下ろすマミに対し、撃鉄(ハンマー)を下ろす群雲。

 

 しかし、しばらく待っても引き金(トリガー)が引かれない。

 やはり自分で……と、マミが考え出した頃、群雲はようやく口を開いた。

 

「うん。

 言うべきかどうか悩んだけど。

 これが“最後”なんだから。

 やっぱり、言う事にするよ」

 

 マミの魂(ソウルジェム)に向けていた視線を、マミの顔(抜け殻)へ移して、群雲は告げる。

 

「オレは、巴先輩が【魔法少女になった事】に感謝してる」

 

 完全に、予想外だったその言葉。群雲琢磨はいつだって“普通の思考”の斜め上をいく。

 

「巴先輩が魔法少女じゃなかったら。

 オレ達の道は、交わる事はなかった」

 

 大前提として、群雲琢磨が魔人に“ならなかった”としたら。

 見滝原に来る事はなかった。縁も所縁も無い場所なのだから、当然。

 そして、巴マミが魔法少女じゃなかったら。

 魔人である群雲と、接触する可能性は限りなく低かったであろう。

 事実、自分中心に生きる群雲に“孵卵器と関係を持つモノ”以外との接点は皆無なのだ。

 

「辛い事、苦しい事、悲しい事。

 挙句の果てにはこの終わり方。

 それら全てを差し引いてでも。

 オレは、巴先輩と会い、過ごしてきた今日までを、後悔しない」

 

 前向きだ。未来を見ないからこそ。群雲琢磨は前向きなのだ。

 

「ありがとう、巴マミ。

 貴女と逢えたから。

 オレはまだ、魔人を続けていられるよ」

 

 最後まで告げて、群雲は視線をSG(ソウルジェム)に戻す。

 最後の言葉は、巴マミの全てを肯定した。それに満足したマミは、瞳を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE (?)(?)(?)(?)(?)(?)(?)(?)(?)

 

 全ての作業を終えたオレは、ベランダに出て一服。

 吐いた煙がゆっくりと消えていくのを眺める。

 

「約束が違うんじゃないかな?」

 

 右肩に乗るナマモノが、おかしな事を言う。

 

「【うん?】【何の事だ?】」

「僕らは“取引”していたはずだ。

 琢磨も、当然覚えているだろう?」

「【取引】【()()()の?】」

「最初のだよ。

 僕が“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の知名度を上げる”ように動き。

 琢磨は“SG(ソウルジェム)の破壊を避ける”という取引の事さ」

「【ああ】【それか】」

 

 確かに、そういう取引はしてる。魔法少女システムを知るからこそ“他の魔法少女を人質に、オレはナマモノを一点だけ有利に動かせる”って寸法だ。

 

「【約束が違う】【その認識は間違いだ】」

「どういうことだい?」

「【らしくないなナマモノ】【契約を信条とする】【お前らしくもない】」

「説明してくれるかい?」

「【取引内容は】【正確に】【ってことだよ】」

 

 くだらない言葉遊び。オレはそこに“保険”をかけている。

 

「【オレはSG(ソウルジェム)の破壊を“()()”避ける】【そうだったはずだろう?】」

 

 そう。

 “絶対”ではない。ざまぁwww

 

「嘘を付いていたのかい?」

「【オレに】【お前に対して嘘を付く】【そんな理由は無いよ】」

 

 自分の為に生きるオレだ。SG(ソウルジェム)の破壊以外に“自分の為になる道が無い”のなら。

 オレは躊躇いはしない。だからこその“保険”だ。

 

「【巴先輩の事を言ってるんだろうが】【オレが手を下さなかったら】【先輩は自分でSG(ソウルジェム)を破壊していた】【それをそのまま放置する方が】【約束が違うだろう?】【だからオレが破壊する】【その流れにして】【時間を稼いだのさ】」

 

 ナマモノに対して【用意していた言葉】を紡ぐ。

 

「【時間稼ぎ】【当然限界はある】【結局】【オレが破壊する事になったが】【極力避けた結果】【避けきれなかった】【それだけのことさ】」

「やれやれ。

 そういう事にしておくよ」

 

 あら意外。もう少しごねるかと思ったのに。

 あぁ、感情無いんだったな、ナマモノ。

 ごねるなんて、出来るはずも無いか。

 

「【まあ】【これ以上】【見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の知名度を】【上げて貰う必要も】【なくなったけどな】」

 

 さてさて。カードが戻ってきたぞ。ナマモノをどう酷使してやろうか。

 ま、それより前にする事があるんだけど。

 

「【それで】【もう一つの取引】【どうなった?】」

「こちらは滞りなく。

 後は、琢磨次第だよ」

「【パーフェクトだナマモノ】【問題なくこなしてやるよ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日。見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)は【独り】になった。




次回予告

頂点に行ったのならば

後は、墜ちるだけ



奈落の底に辿り着いたなら

後は、昇るだけ















そこは、本当に頂点で

そこは、本当に底辺かい?

百四十六章 取引内容

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