「どんな魔法を使えるようになるのか、僕達では介入できないからね」
「だからこそ、僕達は言うのさ」
「魔法少女は、条理を覆す存在なのだと」
SIDE 群雲琢磨
何度目かなんて、数えてはいない。オレの日本刀と【彼女】の長槍が衝突した際の火花を見ながら、不可思議な感覚を味わう。
嬉しいんだろうか? 悲しいんだろうか? 充実しているんだろうか? 虚しいのだろうか?
でも、間違いなく不幸ではない。
直前の会話が、こんなにも【魔女狩り】の色を変える。
直前の会話が、こんなにも【殺し合い】を【愛し合い】に変える。
「狂いすぎだろ、やっぱり……」
突いてきた槍を、鞘で往なしながら体を捻って回避し、オレは間合いを開ける為に後退する。
対する【彼女】も、馬を後ろに下がらせて、間合いをとる。
さて、どうしたものか? 近接戦闘ではどうやら【彼女】の方が上。こっちが<
ならば、遠距離戦。
と、普段のオレなら考えるんだが。
「銃を使うのは……違うよなぁ」
ただの、自己満足。それだけの事。でも、重要な事。
まあ『
もちろん、
しかし、どうやら【時間切れ】らしい。
「琢磨君!!」
遠くから、こちらに向かって走ってくる巴先輩を見た。
その足元には、変わらぬ表情のナマモノもいる。
やってくれやがったな、インキュベーター……。
だが、ここで誰もが予期しなかった事が起きる。巴先輩をこれ以上進ませないように、赤色の結界が行く手を阻んだからだ。
「これは……っ!?」
予想外の『魔法』に、巴先輩が結界の前で視線を巡らす。程なく、この魔法を使った【はず】の魔法少女を見つけて。
「佐倉さんっ!! ゆまちゃん!!」
結界の向こう側。すなわち『こちら側』で並んで横になっている二人に呼びかける。
「無駄だよ、マミ」
結界の前に佇んだナマモノが、感情のあるはずの無い声で、無感情な言葉を発する。
「ゆまは既に活動を停止しているし、杏子は“そっちじゃない”からね」
「どういう……こと……?」
足元のナマモノに対する、巴先輩の問い掛け。
あぁ……こりゃマズイな。
「言っただろう?
『杏子やゆまでは、琢磨を助けられそうも無い』とね。
ゆまは既に“死んでいる”から、無理だし。
杏子は“琢磨と戦っている”んだから」
その言葉に込められた意味。ゆっくりと噛み締めたんだろう、巴先輩が青ざめた表情で【彼女】を見る。
そんな【彼女】は、巴先輩の妨害を阻止出来た事に満足したのか、槍を回転させながらオレに向き直る。
「うそ……よね……?」
「僕には、嘘を付く機能なんて無いよ」
平然と言ってのけるナマモノを、とりあえずぶち殺してやりたいが【彼女】の結界がそれを許してはくれない。
本当に、まいったねぇ。
これを切っ掛けに“見滝原の
まあ、ナマモノの目的は“エネルギー回収”だからな。好機と言えるか。
知ったこっちゃ無いがね。
今のオレには、もっと【重要】な事がある。
改めて、向き直った【彼女】の周りに、霧が発生していた。
なにか、仕掛けてくるか?
SIDE out
霧に包まれている『オフィーリア』に対し、群雲は右足を前に出した状態で腰を落とし、両手を顔の高さで広げるように構えた。左手に持つ鞘ですら“切り裂ける武器”である為、実質的な逆手二刀流である。
戦いは、ひとつ上のステップへ。
それを証明するかのように、霧が晴れた先で『オフィーリア』は
「あ……」
それを見たマミは『オフィーリア』が“誰なのか”を理解してしまう。
それは、彼女が唯一名付けた魔法。
それは、彼女に唯一名付けた魔法。
対し、群雲は……焦っていた。どれが本体か解らない。
戦闘スタイルが“高速度を利用して、見てから動く”タイプの群雲にとって“見ているものが本物かどうか解らない”状態は、まさに最善手と言えるのだ。
『オフィーリア』の一体が、馬を駆り、間合いを詰める。
本物か? 偽者か? 幻か? 実体か?
判断しきれない群雲がとる行動は、結局のところ一つしかない。
迎え撃つだけである。
繰り出される長槍の突きを、群雲は両手の武器で弾きながら、自らも飛び上がる。
そのまま、槍の上に着地した群雲は、間髪入れずに駆け上がり、その間合いを一気に詰める。
「はあぁぁぁりゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
逆手持ちであるが故、横に回転しながら『オフィーリア』を切り裂く。
しかし、手応えはまったく無かった。群雲の視線の先、霧となって消えていく『オフィーリア』が、笑っているような気がした。
「幻、か」
本体だろうと幻影だろうと。判断出来ない以上、全力で戦わなければならない。群雲は次の『オフィーリア』に狙いを定めて……
(もう一人は?)
捕捉するよりも“もう一人”の方が速かった。群雲に切り裂かれ、霧となって消えた幻影の影に隠れ、完全に死角となった場所から、長槍が振るわれる。下から上へ、振り上げるように。
それは、群雲の左腕を的確に斬り飛ばした。
「!?」
痛覚は遮断している。しかしそのままでいいはずも無い。右手に持つ日本刀と入れ替える形でナイフを取り出し、ノーモーションで飛ばす。
狙いは、斬り飛ばされた左腕。的確にナイフが刺さるのと同時、群雲は再び日本刀を手に、腕を斬り飛ばしてくれた『オフィーリア』に迫る。
振り上げた状態である上に、長槍である。間合いを詰めれば群雲の方が速い。
胸元あたりに拳を叩き込み、そのまま上へ切り上げる。縦に割れた蝋燭は、霧に包まれて消える。
「こっちもかっ!?」
最後に残った『本体』が、幻影が切り裂かれている隙に間合いを詰めて、反転。馬の後ろ足が群雲を蹴り飛ばした。
衝撃を和らげる事すら出来ず、群雲は無様に吹き飛び、地面を転がる。
(肉体は道具。壊れたら直せばいい)
転がる勢いのまま、群雲は無理矢理両足で飛び上がり、滑りながらも着地。
「
「斬り飛ばされても、鞘を離さなかった、オレの左腕グッジョブ」
言いながら、結合部を押し付けて修理を開始。生理的に不快な粘着音を響かせながら、離れた体の一部が元に戻る。
(肉体は道具。道具は疲れたりしない)
左腕に刺さっているナイフを抜き、傍らに放り投げた群雲は、修理状態を確認しながら、視線を向ける。
「まいったねぇ」
そこには『三体のオフィーリア』がいた。
幻影魔法。それは、魔人群雲琢磨を攻略する上での最善手。
群雲にとっての『天敵』が【彼女】なのは、はたして運命の悪戯か。
攻略の糸口が見えないまま、それでも群雲は、先程と同じように構えた。
(<
今のこの時間は【二人で共有】しなきゃ、意味は無いからな)
愛し合いは続く。その戦局は『オフィーリア』に大きく傾いていた。
次回予告
苦戦しない筈がない
魔法少女と魔人
その力の差は歴然だ
孵卵器が、そう造ったのだから
百四十二章 オレには見えている
TIPS 群雲琢磨の勘違い
やぁみんな!! 元気にケーヤクしてる? ボク、キュゥべえだよ!!
ものすごく久しぶりの“TIPS”は、ボクが進行していくからね!!
今回は、みんなのマスコットであるボクが発見した、たくちゃんの矛盾点を教えてあげるよ!!
実は、たくちゃんは自分の能力をかなり勘違いしているようなんだよね
以前の感想でも指摘されていた事だし、今回はそこを紐解いてみよう!!
幕間から抜粋して、おかしな点を【】してみたよ
Lv.1 電気操作<Electrical Communication>
電撃能力
【固有武器(両手袋と両ブーツ)を媒体として発動可能な魔法】
拳に纏う事で、攻撃力を高めたり、両足神経に流し込み、通常以上のスピードで走る事が出来るようになる
主力魔法であり、発展させ、開発した技も多い
電気の色は黒
最近になって、思考をフル回転させている時に、無意識に使用している事が発覚
それを足がかりに、Lv2が完成した
独自の異常な修行法で、最近変身せずに使えるようになりつつあるが、まだ未完全
気付いたかな?
固有武器の能力であるなら、未変身時に使えるはずがないんだよ
作中でも時々、電子タバコを咥えたまま作動させたりしているからね
思考をフル回転させている時に発動するのなら、固有武器は必要じゃないよね
さて、ここでボクは仮説を立てる事に成功したよ!!
電気ウナギって知っているかい?
“発電板”という細胞で、電気を発生させる生き物だね
たくちゃんが最初に発動させたのは“両足の加速”だった
それは“脳が認識出来ないほどの加速”だ
たくちゃんはそれを“両足のブーツが発電した事によるもの”だと誤認したわけだね
それがブーツではなく“たくちゃん自身の細胞が起こしたもの”だと仮定すれば
未変身時でも使用可能な事に、説明がつくのさ
電気を発生させているのが“細胞”なら
それを勘違いしたまま、技能を発展させてしまうのだから、たくちゃんってば
い・ぶ・つ❤
さて、そうなると【固有装備が両手袋とブーツ】である事すらも疑問視できるよね
もちろん、みんな大好きキュゥべえは、その点についても仮説を立ててあるよ!!
次回のTIPSで教えてあげるから、楽しみにしていてね
ヒントはもちろん、たくちゃんの魔法さ
ひとつだけ、おかしな性能をもつ魔法があるよね
それと繋ぎ合わせれば、固有装備の能力も見えてくるのさ
似た能力者もいる事だしね
それじゃあみんな!! 次話のTIPSでまた会おうね!!
それまでにケーヤクしてくれるとうれしいな!!