無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「感情の振れ幅は、大きい方が都合が良い」
「恋愛感情は、研究に値するかもしれないね」


百四十章 らしくない戦い方

SIDE 巴マミ

 

「ただいま」

 

 学校から帰って、私は玄関を開ける。

 でも、いつものように「おかえり」の声が無い。

 

「皆、出かけているのかしら?」

 

 呟き、中に入ろうとした所で。

 

「やあ、マミ」

 

 外から、キュゥべえに声を掛けられた。

 

「キュゥべえ。

 どうしたの?」

「君に、大至急伝えなければならない事があってね」

 

 その言葉に、私は表情を引き締める。大至急という単語に、一抹の不安を感じるからだ。

 

「今、琢磨が単独で魔女と戦っている。

 杏子やゆまでは、琢磨を助けられそうも無い」

「!?」

 

 琢磨君が魔女と!?

 私は持っていた鞄を玄関内に置いて、キュゥべえと向き合った。

 

「案内してちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 武旦(ウーダン)の魔女、手に持つは長槍。

 対峙する魔人、手に持つは日本刀。

 

 刀と鞘を共に逆手で振るう魔人に対し、騎馬上から長槍を巧みに操って往なす。

 

 

 

 群雲琢磨らしくない戦い方をしていた。

 様々な武器を用いて、距離を選ばない戦いをする群雲。

 その理由は“相手の土俵で戦わない”事で、自らの生存率を高める為である。

 近距離には遠距離で。遠距離には近距離で。

 <電気操作(Electrical Communication)>の使用。即ち“注ぐ魔力”の大半を“速度”に費やしているのも、同様の理由。

 相手を粉砕する剛腕なんていらない。生き延びる為の足があれば良い。

 強力な遠距離魔法なんていらない。回避する為の足があれば良い。

 “Lv2”が、速度強化の方向へ進化したのは、もはや必然であると言えた。

 

 

 

 長槍を持つ相手に日本刀で挑むのは、実に群雲琢磨らしくない戦い方である。

 

 しかし、群雲琢磨には理由がある。

 

 これは、魔女狩りじゃない。

 これは、闘劇なんかじゃない。

 

 自身の全てを費やすべき【愛死合】なのである。

 

 

 

 対する魔女『オフィーリア』も長槍を駆使して、逆手二刀流状態の魔人を迎え撃つ。

 魔女である。ここは魔女結界である。当然、使い魔も存在する。

 しかし、オフィーリアは単独で迎え撃つ。白髪の魔人を、白い馬に乗って。

 使い魔は行進している。

 『二人』を見守るように。『二人』を称えるように。

 

 

 

 決定打がない。日本刀も、切り裂けるようになった鞘も、オフィーリアの長槍の前に阻まれ。

 時折、長槍が魔人を捕らえるも、それは命を奪うには至らない。

 

 群雲琢磨には、治癒能力は無い。ゆまやマミのような“回復魔法”を持たない。

 では何故、群雲琢磨が戦い続けられるのか。

 その要因は二つ。

 一つは“痛覚の遮断”である。

 本来、痛みとは肉体の異常を知らせる、重要な役割を荷う。

 痛みを感じるからこそ、人はその部分を庇い、無理をしないようにする。

 痛みを感じなければ、変わらず使い続け、いずれは壊れてしまうだろう。

 

 しかし、痛みという“感情”は、決して良いものではない。

 SG(ソウルジェム)に穢れを溜めてしまうのだ。

 

 痛覚を遮断し“痛みを感じない”事は、悪い事ではないのだ。

 殊更、契約者にしてみれば。

 

 もう一つの要因、これは群雲の偏屈な考え方にも起因するが。

 肉体を“道具”だと、割り切っている事である。

 

 群雲が行うのは“肉体の回復”ではなく“道具の修理”である。

 魔法少女システムを知り、それを割り切った群雲が辿り着いた異常な結論。

 

 【道具は直せば良い】

 

 その思考が、回復に優れていない群雲に“自分にだけ適応する修理能力”を与えたのだ。

 

 群雲琢磨にとって“都合の良い様に”作り替えられた『ムラクモカスタム』の中でも、異質にして最強。

 それが“群雲琢磨”という名の“道具”なのである。

 

 

 

 

 しかし、それが“勝利”に直結するほど、世界は優しくはない。

 刀と鞘の逆手二刀流。騎馬と長槍。その実力はオフィーリアの方が上だったのだ。

 

「……やれやれ」

 

 右肩を貫かれ、素早く後退した群雲は“道具を直して”一息。

 槍を回転させながら、追撃せずに間合いをとるオフィーリア。

 

「搦め手無しの真っ向勝負。

 もしも“こうなる前”に行っていても、戦局は変わらなかったのかもな」

 

 そんな【戯言】を呟きつつ、それでも群雲琢磨は、らしくない戦い方を続ける。

 そうでなければ、意味がない。そう在らなければ、価値もない。

 

 しかし、現実は非常に非情だ。

 

 たのしいたのしい逢瀬も、乱入者によって次のステップへと進む。

 

 それでもなお。群雲とオフィーリアは戦い続けていた。

 巴マミが、辿り着くその時まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なあ、琢磨?』

『ん?』

『魔法少女でも、魔人でもなかったら。

 あたしらは幸せになれたかな?』

『どうだろうなぁ。

 オレの場合は不幸になるビジョンしかないし。

 それに……』

『それに?』

『契約しなかったら、逢えなかったと考えれば。

 やっぱ、不幸だったんだろうなぁ』

『……たまにお前、恥ずかしい台詞を平気で言うよな』

『少なくともオレは、逢えて、惚れて、幸せだと思うがね』

『…………ばか』




次回予告

余計なモノはいらない

オレはただ あたしはただ




愛し合うだけ 殺し合うだけ



だから だから



邪魔をしないで






百四十一章 真っ赤な嘘

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