無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「見るたびに思うんだが」
「なんだい?」
「この中学、絶対耐震性低いよね」
「僕にいわれてもね」



百三十三章 はたらきなよ

SIDE 群雲琢磨

 

 建物の角。向こう側にあるふたつの気配が遠ざかるのを確認して、オレは煙を吐き出した。

 

「時間も情報も不十分だったな」

 

 結局、暁美先輩の目的はさっぱり。縄張り目的でもなければ、敵になる訳でもない。

 

「はたらきなよ、琢磨」

「言ってくれるな、ナマモノ」

「キミから学習したんだけど」

「やめてさしあげろ」

 

 足元で首を傾げるナマモノに、オレは苦笑した。

 

 

 

 

 建物の角で、体の右側を隠していたのは、素早く隠れる為だけじゃなく。

 いつものように“右肩に乗るナマモノを隠す為”でもあった。

 暁美先輩は、ナマモノを敵視してるからね。余計な諍いは笑えない。

 

「結局、何も得られていないのかい?」

「は?

 このオレが、そんなはずはないだろう?」

「その辺が、異物だよね。

 まあ、僕の方も収穫はあった」

 

 意外。ナマモノにも収穫があったんかい。これは是非とも“騙し聞いて”やらないとな。

 

 

 

 

 

「暁美先輩の、目的自体はわからない。

 それに関しては、まったく情報が無いからな」

 

 見滝原中学を離れて、街中をのんびり歩きながら。オレは、いつものように右肩に乗るナマモノと情報交換を行う。

 

「純粋なナマモノの殲滅ってのも、違う感じだな」

「根拠はなんだい?」

「真実を知っている事。おそらく台所に出るアレみたいな存在だと知っている事」

「ひどい言い草だね」

「黒いGならぬ白いQ。Bでも可」

「わけがわからないよ」

 

 要するに。

 

「ナマモノを殺す事に大した意味が無い。

 その事を知っている可能性」

 

 ナマモノに“死の概念”はない。ここに“ある”のは交渉用の端末機である。

 加えて、こやつらには“個の概念”もない。ラジコンは大量にある上に、リモコンを壊す事が出来ない状況。

 

「知った上でなお。

 お前を殺してる」

「そうだね。

 そのせいで、暁美ほむらの情報が収集出来ない」

「はたらけよ、ナマモノ」

「やめてさしあげろ?」

「首を傾げるな」

 

 脱線させても、たまにそのまま直進しやがるから、めんどくさいんだよな、こいつ。

 脱線させなきゃいいんだけども。まあ、オレだしねぇ。

 

「その上で“現存魔法少女との接触に消極的”である事を踏まえると。

 “魔法少女にしたくない人がいる”ぐらいしかない」

「なるほど」

 

 こちらから余計な手を出さない限りは敵ではない。暁美先輩はそう言った。

 魔法少女でありながら、他の魔法少女との接触を避け、魔法少女を造り出すナマモノを殺し続ける。

 無理やり捻り出した想像と妄想でしかないな。

 

「戯言だなぁ」

「確かに“そう考えられるだけ”であって、他に有力な情報があれば容易く消し飛んでしまうね」

 

 過程の仮定。想像の妄想。偏屈な選別。無限な夢幻。

 不確かなモノしか確かでなく。不完全である事だけが完全。

 まさに、どうとでもなる成り行き任せ。知ったこっちゃない現実任せ。当否を逃避した事実の曲解。

 

「つまり、オレの収穫はふたつ」

 

 左手の人差し指を鋭く立てて。

 

「戯言の域を出ない以上、これを遺棄出来ない」

「今まで通りだね」

 

 その通りですね。現状維持です。

 

「そして、オレに手を出す理由が無い以上、暁美先輩は敵じゃないって事だ」

 

 言いながら、人差し指を素早く引っ込めて拳を握る。

 

「現状に変化なし、と言う事かい?」

「現状を維持するのが、今のところの最善って事だ」

 

 間違いなく、当面対応するべきは魔法少女狩りの方だ。

 目的のわからない魔法少女に、良い様に振り回されてる訳にもいかない。

 その意味で言えば、現状維持で問題ない事を確信できたのは、充分な収穫であると言えた。

 

「それで、ナマモノの収穫ってなんだよ? ブドウ?」

「僕は果物じゃないよ?」

 

 美味しくなさそうだな。今度煮込んでみるか。はんぺんっぽいし。

 

「僕の収穫は、暁美ほむらの事じゃない。

 キミには不要な情報だと思うけれどね」

 

 すでに慣れ親しんだ、電子タバコの使用。深呼吸の要領で煙を吐き出してから、オレは告げる。

 

「何言ってんだよ。

 情報が不要かどうかを決めるのは、お前じゃない」

 

 逃がさねぇよ?

 

「それに、直接関係ない情報でも、別の所に流用する事で、意外な突破口になったりもするしな」

「キミが言うと、説得力があるね」

「その辺の情報共有が重要なのは、お前にだって解ってるだろう?」

「確かに、実績と言う意味では申し分ないね」

 

 ナマモノにとってオレは、唯一“同じ立場から意見交換が出来るレアな存在”だ。

 それを逆手にとれば、こいつらから情報を聞き出す事も可能。

 

「暁美ほむらを呼びに来た少女が、素晴らしい素質を持っていたってだけだよ」

 

 わぉ、ホントに関係ねぇ!

 

「本来、資質となる因果律はその立場に変動されやすい。

 強大な因果を荷うのは、身分的に立場の高い者や、将来偉業を達成するような存在だ」

 

 だからこそ、ナマモノは“少女との契約を優先”する。

 因果律だけで判断するなら、一国の長や、世界を変えるような発明をする研究者の方が良いはず。

 しかし、それはあくまでも“因果にのみ”焦点を当てた場合に限る。

 

 重要なのは“希望と絶望の相転移”による“感情エネルギー”の方なのだ。

 因果律は“契約者としての実力”に直結する。

 実力の高い者が、魂が穢れきるほどの絶望を味わう。その()()()()がエネルギー量に影響する。

 大人になればなるほど、感情の制御に慣れていく。もちろん精神餓鬼のままの大人もいるにはいるが。

 そんな下らない大人は、大した素質を持っていない。

 素質とは、契約者としての“潜在力”なのだ。

 

 無論、素質の無い存在と、ナマモノが契約をする理由はない。

 素質が高ければその分“回収するエネルギーの変換率が上がる”のだ。

 だからこそ、素質の高い多感な少女が、最も“効率が良い”という事になる。

 潜在力は、魔力の総量に繋がり、それが“エネルギー総量”に繋がる。

 

 希望。絶望。因果。素質。

 それらが最もバランスよく成立している。

 その存在の事を“魔法少女”という。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 と、いうのがインキュベーターに対するオレの持論。

 実際は違う点もあるかもしれないし、きっとあるとは思う。

 が“インキュベーターに感情が無い”にも関わらず“感情を中心に添えたシステム”である以上、インキュベーター自身も完全に把握出来ていない。

 

 だからこそ、オレとナマモノの意見交換が成立し、それをナマモノは“必要”としているのだ。

 

「もう少し、あの少女について調べてみたいね」

「勝手にどうぞ」

 

 うん、ごめん、知ったこっちゃない。

 

「随分と冷めているね」

「ナマモノが素晴らしいと言うぐらいなんだし、オレなんか指先一つでダウンさせられそうだが。

 でも、オレから言わせてもらえるなら。

 魔法少女(同業者)じゃない存在に気を配っていられる状況じゃないんよ」

 

 魔法少女狩りを相手せにゃならんのに。

 “魔法少女になるかどうかもわからない人”の事に費やす時間は無い。

 

「一つ、老婆心ながら忠告させてもらえれば。

 オレ、お婆さんじゃないけど」

「知ってるよ」

「暁美先輩と仲が良いって事は、下手に調べようとして接触したら、ぶっ殺されるぞ」

「それが問題だね。

 あの中学に通っていると知った以上、調査も接触も出来たも同然だけれど。

 僕を目の敵にしているほむらに見つからないようにするのは難しいね」

「お前とその子が接触した事を暁美先輩が知ったらどうなるか。

 仮定するまでもないな」

 

 そう考えると……オレのざれ「キミの戯言も、いい線いってるかもしれないね」かぶんな。

 

 ただ、その仮定で疑問なのは“なぜあの娘なのか”ということだ。

 暁美ほむらは、あの娘の素質をどう知った? 他人の素質ってわかるものなのか? オレにはさっぱりなんだが。

 自分の戯言に、自分が囚われたんじゃ意味が無い。状況はもっと多角的に見るようにしなければ。

 そうじゃなきゃ“どの場所が一番自分の為になるか”が判断できない。

 

 

 

 

 そんな感じで、あーでもないこーでもない、なんて事をしていたら次の目的地に到着。

 よくよく考えれば、右肩に乗るナマモノは一般人には見えないんだから、オレってかなりアブナイ子やね。

 まあ、見えてたら見えてたで、騒ぎになるんだろうけど。

 

「じゃ、僕はここで」

「おう。

 やっぱり、あの子を調べるのか?」

 

 肩から降りて、テクテクと歩いていくナマモノにオレは問いかける。

 

「もちろんさ。

 放置しておくには、あまりにも勿体無いほどの素質だったからね」

 

 そのまま、ナマモノは歩いていった。よし、逝ってこい。

 その姿を見送った後、オレは目的の場所を観察する。

 豪邸。富裕層。金は天下の回り物と言うが、絶対()()()()()がその流れを止めてるんだよねぇ。

 まあ、その気になれば“お金を使わずに、豪遊出来る”オレが言う事でもないが。しないけど。

 そんな、他愛のない事を考えながら、オレはインターホンに指を伸ばして。

 

[庭で待ってるわ]

 

 押す前に、念話が来た。どうも 読 ま れ て い た よ う だ 。

 

「まいったねぇ」

 

 電子タバコを咥え直し、オレは『美国』と刻まれた表札を尻目に、門を開ける事無く飛び越えた。




次回予告

賽はすでに投げられていた


ある少女は強くなる為に

ある少女は未来の為に

ある少女は強くなる為に

ある少女以外は自分の為に


望むのは、いつか夢見た世界の続き



賽の目は、開幕をすでに告げていた




百三十四章 読書が好き

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