無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「希望と絶望の相転移」
「それが、僕達の行動原理だね」
「ナマモノってさ。
 宇宙が延命できれば、それでいいのか?」
「キミの言葉を借りるなら。
 それ以外は、しったこっちゃないね」


百三十二章 こうなるなんて思わなかった

SIDE out

 

 昼休み。見滝原中学の校舎裏。

 人が寄り付かないであろう場所に、暁美ほむらは現れた。

 視線の先にいるのは、体の右側――――右肩から先――――を隠すように、建物の角に立つ魔人。

 

「他の人に見つかると面倒なんでね。

 このままで良いかい?」

「かまわないわ」

 

 質素なやり取りを挨拶代わりとして。

 眼帯を巻きなおした少年と、癖とまで言えるようになった、髪を梳く動作をした少女。

 

 時間に干渉する二人の、心理戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

(似合っているわね、眼帯姿も)

 

 何度となく、繰り返してきた一ヶ月。

 “何もかもが、まったく同じ世界”は存在しなかった。

 まず第一として“他の世界ではありえない私の存在”がある。

 その私が動く事で、僅かながらに世界は変わる。

 その変化を“まどか生存”に繋げる事が、私の目的。

 

 しかし、私が戻る“前の過去”に、どのような変化があるか確認する事は容易ではない。

 当然の事。まだ“私”がそこにいないのだから。

 確実に、変化しているとは思われる。

 その証明の一つが、私の前にいる少年だった。

 

 契約した世界。まどかと巴マミに魔女から救ってもらった、最初の世界。

 そこに、琢磨は現れなかった。

 しかし、契約して戻った世界で、琢磨は見滝原に現れた。

 共に戦い、ワルプルギスの夜を討伐し。

 まどかが魔女になり、私は琢磨を置いていった。

 

 次の世界でも、琢磨は現れた。しかし、佐倉杏子と共に、敵対する事となる。

 ここまでで既に、三つのパターンを構築している。

 

 “見滝原に来ない”“単独で現れる”“佐倉杏子と共に現れる”

 

 自分の行動が、直接影響しているとは考えにくい。

 しかし、魔法少女に共通する存在“孵卵器(インキュベーター)”が、契約した記録の無い私の存在を危惧し、魔人と言う“希少種”である琢磨に白羽の矢を立てた可能性は大いにある。

 

 アレを、人間の価値観で判断してはいけないのだ。

 

 しかし、そんな思惑を理解した上で、無視して動くのがこの少年だ。

 人間の価値観だけでは、図ってはいけないのだ。そんな存在なのだ、この子は。

 

「それで、話とはなんなのかしら?」

 

 油断してはいけない。敵にも味方にもなり得るこの少年は、いつだって予測できない事をする。

 今だってそうだ。本来小学6年のはずのこの子が、電子タバコを咥えてる。

 

「見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)

 リーダー巴マミから、魔法少女狩りの話を聞いているはずだ。

 まずは、その事に進展があったから報告」

「関係ないと伝えたはずよ」

「犯人が“この中学に在籍していても”か?」

 

 ……え?

 

「名前は、呉キリカ。

 詳しい過程は省略させてもらうが。

 彼女のターゲットに“明確な指針は無い”と、オレは考えている」

 

 随分と、世間は狭いわね。魔法少女狩りが、こんなに近くにいるなんて。

 でも、おかしくないかしら?

 

「見滝原は、貴方達の縄張りでしょう?

 その場所で行われる魔女狩りが“ターゲット不問”なの?」

「過程は省略するって言ったじゃんよ。

 こっちだって、リーダーに喧嘩腰の魔法少女なんて、本来なら知ったこっちゃないんだから」

 

 ……難しい立ち位置ね。あの時のやり取りから、こうなるなんて思わなかったわ。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)に非協力的な私では、仕方の無い事なんでしょうけど。

 

 でも。琢磨は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また、な』

 

 

 

 

 

 

 

 

 置いていってしまったのは“この琢磨”じゃない。まだ、私は置いていってはいない。

 でも。だからこそ。

 私は“この琢磨”を信用していいのか、わからない。

 世界が違う。時間が違う。その違いが及ぼすズレ。

 それを、明確にしてくれるのも“群雲琢磨”という魔人なのだから。

 

「なら、どうしてその話を私に?」

 

 思惑が読めない。ならばこちらからの“質問”で、その“真意”を読み取る必要がある。

 妙に手馴れている感じで、琢磨は電子タバコを咥えながら、煙を吐き出して告げる。

 

「少なくとも“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”は、魔法少女狩りを容認しない」

 

 そうでしょうね。巴マミが放置するとは思えないし。

 

「相手の実力は高い。

 魔女を狩る片手間に殲滅する、なんて気軽に出来ないほどに。

 しっかりと対策を練って、相応に準備をしなければ、返り討ちになる可能性の方が高いだろう」

 

 琢磨がここまで言うって事は、本気でヤバイ相手みたいね。

 そんな会話の最中に、琢磨は私を驚愕させる。

 

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 笑えない横槍は勘弁願いたいのが、実情なわけだ」

 

 その言葉は確実に、知っていなければ出てこない。

 

「あなたはすでに知っているのね」

「真実を、だろ?

 契約の有無に関わらず、生きるモノが最後に行き着く答えはひとつ。

 Answer Deadさ」

 

 説明をしなくていいのは喜ぶべきなのか。どういう経緯で知ったのかはわからないけれど。

 絶望しなかったのは、精神力の高さ故?

 きっと、違う。

 

 いつか死んでしまう事。いつか化け物になる事。同列に考える事で“どうしようもない事”だと割り切ってる。

 だってどの世界でも。琢磨の笑顔はからっぽで。

 

「魔女が元魔法少女でも。

 オレが、オレの為に生きるのにGS(グリーフシード)が必要ならば、そこに躊躇いなんてあるわけない。

 まあ、狂ってるからね、オレは」

 

 その笑顔ですら、必死にならないと造れない。

 それでも決して、諦める事無く前を見る。

 そんな子なんだと、私は既に知っている。

 

「まあ、要するに。

 暁美先輩の目的が何であれ、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)が魔法少女狩りと、何らかの形で決着を着けるまで。

 余計なちょっかいは止めといて欲しいって事を、お願いに来たわけよ、オレは」

 

 邪魔をするな。琢磨が言いたいのは、この一点のみ。

 でも、それだけじゃないでしょう? それだけの為に、ここに来たりはしないでしょう?

 

 私が琢磨を探っているように。

 琢磨も私を探っているのね。

 

 敢えて“魔法少女の真実を連想させる言い回し”をしたのが、その証拠。

 

 どこまで知り、どこまで織るのか。

 

 ここで突然、琢磨が何かに気付いて身を隠す。

 

「ほむらちゃん?」

 

 一瞬の後、私の後ろから聞こえる声。振り返らなくても解る。私の、大切な友達。

 

「こんな所で、どうしたの?」

 

 いつでも身を隠せるようにしていて、正解だったわね。

 そんな事を思いながら、私は振り返る。

 

「静かな所で、少し落ち着きたかっただけよ、まどか」

「そっか。

 ほむらちゃん、長い間入院してたんだもんね」

 

 勉強も運動も出来るから、忘れちゃいそうだけど。

 そう言って微笑むまどか。この子の笑顔に、私は確実に救われている。

 

[残念だけれど、話はここまでかな?]

 

 届いたのは、琢磨からの念話。自分の事しか考えてないと言うくせに、妙な所で気遣ってくれるのも、やっぱり琢磨なのよね。

 

[貴方達から、変な手を出してこない限り。

 少なくとも、私は敵ではないわ]

[……ふむ。

 覚えておくよ]

 

 無理よ。全てを覚えておくなんて。

 でも、今の琢磨からその言葉を聞けたのなら、多少は安心かしらね。

 

「いきましょう、まどか」

 

 振り返る事無く、私はまどかの手を取った。




次回予告

たったこれだけ

たったそれだけ














そこから、選別して選定する事が出来る

そんな、狂いきった、ふたつ






百三十三章 はたらきなよ

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