「まあ、オレの場合は波乱万丈すぎるような気もするけど」
「問題は……終わり方が二択って事ぐらいか?」
SIDE out
「「ごちそうさまでした」」
「はい、おそまつさまでしたっと」
杏子を除いた3人での朝食を終えて。
マミが指を鳴らすと、下りていた髪が、普段通りにセットされる。
「その魔法の使い方は、それはそれで、どうなのさ?」
三角テーブルにある、空の食器を運びながら、群雲が苦笑する。
「これぐらい、良いじゃない。
魔法少女の特権よ」
言いながら、かばんを手に取り、マミは玄関へ。ゆまはそれについて行き、群雲はキッチンで洗い物。
「じゃ、いってくるわね」
「いってらっしゃい」
いつもの挨拶。普通なら、当たり前の事。しかし、少女達にとっては一時、当たり前ではなくなっていた事。
だからこそ、この“当たり前”がいかに愛おしい事なのかを、少女達は理解していた。
「あら?」
「まあ?」
玄関を開けたら、そこには沙々がいた。
「おはようございます、巴さん」
「おはよう優木さん」
挨拶をした沙々は、マミの後ろで驚いた表情をしているゆまに気が付く。
「巴さん、その子は~?」
「知り合いの子よ。
事情があって、預かってるのよ」
「そですか~」
あらかじめ、準備されていた言葉。
巴マミ。両親と共に事故に遭い、唯一生き残った少女。天涯孤独。
千歳ゆま。魔女結界に囚われ、唯一杏子に助けられた少女。天涯孤独。
未成人の少女達だけの生活。世間一般から逸脱した存在。
それでも、彼女達は生きていかなければならない。その為に“用意されている情報”だ。
「そろそろ行きましょう。
遅刻する訳にはいかないわ」
「はい~」
沙々が、ゆまに対して笑顔で手を振る中、玄関の扉は閉じられた。
突然遭遇した、見ず知らずの相手に固まっていたゆまは、気を取り直してリビングに戻る。
そんなやり取りがあった事等、知る由も無く。
群雲は、朝食で使用した食器類を、真剣な表情で洗っていた。
変身した上に、眼帯を外した姿で。
ゆまが、群雲の元に行くと、首を傾げて問いかける。
「なんで、ういてるの?」
群雲は背が低い。その事実を補う為、群雲は浮いていた。
「洗い物の為。
あと、修行の一環でもあるな」
手を休める事無く、群雲は平然と言ってのける。
しばらく、不思議そうにその光景を眺めていたゆまは、リビングに戻ってテレビの電源を入れる。
「キョーコ、ねぼすけさんだね」
「そうだねぇ」
未だに起きてこない杏子に、ゆまは退屈そうに呟き。
その原因とも言える群雲は、作業を続ける。
「まあ、学校に行く必要が無いんだし、別に良いんじゃないか?」
義務教育を完全に放棄した自分達の事を、棚上に投げ捨てて。
洗い物を終えた群雲は、変身姿のまま、ゆまの横に座る。
「面白いか?」
「よくわかんない」
ニュース番組を見ながらの、会話。
外交問題がどうだとか、内閣の人事がどうだとか。
ゆまに、そんな情報が完全に理解出来る筈も無く。
群雲に、そんな情報は完全に必要の無いもので。
結局、数分後には子供向けの教育番組に、チャンネルは切り替わっていた。
「さて、出かけるかな」
右手の<
「どこいくの?」
「エロ本を立ち読みに、嘘だけど」
「……たくちゃんのエッチ」
「いや、嘘だからね?」
緑の右目を眼帯で覆い、群雲は平然とはぐらかす。
「ゆまはどうする?」
「キョーコといる」
「だろうねぇ」
予想通りの返答に、群雲は微笑むと、変身を解除。
<
「昼飯は、冷蔵庫の2段目にあるから、レンジでチンね」
「は~い」
ゆまの返事を背中で受けながら、群雲は玄関に向かった。
SIDE 暁美ほむら
何度も繰り返していた。それだけ、まどかを救えなかった。
今度こそは。そう思いながらも、私の手は届かなかった。
もちろん、諦めるつもりは無い。諦めてしまったら、そこが私の終着点。
魔女になるか、自ら
何度も繰り返していた。だから、今の授業も経験済み。
この授業で、私が当てられる筈がない。内容は飽きるほどに経験してる。
何気なく、外を眺めながら。私は思考の海に沈む。
ワルプルギスの夜。最強最悪の魔女。
まどかを救う為には、避けては通れない戦い。
まどかが契約する前に、ワルプルギスが来訪した時間軸があった。
崩壊した見滝原で、まどかはキュゥべえに『大好きな見滝原を元に戻して欲しい』と願ってしまった。
まどかが契約する前に、ワルプルギスを討伐する。
これが理想だけれど。未だに一度も成功していない。
最強の魔女を打倒するには、私にはまだ、実力が足りない。
決定的なのは“ワルプルギスとの戦闘中に、時間停止が使用不可になってしまう事”だ。
そうなってしまった私は、人間より耐久力が高いだけの存在。
経験した時間軸の大半は、ワルプルギスの“災害”で、まどかが死んでしまう事だった。
だから私は、ワルプルギスを倒さなければならない。
他の魔法少女との共闘。最も勝利する可能性が高いだろう状況。
しかし、一筋縄ではいかないのも、繰り返した現実。
巴マミ。見滝原を縄張りとする魔法少女。
実は、彼女との共闘が一番難しい。
要因は
まどかを魔法少女にする訳にはいかない。だから私はキュゥべえを殺す。
しかし、巴マミにとってキュゥべえは“友達”なのだ。
これでは、仲良くなるなんて無理な話。
“魔法少女の真実”を言うのも躊躇われる。真実を知った“結果”を私は最悪な形で経験してしまったのだから。
魔法少女だったまどかがいなかったから。私はきっと、あの時に死んでいただろうから。
美樹さやか。まどかの親友。
私が出会う時、彼女は魔法少女じゃない。
まどかからキュゥべえを遠ざける事は、必然的に美樹さやかからも遠ざける事に繋がる。
加えて、なりたての彼女がワルプルギスを打倒出来るほどとは、どうしても思えなかった。
佐倉杏子。巴マミの元相棒。
活動場所が見滝原じゃないから、接点を持つ事がまず難しい。
何らかの理由で見滝原に来る事はあるが、全ての時間軸で彼女が来る訳ではない。
最も、共闘自体は、接触さえ出来れば比較的楽な方。
彼女の利となる条件……例えば、
群雲琢磨。
出会ったのは2回だけ。私が眼鏡を外すようになってからは、一度も出会っていない。
こうして考えれば、やはり佐倉杏子が一番現実的か。
しかし、今回はまた、勝手が違う。違いすぎるのだ。
見滝原の
巴マミと群雲琢磨。
最も難解な先輩と、最も難解な後輩。この二人が共闘している時間軸。
下手をすれば、二人の仲を引き裂きかねない。二人共を敵に回すかもしれない。
思考の途中、窓から外を見ていた私は気付いた。
教室内を、
声を出さなかった私を褒めたいと思う。というか、何しているの?
鼻先が辛うじて見える程度に顔を覗かせるその子は、逆さまであるが故にその両目が顕わになっている。
普段は、長い白髪に隠れているだろう、異色の両眼。
そう。私はあの子を知っている。反射的に私は、制服の内側にある空薬莢を握り締める。
教室を覗き込んでいたその両目が私の姿を捉え、その視線が停止する。
……?
どこか……違和感が…………?
[暁美ほむらさん?]
その子からの念話。そう、私はあの子を知っているけれど、あの子からすれば、初対面なのね。
[そうよ]
[ちと、話があるんで、時間とれない?
他の人に見つかると面倒なんで、校舎裏で待っているから]
それだけを告げ、顔が上に引っ込んだ。
相変わらず、唐突に現れるわね。それをあの子に言っても、いつものように微笑むんでしょうけど。
話、か。どんな内容かしら? 巴マミとの会話も知っているでしょうから、その上で現れたって事なんでしょうけど。
そういえば、眼鏡をしていなかったわね。
話の内容に対する一抹の不安と、久しぶりに出会えた事の僅かな安堵。
不可思議な感情に気を引き締めながら、私は時間が流れるのを待った。
次回予告
望むモノを求めて生きる
当然、手に入るとは限らない
それでも、諦められないから
だから、生きる
魔法少女になっても
魔人になってしまっても
人間じゃなくなっても
百三十二章 こうなるなんて思わなかった