無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「他人の心を、思い通りにするのは難しい」
「不可能、と言わない所が琢磨だよね」
「そりゃまあ、魔法を知った身としてはね。
 洗脳魔法とかあれば、他人を意のままに動かせるだろうし」
「使いたいのかい?」
「まさか。
 そんなの楽しくないじゃないか。
 何が起きるかわからないから、人生は面白い。
 って、なんかの本で読んだ。
 概ね同意しますが、なにか?」
「辛い事が起きたら、笑えないんじゃないのかい?」
「辛い事が何も起きない人生に、笑う価値はないさ」


百二十九章 こんなにも

SIDE 佐倉杏子

 

 琢磨と共にやってきたのは、あたしにとっての原点。

 あの教会だった。

 よりにもよって、ここか……。

 色々な意味で、起点となっている場所に、あたしは思わず苦笑する。

 

 苦笑出来るようになったのは、きっと琢磨のおかげだけれど。

 

 それでも、あたしは聞かなければならない。あの言葉の意味。

 “魔女になる為に魔法少女になるシステム”の事を。

 

SG(ソウルジェム)ある?」

 

 電子タバコを咥え、いつもの調子で琢磨が言う。

 

「オレのでも良いんだけどさ。

 多分、佐倉先輩の方が解りやすいから」

 

 言われ、あたしは左手の指輪をソウルジェム(元の形)に戻し、琢磨に手渡した。

 受け取った琢磨は満足そうに頷くと、祭壇に上がりSG(ソウルジェム)を置く。

 その横に、いつの間にか手に持っていた――――<部位倉庫(Parts Pocket)>から出したんだろうが――――GS(グリーフシード)をその横に置くと、あたしの方に歩いてくる。

 

「【同じモノ】【なのさ】」

 

 感情の篭らない声で、真剣な表情で、琢磨は言った。

 同じ……もの?

 

「【GS(グリーフシード)に穢れが溜まると】【魔女になる】【知ってるよな】」

 

 祭壇上のSG(ソウルジェム)GS(グリーフシード)を見つめながら、あたしは琢磨の言葉を聴く。

 

「【SG(ソウルジェム)に溜まった穢れは】【GS(グリーフシード)で浄化する】【知ってるよな】」

 

 いつの間にか、あたしの横に立っていた琢磨は、あたしとは反対方向にある扉に視線を向けたまま、言葉を続けていた。

 

「【そして】【SG(ソウルジェム)を浄化したGS(グリーフシード)には穢れが溜まる】【当然】【許容限界を超えれば】【魔女になる】【だからオレ達はそうなる前に】【ナマモノに処理してもらう】」

 

 感情の篭らない、ただの情報。そんな言葉だからこそ、あたしはそれをスムーズに受け入れる。

 

「【つまり】【SG(ソウルジェム)に溜まる穢れと】【GS(グリーフシード)に溜まる穢れは】【同一】【になるわけだ】」

 

 そして琢磨は、決定的な結論を。情報として口にした。

 

「【ならば当然】【GS(グリーフシード)に穢れが溜まって魔女が産まれるなら】【SG(ソウルジェム)にも穢れが溜まれば魔女が生まれる】【すなわち】【SG(ソウルジェム)GS(グリーフシード)もまた】【同一】【と言えてしまう訳だ】」

 

 なら……あたしらは…………魔女になるしかっ!?

 

「【さて】【重要なのは】【キュゥべえが】【魔女と戦う為に魔法少女になって欲しい】【と】【()()()()()()()にある】」

 

 ……なに?

 あたしの思考を無視するように、琢磨は言葉を続けていく。

 

「【魔法少女になったら】【魔女と戦わなければならない】【何故か?】【GS(グリーフシード)が手に入らないから】【結果として】【魔女との戦いがある】」

 

 琢磨の考えが、まったく見えてこない。そういう奴だって知ってる。でも、この状況下でさえも。こんなにも琢磨がワカラナイ。

 

「【視点の違いだ】【オレ達にとって】【命がけの戦い】【それが奇跡の対価】」

 

 そうだ。奇跡を叶えて貰った結果。あたしらは魔女と戦う運命を受け入れた。

 

「【キュゥべえは】【SG(ソウルジェム)GS(グリーフシード)に変わる時の】【エネルギーを回収して】【宇宙延命の為に変換して使用する】【それが目的らしい】【つまり】【魔女になる事】【それが奇跡の対価】」

 

 擦れ違い。決定的で絶対的な。それを琢磨は明確にした上で、言ってのけた。

 

「【つまり】【魔女になる為に魔法少女になって欲しい】【そう()()()()()()()以上】【なってやる義理なんざ無いって訳だ】」

 

 ……言葉が……出てこない。

 

 いずれ魔女になる。その絶望を。

 

 

 

 こいつはこんな形で【処理】したってのか……!?

 

 

 

「【だからこそ】【オレは以前】【キュゥべえに言った】」

 

 いつしかあたしは、琢磨の横顔を見つめていた。その姿が、最初の光景とダブる。こんなにも、琢磨はあたしの心を掻き乱す。

 

「【オレからのエネルギーは期待するな】【ってな】」

 

 擦れ違いと勘違い。それを()()()()()()()()()()

 キュゥべえも、琢磨も。

 こんな風に、こいつはたった独りで【戦って】いたのか。

 

 いつだってそうだ。自分勝手で、空気を読んだ上で壊すような奴だ。

 こんな、最悪な事実でさえ、自分勝手に独りで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 独りで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ともすれば、心が折れてしまいそうな事実。こいつは独りで、それに立ち向かってる?

 誰にも言う事無く。自分独りで背負い込んで。悟られないように。

 何が……琢磨をそうさせるんだ?

 

 浮かんだ疑問の答えは、簡単に得られるはずだ。寂しい横顔を見せる少年に聞けば良い。

 

「あ……」

 

 でも、声が出ない。言葉にならない。すぐそこにいるはずなのに、琢磨が物凄く遠くて。

 そうだ、あたしはずっと思ってた。あたしの“見方”は、最初からずっと同じだ。

 

 

 

 

 

 

 群雲琢磨の生き方は、とても“危ない”んだ。

 

 自分の為。こいつはいつもそう言ってる。実際そうやって動いてる。

 そこに、一切の躊躇いが無い。

 

 “自分の為”にこの事実を隠してた。あたし達に黙ってた。たった独りで耐え忍んでた。

 

「見滝原に来る前、独りで放浪してた時。

 この“最悪な事実”を知って、そのまま絶望した魔法少女がいた。

 SG(ソウルジェム)を自らの手で、破壊し、自殺した魔法少女がいた。

 仲間が魔女になる前に、自分の手で殺そうとした魔法少女がいた。

 な?

 言えないだろ、こんな事」

 

 だから、言わなかった。言うわけにはいかなかった。

 “自分の為”に?

 

「一緒に魔女を狩るチームメイトがそうなるなんて、笑えないにも程がある。

 そんなのは“オレの為”にならないだろう?

 だから、言うつもりはなかったんだよ」

 

 本当に? 本当にそうなのか?

 琢磨の事だ。間違いなく本心からなんだろう。

 だからこそ、あたしには“危ない”生き方に見える。

 

 こいつは“自分の為”に、絶望の現実を独りで耐えてるんだ。

 こいつは“自分の為”に、あたしらに知られないように動いてたんだ。

 深夜にキュゥべえと会話してたのが、その証拠だ。

 

 【自分の為に自分を殺せる】

 

 琢磨は、そんな奴なんだ。

 

「琢磨……」

 

 あたしの呼ぶ声に、琢磨はあたしの方を向く。正面から見据えているのに、前髪が長くて表情が解りにくい。でも、電子タバコを咥えた口元は笑みを造ってる。

 笑うのか。そんな風に。お前は今も。笑うのか。

 

 無意識に、あたしは琢磨に左手を伸ばし、その頬に触れた。右目の眼帯のせいで、その手の動きに気付かなかったのか、琢磨は僅かに驚いた表情で、あたしを見上げる。

 

「……だから、言いたくなかったんだよ」

 

 震えているあたしの手。真実を知ったから震えていると、琢磨は思ってるのかもしれない。

 違う。あたしが震えているのは、魔女になる為に魔法少女になるシステムを聞いたからじゃない。

 確かにこの事実は強烈だ。キュゥべえの奴は、後でとっちめてやりたい。

 でも、それ以上に、あたしを不安にさせるのは、目の前の少年だ。

 

 たった独りで最悪に向かい、そのまま居なくなってしまいそうな。

 

SG(ソウルジェム)が反転する程に穢れを溜め込まなければ、魔女にはならない。

 チームメイトが魔女になるなんて笑えない事を、オレは望まない」

 

 その結果、お前は独りで頑張るんだろ? 今までも、これからも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初からそうだった。群雲琢磨は、佐倉杏子の心を掻き乱す。

 

 独りで、魔女を狩っていた少年。

 あたしと会って、お互いに色々な話をした少年。

 ゆまと出会ったあたしが再び、見滝原に来る切っ掛けを。マミと仲直りする切っ掛けを与えた少年。

 共に生活する、空気をぶち壊す少年。戦いにおいて、信頼に値する少年。

 あたしの過去を、救ってくれた少年。あたしの涙を、黙って受け止めてくれた少年。

 

「あったかいな」

 

 そう言って、右頬に触れるあたしの手に、琢磨は自分の右手を重ねて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、あたしはこんなにも。

 群雲琢磨に、焦がれてる。




次回予告

自覚した想い

無自覚の思い

自分の為の行動

他人の為の言動

何も起きなくても、世界は回る

何かが起きても、世界は廻る




今、ここに、生きる

それが重要で、それが必要で



真理な心理が呼び込むのは、希か絶か


百三十章 あたしを信じてない

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