「重要なのは真実でも事実でもない」
「そんなものは、等しく無価値」
「必要であるのなら、嘘だって、輝くものさ」
SIDE 佐倉杏子
なんとなく、目が覚めた。そんな、何気ない夜のはずだった。
リビングに向かうと、誰も見ていない無音のテレビが光を発して自己主張している。
ふと、視線を向ければ、ベランダにいる琢磨と、その肩に乗るキュゥべえ。
なんだ、まだ起きていたのか。
普段なら、適当に声を掛けるか、無視して寝室に戻るかしただろう。
ある言葉が、あたしの耳に届かなければ。
あたしは足を止める。今、聞こえてきた言葉を頭の中で反復する。
なんて言った? 何を言った? なんで言った?
言葉の意味を理解した。頭の中が沸騰するかのように感じてる。
そんなあたしをよそに、キュゥべえが琢磨の肩から飛び降り、そのままベランダの外へ。
深呼吸するように、空を見上げながら白煙を吐き出した琢磨の視線が、あたしを捉える。
「逃げも隠れもしないから、話があるならこっちに来たら?」
いつの間にか変身をした琢磨が、いつものように、あたしを先輩と呼ぶ。
激しい、憎しみを、覚えた。
自分の感情のまま、あたしはベランダに向かい、琢磨の襟首を持ち上げる。
「騙してたのか……あたしらをっ!?」
「静かにしようぜ。
ちゃんと話すから、まずは落ち着けっての」
平然と、感情の篭らない黒い左目が、あたしを射抜く。だが、それで退いちゃ意味が無いんだ!
「答えろ琢磨っ!!
“魔女になる為に魔法少女になるシステム”ってなんだっ!?」
「よりにもよって、それを聞いたか。
まあ、話すから放して。
このままだと、話す前にオレが意識を手放す事になるから」
なんでこいつはいつも平然と、あたしの心を掻き乱すんだっ!?
それでも、話を聞かなきゃ始まらない。
突き飛ばすように、あたしは手を放
SIDE 群雲琢磨
世界と一緒に停止した佐倉先輩を尻目に、オレは尻餅。御尻。いかん、思考が定まらない。
佐倉先輩に掴まれた瞬間に、オレは<
話を聞かれていたのは想定外だが、そこから拡散する事だけは、笑えないので完全阻止。
よって、時間停止。このまま逃げてやろうか?
「とは、いかないよねぇ」
電子タバコを咥え直し……吸えないんだった。これ、<
「うん、軽く混乱してるな、オレ」
想定外なんだって。まさか聞かれてるとは思わなかったもの。何の為に深夜にナマモノと会話してると思ってるのさ。空気読んでよ。からけ。
「うん、キレが悪い。
いや、そんな事を考えてる場合でもないんだって」
うわ、魔法の補助がないと、オレってこんなにダメな奴なのか。新たな自分発見。イラネ。
「依存度えげつないな。
まあ、魔人なんだから魔法に依存するのは悪い事じゃないのか。
いや、その結果がこれなんだから、悪い事なのか。
そもそも、善悪で謀れるような事じゃない。
まて、なにを企むんだ、オレ」
落ち着け。マジで。頼むから。
自分が自分を思い通りに動かせないとか、
いや、時間停止継続中だから、穢れがしっかり溜まってるだろうけど。
「作戦決めての時間停止ならともかく……思考する為の時間停止がまともに機能しないってのは……」
普段(変身前)の状態で<
人は、意識して自分を動かす事はほとんどない。
例えば、林檎を食べようとする。林檎を手に取り、口を開けて、林檎を移動させて、COME。
『林檎を手に取ろう』『口を開けよう』『林檎を口に近づけよう』
それを“一々考えながら行っている訳じゃない”んだ。
半ば無意識に『行動を脳が指示している』状態だ。
ところが、オレの魔法はその法則の外にある。
無意識に魔法なんて使えない。そんな事をすれば、
オレはそれを知っている。
意識的に行動しないと、取り返しがつかなくなる事を、オレは理解している。
だからこそ、オレは<
が、オレは今、その魔法が使えない。完全に“酢の自分”な訳だ。すっぱいっ!? そもそもCOMEってなんなんだ!? いや、林檎が来るから合ってるのか。りんごなう。オレ、林檎っ!?
「剃れすぎだ。
ちげぇっ!?」
何を剃るんだ? 髭か? 生えてねぇよ、契約してから肉体がまったく成長してないんだぞ、オレ。それもあり“肉体を操作する”事に重点を置いてるんだし。
「……うん、色々と求めすぎてるよね、オレ」
なんて事はない。自分が
いつからだ? いつからオレは皆の――――――――――
SIDE 佐倉杏子
した。尻餅を付いた琢磨が、平然と立ち上がる。その左目には迷い無い光。
「【ひとまず場所を変える】【巴先輩とゆまを叩き起こして】【話をしたいなら止めないが】」
琢磨の言葉が、静かに響く。ゆま達には聞かせられないってのか!?
「【はっきり言おう】【オレはこの事を】【誰にも話す気は無かった】【それほどの事だ】」
……どうやらあたしは。
「【でも】【佐倉先輩なら】【大丈夫だと】」
自分が思っている以上に、幸運だったみたいだ。
「オレは、信じてる」
次回予告
情報の取捨選択
真実はいつだって
心を砕き 魂を汚す
情報の取捨選択
必要であるのなら
虚言すら、正しい道となる
選定された情報に、虚偽も無ければ、善悪の境もない
百二十九章 こんなにも