無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

131 / 173
「なにが正解だ?」
「出オチかい?」
「そう言うなよ、ナマモノ」
「いきなりそう言われれば、誰だってそう思うんじゃないかな?」
「感情、ないくせに」
「無いなりに、理解しようとはしているさ。
 でなきゃ、感情エネルギーを流用しようとは、考えなかっただろうからね」


百二十五章 それが正解だ

SIDE 群雲琢磨

 

「ただい「ふんっ!」ぺぷし!?」

 

 巴先輩と帰ってきて、ドアを開けたら拳が飛んできた。どういうことなの……。

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 定例となった、食後の会議。三角テーブルでデザートと食べる三人の少女と、ベランダに居るオレ。

 情報を交換し、考察が始まる。

 

「オリコが魔法少女を狩っていたのか……」

「狩るように指示をしていた、が正解かな」

 

 話の内容故に、仕方ないけれど、空気重っ!

 

「まず、聞きたいんだけどさ」

 

 佐倉先輩が、フォークを弄びながら聞いてきた。

 

「なんで、あたし達を待たなかった?」

 

 ふむ、その事か。煙を吐き出して、オレは考えを纏めて話し出した。

 

「魔女結界が“呉先輩の速度低下魔法によって、辛うじて維持されていた”のが一つ。

 佐倉先輩達が来るより前に、結界が解除される可能性もあった。

 流石に路地裏とはいえ、一般人に目撃されるかもしれない危険は、取り除くべきだ。

 おそらくは美国先輩も同様に考えていた筈。

 “深追いは禁物”だってな」

 

 魔法少女が有名ではない、世間に知られていない理由は“ナマモノが素質者にしか認識出来ない”事だけじゃない。

 魔女や使い魔も“同様”である事が挙げられる。

 実際、魔女や使い魔による“魔女の口づけ”が原因であったとしても、世間一般は“別の動機(異なる事実)で納得する”んだ。知らないのだから当然なんだが。

 魔法少女の事を公表しても“妄言”の一言で片付けられるのがオチだ。

 それを無意識に理解出来ているからこそ“魔法少女”も、一般人に知られる事を避ける。

 ほんと、インキュベーターにとっては、都合の良い“社会”だ。あいつらの構築したシステムなんだから、当然なんだけど。

 

「その“美国先輩の能力が不明だった”事が一つ。

 大量の水晶球で、オレの『短剣思考(Knife of Liberty)』を無効化した。

 “現れてすぐに”な。

 そこにLv2の……<操作収束(Electrical Overclocking)>に匹敵する速度低下を使う呉先輩の事を考えると、少なくとも“同時に相手する”のは得策とは言えない。

 オレも結局“速度では敵わなかった”訳だしな」

 

 オレと巴先輩が共闘しての場合、残念ながら勝ちは薄いと、オレは仮定する。

 巴先輩と呉先輩の魔法相性もあるが、美国先輩との相性が不明瞭すぎる。美国先輩の能力が不明だから、当然ではあるが。

 ただ()()()()なら、充分可能だった。オレには<オレだけの世界(Look at Me)>がある。

 しかし『短剣思考(Knife of Liberty)』を即座に対処してみせた美国先輩だ。時間停止に対応出来ないとは限らない。

 オレの力が万能じゃないのは、オレ自身が充分に理解している。

 なによりも“伏せ札”が最大限に活用されるのは“最初の一手”だ。

 “切り札”のような“切れば全てが終わる”ほどの能力は、オレの時間停止には無い。

 故に“戦闘継続が困難な状態において、伏せ札を切る選択肢なんてありえない”訳である。

 ナマモノから“呉キリカが単独じゃない事を聞き出していた”オレが、時間停止ではなく電気を応用したナイフで、呉先輩の動きを封じた理由はそこにあった。

 オレにとって<オレだけの世界(Look at Me)>はオンリーワンだが、短剣思考(Knife of Liberty)は魔法を応用して編み出した技術の一つにすぎない。

 速度とは別の次元にある“時間停止”なら、呉先輩に対しては切り札足りえる。

 だが、それが美国先輩にも通用するなんて、楽観視は出来ない。

 実際の所、オレが時間を止められると知っている巴先輩は、対応可能だったりするしね。

 

「オレを明確に“敵”としているのも、理由の一つ。

 目的が解らないからこそ“敵のままでいるべきか”の判断材料が無い」

 

 これが一番大きい。仮に、オレが“敵のまま”でも“先輩達の目的がオレの為になるのなら、邪魔する理由が無い”事になる。

 にもかかわらず、判明している事が少なすぎる。

 

 美国織莉子は、千歳ゆまが魔法少女になるように先導した。

 呉キリカは、美国織莉子の指示で魔女を狩っていた。

 

 一見、相反する二つの事実。しかし“どちらも美国織莉子が主導”である以上“どちらも必要な事”であるはずなのだ。

 うん、これが最大のネックだね。ぶっちゃけ想像する所にまで辿り着けない。

 

「そこまで考えるかよ、普通……」

「琢磨君は、普通じゃないからね」

「いやぁ」

「たくちゃん、絶対にほめられてないよね」

 

 そしていつもの空気に戻る。原因はオレ。知ってる。

 

 正直な所、深刻な空気って好きじゃないんだよね。好きな人がいるかは知らんが。

 

「解らないと言えば……あの“転入生”もね」

 

 巴先輩の言葉で、話題が変わる。オレ達には“魔法少女狩り”も重要だが“見滝原という縄張りを持つ者”としての責任もある。めんどくさっ!?

 

「後で、説教追加ね」

「なんでさっ!?」

「たくちゃん、解る時と解らない時の差がすごいよ」

「マジでっ!?」

 

 それは気付かなかった。ポーカーフェイスには自信があったんだが。

 

「暁美ほむら……彼女の目的がわからないわね」

「最近、転入してきた魔法少女だっけ?」

 

 巴先輩の言葉に、佐倉先輩が反応する。

 暁美先輩の転入時期と、魔法少女狩りが一致している。

 だからこそ、オレは最初、暁美先輩を“容疑者の一人”に挙げてたっけか。

 

「魔法少女狩りに関しては知らなかったみたいだけれど。

 それを鵜呑みにする訳にはいかないわ」

「彼女は、最大級のイレギュラーだからね。

 同等以上がそこにいるけど」

「普通にまざってくるなよ、キュゥべえ」

「褒めるなよ、照れる」

「たくちゃんはむしだよ」

「オレの扱いがひでぇ……」

 

 いつの間にか(オレは気付いてたが)オレの右肩に乗るキュゥべえが加わり、相談は続く。

 

「それはともかく、オレ達の仲間にならないまでも、敵対しない事を確約させたいところだが」

「難しいだろ?

 目的が解らない以上、見滝原を管轄するあたしらにとっちゃ、敵だろ?」

 

 むぅ……情報不足が露呈してるな。直接会ってみるべきかね?

 

「目的不明の、謎の魔法少女ねぇ……」

「加えて、魔法少女を狩る魔法少女の存在か……イベント目白押しで泣けてくるわね」

「楽しいジャン?」

「あたしらは、お前みたいに割り切れないんだよ」

「大丈夫。

 きっと、それが正解だ」

 

 何も考えずに、状況の推移を見守る。うん、得策とは思えないな。

 なにかしらのアクションを起こしてみるべきか。

 いつものように口の端を持ち上げながら、オレは電子タバコを咥え直した。




次回予告

先輩達との会話の後は

たった独りの情報戦

いつもの事ではあるけれど












さて、誰が味方で


さて、誰が敵?



百二十六章 いつか

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。