「出オチかい?」
「そう言うなよ、ナマモノ」
「いきなりそう言われれば、誰だってそう思うんじゃないかな?」
「感情、ないくせに」
「無いなりに、理解しようとはしているさ。
でなきゃ、感情エネルギーを流用しようとは、考えなかっただろうからね」
SIDE 群雲琢磨
「ただい「ふんっ!」ぺぷし!?」
巴先輩と帰ってきて、ドアを開けたら拳が飛んできた。どういうことなの……。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
定例となった、食後の会議。三角テーブルでデザートと食べる三人の少女と、ベランダに居るオレ。
情報を交換し、考察が始まる。
「オリコが魔法少女を狩っていたのか……」
「狩るように指示をしていた、が正解かな」
話の内容故に、仕方ないけれど、空気重っ!
「まず、聞きたいんだけどさ」
佐倉先輩が、フォークを弄びながら聞いてきた。
「なんで、あたし達を待たなかった?」
ふむ、その事か。煙を吐き出して、オレは考えを纏めて話し出した。
「魔女結界が“呉先輩の速度低下魔法によって、辛うじて維持されていた”のが一つ。
佐倉先輩達が来るより前に、結界が解除される可能性もあった。
流石に路地裏とはいえ、一般人に目撃されるかもしれない危険は、取り除くべきだ。
おそらくは美国先輩も同様に考えていた筈。
“深追いは禁物”だってな」
魔法少女が有名ではない、世間に知られていない理由は“ナマモノが素質者にしか認識出来ない”事だけじゃない。
魔女や使い魔も“同様”である事が挙げられる。
実際、魔女や使い魔による“魔女の口づけ”が原因であったとしても、世間一般は“
魔法少女の事を公表しても“妄言”の一言で片付けられるのがオチだ。
それを無意識に理解出来ているからこそ“魔法少女”も、一般人に知られる事を避ける。
ほんと、インキュベーターにとっては、都合の良い“社会”だ。あいつらの構築したシステムなんだから、当然なんだけど。
「その“美国先輩の能力が不明だった”事が一つ。
大量の水晶球で、オレの『
“現れてすぐに”な。
そこにLv2の……<
オレも結局“速度では敵わなかった”訳だしな」
オレと巴先輩が共闘しての場合、残念ながら勝ちは薄いと、オレは仮定する。
巴先輩と呉先輩の魔法相性もあるが、美国先輩との相性が不明瞭すぎる。美国先輩の能力が不明だから、当然ではあるが。
ただ
しかし『
オレの力が万能じゃないのは、オレ自身が充分に理解している。
なによりも“伏せ札”が最大限に活用されるのは“最初の一手”だ。
“切り札”のような“切れば全てが終わる”ほどの能力は、オレの時間停止には無い。
故に“戦闘継続が困難な状態において、伏せ札を切る選択肢なんてありえない”訳である。
ナマモノから“呉キリカが単独じゃない事を聞き出していた”オレが、時間停止ではなく電気を応用したナイフで、呉先輩の動きを封じた理由はそこにあった。
オレにとって<
速度とは別の次元にある“時間停止”なら、呉先輩に対しては切り札足りえる。
だが、それが美国先輩にも通用するなんて、楽観視は出来ない。
実際の所、オレが時間を止められると知っている巴先輩は、対応可能だったりするしね。
「オレを明確に“敵”としているのも、理由の一つ。
目的が解らないからこそ“敵のままでいるべきか”の判断材料が無い」
これが一番大きい。仮に、オレが“敵のまま”でも“先輩達の目的がオレの為になるのなら、邪魔する理由が無い”事になる。
にもかかわらず、判明している事が少なすぎる。
美国織莉子は、千歳ゆまが魔法少女になるように先導した。
呉キリカは、美国織莉子の指示で魔女を狩っていた。
一見、相反する二つの事実。しかし“どちらも美国織莉子が主導”である以上“どちらも必要な事”であるはずなのだ。
うん、これが最大のネックだね。ぶっちゃけ想像する所にまで辿り着けない。
「そこまで考えるかよ、普通……」
「琢磨君は、普通じゃないからね」
「いやぁ」
「たくちゃん、絶対にほめられてないよね」
そしていつもの空気に戻る。原因はオレ。知ってる。
正直な所、深刻な空気って好きじゃないんだよね。好きな人がいるかは知らんが。
「解らないと言えば……あの“転入生”もね」
巴先輩の言葉で、話題が変わる。オレ達には“魔法少女狩り”も重要だが“見滝原という縄張りを持つ者”としての責任もある。めんどくさっ!?
「後で、説教追加ね」
「なんでさっ!?」
「たくちゃん、解る時と解らない時の差がすごいよ」
「マジでっ!?」
それは気付かなかった。ポーカーフェイスには自信があったんだが。
「暁美ほむら……彼女の目的がわからないわね」
「最近、転入してきた魔法少女だっけ?」
巴先輩の言葉に、佐倉先輩が反応する。
暁美先輩の転入時期と、魔法少女狩りが一致している。
だからこそ、オレは最初、暁美先輩を“容疑者の一人”に挙げてたっけか。
「魔法少女狩りに関しては知らなかったみたいだけれど。
それを鵜呑みにする訳にはいかないわ」
「彼女は、最大級のイレギュラーだからね。
同等以上がそこにいるけど」
「普通にまざってくるなよ、キュゥべえ」
「褒めるなよ、照れる」
「たくちゃんはむしだよ」
「オレの扱いがひでぇ……」
いつの間にか(オレは気付いてたが)オレの右肩に乗るキュゥべえが加わり、相談は続く。
「それはともかく、オレ達の仲間にならないまでも、敵対しない事を確約させたいところだが」
「難しいだろ?
目的が解らない以上、見滝原を管轄するあたしらにとっちゃ、敵だろ?」
むぅ……情報不足が露呈してるな。直接会ってみるべきかね?
「目的不明の、謎の魔法少女ねぇ……」
「加えて、魔法少女を狩る魔法少女の存在か……イベント目白押しで泣けてくるわね」
「楽しいジャン?」
「あたしらは、お前みたいに割り切れないんだよ」
「大丈夫。
きっと、それが正解だ」
何も考えずに、状況の推移を見守る。うん、得策とは思えないな。
なにかしらのアクションを起こしてみるべきか。
いつものように口の端を持ち上げながら、オレは電子タバコを咥え直した。
次回予告
先輩達との会話の後は
たった独りの情報戦
いつもの事ではあるけれど
さて、誰が味方で
さて、誰が敵?
百二十六章 いつか