無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「タイトルが物騒なのは、この作品の特徴だよね」
「いきなりメタいな、ナマモノっ!?」
「以上だよ」
「マジでッ!?」


百二十三章 安心して死ね

SIDE out

 

 短剣思考(Knife of Liberty)

 

 磁力を用いて、一定範囲内のナイフを、群雲の意のままに動かす魔法。

 空中に浮かび上がる、無数のナイフに囲まれて。

 呉キリカは、その行動が完全に封じられた。

 

「全てのナイフがオレの意のまま。

 つまり“全てが一斉に動き出す訳ではない”と言う事だ」

 

 一瞬で入れ替わった優劣の立場。それを群雲は普段通りに説明する。

 

「呉先輩が、オレのナイフを“回避出来ない”んじゃない。

 オレが、呉先輩に合わせて“ナイフを動かす”んだ」

 

 キリカが使う魔法が“速度低下”であるならば。低下してないナイフを動かせばいい。

 回避されたナイフを反転させて、再度向かわせる事も出来るし。

 弾かれたナイフを別角度から襲わせる事も出来る。

 キリカにはどのナイフが一番最初に動くか解らないし。

 群雲には、どのナイフでも一番最初に“到達”させる事が出来る。

 襲うと見せかけて、ナイフを急停止。別のナイフを死角から襲わせる事も出来る。

 

 それら全てを“呉キリカの行動に合わせて選択可能”な状態。

 

「と、言っている間にも、死角のナイフが近づいていたり?」

 

 その言葉に、キリカが慌てて振り返る。しかし、ナイフは微動だにせず。

 

「なんて事を言って隙を突くぐらい、いとも容易く行える訳だ」

 

 弄ばれた事を自覚し、キリカが群雲を睨み付ける。それに対し、群雲はあくまでも自然体。

 

「さらに、こうやって」

 

 言いながら、右手に持っていた大量のナイフを無造作に放り投げる群雲。

 そのナイフ達もまた、キリカの包囲網に加わる。

 

「まだまだ、増やせる」

 

 打つ手無し。キリカは完全に詰みの状態となった。

 

「さて」

 

 電子タバコを咥え、左手の人差し指を伸ばしたまま、群雲は改めて声をかける。

 

「質問に答えて貰おう。

 魔法少女を狩る理由はな「いやだね」……」

 

 群雲の言葉を、キリカは即座に拒否する。

 

「まさかとは思うが“オレが呉先輩を殺せない”なんて、楽観視はしてないよな?

 質問に答えてくれないのであれば、オレが貴方を“生かす理由が無い”んだが?」

 

 平然と殺害宣言をする群雲に、キリカは哂いながら答える。

 

「結構だ!

 たがだか死ぬ程度で私の全てが守れるのなら!

 殲滅屍(ウィキッドデリート)の思い通りにならないのなら、大いに結構!!」

 

 その言葉に、群雲は落胆したように咥えた電子タバコに右手を添える。

 

「質問は受け付けないよ。

 私に対する全ての要求を、完全に拒否する!!」

 

 尚も言葉を続けるキリカ。それを聞き届けた群雲は、電子タバコを右手に持って。

 

「なら、こちらから話をしよう」

 

 口の端を持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 だから、だれやねん。そのウィキッドデリートってのはさぁ?

 まあ、オレの事なんだろうけど、そんな厨二な名前、名乗った事ないぞ?

 

 ま、いいか。

 

 呉キリカ。黒い魔法少女。魔法少女狩りの犯人。

 彼女がどう動いても対応出来るよう、視界に納めつつ。

 オレは“戯言”を披露する。

 

「呉先輩が何故、魔法少女を狩るのか?

 オレがそれを知る術は無い。

 しかしっ!

 状況から過程を仮定し。

 想像に妄想を組み合わせる事で。

 真実“らしきもの”に近づく事は不可能じゃない」

 

 オレの言葉に、呉先輩の表情が消える。構う事無く、オレは言葉を続ける。

 

「呉先輩の魔法が“速度低下”であるならば。

 ここで一つの疑問が浮かび上がる。

 それは“どうやって魔法少女を狩っていた”かではない。

 “どうやって、魔法少女を誘き寄せていたか”にある」

「どういう事?」

 

 後ろから聞こえる、巴先輩の質問に、オレは視線を向ける事無く答える。

 

「魔法少女狩りが起きていながらも、その発覚が遅れた理由。

 それは呉先輩が“魔女結界内で魔法少女を狩っていた”からだ」

 

 もし、魔法少女の死体が明るみになっていたら。

 間違いなく“一般的にも大きなニュース”になる。

 第二次成長期の少女ばかりが狙われる、猟奇連続殺人事件として。

 しかし、魔女結界内であれば、死体は結界と共に消える。

 行方不明者が大量に発生すれば、なにかしらの事件が起きていると騒がれるだろう。

 しかし“行方不明”と“連続殺人”では、騒がれる規模が違う。

 社会は、そう出来ているのだ。

 

「まあ、死体がいくら出ても、呉先輩には重要ではないのかもしれない。

 死人に口無し。

 そこから直接、呉先輩に辿り着くのは難しいだろう」

 

 今回のように“前もって魔女を倒しておいて、他の魔法少女が来るのを待ち伏せる”としても。

 呉先輩の魔法は“低下”であって“停止”ではない。

 結界消滅までに、他の魔法少女が現れなければ、無意味だし。

 結界消滅までに、現れた魔法少女を狩る事が出来るとも限らない。

 万が一にも、逃がしてしまうような事になれば、面倒になるのは必至。

 

「魔法少女を確実に狩り続ける為には、確実な勝利が必要になる。

 その条件と状況を作り出す方法は、流石に解らないけどな」

 

 だがっ! この群雲琢磨には確実な切り札があるのだッ!!

 

「疑問は他にもある。

 最重要なのは“先日の病院の魔女結界で、呉先輩が襲って来なかった事”だ」

 

 事実である必要も。真実である必然も。知ったこっちゃない。

 

「狩っていたのはオレ達以外の魔法少女。

 右腕を失った直後と言う“狩るのに丁度良いオレ”がいたにもかかわらず。

 その事実を吟味する事で、一つの道が見えてくる」

 

 簡単な。とても簡単な理由。

 

「魔法少女を狩る。

 それは“呉キリカの目的ではない”って事だ」

「「!?」」

 

 魔法少女を狩る事が目的であるなら。確実に魔法少女を狩るのなら。

 オレがここに来た時点で“確実に逃げ出している”はずなのだ。

 そして、病院の魔女結界において。

 “最初から、同業者が複数いる魔女結界”は、避けるはずなのだ。

 にもかかわらず、魔法少女を一人だけ狩る事に成功している。

 にもかかわらず、オレ達の前に姿を現すことはなかった。

 

「なによりも、先程の言葉。

 それは“魔法少女狩りも自分の命も、最重要ではない”事を表してるのさ。

 気づいてなかったか?

 先輩自身がオレに“最大のヒント”を与えていた事に」

 

 呉先輩が、オレを睨む。視線で人が殺せたら、確実に死んでそうな目だ。死なないけど。

 

「さて、言いたい事は理解して頂けたかな?

 “魔法少女狩りの犯人、黒い魔法少女は呉キリカである”

 “呉先輩の魔法では、魔法少女を誘き寄せる事は出来ない”

 “魔法少女を狩るのは、呉先輩の目的ではない”

 以上の点から、導き出せる答えは一つ。

 

 ()()()()()()

 

 ってことだ」

 

 オレの言葉に、呉先輩の表情が歪む。わっかりやすっ!

 

「だから、私に“警戒”を続けさせていたのね?」

「そう言う事です」

 

 呉キリカ単独と仮定した場合。腑に落ちない点が多すぎる。

 しかし、複数犯であったとすれば。

 

「指示する者と、実行する者。

 おそらくは、そんなところだろうね」

 

 呉先輩では、魔法少女を誘き寄せる事は出来ない。

 なら、誘き寄せる力を持つ協力者がいる。それだけの事。

 

「さて、そうなると、状況が変わってくる。

 呉先輩が実行する者であるなら、指示する者が別にいることになり。

 呉先輩を殺しても、指示する者を止めなければ、事態は収束しない」

 

 良心も道徳も。オレの為にならないならば、必要ない。当然、容赦する意味も無い。

 オレは、徹底的に呉先輩を追い詰める。

 

「そして、呉キリカが普段、どんな生活をしていたのか。

 どこへ行き、誰と会い、何をしていたのか。

 徹底的に調べれば、指示する者に辿り着くのは不可能じゃない。

 なんだ、やっぱり“生かす理由はなかった”な。

 じゃあ、呉先輩、安心して死ね」

「ウィキッドォォォォォォォォォ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させないわ」




次回予告

















明確で、的確で、当然で









ようやく、確定した関係










百二十四章 敵

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