無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「琢磨は知ってるよね。
 食事が必要じゃない事は」
「肉体が道具である事を、オレは知ってる。
 それが?」
「なぜ、食料の買出しに、僕を?」
「オレはともかく、先輩達は“魔法少女の真実”を知らない。
 故に、人としての生活しか“送る事が出来ない”訳だ。
 人間は、知らない事は行えないからな」
「それは、僕とは関係ないよね?」
「最後まで聞けよ、ナマモノ。
 人として生活する以上、食事は不可欠だ。
 そして、主夫をやってるオレは、食事の準備をする。
 その為には材料が必要だ。
 だから、オレは買い物をする」
「で、なんで僕を?」
「なんとなく」
「わけがわからないよ」


百二十章 私が創る

SIDE 巴マミ

 

 結界を見つけて、中に入る。

 ……入り口に歪みがあった。他の魔法少女がいる。

 それを証明するかのように、使い魔がまったく現れない。

 

「普通の魔法少女であれば良し。

 なんとか共闘して、魔女を撃退出来ればいい」

 

 でも。もしも。

 

 黒い魔法少女であったなら。

 見過ごす訳にもいかないわね。

 

 単独行動は危険。でも間違いなく、この場所に“仲間”は向かっている。確実に合流出来る。

 ならば、向かうべきね。奥へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 呉キリカ

 

 魔女結界の最深部。準備を終えて、私は迎え討つ。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)。リーダー巴マミ。

 織莉子の予知で、この魔女結界に“独りで来る”事は織っていた。

 後は、私が狩る。織莉子の未来を、私が創る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 使い魔も魔女もいない。そんな歪な魔女結界。

 最深部まで到達した巴マミは、敵のまったくいない場所で、首を傾げる。

 

 呉キリカは、マミの死角。天井に鉤爪を突き刺してぶら下がっていた。

 完全な不意打ち。その一撃ですべてを決める算段である。

 完全に“自分の魔法の影響下”にある場所であれば、負ける事などありえない。そんな自信が、呉キリカにはあった。

 

 魔力で生成される鉤爪を一時的に消し、キリカは下降を開始する。すぐに再生成した鉤爪がマミを捕らえて切り裂く。

 

 はずだった。

 

「っ?」

 

 一瞬、自分がなにかに絡め捕られるような錯覚をキリカが受けると同時に、マミはその場を飛びのいて、キリカの攻撃を回避した。

 間合いを離して対峙し、マミは自身の周りにマスケットを設置する。

 

「使い魔も魔女もいない結界であれば、警戒心が薄れる?

 逆よ、黒い魔法少女さん」

 

 地面に降り立ったキリカもまた、ゆっくりとした動作で、マミと対峙する。

 

「大体は、これで決まるんだけどな。

 噂通りの実力だね、銃闘士」

 

 その発言こそ、自分が魔法少女狩りの犯人である事を証明している。もはや、言葉は必要ではなかった。

 

 一気に間合いを詰めるキリカに、マミはマスケットを手に取る。

 

(速いっ!?)

 

 しかし、銃口を向けるよりも速く、キリカは身を翻していた。

 鉤爪の攻撃は、的確にマミの指を傷つける。引き金を引かせない為だ。

 そのまま、首を刎ねる為に振るわれる鉤爪は、マスケットを盾にしたマミには届かない。

 

「ふっ!!」

 

 飛び退き、動き回るキリカ。なんとか指の治療に専念したいマミだが、容易に射線から逃れる速度を持つキリカ相手に、それは悪手である事は重々承知。鉤爪の攻撃をマスケットで凌ぐだけの、完全な防戦になってしまっていた。

 

「さすが銃闘士。

 ここまで死ななかった魔法少女は初めてだよ。

 記録更新だ、おめでとう」

 

 自身の優位を理解し、軽口を叩くキリカ。それに対し、マミは悲痛な表情を浮かべている。

 

 マミにとって、キリカの戦闘能力は天敵と言っていい。

 射線から確実に逃れる事を可能にする速度。リボンによる拘束魔法も鉤爪の前には無力。

 

(ナイフのみを使用する、琢磨君を相手にしてる気分ね)

 

 それでも、マミは諦めない。そんな選択肢は存在しない。

 仲間は、確実にここに向かっている。その事実がマミを支える。

 

 しかし、相手は黒い魔法少女。これは、模擬戦ではなく殺し合い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 美国織莉子

 

 庭のテーブルで、私は紅茶を準備する。

 キリカだったら、いつものように。純粋な笑顔を私に向けながら。

 帰ってくるに決まってるんだから。

 

 そう思っていた。その“未来”を視るまでは。

 

 黄色い魔法少女。黒い魔法少女。そこに降り立つ、もう独り。

 

 それを視た、次の瞬間には。

 私は紅茶の準備をそのままに、駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 呉キリカ

 

 銃闘士は優等生だね。ここまで死ななかった魔法少女は初めてだよ。ほんと。

 

「でも、ここまでだね」

 

 私の前には、うつ伏せに倒れ、辛うじて顔を起こしている銃闘士。

 銃を使うなら、引き金を引く為の指を真っ先に狙う。相手がこちらの攻撃を防ぐなら、逃げられない様に足を狙う。

 じわじわと、少しずつだが確実に。私は銃闘士を追い詰めていた。

 

「なぜ、魔法少女を狩るのか。

 最後に、教えてはくれないのかしら?」

 

 倒れたままの銃闘士の問いかけ。それに答える必要は無い。

 

「そう……残念ね」

 

 無言のまま、右手を振り上げた私に対し、銃闘士は言葉を続ける。

 

「なら、こちらから二つ。

 言っておきたい事があるわ」

 

 しっかりと、私の目を見つめて。銃闘士は言った。

 

「一つ。

 前方の注意は、疎かにするべきではないわ」

 

 唐突な助言に、私は前方を見る。銃闘士の後ろ。そこにあるのは、宙に浮いて銃口を私に向けたマスケット。

 

「っ!?」

 

 放たれた弾丸を、私は鉤爪で凌ぐ。倒れ伏したこの状況でも、反撃の手を!?

 

「もう一つ。

 右に気をつけなさい」

 

 その言葉に、私は右を向く。しかし、そこには何も無く。

 

「がぁっ!?」

 

 突然の、後ろからの衝撃に、私は吹き飛ばされた。

 

「あら、ごめんなさいね」

 

 体勢を立て直す私に届く、銃闘士の言葉。

 

「私から見たら右だけど、貴方から見たら左だったわね」

 

 そして、私の前に立つ、独りの少年。

 

殲滅屍(ウィキッドデリート)……!!」




次回予告

対峙する、右目を隠した二人

一人は、大切な者に尽くす、黒い眼帯

独りは、自分の為に費やす、白い眼帯














百二十一章 だれやねん

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