「うるせぇ、ババア!!
こちとら人数が増えたせいで、やりくりが大変なんだよ!!
この小麦粉はわたさねぇっ!!!!」
「わけが「てめぇはとっとと、お一人様一パック限りの卵をキープしてこいやぁ!!」わからないよ」
SIDE 巴マミ
「優木さんは、最近どう?」
「相変わらず、平穏ですよぉ~?」
帰宅途中、私は優木さんと合流し、並んで歩いていた。
優木沙々。魔法少女である私の、数少ない
「平穏なのは、良い事じゃない」
「そうなんですけどぉ、それはそれで退屈ですよ~」
「あら、優木さんなら、面白い事でも見つけていそうだけれど」
「面白い事ですか~?」
私の言葉に、優木さんは立ち止まって考え込んでしまった。そこまで、深い意味で言った訳ではないのだけれど。
しばらくして、優木さんが首を傾げながら言った。
「不登校なのか、微妙な生徒が居るってのは、聞いた事ありますけどねぇ~。
全然、知り合いでもなんでもないんですけど」
知り合いじゃないって……。いや、それほどに違和感があるという事かしら。
「詳しく、話をしてもらってもいいかしら?」
「お? 食い付きましたねぇ。巴さんもやっぱり気になります? ですよね~」
自分の提示した話題が採用されて嬉しいのか、優木さんは上機嫌で話し出す。
「いじめられてるんじゃないかって疑惑があった子なんですけどね。
休みがちだったその子が、ある日を境に性格が明るくなったそうで。
先生達も一安心だって話ですよ~」
ある日を境に、ね。やっぱり“契約”かしら? キュゥべえの事を知っている身としては、その可能性が真っ先に浮かぶ。
「たしか“呉さん”です。
ただ、それでも微妙に休みがちらしくて~。
病弱って訳でもないのに、不思議な話ですよねぇ」
……ここで、真っ先に琢磨君を連想してしまうあたり、あの子も異常な存在感よね。
琢磨君は、本当なら小学六年。学校に行っていないと駄目な12歳。
でもあの子は「学校なんかよりも、魔人の方が重要ですしおすし」とか言ってる子。おすし?
まあ、佐倉さんも今は学校行ってないし、一緒だったゆまちゃんも当然……。
家の同居人、将来が心配すぎて、胃が痛くなるわね……。
その“呉さん”というのも、魔法少女となっていたら。学業より魔女狩りを優先するような子だとすれば。
説明可能な分、怪しいわね。
いつもの十字路で優木さんと別れ、私は帰路を急ぐ。
キュゥべえなら、呉さんが魔法少女なのかどうか、知っている筈。確認は早いほうがいいわ。
SIDE 優木沙々
手を振って、巴さんの背中を見送り、別の道を歩く。
「ふ」
どうしよう? 我慢する? うん、無理。
「くふふふふふふふふっ」
首尾は上々。ちょろいわ~。見滝原の
情報なんて、簡単に入手できます。ちょっと高めの立場の人に、魔法でちょちょい。らくしょ~。
「これで、潰しあってくれればいいですけどね~」
狙うのはやっぱり、実力者と名高い見滝原の
でも、キュゥべえの話では、魔法少女よりも魔人の方が弱いそうで。そっちは後でいいですよね。弱いなら“私の使い魔”でちょちょい。
私が直接出張るのは、一番最後。最後の一人を倒しちゃえば、自動的に見滝原は私のものですから。
SIDE 呉キリカ
前方にいた生徒二人が、十字路で別れた。当然、私が尾行するのは“銃闘士”の方。それが織莉子の指示だからね。
「妙な手出しをする魔法少女が居るけれど、そちらは気にしなくていいわ」
織莉子がそう言っていたからね。従うのは当然でしょ。
狙うのは銃闘士。その中での頂点。リーダー格。
「っ!?」
お? 前方の銃闘士が歩みを止めた。私も歩みを止めて観察する。
「こんな時に……っ!」
少し悩んだ後、銃闘士は
流石、私の愛する織莉子。ちゃんと言われてた通りに状況が動いてる。
「だったら私が、それを磐石なものにしなきゃね」
銃闘士が向かう場所は確定。なら、先回りでいこう。確実に迎え撃って。
「織莉子が指示を出し、私が手を下す」
完璧だよ! 出来ない事なんて、ないさ!!
SIDE 佐倉杏子
[佐倉さん、聞こえてる?]
ゆまと二人、リビングでテレビをみてたら、マミからテレパシー。
[マミおねーちゃん?
どうしたの?]
どうやら、ゆまにも届いていたようだ。先に返事をされた。
[魔女結界を察知したわ。
琢磨君と三人で合流出来る?]
[たくちゃん、いないよ?]
[……説教が必要ね]
あたしに殴り倒され、マミに説教されるのが確定したぞ、琢磨。
[テレパシー範囲内かしら?]
[無理だな。
あたしやゆまも、何回か送ってはみたが、返事が無い]
[どこいったのよ、あの子は!]
[セール会場]
[ティロってやろうかしら?]
[マミおねーちゃんが怖いっ!?]
居ないのに、掻き乱すのか、あいつは。そういう奴だな。知ってる。
[私は魔女に向かうから、佐倉さん達は琢磨君を回収して頂戴]
[回収って……いや、マミ一人で大丈夫かよ?]
[もちろん、深追いはしないわ。
ただ、琢磨君はテレパシーが不慣れすぎて、受信範囲が狭いのよ。
最初は、同じデパート内ですら届かず、迷子のお呼び出しだったんだから。
しかも、私が放送で呼ばれたのよ!]
うん、実に琢磨らしい行動だ。最近、二言目には琢磨の愚痴になってるぞ、マミ。
[だから、頼んだわよ、佐倉さん]
[ったく、しょうがねーな]
まあ、魔法少女なんだから、魔女を倒すのは当然の事。
「いけるな、ゆま?」
「うん!」
元気良く答えたゆまに笑顔を向けながら、あたしは立ち上がる。
「琢磨の奴、絶対に殴り倒してやる」
「ゆまもやっていい?」
「武器はやめとけよ?」
「や」
「……治すの、ゆまだぞ?」
「むぅー」
そんな会話をしながら、あたしたちは“家”を出た。
次回予告
遂に出会う、真逆の少女
互いの信念 それ故に
譲り合う事など、ありえない
百二十章 私が創る