無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「どうしても、予期しない事は起こるよね」
「たとえ、琢磨が自分の為に行った行動と思惑でも」
「想定してない事は、起きるよね」


百十七章 裏目

SIDE 美国織莉子

 

 私の膝を枕にして眠るキリカ。その髪を撫でながら、私は望む未来への道筋を模索する。

 

「あれに手を貸すのね、殲滅屍(ウィキッドデリート)は」

 

 今まで、何回か未来を視てきたけれど、殲滅屍(ウィキッドデリート)が敵対しているような状況は無かった。

 システムの事を知らない? ならば見滝原から始まる終焉で、何故哂っていられる?

 終焉の地にいた事や、知名度等、その実力は決して低くは無い。

 だから、私はキリカに、絶対に逃げるように話した。キリカを失うなんて、私には考えられない。

 彼女がいなければ、私はとっくにコワレテいたでしょうから。

 

「戦力を削ぐ? でも下手に手出しをして、殲滅屍(ウィキッドデリート)孵卵器(インキュベーター)に察知され、警戒されるのは避けるべき」

 

 目的を見失ってはいけない。私の目的は“アレ”の対処だ。

 

「なら、リスクを恐れてはいけないわね」

 

 ただでさえ“黒い魔法少女”の動向は、注視されるべき所にまで来ている。

 見滝原を縄張りとしている銃闘士(アルマ・フチーレ)が、黙っているのは考えにくい。

 或いは既に、調査に乗り出しているかもしれない。

 

 

 

 私は未来を視る。終焉ではない。それより前の時間。

 

 魔女結界らしき場所にて、倒れる黄色い魔法少女と、その前に立つ黒い魔法少女。

 

「仕掛けるべきね」

 

 油断はしない。失敗は避けるべき。

 でも、望む未来の為、私は戦う事を決意する。

 

「私達の世界を護る為に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 教会から、マンションへの帰り道。私は佐倉さんを背負い、琢磨君はゆまちゃんを背負い。

 夕暮れの中、並んで歩いていた。

 

「どんな話をしていたの?」

 

 佐倉さんが泣き疲れて眠ってしまうなんて、予想もしていなかったわ。

 

「禁則事項です」

 

 何に対してなのよ? この子は本当にわからない子だわ。

 

「まあ、詳しくは佐倉先輩に聞いてくれ。

 同じ話を二回もする気は無いし、めんどくさいし、億劫だし、めんどくさい」

 

 二回言ったわ。めんどくさいって二回言ったわ。

 

 琢磨君と二人、仲間を背負って歩く。

 こんな状況になるなんて、考えても見なかった。

 そしてそれは、間違いなく琢磨君がいなければ、有り得なかった事。

 

「タバコ吸いてぇ~。

 ゆま背負ってるから吸えねぇ~。

 タバコ吸いてぇ~」

「御願いだから、思っていても声に出すのは控えてね」

「うぃ~」

 

 3連戦で気が抜けたのか、琢磨君がまったりモードだわ。

 

[タバコ吸いてぇ~。

 ゆま背負ってるから吸えねぇ~。

 タバコ吸いてぇ~]

「念話も止めて」

「うぃ~」

 

 本当にこの子は……。

 

「ところで、巴先輩や?」

「どうしたの?」

「晩飯、どうしようかね?」

 

 そうね。どうしましょうか?

 

「模擬戦したわけだし、栄養満点なのがいいわね」

「かといって、あんまりガッツリなものだと、カロリーがやばいよね。

 多分、気にしてるのは巴先輩だけだろうけど」

「女の子ですもの、当然じゃない」

「佐倉先輩もゆまも、気にして無さそうじゃない?」

「う~ん……。

 それはそれで、どうかと思うわよ?」

「オレに言われても」

 

 他愛の無い会話をしながら、家に帰る。

 こんな平穏な時間を過ごす事になるなんて、夢みたいね。

 

「琢磨君」

「はい?」

「ありがとう」

「いや、何に対してよ?」

「色々と、よ」

「わけがわからないよ」

「そこは、素直に受け取ってほしいわ」

「むぅ……」

 

 照れくさそうに、琢磨君は唸る。こういう時は、年相応なんだけどね。

 

 感謝しているわ。貴方のおかげで、私は随分と癒されたんだもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

 見滝原にある、高層ビルの屋上。

 

「やあ、久しぶりだね」

 

 振り返った僕の言葉に、彼女は満面の笑みを浮かべる。

 

「くふふ。

 ご無沙汰ですねぇ、キュゥべえ」

 

 そのまま、僕の横に並び、見滝原を見下ろす。

 

「見滝原市。

 魔女(エモノ)がたくさん出るって評判ですよぉ?」

 

 なるほど。それでここに来たのか。確かに見滝原は統計的に魔女の出現率は高い。

 

「でも、ここは“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”の縄張りだ。

 他にも魔法少女が存在するし、人手は充分だよ」

 

 そして、見滝原には魔女が多いという評判には、必ずマミチームの名前も付いてくる。

 

「ある程度、有名になっておけば、余計な諍いを減らせる。

 お前だって、魔法少女同士が戦って、SG(ソウルジェム)が砕けたら、エネルギーの回収が出来ないだろ?

 オレ、敵になる魔法少女がいるなら、躊躇い無く弱点(ソウルジェム)を狙うぜ?

 オレの為に」

 

 以前、琢磨はそう言っていた。確かに僕らにとって、SG(ソウルジェム)の破壊による魔法少女の死は、損失でしかない。

 縄張り争いで、浄化が追い付かないのは、むしろ喜ばしい事ではあるけれど“ある程度のストックを所持し、それを使い回している魔人”がいる現状と、その魔人は躊躇い無くSG(ソウルジェム)を破壊できる人物である事実。

 ある程度の知名度が欲しいと言った琢磨との“取引”は、双方にメリットがある形で成立している。

 

 僕は“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の知名度を上げる”代わりに、琢磨は“極力、SG(ソウルジェム)の破壊を避ける”という取引。

 魔法少女システムを完全に理解している琢磨だからこそ、成立した取引だ。

 

「その事なんですけどぉ~」

 

 目の前の彼女は、笑顔のままに言葉を続ける。

 

「その子達よりも、わたしの方が優れている事を示せば。

 私がここを縄張りにしても、問題ない。

 違いますか、キュゥべえ?」

 

 なるほど。確かに彼女の願いと能力なら、相手が“強者”であるほど、見返りは大きい。

 どうやら、完全に裏目に出たようだよ、琢磨?

 もっとも、僕はあくまでも中立だ。自分達にも利益のある取引外の事に関しては。

 

「僕にしてみれば、見滝原が誰の縄張りであろうと、問題はないよ」

「ふふっ、やりました!」

 

 満足そうに笑顔を浮かべ、宣言する彼女を見ながら、僕は状況を整理する。

 

 今、見滝原では“魔法少女狩り”が多発している。容疑者は黒い魔法少女。

 見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)は、間違いなく容疑者と敵対するだろう。

 イレギュラーである暁美ほむらに、容疑者の一人である呉キリカと行動を共にしている美国織莉子。

 そこに、縄張り目的で彼女が参戦か。

 出来れば、魔女化を促進して欲しいところだね。

 

 

 

 

 

「ではではっ!

 見滝原は、このわたし“優木沙々”がもらっちゃいますねっ!!」




次回予告

動き出す物語

日常の中 非日常の先




少女達は、出逢うべくして


百十八章 知ったことではないわ

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