「たとえ、琢磨が自分の為に行った行動と思惑でも」
「想定してない事は、起きるよね」
SIDE 美国織莉子
私の膝を枕にして眠るキリカ。その髪を撫でながら、私は望む未来への道筋を模索する。
「あれに手を貸すのね、
今まで、何回か未来を視てきたけれど、
システムの事を知らない? ならば見滝原から始まる終焉で、何故哂っていられる?
終焉の地にいた事や、知名度等、その実力は決して低くは無い。
だから、私はキリカに、絶対に逃げるように話した。キリカを失うなんて、私には考えられない。
彼女がいなければ、私はとっくにコワレテいたでしょうから。
「戦力を削ぐ? でも下手に手出しをして、
目的を見失ってはいけない。私の目的は“アレ”の対処だ。
「なら、リスクを恐れてはいけないわね」
ただでさえ“黒い魔法少女”の動向は、注視されるべき所にまで来ている。
見滝原を縄張りとしている
或いは既に、調査に乗り出しているかもしれない。
私は未来を視る。終焉ではない。それより前の時間。
魔女結界らしき場所にて、倒れる黄色い魔法少女と、その前に立つ黒い魔法少女。
「仕掛けるべきね」
油断はしない。失敗は避けるべき。
でも、望む未来の為、私は戦う事を決意する。
「私達の世界を護る為に……」
SIDE 巴マミ
教会から、マンションへの帰り道。私は佐倉さんを背負い、琢磨君はゆまちゃんを背負い。
夕暮れの中、並んで歩いていた。
「どんな話をしていたの?」
佐倉さんが泣き疲れて眠ってしまうなんて、予想もしていなかったわ。
「禁則事項です」
何に対してなのよ? この子は本当にわからない子だわ。
「まあ、詳しくは佐倉先輩に聞いてくれ。
同じ話を二回もする気は無いし、めんどくさいし、億劫だし、めんどくさい」
二回言ったわ。めんどくさいって二回言ったわ。
琢磨君と二人、仲間を背負って歩く。
こんな状況になるなんて、考えても見なかった。
そしてそれは、間違いなく琢磨君がいなければ、有り得なかった事。
「タバコ吸いてぇ~。
ゆま背負ってるから吸えねぇ~。
タバコ吸いてぇ~」
「御願いだから、思っていても声に出すのは控えてね」
「うぃ~」
3連戦で気が抜けたのか、琢磨君がまったりモードだわ。
[タバコ吸いてぇ~。
ゆま背負ってるから吸えねぇ~。
タバコ吸いてぇ~]
「念話も止めて」
「うぃ~」
本当にこの子は……。
「ところで、巴先輩や?」
「どうしたの?」
「晩飯、どうしようかね?」
そうね。どうしましょうか?
「模擬戦したわけだし、栄養満点なのがいいわね」
「かといって、あんまりガッツリなものだと、カロリーがやばいよね。
多分、気にしてるのは巴先輩だけだろうけど」
「女の子ですもの、当然じゃない」
「佐倉先輩もゆまも、気にして無さそうじゃない?」
「う~ん……。
それはそれで、どうかと思うわよ?」
「オレに言われても」
他愛の無い会話をしながら、家に帰る。
こんな平穏な時間を過ごす事になるなんて、夢みたいね。
「琢磨君」
「はい?」
「ありがとう」
「いや、何に対してよ?」
「色々と、よ」
「わけがわからないよ」
「そこは、素直に受け取ってほしいわ」
「むぅ……」
照れくさそうに、琢磨君は唸る。こういう時は、年相応なんだけどね。
感謝しているわ。貴方のおかげで、私は随分と癒されたんだもの。
SIDE インキュベーター
見滝原にある、高層ビルの屋上。
「やあ、久しぶりだね」
振り返った僕の言葉に、彼女は満面の笑みを浮かべる。
「くふふ。
ご無沙汰ですねぇ、キュゥべえ」
そのまま、僕の横に並び、見滝原を見下ろす。
「見滝原市。
なるほど。それでここに来たのか。確かに見滝原は統計的に魔女の出現率は高い。
「でも、ここは“見滝原の
他にも魔法少女が存在するし、人手は充分だよ」
そして、見滝原には魔女が多いという評判には、必ずマミチームの名前も付いてくる。
「ある程度、有名になっておけば、余計な諍いを減らせる。
お前だって、魔法少女同士が戦って、
オレ、敵になる魔法少女がいるなら、躊躇い無く
オレの為に」
以前、琢磨はそう言っていた。確かに僕らにとって、
縄張り争いで、浄化が追い付かないのは、むしろ喜ばしい事ではあるけれど“ある程度のストックを所持し、それを使い回している魔人”がいる現状と、その魔人は躊躇い無く
ある程度の知名度が欲しいと言った琢磨との“取引”は、双方にメリットがある形で成立している。
僕は“見滝原の
魔法少女システムを完全に理解している琢磨だからこそ、成立した取引だ。
「その事なんですけどぉ~」
目の前の彼女は、笑顔のままに言葉を続ける。
「その子達よりも、わたしの方が優れている事を示せば。
私がここを縄張りにしても、問題ない。
違いますか、キュゥべえ?」
なるほど。確かに彼女の願いと能力なら、相手が“強者”であるほど、見返りは大きい。
どうやら、完全に裏目に出たようだよ、琢磨?
もっとも、僕はあくまでも中立だ。自分達にも利益のある取引外の事に関しては。
「僕にしてみれば、見滝原が誰の縄張りであろうと、問題はないよ」
「ふふっ、やりました!」
満足そうに笑顔を浮かべ、宣言する彼女を見ながら、僕は状況を整理する。
今、見滝原では“魔法少女狩り”が多発している。容疑者は黒い魔法少女。
見滝原の
イレギュラーである暁美ほむらに、容疑者の一人である呉キリカと行動を共にしている美国織莉子。
そこに、縄張り目的で彼女が参戦か。
出来れば、魔女化を促進して欲しいところだね。
「ではではっ!
見滝原は、このわたし“優木沙々”がもらっちゃいますねっ!!」
次回予告
動き出す物語
日常の中 非日常の先
少女達は、出逢うべくして
百十八章 知ったことではないわ