無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「聞いてもいいかい?」
「オレ達の間に遠慮は不要な気もするが、なんだよナマモノ?」
「普段から、ゆまとはあまり絡まないよね?
 どうしてだい?」
「嫌われてるからなぁ。
 無論、仲良くなるのが見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)としてはベストなんだが」
「自分の為になっていないんじゃないのかい?」
「ところが、そうでもないんだなぁ。
 オレを嫌い、距離を置く分、先輩達との時間が増えるって事だ。
 先輩達が優れた連携により、戦果を挙げてくれれば」
「くれれば?」
「オレが楽できる」
「やっぱり、えげつないよね、琢磨は」


百九章 遅い 色々な意味で

SIDE out

 

 戦闘が始まった次の瞬間には、宙に浮いた群雲の右手が、ゆまの頭を掴もうと伸ばされる。

 

 <一部召還(Parts Gate)>

 

 前回、ゆまに敗北を与えた魔法で、早期に決着をつけようとする群雲だが。

 

「ふんっ!」

 

 伸ばされた腕を、ゆまはハンマーで叩き返す。自分に決定的な敗北を与えた魔法なのだ。ゆまが警戒しないはずもなく。

 加えて、ゆまは“守護(まもる)”事に特化している。自分から攻められない訳ではないが、その特性は攻めるよりもカウンター狙いの方が効率も能率もいいのだ。

 ハンマーと衝撃波、攻撃力で言えば充分であるが故に。

 

「っとと……」

 

 叩かれた腕を戻し、上下に振る群雲。考えて動く事に特化している現状、迎撃される事も想定内。

 

 群雲にとって重要なのは“武器使用不可”という、ハンデである。

 

 離れた位置で対峙する、群雲とゆま。

 ゆまが迎撃の態勢であり、群雲が近付かなければならない現状は、当然のように膠着する。

 

 

 

 

 

「さて、どう見る?」

 

 気を取り直し、新たにクッキーを口に運ぶ杏子に対し、ノートを開いたマミが現状を分析する。

 

「琢磨君にも、純粋な遠距離魔法はあるけれど、良い手段とは言えないわね」

 

 横から覗き込んだ杏子が見たのは、開いているページ。当然、群雲の事が書いてある。

 

 

電光球弾(plasmabullet)

 電気を球状に束ねて射出する魔法

 利点:遠距離にも対応可能 着弾時に弾ける為、対象の動きを一時的に封じる事がある

 欠点:遅い 色々な意味で

 

 

「なんじゃこりゃ……」

 

 思わずそう呟いた杏子に、マミが説明する。当然、その言葉が出たのは欠点についてだろうから。

 

「元々、琢磨君の“電気”は、体外に出るほどの出力はないわ。

 辛うじて、体の一部に纏わせる程度でね」

 

 その最たる例が黒く帯電する拳(ブラストナックル)である。

 

「わざわざ、体外で電気を束ねる。

 当然、球状になるまでの準備(チャージ)が必要になる。

 加えて、射出速度は大きさに反比例する。

 大きければ、威力も大きい、でも遅い。

 小さければ、速いけど、威力とすら呼べない程度よ」

「どれだけ弱いんだよ、それ」

「電気マッサージ以下」

「……うわぁ……」

 

 だからこそ、前回のゆまとの戦いで、琢磨はゆまに()()()れな()()()()ならなかった。

 触れていたからこそ、自分に纏った電気を送り込む形で、ゆまの意識を刈り取ったのだ。

 

「そして、ゆまちゃんの現状の攻撃手段は、ハンマーと、それを用いた衝撃波。

 戦いを“近距離”“中距離”“遠距離”で分類したとしたら、最適な間合いは“近距離~中距離”になるでしょうね」

 

 衝撃波、それを視認する事は出来ない。しかし“ハンマーを振る”という動作が必要である以上、予想するのは不可能ではない。

 加えて、対峙しているのは魔法により頭の回転を早くしている状態の群雲だ。

 ただ、闇雲に衝撃波を発生させても、回避される可能性が高い。

 そして、ハンマーという大振りになりがちな武器であるが故に。

 二発目よりも速く、群雲が間合いを詰めるのは容易に想像出来る。

 

「如何に、自分の間合いで戦うか。

 自分の間合いで、戦う事ができるか。

 今回の勝負の命運は、そこにあるでしょうね」

「だからこその、武器使用不可か」

 

 武器が使用可能であれば、群雲は間違いなく“遠距離戦”を選ぶだろう。

 衝撃波で凌ぎきれないほどの弾幕。ゆまが反応する前に着弾する、超速の電磁砲(Railgun)

 そして、炸裂電磁銃(ティロ・フィナーレ)

 処理する方法は、いくらでも選択できる。

 

 だからこそ、マミは“武器使用不可”というハンデにした。

 

 群雲の持つ“大量のナイフ”でも、処理可能な事を知っているからだ。

 

「さて、どうするかしら?」

 

 マミの言葉に合わせ、杏子が対峙する二人に視線を向ける。

 そして、それを合図にするかのように。

 

 群雲が動いた。

 

 両手をクロスさせながら、ゆまに突進して行ったのだ!

 

「っ!」

「は?」

「え?」

 

 三者三様のリアクション。しかし、状況は止まらない。

 当然、ゆまはハンマーを振るい、衝撃波を発生させる。

 

 そして群雲は、後方に吹き飛ばされた。

 

「「「え?」」」

 

 三者同様のリアクション。しかし、状況は止まらない。

 吹き飛ばされる事を想定していた為、群雲は倒れる事無く、砂煙を上げながら着地する。

 

「……ふむ」

 

 両手を軽く振り、群雲は電子タバコを咥えたまま、策を組み上げる。

 

 そして、再び突進する。

 そして、再び吹き飛ばされる。

 

 群雲は何度も何度も、同じ様に突進し。

 ゆまは何度も何度も、同じ様に吹き飛ばす。

 

「琢磨の狙いはなんだ?」

「……わからないわ」

 

 観戦していた二人も、訝しげな表情を浮かべている。群雲琢磨という少年を知っている二人だ。この行動に何かしらの意味があるのは明白。しかし、その内容がわからない。

 

 何十回か吹き飛ばされて、ようやく群雲の動きが変わる。

 なんて事は無い、ゆまへと接近する行動だ。

 

 今までと同じ様に、ゆまは衝撃波で群雲を弾き飛ばそうとする。

 

 そして群雲は、衝撃波を受けた瞬間。

 

 

 

 

 加速した。

 

 

 

 

 自分を後方へ吹き飛ばす衝撃波。それ以上の加速。

 それは“衝撃波を受けながらも、止まる事無く接近する”事を可能にする。

 

「っ!」

 

 迫り来る壁をぶち破るような衝撃に、群雲の咥えていた電子タバコが、粉々に砕ける。

 しかし、そんな事はお構いなしに、群雲は一気に間合いを詰めた。

 

「なるほど。

 今回は、相手ではなく、自分が慣れる為なのね」

 

 成功した事で、マミは群雲の策を理解する。

 何度も繰り返された突進行動。ゆまも同じ様に、何度も衝撃波で弾き飛ばした。

 群雲の<電気操作(Electrical Communication)>は、肉体操作プログラムを主としている。当然、突進する速度を、常に一定に保つ事も可能。

 そして群雲は“視認出来ない衝撃波の衝突を予測”して、直撃と同時に加速。

 結果、今は“群雲の間合い”だ。

 

「当然、オレが何をするかはわかるよな?」

 

 砕けた電子タバコを吐き捨てて、群雲は拳を振り上げる。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!」

 

 黒腕の連撃(モードガトリング)が、ゆまを襲う。その乱撃をゆまはハンマーを盾にして耐える。

 それは、初めての対戦と同じ状況。しかし、これは初めての対戦ではない。

 当然、この状態になった時の策を、群雲は考えてある。

 

「さて」

 

 一度、黒腕の連撃(モードガトリング)を解除して。

 

「耐えてみなっ!」

 

 再び、黒腕の連撃(モードガトリング)を発動する。

 狙うのは、ただ一点。ハンマーを持つゆまの()

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!」

「~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!」

 

 例え、武器を持って防いでいても。それが大きな盾でも無い限り。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 肉体操作プログラムであるが故に。寸分の狂い無く。ゆまの手のみを対象とした連撃を可能にしていた。

 

 想定外の激痛。それでも正気を保っていられるのは、孵卵器の技術力故か。

 

 しかし。

 

「これで、詰み(チェック)だ」

 

 唐突に、黒腕の連撃(モードガトリング)を解除した群雲は、ゆっくりとゆまの額に右手を当てる。

 先刻までの連撃による激痛に耐えていたゆまは、唐突の状況変化に理解できない。

 

「痛みに耐え、呻いている時ってのは、他の事には気が回らないものさ」

 

 電気ショックを与える訳でもなく。

 しかし、勝敗は明白だった。

 




次回予告

魔法少女であること 魔法少女でいること

生き方を決められた少女たちは

それでも、生きていく










さて、それは ヒト とはどう違うのだろう?




百十章 それでも望むのは

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