無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「なあ、ナマモノ?」
「なんだい?」
「最近、対魔女よりも対人の方が効果的な魔法や技能が増えた気がするんだが」
「気付いてないとは、僕も想定してなかったね」
「え? わかるの?」
「独りだった時は、魔女戦やそれを元にしての研磨だっただろう?
 でも今は、マミとの模擬戦。
 そこからの考察がメインになっているからね。
 発展方向が絞られてしまっても、不思議じゃない。
 <一部召還(Parts Gate)>が、それを証明しているだろう?」
「意外な落とし穴ッ!?
 な、何ということだ、このタクマ……何てざまだ、このタクマ!
 自分の為に願った魔法が、こんな無惨になりさらばえて可哀想によ……」
「マミとの模擬戦に勝つ為に、発展したんだろう?
 無惨とは言わないんじゃないかな?」
「通用した事ないんだよっ!
 むしろ二人で「え? どうするのこれ……?」的な空気が痛かったんだぞ!」
「わけがわからないよ」


百七章 使わなかった

SIDE out

 

 初戦は、群雲の勝利。続いて第二戦。千歳ゆまVS群雲琢磨……なのだが。

 

「無ぇ! ナイフが見当たら無ぇ!!」

 

 杏子との模擬戦にて、群雲はナイフを投げて、杏子はそれを槍投げで迎撃した。

 その際、群雲のナイフは弾かれて、あさっての方へ散らばった。

 それを探しているのである。

 

「まだ~?」

「いや、手伝ってよ」

「や」

「……ですよねー」

 

 そんな軽口を交わしつつ、ナイフを探す群雲と、それを待つゆま。

 そして、少しはなれた所に座る、巴マミと佐倉杏子。

 

 今回は、その二人の会話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

「残念だったわね」

 

 マミの言葉を聞きつつ、あたしはその横に座る。あらかじめ準備されていたクッキーを手に取り、口に運ぶ。うん、うまい。

 

「流石の琢磨君、と言った所かしらね。

 以前、私に行った方法で佐倉さんまで退けるのだから」

 

 水筒から、紅茶を注ぐマミの言葉に、反応しないはずが無い。

 

「マミは、琢磨が何をしたかを理解出来てるのか?」

「ええ。

 以前、同じ方法で負けたしね。

 それに、ギリギリだったみたいだけど“ゆまちゃんにも見えていた”みたいよ」

 

 思わず落としそうになったクッキーを、慌てて口に運ぶ。

 待て、あたしにはさっぱりだったあの状況を、ゆまは理解出来ていたのか!?

 

「観戦だったからこそ、ゆまちゃんにも見えていたんでしょうね。

 対峙した状態なら、あの策を初見で破るのは難しいと思うわ」

 

 言いながら、差し出された紅茶を口に運ぶ。それを見ながら、マミは真剣な表情で話し始めた。

 

「全てが伏線、策を成功させる為の布石。

 最初の『逆風』も、二丁拳銃の乱射も、槍とナイフのぶつかり合いも、その後の結界突進も」

 

 色々と言いたくなるが、辛うじて言葉を飲み込む。まずは説明を聞かないといけない。

 

「最初に琢磨君は、自分の<電気操作(Electrical Communication)>による速度に、佐倉さんを()()()()()

 これが、琢磨君の速度だと、佐倉さんに思い込ませたの。

 その為だけの立会いだったのよ。

 そして、前触れ無く<操作収束(Electrical Overclocking)>を用いる事で、完全に佐倉さんの死角をついた。

 端的に言えば、それがすべてよ」

 

 <電気操作(Electrical Communication)>と<操作収束(Electrical Overclocking)>

 これを琢磨は“Lv1”“Lv2”と呼ぶ。

 当然、強力なのは後者の方だ。

 

「最初からLv2を使用すれば、早期決着が可能だったかもしれない。

 でも万が一、その動きに対応されてしまうと、琢磨君としてはやりにくくなる。

 だからこそ“Lv2を使用した時点で決着を着ける必要があった”のよ。

 佐倉さんとの模擬戦、これが“初戦”だったからこその策ね」

 

 そこまで考えてたのか……マジで、あいつの思考が理解できないな。

 

「そして、佐倉さんは“琢磨君から視線を外している”わ。

 だからこそ、最後のLv2に対応しきれずに、琢磨君の勝利を確実なものにしたの」

「は? いや、ちょっと待てよ!」

 

 確かに対応できなかった。だがあたしはあの時、琢磨から視線を外した筈が無い。

 一対一の状況で、それがどれだけ危険な事か。一人で生きてきたあたしには、充分理解出来てるんだ。

 

「残念ながら事実よ。

 佐倉さんは無意識に、視界を閉ざした。

 その瞬間があったのよ」

 

 言いながら、マミは自分を指差しながら、目をパチパチと………………!?

 

「まばたき……ッ!?」

「そう。

 その一瞬こそが、琢磨君の動く合図だったのよ」

 

 全容が明らかになる、群雲琢磨の策。

 Lv1で動き、渡り合う事で相手の誤解を誘発。遠近両方を使用する事で、相手からの行動開始を迫害。

 睨み合いの状況に持っていく事で、相手の“瞬きする瞬間”を見極める。

 その一瞬で、極限まで体勢を低くして相手の死角に入る。

 そして、詰み(チェックメイト)

 

「ただ、琢磨君にとって想定外だったのは“上空に放り投げた銃と弾倉が、自分の所に落ちてきた”事でしょうね」

 

 は? あれは想定外だったのか?

 首を傾げたあたしに、マミは一度、紅茶で喉を潤してから、説明を続ける。

 

「わざわざそんな事をしなくても、日本刀なりナイフなりを首元に当てれば終わってたわ。

 でも、落ちてきた銃と弾倉を、琢磨君は反射的に手にとってしまった。

 結果的に詰み(チェック)できたけれど、そのせいで佐倉さんに“一手”を許してしまった。

 そして、それこそが“琢磨君の弱点”でもあるのよ」

「……すまん。

 わかりやすく、頼む」

 

 どうしてそれが、弱点なのか理解できない。

 マミの説明は続く。

 

「琢磨君の魔法は、電気を応用した、自身の高速化」

 

 うん、それは知ってる。

 

「逆を言えば“素の反射行動が、最も遅い”事になるの」

 

 ……!?

 

「Lv1での肉体操作は、通常以上の速度で動かす為のプログラム。

 Lv2での肉体操作は、脳からの指示を電気信号自体の収束、速度を上げたもの。

 つまり琢磨君は“考えて動く時が最も速く、考えずに動く時が最も遅い”のよ」

 

 だからあの時(閃風で)、あたしの縛鎖結界に突っ込んだのか! プログラムの解除が間に合わずに!

 だから、死角に入りながらも、銃を手にとってしまった。落ちてきた銃を。手にとって、弾倉を装填してしまった。

 だから、あたしは一つだけ行動出来た。銃を手に取らなければ、あたしはそれすら出来なかった筈なんだ!

 

「もちろん、琢磨君自身もそれを理解しているわ。

 だからこそ琢磨君は“策を練る事に重点を置いている”の」

 

 そうだ! 全ての行動が高速化しているのなら!!

 病院での魔女戦で“右腕を失う事はなかったはず”なんだ!!!

 

「どんな状況下においても、高速で思考を巡らせて、常に最善手を模索する。

 それこそが、琢磨君の真骨頂。

 逆に、どんな状況下においても、高速で思考を巡らせる事で、次への行動が僅かに遅れる。

 それこそが、琢磨君の弱点なのよ」

 

 最初から最後まで。あたしの行動は“群雲琢磨の想定内”だったって事か。

 ……そりゃ、勝てないわ。

 

「なら、琢磨を攻略するには?」

 

 あたしの質問に、マミはノートを広げて、視線を落とす。

 

「闇雲に、正面から向かったのでは駄目よ」

 

 ぐっ……! 痛い所を突きやがる。以前、()()()()に散々言われた事を、また言われるなんて……!?

 

「でも、佐倉さんにはある。

 琢磨君を退ける魔法が」

「なんだよ、そ……っ!」

 

 広げられたノート、そのページを見て、あたしは言葉を失う。

 

『まあ、そんな佐倉先輩のページに、ポツポツと濡れた痕があれば……ねぇ?』

 

 脳裏に浮かんだ、琢磨の言葉。その通りに、濡れた痕がある。

 だが違う。あたしが言葉を失ったのはそれだけじゃない。

 

赤い幽霊(ロッソ・ファンタズマ)なら、確実に琢磨君を出し抜けたでしょうね」

 

 そのページに視線を落としたままのマミ。

 そのページから、視線を外せなくなってしまったあたし。

 少しして。マミが顔を上げる気配を感じ、あたしも反射的に顔を上げる。

 

 僅かに寂しそうな表情のマミ。

 あたしは今……どんな顔をしてるんだろう?

 

「やっぱり、使()()()()()()訳じゃなく、使()()()()()()()()のね」




次回予告

その魔法は願いの発露

その魔法は罪の十字架

その魔法は絆の証明

その魔法は無くした力












その魔法は、唯一名付けた彼女の魔法

その魔法は、唯一彼女が名付けた魔法












百八章 ロッソ・ファンタズマ

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