無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「わけがわからないよ」
「どうしたんだい、琢磨?」
「いや、最初にそう言えば「お前かよ!?」ってツッコミが来るかなぁと」
「わけがわからないよ」


百二章 まだまだ

SIDE out

 

 人々が眠りにつく時間。当然のように、魔法少女達も夢の中へ。

 

「魔力で動かしているだけの道具なんだから、そんなものは必要ないんだけどね」

「しかたないさ。

 その事実を知らない以上、皆は“人として生活するしかない”んだから」

 

 マンションのベランダで、眠る事無く会話をするのは、ヒトならざる者。

 ひとつは、魔法少女を生み出す、白い異星物。

 ひとつは、真実を知り、それを平然と自分の為に酷使する、魔人。

 

「さて、ここからはオレ達だけ。

 さらに深くて不快な話になるな」

「皆にも、真実を教えたらいいんじゃないのかい?」

「お前って、ほんとバカ。

 真実を知る事が、魔女化に直結する事だってある。

 その情報を効果的に使えてないから、()()()()()()()()()()んじゃねぇのかよ」

 

 電子タバコを咥える群雲と、その肩に乗るキュゥべえ。その会話に遠慮なんて言葉は存在しない。

 

「そして“くろいまほうしょうじょ”は、おそらくは“真実を知らない”んだろうが」

「何故、琢磨がそういう結論に至ったのか。

 もちろん、教えてくれるんだろう?」

「そりゃそうよ。

 その為の、皆が寝てからの会話なんだから」

 

 ここからの群雲の仮定は、魔法少女システム前提での過程になる。

 

「被害者は、鋭利な刃物で切り刻まれた。

 オレが見た遺体以外も、そこは共通してるんだろ?」

「その通りだね。

 だからこそ、魔法少女狩りが同一犯のものである事。

 合わせて、黒い魔法少女が容疑者になっている」

「そうだろうな。

 そして、真実を知っているのなら、そんな回りくどい事をする必要が無い」

「なるほどね。

 魔法少女の本体は、あくまでもSG(ソウルジェム)だ。

 肉体(どうぐ)傷付ける(こわす)意味が無い」

「真実を知っているなら、な。

 知らないからこそ、切り刻むなんで、面倒な事をしているんだろう」

 

 仮に、群雲が魔法少女を殺害しようとするなら。

 SG(ソウルジェム)を破壊する事に、全力を注ぐ。

 しかし“黒い魔法少女”が、真実を知らないなら。

 そう仮定しているのだ。

 

「それで、容疑者は何人いるんだ?」

 

 そのまま、会話は“黒い魔法少女の正体を仮定”する方向へ。

 

「残念ながら、確証がないよ」

「それでもいいさ。

 警戒するべき存在を疎かにするなんて、自分の為にならないってだけだし」

 

 犯人を捜して捕まえる。これ以上、被害を増やさないようにする。

 そんな事は、群雲は知ったこっちゃ無いのである。

 

「出来れば、削除してくれると、僕らとしても有難いんだけどね」

「まあ、先輩達が放置するとは考えられんし。

 いずれ、戦う事にはなりそうだが」

 

 そして、エネルギー回収が目的の孵卵器にしてみれば、回収前の卵を壊されているようなもの。

 その存在を、容認する理由が無い。

 

「最有力は、二人」

「意外と絞り込めてるんだな」

 

 キュゥべえの言葉に、群雲は素直な感想を抱く。

 

「もちろん、最有力であって、決定的じゃない」

「それでも、二人か」

 

 意外と簡単か?

 そんな、群雲の感想は、見事に外れる事になる。

 

「一人目は“呉キリカ”

 マミと同じ中学の生徒だね」

「意外と近い位置にいた!?」

 

 まさかの同じ学校。

 

「学年も、マミと同じだよ」

「マジカ!?」

 

 しかも同級生である。

 

「最近は、登校していないみたいだけどね」

「確かに、魔法少女狩りの行動範囲に、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)の縄張りがあると仮定はしたが。

 まさかのど真ん中かよ」

 

 だが、それでも確証がないと、キュゥべえは言った。

 

「変身した姿も、黒い魔法少女と呼ぶに相応しい姿をしている。

 使用する武器も、魔力で作り出したかぎ爪だし、殺害方法も一致する」

「それでも、確証がないのは?」

「動機さ」

 

 キュゥべえは、情報を掲示する。群雲は、情報を分析する。この二つは、そんな関係。

 

「キリカは今、別の魔法少女と行動を共にしている。

 その魔法少女のおかげで、僕は何人かの、新たな契約者を得た」

「矛盾しているって事か」

 

 一人は魔法少女を増やし、一人は魔法少女を減らす。

 そんな者が、行動を共にしているのは、理に反する。

 

「だから、確証が得られない。

 容姿も能力も、充分に容疑者だけれど」

「魔法少女を狩る理由が、呉キリカには無いって訳か」

 

 魔法少女狩り。黒い魔法少女の目的は、魔法少女の殺害。

 少なくとも、呉キリカにはその目的を目指す理由が無い。

 

「その、もう一人の魔法少女に黙って行動してるとか?」

 

 行動を共にしているからと言って、目的を一緒にしているとは限らない。

 実際に、行動を共にしていながら、こうして独自に動いている群雲だからこそ、説得力のある言葉だ。

 

「その可能性もあるだろうね。

 でも、あくまでも可能性だ」

 

 そして、キュゥべえもまた、同様に分析はしている。

 だからこそ、確証がないのだ。

 

「まだまだ、情報が不足している感じか?

 働けよ、ナマモノ」

「わけがわからないよ」

 

 それでも、このふたつは会話を続ける。お互いにとって、相手の存在が貴重である故に。

 

 群雲にとってのキュゥべえは、貴重な情報源である。

 キュゥべえにとっての群雲は、貴重なサンプルである。

 

「それで、もう一人は?」

 

 魔法少女を増やすのはキュゥべえ以外にありえない。故に群雲は、その存在を自分の為になると判断している。

 魔法少女システムを知りながらも、自分達に無意味な敵意を向ける事はしない。故にキュゥべえは、群雲との会話が必然的に増える。

 感情を持ちながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()群雲の存在は、インキュベーターにとっては貴重な存在なのである。

 

「もう一人も、見滝原中学の生徒だよ」

「……うん、もう驚かねぇよ」

 

 まさかの、二人共、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「名前は“暁美ほむら”

 最近、転入してきた少女だ」




次回予告

多くの言葉は必要ではない その存在を表すのには、一言で充分


多くの考察は必要ではない その存在を示すのには、一言で充分














どこまで同じで どこから違う?









百三章 魔獣

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