岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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許してくれ。今後の為にもったいなくて(女性陣の水着の設定)使いたくなかったんだ。


【海だ。しかし水着回ではない(無慈悲)】

「と言う訳で一階左通路の部屋が女子。右の通路の先の部屋が男子って感じに分ける事になった。部屋割りはまぁ各自で話し合うということで」

 

 コテージの前でみんなで話し合い、女性陣と分かれて男子だけで旅館の右の通路を進み、一番ロビーに近い部屋を空ける。

 

「おお、立派過ぎる」

 

「さすがは九鬼ですね。手入れも万全のようです」

 

 外観や内装に合う様に誂えられた調度品や家具を眺めながらとりあえず部屋割りについて話し合う。

 

「部屋割りはどうする? と言っても大部屋だから二間合わせたら結構な人数が余裕で寝れるけど」

 

 入口のドアから入ってすぐの部屋は寛ぐ為の部屋のようで、座卓に座椅子、テレビ等がある。

 隣の部屋は就寝や子供が遊びまわる為か余計な家具は無く、浴衣の仕舞われた大き目のクローゼットだけが配置されていて、奥の押入れには布団が仕舞われてあった。

 

 互いの部屋は真ん中を襖で分けられるようになっていて、クローゼットのある部屋だけでも大人六人くらいは楽々に寝られる広さがある。机や椅子を脇に退かせばもっと沢山寝られるだろう。

 

「ん~じゃあ風間ファミリー、俺と若と与一と優季で二部屋使うか?」

 

「そうですね。そうしましょうか」

 

 と言った感じですんなり部屋割りは決まった。因みに自分達がこの部屋を使い、風間ファミリーは向かいの部屋を使うことになった。

 

 とりあえず全員荷物を部屋の端に置いてから改めてロビーに集合する。

 

 しばらくして女性陣もやってくる。

 

「この後どうする?」

 

「決まってんだろ優季。海だ!」

 

「海だな」

 

「海だよね」

 

 ガクトの言葉に大和、モロが力強く頷いて賛同する。

 

「おうおう男達の下心が見え見えだねぇ」

 

「仕方ないだろう。因みに私も海には賛成だ。主に男衆と同じ理由で!」

 

「あう、お姉さまが久々にオヤジ化してる」

 

「まぁ森の方は殆ど見る物は無いでしょうから、今日は海でいいのではないか?」

 

 多数が海で遊ぼうと主張した為、全員で海に行くことになった。

 

「分かった。じゃあ水着に着替えて海に行くか。確か旅館の人に言えば色々貸してくれるって揚羽さんが言っていたよな」

 

 全員異議なしと言うことで各自一度水着に着替える為に部屋に戻り、ロビーの受付で待機している九鬼の従者の方に伺うと、旅館脇に倉庫があって、そこに釣竿やパラソルなんかが仕舞われているので、自由に持ち出していいと教えて貰った。

 

 倉庫の鍵を受け取って色々持ち出し、鍵を返却して女性陣への伝言を頼み男子だけで砂浜へと向かう。

 

「よっしゃ一番乗りは俺様がいただくぜ!」

 

「あっキャップずりー!」

 

 砂浜につくなり荷物を放り出してキャップとガクトが駆け出して海へとダイブする。

 

「おーい二人ともー! しっかり準備運動しないと危ないぞー!」

 

「「すでに終わらせてるぜ!!」」

 

 流石は遊びでは手を抜かない風間ファミリー、準備がいいな。

 

「とりあえずここでいいか?」

 

「そうですね。ではさっさと準備をしましょう」

 

 大和の言葉に冬馬が頷き、二人の指示に従ってみんなでパラソルやビニールシートを敷き、バーベキュー用の小型のコンロを設置する。

 

 食材は氷と一緒にクーラーボックスに入っているからしばらくは腐ることは無いだろう。

 

「とりあえず一通り遊んでから飯か?」

 

「だね。ガクトとキャップは泳いでるけど他のみんなはどうする?」

 

「俺は釣りに行かせて貰うぜ」

 

「お、いいねぇ。じゃあ俺も与一と一緒に釣りにでも行くか」

 

「僕はここで本でも読みながらやって来る女性陣を待ちますよ。僕としては眺めているだけでも十分に楽しめる光景ですからね」

 

「俺はせっかくだからちょっとその辺を散策してくる。珍しい貝を住家にするヤドカリに出会えるかもしれにからな」

 

「あ~僕もしばらくここで休んでるよ。正直体力的について行けなさそうだし」

 

 ふむ。準と与一が釣り、冬馬とモロがここで待機、大和が散歩か。自分はどうするか……。

 

「じゃあ自分も少しその辺を散歩してくるかな。一緒に行くか大和?」

 

「ああ。んじゃ姉さん達が来るまでぐるっと見て回るか」

 

 大和と二人でみんなに離れる事を告げて浜辺を歩く。

 

 砂浜をのんびりと歩きながら綺麗な海を眺めていて、ふと気付く。

 

「思えばこんなにのんびり海を眺めたのって、初めてな気がするなぁ」

 

「そうなのか? でも優季って小笠原諸島に居たんだから海は見慣れてるんじゃないか?」

 

「ああ見慣れてるね。毎回吐くとしたら海だったし、遭難しかけたのも海が多いかな……」

 

 小笠原諸島についてからは身体を鍛えることに必死で、義経達と海で遊ぶようになったはせいぜい一年前。それ以外での海の思い出なんて乙女姉さんとの超が付く遠泳くらいか……何度波に流されて死に掛けただろうか。

 

 あれ、なんか涙が……。

 

「いや、海を見て泣くとか、どんだけ辛い思い出があるんだよ」

 

 目頭を押さえる自分に、大和が呆れた視線を向けてくる。

 

 よし、とりあえず切り替えよう。今日は何も考えずに楽しい思い出を作ろう。

 

 気持ちを切り替えて顔を上げてまたしばらく歩く。すると不意に大和が口を開いた。

 

「そう言えば優季は将来はどうするんだ? このまま九鬼に就職するのか?」

 

「ん、また唐突にどうした?」

 

「いや夏休み前に学園で軽い進路相談があってさ。優季はどうするのかなって思って」

 

「ん~そうだぁ……」

 

 正直に言うとやりたい事もなりたいものも無い。

 

 なんと言うか、生前もそうだが今日まで自分は鍛えることに夢中でそう言った将来の目標とかを考えたことが無い。

 

 ……ふむ。そう考えるとなんか漠然とただただ闇雲に人生を進んでいるようにしか見えないな。

 

 手近の目標を立ててその道を進むが、本来見据えるべきその道の先に何も無い事に気付く。

 

「……う~ん。このままだと自分はもしかして将来は無職かフリーター、ニートになってしまうのか?」

 

「ええ!? 今の数分で何があったんだよ。少なくともその三つはどう考えてもお前とは無縁だよ」

 

「そ、そうか? だってなりたい職もやりたい事も無いんだぞ?」

 

「いやなりたい職業が無くても周りがお前を放って置かないからどっかには就職するだろう。九鬼に川神院、それにマルギッテからも軍に誘われているんだから」

 

 むぅ。そう考えると就職先には事欠かないか。それでもなあなあで働いていいものだろうか。

 

 自分がまだ頭を捻りながら悩んでいると大和が溜息を吐いた。

 

「あ~じゃあユウの好きな事って何だ? そこから探してみたらどうだ」

 

 好きな事、か。そうだなぁ。

 

「みんなの笑顔を見ているのが好きだな。うん。せめて自分の周りの人達には……笑っていて欲しい。ああそうだ。自分はそれだけでたぶん、幸せだし、満足だ」

 

「……はぁ。たく、ユウはホント変わらないというか……でもきっと、みんなユウのそういう所が好きなんだろうな」

 

 大和が苦笑しながらも肩を竦める。何かおかしな事を言っただろうか?

 

「……そう言えば大和の夢は確か総理大臣だったか?」

 

 子供の頃に大和が確かそんな事を口走っていたのを思い出して尋ねる。

 

「いや、俺は――」

 

「きっと大和が総理大臣になれば良い国になるな」

 

「……そうかな」

 

 何故か申し訳なさそうに不安げな表情で顔を伏せる大和。ふむ、何か知らんが自信が無いのかな?

 

「ああ。昔は中二病でちょっと心配したけど学園での大和を見た限り、人を使うのが上手いし人と仲良くなるのも上手い。世渡り上手って言うのかな。それに頭の回転も速いし冷静、けれど心はちゃんと熱くて感情を蔑ろにもしていない。出来無い奴の劣等感も出来る奴の強迫観念も理解を示せる。だから大丈夫。何より――」

 

 一度言葉を切って目線を水平線のむこうに向ける。

 

「その夢は、一人で叶えるもんじゃないだろ? あれだ、航海と一緒さ。先の見えないあの水平線に、直江大和っていう船長が乗る船に同乗する乗組員はきっと沢山居る。互いに励ましあえばどんな嵐だって超えられるさ。それでも辛くて折れそうなら川神に戻ってくれば良い。みんながいる、故郷の港にさ」

 

 元気付ける為に笑って励ます。

 すると、なぜか大和は唖然としたまましばらく硬直すると、何故か急に笑い出し。

 

「あはははははは!」

 

「ど、どうした急に!?」

 

「はは、いや何でもない。ただなんというか、敵わないなぁてさ。気を使って励ますつもりが逆になっちゃってるし、諦めている自分がアホらしく感じたり。ああ、うん。とりあえずサンキューなユウ。色々吹っ切れたわ」

 

 ひと笑いし終えた大和が目尻の涙を拭うと先ほどの不安の表情は消え、晴れやかな表情をさせていた。

 

「うん。まあ理由は分からないけど助けになったのなら良かったよ」

 

 まあ結局自分の将来については未定のままだが、まあそのうち決まるだろう。

 

「おーい! 女子が来たぞーー!」

 

 遠くからガクトの大声が響く。

 

「さて戻るか。水着のチェックだ!」

 

「男だからね。テンション上がるのはしかたないね!」

 

 健全な男子の欲望に逆らう事無く。俺と大和はさっきのシリアスなんて放り投げて揃って浜辺を駆け出すのであった。

 

 因みにこのあと特定の女性陣のオイル塗るのを頼まれたり、同じく特定の女性陣にあっちこっちに遊びに呼ばれたりで精神的に疲れた。というか……みんな凄い育ってなぁ。どこがとは言わないけど。

 


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