岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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初めて読む方、唐突な流れになりますが、さくっと進んでいきます。
詳しくは活動報告の『重要まじこいについて』を見てください。



【目が覚めたらもう夏休み】

「……う~ん。いいのかな、こんな所でのんびりしちゃって」

 

 荷物の入った鞄を肩にかけながら、砂浜に立って目の前の海を眺める。

 

 青い海。白い砂浜。周りには誰も居らずそれどころかゴミ一つない。

 

 ここは九鬼のプライベートビーチの一つ。少し先の丘には木々に囲まれるように大きな一階建ての和風の旅館が建っていて、浜辺近くの小高い丘にホテルが建っている。

 

 ホテルの方は九鬼を狙う連中に対する所謂めくらましとして立てられた物ではあるが、同時に従者部隊の人達の宿泊施設兼仕事場であり、この島の全ての監視、管理をあのホテルで行っているらしい。

 

 屋上にはヘリポートがあり、地下には緊急用の脱出口もある。

 そして殆どの設備は地下一階と一階から三階で、それより上は誰も居ない無人となっている……金の使い方が相変わらず凄い。

 

 自分達が泊まっているのは旅館だが、こっちも豪華だった。

 部屋全てが防音で大部屋で広い作りになっている。お風呂、トイレ、洗面所まであるし、ルームサービスまである。

 

 ……十数日前まで病院のベッドで眠っていたとは思えない状況だ。

 

「ユーキ、もうみんな荷物運んでるよー!」

 

「ん、ああすぐに行くよ小雪!」

 

 白いワンピースを靡かせながら笑顔で手を振る小雪に、自分も笑って答えて歩みを再開させながら、今日までの事を思い出す。

 

 

 

 

 最初に優季が目が覚めた事に気付いたのは彼の世話を任されていた天衣であった。

 

 天衣はすぐにナースコールを鳴らし、次に九鬼へと連絡を入れた。

 

「橘さん……自分はどれくらい寝ていたんでしょうか?」

 

「約一ヶ月だな。医者の話では退院できるのは夏休みの終わり頃だそうだ」

 

 優季の言葉に天衣が答えると、優季は『そうですか。ありがとうございます』と答えて大きく安堵したような溜息を吐いた。

 

「どうした?」

 

 気になった天衣が尋ねると、優季は苦笑交じりに答えた。

 

「正直、いくつか機能しない器官が出てもおかしくない事をしたので、五体満足であることに安心しただけです。特に目とか」

 

 そう答えた優季に、天衣はなんと答えていいか分からず曖昧に返事を返すしかなかった。

 

 しばらくして医者が看護師を連れてやってくると優季はそのまま検査を受けることになり、それが終わる頃には彼を心配していた人達が病室に集まっていた。

 

 因みに九鬼の計らいで彼とマルギッテは個室である。そしてもちろん彼の病室にはマルギッテもやって来ていた。

 

「優季、身体は大丈夫ですか?」

 

「ええ。マルギッテさんは……酷そうですね」

 

 マルギッテは左足をギブスで固められ、松葉杖をついていた。

 もっとも、そう尋ねた優季自身も当初はアバラと左腕の骨折、全身の筋損傷、一部内臓への可負担と、怪我の度合いで見れば彼の方が重体であった。

 

「気にするな。互いに全力を出した結果だ」

 

「そうですね……だから小雪も弁慶も、出来ればそんなに睨まないで欲しいな」

 

 優季の両脇で彼を睨む小雪と弁慶に向かって優季は苦笑を浮かべてそうお願いするが、二人は険しい表情を戻すことは無かった。

 

「あのねユウ兄。前から言いたかったけど、もう少し自分の事を考えてよね」

 

「そうだよユーキ。ユーキがボク達を大切に思うように、ボク達だってユーキが大切なんだかね」

 

 二人は彼が傷だらけで病院に運ばれたと知った時には脇目も振らずに駆けつけ、彼が目覚めないと涙を流すほどに心の底から心配していた。

 

 それを知っているからこそ、周りの者は誰も彼女達を止めようとは思わなかった。

 そんな二人の視線と言葉を受けた優季は顔を僅かに伏せて目蓋を閉じ、一度だけ頷いたあとに顔を上げた。

 

「そうだね。ごめんな二人とも心配させて」

 

 とても穏やかな笑みを浮かべてそう謝罪する優季に、少しだけ困惑した二人だったが、とりあえず納得し、最後に『今後は気をつけてよね』と釘を刺して話題を終わらせる。

 

「さて、話は一段落したな。優季に我から話がある」

 

 揚羽が数回手を叩き、みんなが注目するのを待ってから口を開く。

 

「現在我は優季の休息の為に九鬼のプライベートビーチに二泊三日の旅行を計画しているのだが……」

 

 みんなが『なんで今そんな話を?』といった表情をさせる中、揚羽は口元に笑みを浮かべながら説明を続ける。

 

「この中で参加したい者がいるなら一緒に連れて行ってやってもよいぞ?」

 

「はい! ボク参加する!」

 

「同じく!」

 

「もちろん私は行くぞ」

 

「じゃあ私も行こうかな」

 

「揚羽様、護衛でもいいんで連れて行ってください!」

 

「私も」

 

「優季の護衛なら私も当然行かせてください」

 

「引率として私も同行させていただけますか?」

 

「小島先生が大丈夫なら、私も共に行って敗者として勝者の優季を労いたいと思います」

 

 揚羽が提案するやいなや、小雪、弁慶、百代、清楚と項羽、ステイシーに李に天衣、さらには梅子にマルギッテまでが凄い勢いで手を上げたり頷いたりして参加を主張する。

 

「うむ、許可しよう。お前達はどうする?」

 

 一部の反応に唖然としている他の面々に揚羽が尋ねると、ようやく我を取り戻した周りがそれぞれ話し合いを始める。

 

「そうですね。なら僕達も参加しましょうか準」

 

「おう」

 

「もちろん風間ファミリーは全員行くぜ! 九鬼のリゾートなんて滅多に行けないだろうからな。今から楽しみだぜ」

 

「キャップ、一応ユウの快気祝いだからな。まぁ俺も興味あるけど」

 

「義経もお兄ちゃんの快気祝いはしたい。与一も行くだろ?」

 

「治ったばかりの兄貴が組織に狙われる可能性もある、か。仕方ない、俺も付いて行ってやる」

 

 結局いつもの風間ファミリー、冬馬ファミリー、クローン組が全員参加する事になった。

 

 旅行先についてワイワイと談笑を始める面々を眺めながら揚羽は計画が上手くいって満足気に頷く。

 

(うむ。上手く行ったな。これで誰かが優季のハートを射止めればよし。上手く行かなければまた考えればよい)

 

 揚羽もここ最近の優季の命を削る戦いには思う所があった為、今回の計画、つまり『優季に恋人を作らせて無茶を減らさせよう作戦』を実行に移すことにしたと言う訳だ。

 

(優季は将来有望だ。そんな存在には出来るだけ長く生きて欲しいというのは、奴を見続けた者として当然の思いだろう。さて、向こうに付いたら色々融通を利かせ易いようにしておくとするか)

 

 騒ぐ学生達を眺めながら揚羽は悪戯っ子のような笑みを浮かべながら病室をあとにした。

 


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