岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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本当はもう少し長かったけど区切りました。
あとちょっとしたお遊びも入れてみた。



【それぞれの七夕祭り】

 何故こうなった。

 

 大和は祭りを歩きながら溜息を吐いた。

 

 今回のイベントが決まった時に、冬馬と大和はお互いの妹分姉貴分の為に手を組み、籤引きに細工を施す事に決めた。もっとも、籤に施された細工は黄色の籤の位置が予め決められていると言う簡単なもので、重要なのは籤を引く相手を抱き込むことだった。

 

 大和は百代以外のファミリーの説得だが、これはすんなり上手く行った。ただし代償として大和は途中でグループを抜けて京と二人で祭りを周る約束をさせられた。

 冬馬の方は準の説得だけな為、特に問題はなかった。

 つまり本来なら黄色のくじは大和と優季が引くはずだったのだ。

 

 二人の誤算は優季の性格の読み間違いである。

 

 確かに優季は普段は落ち着いている方で、どちらかと言えばツッコミで仲裁役である。しかし優季個人としては別にテンションに身を任せるのは嫌いではないし、ボケるのも好きなのだ。

 今回もみんなでお祭りというイベントにテンションが上がっていたため、岳人の行動に倣って自分も早々に籤を選んでしまった。普段の彼ならば他の者同様に手前の籤、つまり『黄色』の籤を選んでいたに違いない。

 

「まだ落ち込んでいるのですか?」

 

 冬馬が音も無く寄り添おうとしたので、大和は慌ててその場から飛び退きながら答えた。

 

「そりゃ落ち込むよ。だって」

 

「大和、次はこのたこ焼きだ。奢ってくれるんだろ!」

 

「僕はわたあめー!」

 

「じゃあ私はこのお好み焼きね」

 

「なぁ清楚、この金星アイドルのパスタという食べ物は美味いのか?」

 

 大和が視線を前に向ければ、そこには自棄になって食い遊ぶ乙女達の姿があった。大和と冬馬の奢りで。

 

 因みに奢りを申し出たのは大和と冬馬からだ。特に誰からも責められていないが、これが二人なりの今回の策を弄したことに対するけじめであった。

 

「ある意味もしもの保険としてモモ先輩と小雪に策の事を伝えなかったのが幸いしました」

 

「ああ。普通に一緒になれなくて少しイラっとしてるだけで、祭り自体は楽しんでくれているみたいだしな。まぁ奢りだから遠慮が無いが」

 

 だがそれでもマシだと二人は思った。

 

 もしも姉さんに話していればどうなっていたか。怖い怖い。

 

 ユキに伝えていれば祭りすら楽しめなかった可能性がありましたね。その最悪を避けられただけ、良しとしましょう。

 

 大和は凄惨な自分の未来を想像して青褪め、冬馬は楽しげに笑う小雪を見て小さく安堵の溜息を吐いた。

 

「今頃優季達はどうしてるかな?」

 

「普通に楽しんでいるのでは? なんだかんだでやはりバランス良く分かれましたからね」

 

 だな。と、冬馬に返事を返した大和は自分自身の気持ちも切り替える。

 

「それじゃあ折角の祭りな訳だし、俺も楽しむか!」

 

「ええ。折角大和君と周れる訳ですから、僕も楽しむとしましょう」

 

「ホントにメンタルタフだな?!」

 

 ただでは折れないといった冬馬に、大和は身震いする自分を抱きしめながら、百代達の下へ走って非難した。

 

 

 

 

「大和と周れなくなった」

 

 京は失意のどん底といった表情で自前のタバスコをかけたカキ氷を力無く口に運ぶ。

 

「ふん。下らぬ小細工をするからそうなる」

 

 マルギッテはいつものクールな表情で風間ファミリーに向かってそう言い放つ。手にレモン味のカキ氷を持って。

 

「んぐ。お、マルギッテは細工に気付いてたのか?」

 

 翔一がコーラ味のカキ氷を食べながらそう尋ね反すと、マルギッテは静かに頷いた。

 

「当然だ。黛由紀江の挙動があまりにもおかしかった」

 

 マルギッテの答えに義経以外の全員が『あ~』と声を揃えて乾いた笑いを浮かべた。

 

「黛さんがどうかしたのか?」

 

「義経は純粋だね。ワン子と仲がいいのも分かるな」

 

「まぁ同時に心配にもなるな。弁慶や与一の気持ちが少し分かるぜ」

 

 宇治金時のカキ氷を食べていた義経が顔を上げて首を傾げる姿を見て、メロン味のカキ氷を食べていた卓也と、ブルーハワイ味のカキ氷を食べていた岳人が癒された表情を浮かべる。

 

「ほら椎名京、姿勢が悪いから零している。これで拭きなさい。そして姿勢を正しなさい」

 

 やっぱ天然で世話好きなんじゃないかな、この人……でもまぁ、確かにいつまでも落ち込んでるのはキャップ達に悪いか。

 

 ティッシュを差し出すマルギッテにお礼を述べながら受け取った京は、とりあえず気分を変えるために残ったタバスコカキ氷を一気食いする。

 

「……前々から思っていたんだが、椎名さんはあれだけタバスコを食して大丈夫なのか?」

 

 義経が心配そうに傍に居た岳人に尋ねると、岳人は呆れ顔で答えた。

 

「大丈夫だ。あいつの胃はもはや鋼で出来ている」

 

「ん。こんなの辛い内に入らない。それより寄りたい店がある。いい?」

 

 カキ氷が入っていたカップをゴミ箱に捨てた京が提案する。

 

「へ~京にしては珍しいね。どんな出店?」

 

 本当に珍しかったので卓也が少し驚いた顔で尋ねると、京が嫌らしい笑みを浮かべて答えた。

 

「格別な麻婆丼を出しているお店があるらしい」

 

 

 

 

「それじゃあ一子、案内任せた」

 

「うん任せて! 食べ物のお店ならアタリのお店を教えて上げられるわ!」

 

 こういう出店は地域密着のため、アタリやハズレがある。地元民が一子しか居ないので、彼女に案内して貰う事になった。

 

 まぁ、そういうハズレの店に出会っても許せちゃうのが祭りの魔力だよな。食い物とか倍近い値段だし、普段だったら絶対に買わない。

 

 そんな事を考えながらみんなで出店を回る。

 

「お、射的がある。与一やって見せてくれ!」

 

 一子の隣を歩いていたクリスが射的屋を指差しながら与一に声を掛ける。与一はあからさまに嫌そうな顔で理由を尋ね返した。

 

「はぁ? なんで俺が?」

 

「弓が使えるから銃も使えるだろ?」

 

「なんだその超単純理論。俺は銃は使わなねぇ。銃は、人の心を冷たくする」

 

 クリスの言葉に答えながら、与一はどこか物悲し気に空を仰いだ。しかし与一よ、お前は一度でも銃を使ったことなんてあったか?

 

「すげー、ツッコミつつ中二入れてきたよこの『無限の妄想者(アンリミテッドイマジネーター)』」

 

「ほう『無限の創造主(アンリミテッドイマジネーター)』。悪くない響だ。流石は人形使い、と言うことか」

 

「親近感を持たれた?!」

 

 松風の皮肉を含んだツッコミに、満更でもない顔で頷き返す与一。そして与一の返答に同類と思われた由紀江ちゃんが戦慄の表情を浮かべる。なんだかんだでこの二人、実は波長が近いんじゃ……。

 

「で、結局射的はやるのか?」

 

「とりあえずみんなで一回やる?」

 

「そうだな」

 

 そして周りが騒ぐと逆に纏め役になる準の言葉に一子共々頷き、結局全員で射的をやることになった。その結果、準が小さな女の子が喜びそうな魔女っ子の人形が入った箱をゲットした。タイトルは『ありす・イン・魔女っ子ランド』どことなく生前出会った少女、ありすに似ている気がした。まぁそれはそれとして。

 

「何故それを狙ったし」

 

 自分の言葉に全員が頷いて準をじと目で見詰める。何故か準は終始そればかり狙っていた。

 

「ちょ、待て待て! 俺はロリコニアの名誉村長だぞ。興味があるのは生身の少女だ! これはだな、小さい女の子にプレゼントしたら喜ぶんじゃないかと思って取ったんだ」

 

「こいつ警察に突き出した方がいいんじゃないか?」

 

 真顔で携帯に手を伸ばすクリスに、準は不敵な笑みで反論する。

 

「残念だったなクリス。日本の警察は証拠が無きゃ動かない!」

 

「そんな、正義が負けるというのか!」

 

 驚愕の表情でよろめくクリスに、どこぞの波紋使いよろしく奇抜なポーズで勝ち誇る準。というかノリ良いな二人共。

 

「それじゃあ次に行くか。由紀江ちゃんと与一は興味のある出店はある?」

 

「い、いえ。私はこうやって皆さんと周れるだけで感無量です」

 

「これがパーティープレイなんやね!」

 

 涙を流して喜ぶ由紀江ちゃん。そ、そんなに感激することだろうか?

 

「俺は別に行きたいトコはねぇ。強いて言うなら影の中、か。人込みじゃあ死角が多すぎて組織の連中を見つけられないからな」

 

「だからお前は何と戦ってるんだよ」

 

 結局また当ても無くみんなでぶらつき、一子が勧めてくれる出店で料理を食べながらお喋りし、クリスが興味をもった店のゲームを遊んで過ごしながら、みんなで楽しく祭りを見て周った。

 




という訳で次回に続きます。


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