という訳でクローン組の話となります。さて、もうすぐ七夕だぁ(展開どうしよう)
「式紙!」
朝の訓練の最後に、昨日術式を覚えた式紙を作り出す修行を行う。
一枚の札に気を込めて空中に放つ。
札は空中で留まり、その札を中心に他の札が集まり人型となる。
外見は生前自分が始めて操ったドールと同じ外見だ。何故同じ形にしたのかといえば一番イメージし易かったからだ。
「おお初めて成功した。よし、それじゃあ行け!」
式紙を対戦相手をお願いした天衣さんに向かわせる。
「なんか札塗れのマネキンが動いてるみたいで、軽くホラーだね」
壁に寄りかかってこちらを見守っていた弁慶のツッコミに、自分もそう思う。と苦笑しながら答える。
「それにしても初めてまともに成功したなぁ。よし、彼の名はフランシスコ・ザ――」
「せいや!」
天衣さんの自称マッハパンチと言う気を噴出させて義手を加速させて殴るというシンプルな技によって、核となっていた札が粉砕された式紙は、一瞬にしてその命を散らした。
「ザ、ザビイイイイイ!!」
目の前で飛び散る千切れたザビの胴体の札が舞い散り、身体が崩れ落ちてただの札に戻る。
「うぅぅ……」
思った以上の喪失感に襲われ、その場で蹲る。というかまた最後まであの偉人の名前を言えなかった。
「わ、私がいけないのか?」
「いや、むしろ真正面から嗾けたお兄ちゃんが悪いと思う」
「名前など付けるからそうなる」
天衣さんがオロオロとし、義経とヒュームさんが呆れた声で溜息を吐いた。
うん。もう二度と式紙には名前をつけない。つけるなら式神だ。そして今度は一発で砕けない頑丈なやつを作る。
「くっ。今度はもっと強いのを生み出してみせる。お前の死は無駄ではない。いずれ第二第三のフランシスコ――」
「はいはい、良いからお掃除しようねユウ君」
「……はい」
いつの間にか掃除道具を持った清楚姉さんの笑顔の迫力に負けて返事を返しつつ散らかった札の残骸の後始末をする。
くっ。いつか、いつかこのザビキャンの呪いを解いてみせる!
「それにしても、式紙も一体だけとはいえ、扱えるようになったのは大きいな」
最後にヒュームさんに、これからも精進しろ。と激励されて、その日の訓練は終了した。
放課後。今日は夜の訓練がないので、義経達と清楚姉さん達を交えて義経の部屋で勉強会を開く。
今回のテストに目標のある弁慶と清楚姉さんは黙々と勉強し、二人の邪魔にならないように三人で分からない所を教え合いながら過ごす。
二時間ほど経った頃に休憩ということで、買っておいたお茶菓子を広げて島にいた頃の様にみんなでお喋りをして過ごす。
「そう言えば、清楚さん達は大学に行くの?」
「ええ。項羽はモモちゃんと一緒に修行の旅にって主張したけど、日本の総理大臣は大学を出ておかないとなれないわよ。って言たら納得してくれたわ」
流石は清楚姉さん。既に項羽姉さんの操作術をマスターしている。
「どこの大学に行くんです?」
「
「そういや、紋白の奴も政界に行くんだろ? 色々問題になるんじゃねぇか?」
与一の意見を聞いて自分も頷く。確かに清楚姉さんは九鬼のバックアップを受けている。しかしいずれは紋さまも似たような形で政界に行く事になるはずだ。
「紋白ちゃんはあくまで政界に関わるだけで、本人が政治家になるとは限らないみたい。むしろ私がそういう立場を目指しているなら、紋白ちゃんが全面的にバックアップしてくれるって」
なるほど。悪い言い方だが、九鬼はあくまで経済を牛耳るのが目的だ。例えば揚羽さんの軍部なら、兵器の売買の取り締まりや、護衛の派遣等が上げられる。
逆に清楚姉さん達の目的は表立ってこの日本を変えることだ。それこそ、経済面を九鬼に支援してもらい、可能な限り彼らの要望を取り入れながら、理想の国を作って行けば良い。いつの世も、商人と為政者は切っても切れない関係という事だ。
それに清楚姉さん達と紋白には個人で既にお互いに強い信頼という名のパイプが存在している。その辺りも有利な点と言える。
「そう言えば、お前達は将来どうするのだ?」
項羽姉さんがなんとはなしに義経達にそう呟きながら、お茶菓子の一口サイズの饅頭を口に放る。もう瞳を閉じたりなんてしなくても一瞬で意識の切り替えができるみたいだ。瞳の色も一瞬で赤くなった。その内左右で瞳の違うオッドアイになるんじゃないかと心配している。
「どうなんだろう? 義経は特にマープルに指示はされて無い。でも、普通は進学するものなんじゃないのか?」
義経が周りに尋ねると、弁慶が川神水を注いだ杯を一気に煽って息を吐く。
「……はあ。そもそも私達は自由に職を選べるのかねぇ? 私は清楚先輩の王を目指すって言うのも、武士道プランから逸脱していないから許されたと考えているんだけど?」
弁慶が視線を清楚姉さんに送ると、清楚姉さんは困った表情で頷いた。
「うん、多分ね。マープルもそんなことを言っていたから。これでお花屋さんにでもなりたいなんて言ったら、猛反対されてたかも」
「はっ。結局俺達は九鬼に拘束された人生を送るしかないのさ。将来のことなんて考えても無駄だろ」
清楚姉さんの言葉に与一が投げやりに言い放つ。ちょっと不貞腐れているみたいだ。
「ん~じゃあ仮定として、義経達が将来清楚姉さん達の部下になるとしたら、二人は義経達をどういうポジションにするの?」
与一には悪いが少しだけ清楚姉さん達が目指す国に興味があったので、話を更に広げる。
「義経達には軍関係を任せるつもりだ。これは俺と清楚二人の意見だ」
答えたのは項羽姉さんだった。
「そりゃまたなんで?」
「義経は優秀な指揮官だ。軍部のトップになったとしても驕らず、そして得た武力の使い所を間違えることもないと思っている。与一は諜報担当だな。なんだかんだで抜け目ないし、疑い深い性格も、義経の苦手な計略の看破には持って来いだ。弁慶は要領の良さとその実力で二人のサポートをして貰いたいと考えている」
こ、項羽姉さんの知力が上がっているだと!?
義経意外の二人も、今の自分と同じ様に意外だと言わんばかりの顔をしている。いや、失礼なのは分かっているけど、それだけ驚いているのだ。
「と、清楚が言っていた」
しかし次の瞬間に放たれた台詞に、三人揃ってギャグ漫画の様に体勢が崩れる。
「俺には難しい事は分からんが、俺はお前達を信頼している。三人になら、俺が手に入れた武力を任せられる。生前の俺の様に間違った使い方はしないはずだ」
恥かしげも無く胸を張って笑う項羽姉さん。その姿が、凄く眩しくてカッコイイと思った。
もしかしたら自分達の中で一番成長したのは項羽姉さんかもな。
彼女はどこまでも真っ直ぐだ。だからこそ、その言葉は胸に響く。
項羽姉さんも義経同様人を惹きつけ、導く才を持っている。そんな彼女を支え導くパートナーである清楚姉さんもいる。案外、彼女達がこの国のトップに立つ日は、そう遠くないのかもしれない。
「で、兄貴のポジションは?」
「俺達の秘書だ!」
「いきなり職権乱用?!」
自信満々に宣言した項羽姉さんに、弁慶が身を乗り出してツッコむ。というか、秘書なんて管理職、自分に勤まるのだろうか?
「ほら、私って寂しがりやだし」
「清楚さんまでストッパー止めちゃダメでしょ!」
テヘペロ。なんて擬音が聞こえそうな表情でウィンクする清楚姉さんに、弁慶は眉を吊り上げて非難する。
「兄貴の性格や能力考えるなら国内の悪を調査する部門に就かせるべきだろう。宵闇を舞い悪を捌く、まさに
「義経は外交関係が良いと思う!」
清楚姉さんと弁慶が個人的な内容で言い合いを繰り広げ、与一と義経はそれを無視して話を進める。
そんな四人のやり取りを微笑ましく思いながら、改めて自分にとって彼らが家族同然の大切な存在なのだと思い知る。
故に、もし彼らにどうしてもやりたい事、目指したいものがあるなら、自分は九鬼の敵になってでも彼らの味方をするつもりだ。もっとも、九鬼もそこまで非道じゃないとは思っている。聡明な人や優しい人も多いし、誠心誠意説得すれば分かってくれるはずだ。
「さて、それじゃあ休憩は終わりにして勉強の続きだ」
休憩時間の終了を知らせる携帯のアラームが鳴り響き、アラームを止めつつ手を鳴らして全員に聞こえるように少し大き目の声を上げる。
「よし、頑張るぞ。与一、弁慶!」
「はぁ、しかたねぇか」
「あ~あ、なんで私だけ3位かなぁ」
「こら項羽、身体動かしてないからって眠ったらダメ!」
「し、しかし清楚、俺にはもはや何が何やら分からない。ペースが速いペースが!」
口で色々言いつつも全員すぐに勉強の姿勢になるのは流石だ。
さて、自分も頑張るとしよう。
長年誓い続けている思いを改めて確認しながら、万が一そんな日が来た時の為に、今日も自分を磨いていく。
という訳で将来について悩むクローン達の話でした。
実際原作であの事件が起きなかったら、彼らはどうなるんでしょうね?まぁ個別エンド後の葵ファミリー同様、一緒に居ることは確定でしょうけど。