また新キャラだよ(名前は無印の頃から出てますが)
「鉄優季殿、橘天衣殿、今回はこちらの願いを聞き届けていただき、感謝する」
「いえ。あ、改めまして、鉄優季と申します」
「えっと、橘天衣です」
「うむ。私の名は
前略大切な友人達へ。今私は立派なお屋敷の豪華絢爛な一室で、これまた高そうな和服に烏帽子を被ったダンディズムな声の陰陽師と対話しています。
どうしてこうなったんだと言いたげに、数時間前の出来事を思い浮かべる。
「綾小路大麻呂さんですか?」
「うむ。日本三大御三家の一角にして陰陽術を扱う名家だ。まぁ息子は跡継ぎとしても陰陽師としてもダメそうだがな」
ヒュームさんが苦笑交じりに綾小路大麻呂さんについて説明してくれた。
「優季は符術を扱うだろ? それを知った綾小路殿に時間がある時にでも一度お会いしたいと頼まれていてな。川神学園への編入に武士道プランの方針と、今まで先延ばしにしていたが、ついでに天衣の運気についても見て貰う条件で受けようと思ったのだ。勿論優季が断るなら断ってくれて良い。天衣については普通に依頼すれば良いことだしな」
その言い方はずるいです揚羽さん。
溜息を吐きつつ、まあ会うだけならいいか。と思って了承の返事を出した。
そして今、自分は綾小路の本家にいる。まさか返事を出したその日の夜に会わされるとは思わなかった。
「さて、色々訊きたい事もあるが、まずは君の運気を調べるとするか、の」
「あ、お願いします」
天衣さんも正直どう対応して良いのか分からないのか、落ち着かない様子だ。
「まあ、ある程度は既に把握しているが……」
綾小路さんは難しい顔で、陰陽道で良く使われる八卦の図形の紙や鏡に札と、色々取り出して天衣さんをあれこれ調べる。正直本格的な陰陽道に触れたのは初めてなので、少しだけ興奮した。
よく見ると天衣さんも興奮した表情をしていたた。そう言えば占い好きとか移動中に本人が言っていたっけ。
「うむ。やはりか」
綾小路さんが、険しい表情で道具を片付けて重く呟く。
「あの、やはりとは?」
「うむ。橘殿が来てから屋敷の運気を司る結界に影響が出たからもしやと思ったが、近年稀に見る悲運の持ち主よ」
あ、訊かなきゃ良かった。と、自分の軽率な発言を悔やみつつ、天衣さんに視線を送ると、彼女は落胆の表情をしながら固まっていた。
「率直にお伝えして、橘殿の運気は先天的に悪いものだ。それも極端に、の。本来悪い運気の者でも精々悲運が七割。しかし橘殿は悲運の割合が九割に届きそうな勢いだ、の」
綾小路さんの説明に天衣さんが今にも泣きそうな顔をする。そりゃ本職の人に『あなたの幸運は一割だよ』なんて言われたらキツイなんてもんじゃない。
「まあその分残り一割で起こる幸運の見返りはでかい筈だ。悲運な者ほど得る幸運は大きい」
「確かに。一命は取り留めてるけど、それにしても……」
天衣さんが項垂れて呟く。
「幸運を呼ぶ呪具や運気の強い土地に居れば緩和はされようが、先天的な運気はほぼ改善は無理と思った方がよい。それに運気を上げる呪具も可能な限り強力な物でないと、効果を発揮する以前に壊れてしまうだろう」
なんというか、もうやめたげてー! と叫びたい。だって天衣さん、もう真っ白だよ。燃え尽きちゃってるよ。
「さて、次に鉄殿、良ければ自作したお守りと符を見せて貰っても?」
「はい。こちらです」
ようやく話がこちらに逸れたので、持ってきたストラップつきの水晶玉と、普段符術に使っている札を見せる。
「……ふむ、糸に気を練りこみ強度を上げ、水晶に気を封じ込めて水晶の効果を底上げするか」
手に取った瞬間に綾小路さんがお守りの構造を瞬時に把握する。さ、流石は陰陽師にして名家の当主だ。失礼だけど息子の綾小路先生とは大違いだ。
「こちらは札に気を溜める構造は水晶と同じか、描かれている文字は五芒星か。ふむ、普段はどのように使用している」
「えっと、こう札を持って、属性や形状とかの設定を行って使用します。あと一応札が無くても技自体は使えます」
そう言って実際に一枚密天を天井に放ち、もう一枚には形状変化でひよこにして地面を歩かせる。
もっとも、内封する気が少量なのですぐに消えてしまうが。
「うむ。鉄殿は呪術を何所かで習ったのか、の?」
「肖った相手はいますが、我流で考えた後に、ヒュームさんに色々アドバイスして貰って、今の形になりました」
こちらの言葉に、なるほど、の。と言って、綾小路さんは暫く考え込む。
「鉄殿。お主さえ良ければ、本格的に陰陽道を学んで見るつもりは無いか?」
「えっと、本格的な修行、ですか?」
「うむ。鉄殿は陰陽道を扱うその前準備の基礎をほぼ独学で納めている。故に、五行の理をより良く知れば、呪術に呪具の生成にも役立つであろう。如何か?」
綾小路さんの目は本気の目だった。正直軽々しくは頷けない。ただでさえ九鬼で色々やる事が多い上にテストも控えている。
だが、興味もある。キャスターが学んだ呪術を自分も学べる機会でもある。
「その、修行を行う場合はどういったやり方になりますか。自分は今、幾つか多くの事をやらなければならないので、手の空く時間が限られるのですが」
「では、鉄殿には基礎を認めた書を渡そう。それと連絡用の式紙も渡しておく。解からなければ連絡をしてくれれば良い。使い形は式に気を送って念じるだけだ。鉄殿のように勤勉な者なら、それで基礎を得られるであろう。今で言う通信教育というやつだ、の」
なんというか、どう見ても昔の豪族ぽい格好の人に通信教育いわれると違和感が凄い。
因みに式紙と式神は呼び名は同じでもまったくの別物らしい。まぁ姿がまるで違うしね。紙の方はまんま紙だ。
「いいんですか? 普通そういうのは門外不出じゃ?」
「構わん。気を扱えぬ素人や多少扱える程度の者では扱えん。逆に陰陽師なら誰もが知る基礎中の基礎である。知られても問題は無い。何より、読めるかである」
読めるか?
気になって首を傾げると、綾小路さんは懐から一冊の書を取り出して目の前に置く。
綾小路さんに開いていいのか確認する視線を送ると、頷いてくれたので、書を手に取って開く。
……古文も真っ青な漢文の列が目に飛び込んできた。
「なるほど。これならやる気の無い人は投げ出しますね」
良かった。歴史の勉強のついでに言語の勉強もしておいて。多少だが読めるから、後は辞書と閃きと根気の勝負だな。
「うむ。その表情からするに挑み甲斐ありといったところか、の」
どうやら知らず知らずの内に笑っていたらしい。
嬉しそうな顔をして笑う綾小路さんに釣られて、自分も笑う。
「……なるほど。鉄はこうやって苦労を背負い込んで行くんだな」
しかし天衣さんの言葉で笑い声が消える。
ぎこちない動作で天衣さんの方に振り返ると、彼女はやはり同族を見るような同情する目で自分を見詰めていた。美人に見詰められるのは嬉しいが、なんか嫌だ。
「鉄殿の運気は完全に中立であり、陰と陽の気の振れ幅も殆ど無い整った気質であった。そういう者は人に好かれやすい。縁は良くも悪くも苦労を伴う。鉄殿の苦労性と巻き込まれ体質はそれ故であろう、の」
いつの間に人の事を占ったんだろうと思いながら、これからも色々苦労するのかと、少し泣きたくなった。
「して鉄殿、もし良ければ返答を聞かせて貰えるか、の?」
「あ、はい。それじゃあえっと、折角なのでお受けします。それと、今幾つか質問してもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。して、何を知りたいのか、の?」
「天衣さんに運気を上げる呪具をプレゼントしたいんです。それで、本格的な物は後で作るとして、間に合わせで一応考えているのがあって」
生前の開運の鍵を作ろうと思い、本職に注意点を訊いてより良いものにする。
「ならばあら塩に漬け置くと良いだろうだな。できれば純度の高いものが好ましい。それと文字にもやり方次第で気力を込めて効果を上げられる。使い捨てならば墨でも問題ないが、一番なのは血文字であろう。掘った文字に主の血で改めてなぞり書くと良い。あとは――」
色々と参考になりそうな話を聞かせて貰い、その全てをメモして行く。
そして聞く事を全て聞き終えたので、最後に綾小路さんから古い書数冊を受け取り、お互いに握手して別れた。
「な、なあ優季。本当に良いのか?」
帰りの九鬼の車の中で、天衣さんが申し訳無さそうにそう切り出した。
「何がですか?」
「知り合ったばかりの私に貴重な水晶を使ったり、色々してくれたり、正直今の私にはその恩を返せるような物が何も無いんだが?」
「あ~気にしないで下さい。慣れっこですから。それに上手く行くとも限りませんから、恩とかそういう話は成功してからです」
「そうか……ありがとう優季」
「いえ。同じ不幸体質のよしみです」
そう言って笑うと、天衣さんも愉快そうに笑った。うん、とりあえず笑おう。笑う角には福が来るって言うしね。
そんな事を考えていた矢先に、タイヤは勿論、サイドミラーに車のエンブレムにまで防刃、防弾の処置が施された九鬼の車のタイヤが、盛大にパンクした……本当に大丈夫か?
という訳でSで追加された綾小路家の陰陽師設定を使わせて貰いました。
さて、次辺りからは天衣さんの話を進行しつつ、既存のキャラとの日常回になります。