岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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水上体育祭大人編。とは言ってもステイシーと李のみです。
本当は梅子先生も絡ませたかったけど、ちょっと前回二人が可哀想だったので今回は二人をメインにしました。



【水上体育祭 (中篇)】

「次の競技は浜辺のマドンナを射止めよじゃ」

 

 どんな競技だよ。

 

 競技の名前に心の中でツッコミを入れつつ鉄心おじさんの競技の説明を聞く。

 

「この封筒の中の紙に連れてくる女性の数と条件が書かれておる。いち早く全員を連れてきた者の勝ちじゃ。しかし相手を連れてくるには連れてくる時に誘い文句を言って、相手がOKした場合に限る。参加資格は各クラスから二人。封筒は早いもん勝ちじゃ。では、開始!」

 

 そう言って鉄心先生は適当に封筒十数枚を放り投げた。

 

 マジかあの人?!

 

 全員まだ思考がついて行けずにその場で落ちる封筒を見詰める。

 そんな中、S組でいち早く動いたのは冬馬だった。

 

「優季君、私を運んで貰えますか」

 

「お、おう!」

 

 冬馬を抱き抱えてダッシュする。

 その瞬間、背後から物凄い黄色い悲鳴が上がり、ビックリして視線だけ後ろに向ける。

 

「……まさかお姫様抱っことは意外です」

 

 腕の中の冬馬の声に視線を戻す。

 

「この方が運びやすいんだが?」

 

 身長があると、この運び方が一番安定するし楽なのだ。

 背負うと何かの拍子に倒しそうだし、肩に担ぐのは気が引ける。

 それにこの体勢なら、何かあった時に自分の身を盾に出来るしね。

 

「なるほど。流石は天然誑しスキルですっと、流石に早いですね」

 

 封筒の場所に辿り着いたので冬馬降ろすと、冬馬が二枚の封筒を取って一枚をこちらに向ける。

 

「え?」

 

「もう一人の代表は優季君にお願いします」

 

「自分よりもてる奴がいると思うが。それにナンパなんてしたこと無いから誘い文句なんて思い浮かばないぞ?」

 

 そう。この競技の内容はぶっちゃけナンパである。

 ナンパなんて経験が無いのでそう答えると、冬馬に何を言ってるんだこの人みたいな顔をされた。どういうこと?

 

「私と優季君以上に適任者はいませんよ」

 

「そ、そうか」

 

 まあ軍師の冬馬が言うのだから従うけど。

 納得行かないまま渡された封筒を受け取り中を確認する。

 

『年上の女性2人。ただし同じクラスの生徒、教師は不可』

 

 ……三年には行きたくないぁ。

 

 先程の二人に吹き飛ばされた記憶が蘇って砂浜に打ち付けた部分がまた痛みをぶり返した様な気がした。

 

 いや待てよ。年上なら誰でもいいのか?

 

「鉄心先生。ちょっと!」

 

「なんじゃ?」

 

 鉄心先生の元まで向かって紙の内容と考えている事を伝える。

 

「これ学生じゃなくてもいいんですか?」

 

「良いよ」

 

 了承されたので二人の元に向かう。

 折角来てくれたんだから、一緒に競技に参加して貰おう。

 

 しかしどうするか。そもそもナンパってどう声を掛ければいいのか……くそぉアーチャーみたいな歯の浮くような誑しスキルがあれば!

 

 頭なの中で誘い文句を考えながら、それでも時間が惜しいので目的の場所へと向かう。

 

 

 

 

「おお、なんか男子が殺気立って駆け出したな」

 

「果たしてあの中の何人が実際にもてる相手なのでしょうね」

 

 砂浜にパラソルを差し、座ってカキ氷を食べながら優雅に観戦するステイシーと李は、思春期の男子達の行動を笑いながら眺めていた。

 

「あっ。優季が葵冬馬をお姫様抱っこして運んでる」

 

「なんというか、優季らしいですね」

 

 異性ならもう少し反応もあったが、同性という事で気にせずにその光景を眺めている二人は、次の瞬間目を見張る。

 

「お、おい。優季が封筒を受け取ったぞ」

 

「むう。ということはまた優季が誰かとイチャつくのを見ることになるのですか」

 

 小雪と弁慶のやり取り、そして項羽と百代のやり取りをただ見ているしかなかった二人にすれば面白くない事この上なかった。

 

「あ~あ。優季の裸を見れたのは確かに良かったけど、こりゃ軽く拷問だな」

 

「まあ私達は一般観戦ですから、手を出すわけにも行きません」

 

 二人で溜息を吐いていると、李が最初にある事に気付いた。

 

「なんか優季がこちらに向かっていませんか?」

 

「ん? ああ本当だな。どうしたんだ?」

 

 二人が怪訝な表情で話していると、顔を少し赤くした優季が、二人の前で立ち止まる。

 

「ステイシーさん、李さん」

 

「お、おう?」

 

「ど、どうしました?」

 

 優季が意を決したような表情で顔を引き締め、その場に片膝を着いて手を二人に向けた。

 

「じ、自分と一緒に遊びませんか?」

 

「「……」」

 

 顔を真っ赤にしてそう言って恥かしそうに笑う優季を見て……二人は同時に顔を赤くした。

 

 あ~来て良かった。なんつーか年相応の優季が見れたし、照れてる顔を何度も見れたし。

 

 なんというか、普段から大胆な行動を取っているので勘違いしていましたが、優季は意外に純情なのかもしれませんね。

 

 優季の新たな一面を色々と見れた事が嬉しくて、二人は小さく微笑み、優季の手を取ろうとした。

 

 その瞬間、ステイシーに電流が走った。

 

「待て李!」

 

「え?」

 

 手を取ろうとした李を止めてステイシーが頬を赤らめながら意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「優季、勿論エスコートの要望は受け付けてくれるよな?」

 

「もちろん。ナンパは良く分からないけど、折角来てくれた二人に楽しんでもらいたいから、一緒に来てくれるなら二人の要望は可能な限り叶えますよ?」

 

「ロック! それじゃあ……」

 

 ステイシーは優季に耳打ちして要望を伝えると、優季は少し躊躇するも、頷いてその要望を飲んだ。

 

 

 

 

「どういうことだよチクショー!」

 

 岳人は紙を握り締めたまま、同じ選手の大和の首を絞めた。

 

「ちょっ。俺に当たるなガクト!」

 

「当たりたくもなるわ! 見ろ!」

 

 そう言って岳人が指差した先にはステイシーをお姫様抱っこで運ぶ優季の姿があった。しかもステイシーは大胆にも優季の首に腕を回して密着していた。

 

「なんでユウばかり!」

 

「つーかお前は早く後輩をナンパしに行け!」

 

「年下口説いてどーすんだよ! 俺様は年上好きなの!」

 

 岳人の紙には年下を二人と書いてあった。年上好きの岳人としては致命的だった。

 

「そういう大和こそ、早く相手を連れて来いよ!」

 

「今根回し中だよ」

 

 大和は同年代の女子三人なため、声を掛けるだけでOKして貰える様に相手に根回ししていた。

 

 それにしても、ユウも怖い者知らずだな。まぁ十中八九、葵冬馬が参加させたんだろうけど。

 

 大和自身、自分のクラスに優季がいたら間違いなく選手にしていたので、友人としては気の毒に思うが、冬馬の策を否定はしなかった。

 

 キャップはナンパって理解した瞬間に興味無くしちゃったし。(げん)さんは話しかけるなオーラ出しちゃうしなぁ。

 

 エレガンテ・クワットロの異名を持つ川神学園の美形四天王の内、二人も同じクラスにいるというのに、その二人がこういう事に興味を抱かないという不幸に、大和は溜息を吐いた。

 

「ああーー!!」

 

「はいはい。今度はなんだよ」

 

 岳人の叫びに視線を上げると、優季が李をお姫様抱っこで。

 

「……俺様、ユウに弟子入りしようかな」

 

「いや、なんでだよ」

 

「身長は大柄で、タロットカードの結果も聞いた話じゃ俺様と同じ『力』なんだろ? つまりだ。あとはユウが身に付けている技能や話術を、俺様が身に付ければ、俺様も一級フラグ建築士にジョブチェンジできるって訳だ」

 

「ガクト……」

 

 大和は自信満々に話す岳人の肩を叩き、寂しそうに笑って首を振った。

 

「お前、あれだけ女の子に積極的に迫られて、下心ゼロで笑えるか」

 

 その一言に岳人が崩れ落ちた。

 

 俺も京のアタックに耐えてるから耐性高いけど、ユウは女性の色仕掛けへの耐性能力が異常に高すぎるだろ。

 

 大和は彼に好意を寄せる女性に少しだけ同情した。

 

 

 

 優季が李を運ぶのを見て、百代と清楚が納得行かない顔をする。

 

「何故こっちに来ない」

 

「そうだよね。あの二人を連れて行ったって事は、年上だよね」

 

「いや、なんでって」

 

「さっきの二人の所業を思い出すで候」

 

 燕と弓子のツッコミに、二人はその場で蹲った。

 

「しまった……」

 

「項羽の馬鹿……」

 

 三年の二人が項垂れている頃、二年S組でも騒ぎが起きていた。

 

「うわ~ん準放してよ~!」

 

「放したらその棘棘しい貝殻投げるからダメです。つーかどっから拾ってきた」

 

「くそう。なんで私の必殺技は心のダメージを攻撃力に変えられないんだ!」

 

「もし姉御がその技習得したら俺は引き篭もる」

 

「与一、震えながら遠い目する前に弁慶を抑えるのを手伝ってくれ」

 

 小雪と弁慶の暴走を、保護者の二人が懸命に押さえ込んでいた。

 

 その甲斐あってか、冬馬と優季が1位と2位で競技を制した。

 そして優季はS組に戻った途端、小雪と弁慶に正座させられ、二人に次の競技まで膝枕で団扇を扇ぐ刑を言い渡された。

 

 ステイシーと李はパラソルの下に戻ると、競技が始まった時とは打って変わって幸せそうな笑顔で、優季と小雪達のやり取りを微笑みを浮かべて見守った。

 




優季が性への色香の耐性が高い理由。
Fate/EXTRAシリーズをやってないと詳細は分からないと思うので、まぁ半分ネタという事で。

1:前世で半裸の敵(女性)に追いかけられる(しかも二人)
2:ノーパンでアリーナを散策させられた(男女両方共記憶あり)
3:サーヴァントの服装(主に水着)や行動が過激(実はCCCでは露出に関してはキャス狐が一番まともという事実)
4:ラスボスの最低最悪の宝具(卑猥な意味で)を真正面から直視(多分ドン引きするよね。あれ)

前世でこれだけの事に遭遇すれば、そりゃ耐性も高くなるというものです。

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