「はぁ。それにしても、やっぱ川神の生徒って多いよな」
水上体育祭当日。砂浜に大量の生徒が水着で並んでいるという光景に唖然としながら、周りを眺める。
「ユーキ!」
「おうぅ?」
背後から小雪に抱きつかれる。その瞬間、裸の背中に柔らかい感触がいつも以上に伝わる。
これはヤバイ。ヤバ過ぎる。
「はいはい。なんだい小雪?」
内心の男心を抑えながら、彼女をゆっくりと背中から放して振り返る……天使ですか?
白い髪に白い肌、そこに紺のスクール水着が良く映えている……これはイカン。
「ユーキどうしたの?」
小雪が首を傾げる。
「ん? あ~っと、気にしないでくれ」
そう言って彼女に苦笑して答える。
「ふむ。鍛えられたいい身体だな」
「その声は百代……」
振り返ったら……そこに女神がいた。
男を惑わすような肉体に自分の色香に絶対の自信を持った表情。しかしそんな彼女の裸体を包むのはスクール水着と言う規則によって生まれた衣服。なんという背徳感か!!
「おっ。なんだ、私の身体に見惚れたか?」
百代がそう言って更に見せ付けるように身体を動かす。
「……ああ、見惚れた」
「「え?」」
「さっき小雪にも見惚れたばかりでな……。そっか、二人ももう子供じゃないもんな。はあ、ちょっと接し方を変えるべきかなぁ」
「「っ!?」」
◆
どうする、今迄の接し方で構わないと言うか?!
どうしよう。どうすればいいの?!
二人は優季が自分に見惚れてくれた事の嬉しさと同時に、突然の『接し方を変える』発言に大きく戸惑い混乱する。
異性として見るというならいい、だが!!
身体が成長したからスキンシップ控えましょう。という意味なら絶対反対!!
優季がどっちの意味で発言したのか、そこが二人にとっては大事だった。
くっ、直接尋ねるべきか?
でもでも、それで脈無しな発言されたら、それはそれでショック大きいよ~。
二人はその場で頭を抱えてお互いにうんうん唸るのだった。
◇
二人が急に唸りだした。なんか物凄く悩んでいるけど、どうしたんだ?
「おーいユウ兄」
「お兄ちゃん!」
「ユウ君」
「お、三人とも着替え終わったのか?」
次にやって来たのは弁慶、義経、清楚姉さんだった。
うん。弁慶も百代に劣らず魅力的だ。特に身体は大人なのに仕草が可愛いというアンバランスさが素晴らしい。
清楚姉さんも健康的な魅力があるな。特に足が良いね。鍛えられているが瑞々しいその曲線美が好し!
義経は可愛い系だな。ある意味スクール水着を着こなしていると言える。見守ってあげたくなる可愛さだな。
「どうしたユウ兄、一人で頷いて?」
「いや、改めて三人とも成長したんだな~って。見慣れているとは思っていたんだが、はは」
ついテンションが上がって露骨に三人の身体を見てしまったことが恥かしくなって、頬を掻きながら視線を逸らす。
◆
あ、あのユウ兄がマジ照れだと!?
これはチャンスよ!
「お兄ちゃんに褒められた!」
他の二人を他所に、義経は声を上げて喜び、優季と談笑に移る。その間、二人はどうしたものか思案する。
チャンスなんじゃないか? ここで女として意識させれば。いやでもその結果、私のジャスティス空間を失うという可能性も!?
チャンスとはどういう意味だ清楚?
いい? ここでユウ君に私達も女の子だよって思わせれば、彼も私達を異性として意識してくれるわ。
待て。まさか優季を色香で惑わすというのか?!
そう。女の子だって積極的に行くべき時はあるのよ!
だ、ダメだダメだそんな恥かしい! そそ、そういうのは手順を踏むもんだと習わなかったのか?!
もう。項羽はこういう時に奥手なんだから。
百代と小雪の唸る横で、更に弁慶と清楚、項羽も唸り始めた。
◇
「今日はみんな一緒に頑張ろう!」
「そうだな」
元気一杯な義経の頭を撫でながら、真面目な顔で俯く弁慶と、難しい顔で目蓋を閉じる清楚姉さんに視線を向ける。
なんだ? 二人に何が起きたんだ?
心配になって声を掛けようとした時、背後を誰かに叩かれた。
「よっ。優季!」
「ステイシー、そんなに勢い良く動くと脱げますよ」
「ステイシーさんに李さん?」
聞きなれた声に振り返ると……凄かった。
ステイシ-さんはアメリカの国旗柄のビキニで、大胆にも結び目が紐のビキニだった。
うん。明るい彼女らしい水着のチョイスだ。そして健康的で色々大きい魅惑的な裸体を惜しげもなく晒すその潔さに惚れる。素晴らしい。
隣りでステイシーさんを注意する李さんは、機能美に特化した競泳水着だった。こちらも李さんらしいチョイスだと思ったし、義経達同様、美しい足の曲線美に加え、色白で美しいうなじのなんと魅力的なことか!
……いかん。こんなんだから前世でオッサン認定されるのだ。
女性の記憶でもそうだったが、どうも自分は基本的にエロイ。
別にエロイ事を隠している訳ではないけど、だからと言ってオープンスケベを公言して周るのもそれはそれでイタイ奴だしなぁ。
「ステイシーさんと李さんは、どうして水着でここに?」
自分の桃色な考えをとりあえず脇に追いやり、水着姿の二人に疑問を投げ掛ける。
紋さまも居るという事で九鬼から何人か警備に当たっているのは知っていたが、彼らは水着ではなくいつものメイド服や燕服だ。
「おっと、今日の私達は非番だ。だから折角だし、お前の応援をと思ってな」
「優季には偶に食事を作って貰っていましたからね。私も同じく応援に来ました」
「あれ? でも関係者以外って、入っちゃ駄目なんじゃ?」
「九鬼関係者で水着の女性だから良しって、学長が言ってたぜ?」
流石は鉄心先生。お見事な采配です。でもそっか、二人とも休日返上で自分の応援に来てくれたのか。だとしたら、嬉しいな。
個人的に応援されるくらいにまで、二人と絆を育めたのがとても嬉しくて、自然と笑みが浮ぶ。
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
「そ、そうか?」
「で、でしたら良かったです」
◆
優季は心から嬉しそうに笑って二人にお礼を述べる。その子供の様な笑顔に、普段とのギャップに驚きと同時に見惚れた二人は、頬を赤くしながら苦笑し、そして同時に同じ事を考えた。
やばい。可愛い。
「ちょっ。これは反則だろ!」
「これがギャップ萌えという奴ですか。優季、恐ろしい子」
二人は顔を近付けてひそひそと会話しながら先日の埋め合わせと言って今回手を回してくれた上司三人に感謝した。
◇
何故か急に二人してひそひそ話しを始めてしまった。みんな熱にでもやられたのか?
「ただいま兄貴」
「……おい、なんだこのカオスは?」
「おや、少し散歩している間に凄い事になっていますね」
「いや、よく分からない。というか与一は兎も角、二人とも何処に行ってたんだ?」
最初は男性陣四人で浜辺に来たのだが、弁慶に無理矢理連れて来られた与一が一人で黄昏に行ってしまうと、二人も行き先を告げずに何故かに行ってしまっていた。
「いやちょっとな」
「折角のチャンスですから、二つの意味で」
バツが悪そうに苦笑しながら視線を逸らす準と、いつものように笑顔で答える冬馬。ふむ、まあ二人の趣向を考えれば散策するのは分かるが、もう一つのチャンスとはどういう意味だったのだろうか?
「どうした、なんの騒ぎだ?」
「あ、梅子せんせ……」
声のした方に振り返り、またしても声を失う。
お、お宝発見や!
梅子先生は紫のビキニだ。普段の露出が少ない分、露出の多さが際立つ。これが、ギャップの威力か!!
「ゆ、優季、どうだ?」
そう言って梅子先生が控えめに水着を晒す。
「凄い似合っていますよ梅子先生」
「そ、そうか」
なぜか安心したような表情で頷く梅子先生。まだ、自信が無いのだろうか?
「つうか兄貴、もしかして傷の数が増えたか?」
「うん。前に見たときよりも多い」
普段からシャワーで見慣れている与一と、純粋に興味で尋ねた義経が傍にやって来る。
「ん? まぁ龍穴巡りで結構ヤバイ場面も多かったしね。銃弾飛び交う地帯とか、ジャングルとか、あと技の開発で失敗したのとか、龍穴の気脈に中てられて気力が暴走したりとか」
「よく生きてられたな」
「運が良かったのと、乙女さんが気孔医術も使えたからね。痛めつけられては回復の連続だったよフフフ」
自虐に沈んだ顔で笑うと、準が『どんだけ厳しかったんだ龍穴巡り』と言って同情の視線をこちらに送って来た。
そんな他愛なく会話する中、ルー先生が拡声器で生徒達にクラスに戻るように声を掛け始めた。
「むっ。そろそろ始まるぞ。お前達もいい加減戻ってこい!」
梅子先生の鞭によって物思いに耽っていた全員が現実に戻され、慌てて自分のクラスに戻っていった。ステイシーさんと李さんは生徒の輪から離れた。
さて、ようやく水上体育祭だ、頑張るぞ!
という訳で今回は女性陣の水着回。
本当は優季の身体の傷の話も考えたんですが、ちょっと上手く絡ませられなかった。