と言うわけでどっちのファミリーと絡ませるか悩みましたが、結局こうなりました。
「ははは! 面白い戦い方だな燕!」
「ったく。本当に負けたばかりなのモモちゃん! 動きキレ過ぎ!」
清楚姉さんの悩みを聞いた翌日の金曜日。三年に
今は歓迎と言う名の決闘が校庭で繰り広げられている。相手は百代だ。
二人は決闘と言うよりも稽古のような感じでお互いに手加減して戦っていた。
松永先輩は器用に多種多様の武器を使っていたが、最後まで自分の手を見せず、百代も川神の技は使わずに戦っていた。結局勝負は時間切れで引き分けで終わったが、観戦していたみんなは盛大に盛り上がっていた。
そこまでならただの武士娘転校生で終わったのだが、松永先輩は決闘が終わるなり納豆の宣伝を始めた。この納豆は元々彼女と彼女のお父さんが作った自家製の物らしい。
冬馬に訊いたところ、彼女は西では納豆小町という呼び名で有名なんだそうだ。
戦歴も家の仕来り故に応じる決闘の回数は少ないが、それら全て全戦全勝らしい。
なんというか、色々と凄い人が転校してきたな。
金曜の朝はそんな感じで始まった。
そして昼休み。
今日は義経達と食べる約束をしていたので、葵ファミリーと一緒に屋上で弁当を広げる。
「今日は弁慶と与一も放課後一緒だから、義経は嬉しい!」
いつになく高いテンションで義経が嬉しそうにお弁当を食べる。
「まあノルマはこなさないとね」
対照的に二人はめんどくさそうな表情だった。
「ユーキは放課後どうするの?」
「義経と一緒に残りの生徒分を終わらすつもり。土日は用事で潰すつもりだから」
「そ、そうなんだ……」
何故か小雪が物凄く落ち込んでしまった。
「土日潰してまで何するんだ?」
「調べ物。多分自分が一番適任だと思うから、こっちからお願いした」
清楚姉さんの正体を調べるためだ。できれば休日をフルに使いたかった。
「……では邪魔するわけには行きませんね」
準と冬馬も、仕方ないといった表情でそれ以上は聞いてこなかった。
「義経も手伝おうか?」
「義経は休みなさい。それにもしかしたら誰かに遊びに誘われるかも知れないだろ?」
「……ユウ兄は自分が休みの日に誰かに誘われたりしたらどうするんだ?」
弁慶が珍しく真剣な目で尋ねてきた。落ち込んでいた小雪も興味津々に顔を輝かせてる。
「余程の用事でもない限りは自分の事は後回しにして友達と過ごすさ。まあ先に約束した相手優先だけど。ただ、どうしても自分にしか頼めない用なら相手に謝ってそっちに行くかな。後は一緒に遊ぶとか」
「じゃ、じゃあお休み一緒に遊ばない? もしくは調べ物手伝うよ? トーマは頭良いし、準は雑用得意だよ!」
「俺は家政婦か!!」
小雪の提案に、それもいいかもしれない。と考える。
清楚姉さんを大切に思っているのは自分だけじゃないし、一人で調べられるとも限らないか……。
「……少し待ってくれ」
屋上から一定範囲に気を送って九鬼の関係者が誰も居ないか確認する。
近くには特に誰も居ないか……一年の教室にいるであろうヒュームさんなら、この距離でも聞かれてしまいそうで怖いが……その時はその時か。
「他言無用で頼む。実は……」
みんなを出来るだけ傍に寄せて小声で清楚姉さんの悩みを相談した。
「清楚さんが……全然気付かなかった」
「そんな素振り見せなかったし、仕方ないよ義経」
姉の様に慕っている清楚姉さんの変化に気付けなかった事に落ち込む義経を、弁慶が頭を撫でて慰める。
「ああ。むしろこっちに来るまでは気にしなかったんだと思う。義経達との関係は良好だったし、比較する対象も居なかったわけだからな。けど……」
「川神に来て今の自分と周りとを比較するようになって、言われるがままの自分に不安を抱いたと。私は少し、葉桜先輩の気持ちが分かりますね」
冬馬はどこか寂しげに微笑んで頷いた。
「けどよお、調べるって言ってもどうやって調べる? 現実問題九鬼ビルでそんな事したら一発でバレるだろ?」
あ、珍しく与一も文句言わないで参加してくれてる。
なんだかんだ言っても、与一は清楚姉さんの言う事は聞いていたし、慕っているのかもしれない。
「……実は一度だけ、ある偉人の名前を告げた事があった。その時は本人に笑い飛ばされたけどね」
「お、そいつは興味深いな。誰だ?」
「項羽」
清楚姉さんからもっともイメージの遠い偉人を上げた。
「「ないわ」」
「ハモって否定された!?」
冬馬以外の全員に否定されてその場で蹲って落ち込む。
「まあまあ皆さん、最初から否定せずにまずはどうしてそう思ったのかを聞きましょう」
うう、流石はパーフェクトイケメンの冬馬だ。自分が性別女性だったらファンクラブに入っていたに違いない。
「でっ。なんでユウ兄はそう思ったのさ?」
「清楚姉さんの名前って、マープルさんがつけたらしいんだよ。じゃあ名前も意味あるだろうと思って、紙に書いて色々読み方を変えていた時に、最初に浮かんだのが項羽」
「ん? どういうことだ?」
準が首を捻る。
「葉桜清楚。これを葉桜と清楚に分ける。で、次に葉桜を覇王に変換。同じく清楚を西楚に変換。で、この二つを逆にすると西楚覇王で『西楚の覇王』になる」
説明を聞いた全員が押し黙る。
「なるほど、そう言われると説得力がありますね」
「名前の読み方の変換や並び替えも、マープルらしいと言えばらしい」
「あともう一つの決め手は以前誕生日に髪飾りを選んで貰ったんだけど、ヒナゲシの髪飾りを選んだんだ。理由を尋ねたら何故か好きなんだって言っていた。それで関係があるのかなと思ってさ」
「んん? そんなのが理由になるのか?」
「準の意見ももっともなんだが、義経達は何故か無意識に以前の英雄の影響を受けている部分がある。弁慶の収集癖や義経の立ち往生という単語の過剰反応、与一の弓使いとしての特性等、色々な。だから清楚姉さんも無意識な部分でそういうのがあるんじゃないかと思ってさ」
そういう部分は本人が意識していない分、信憑性は高いと睨んでいる。
「ふむ、なるほど。ヒナゲシは別名
冬馬が項羽説を支持し始める。
「でも義経は清楚さんはそんなに強いと思えないんだが?」
「というかそういう方面はむしろ苦手だよな」
義経の言葉に与一が頷く。
「因みにこの手の怪我は清楚姉さんがやった」
「えっ!? だってお兄ちゃん、それは転んで捻ったって……」
「流石に本人に『握りつぶされた』なんて言えないだろ。昨日から急ピッチで治癒してなんとか軽く動かせるようになった」
折れてはいなかったが罅は入っていた。それを知った時は冷汗を流しながら固まった。
「もちろん項羽は可能性の一つとして他の可能性も調べていこうと思う。清楚姉さんの誕生日や好みの小説、好きな料理の種類、色々纏めて教えるから、小雪達はそっち方面で調べて欲しい」
「うん。任せて!」
小雪が力強く頷いた。
「で、自分達義経組は過去の状況から洗い出す」
「過去?」
「九鬼は清楚姉さんに正体を知られたくなかったはずだ。だったら意図的に避けさせた勉強内容や偉人の書物があると思う」
「なるほど。それを清楚先輩から聞くと」
「ああ。いつものように四人で遊ぶ体で話し合いを設けようと思う。それにみんなが手伝ってくれている事も清楚姉さんに伝えたいしな」
「よし、義経も頑張るぞ。な、与一!」
「まぁマープルに一泡吹かせられそうだしな。仕方ねぇ協力してやるよ」
うん、やっぱり話して良かった。
頼もしい家族と友人達に心から感謝し、彼らと共に在れる自分自身を嬉しく思った。
やっぱりS組中心と言う事で葵ファミリーと調査する事に。
そしてちょい役の燕先輩、ファンの方ごめんなさい。